1-3.スイーツ伯爵のセレクト
スイーツ伯爵のセレクト サム
領主がデイジー様に。
「最近、キングストンに特産物が増えて、見学へ行ってきた話をしたね。」
「はい。」デイジー様がにこやかにうなずかれた。「クリスは自分で確かめないと気がすまないのです。」と俺に言われた。
「はぁ。」それ、俺に関係ある話か?
クリス様は席を立って剣を取られた。「これが最新作だ。」剣を抜かれた。
「何!?」特産物って俺の剣か!
「重いな。それと、やっぱり鋼の色が違うね。どう?」デイジー様に尋ねられた。
「何か美しい感じがします。剣の感想としておかしいかしら。」デイジー様が俺に言われた。
「いいえ、ありがとうございます。」鋼の色を陽光で確かめる為に庭に出られたのか。
「今後もよい物を作って欲しい。」クリス様に言われた。
「もちろんだ。その為にここに来たんだからな。」
「すっかり話が長くなってしまったな。お茶を用意させたから飲んで行って。」
菓子とお茶を出された。
「俺は甘い物は遠慮したい。」
「そうかと思って、ジンジャークッキーとそれに合った味のお茶を選んだ。」
「やった!スイーツ伯爵のセレクト!」今までずっと横で黙っていた弟子が漏らした。
「なんだそりゃ?」俺は弟子に聞いた。
「その二つ銘は、そのうち返上したいと思っている。」クリス様が作り笑顔で言われた。
やばい、俺のカンが叫んだ。慌ててテーブルの下で弟子の足を蹴飛ばした。
「すみません。」弟子が頭をさげた。
「そう呼ばれているのは事実だから、かまわない。親方は知らないようだから説明して。」クリス様が作り笑顔のままで言われた。
「クリス様はスイーツ伯爵、グルメ伯爵としても有名で、お客様に合った菓子とお茶をご自身で選ばれるんです。」出された物を手で指し示した。
「俺が伯爵に客として呼ばれるなんてありえないから、いただけるとは思ってなかったです!」拳を作って力説している。
「親方の為のセレクトだけど、どうぞ。」
「いただきます!」
感動溢れる弟子を横目に俺もいただいてみた。「甘ったるくなくて良い。」思わず漏らした。
「それは良かった。」クリス様がにっこりと笑われた。
「クリスのセレクトってあまり外さないんですよ。」とデイジー様。
キングストンの特産物の話などを聞いて城を後にした。
工房にて サム
城で剣を献上した翌週。気が付くと商人のオヤジが部屋の隅に座っていた。
「突然、お邪魔してすみません。都で商売しているグラハム商会の主ジョージ・グラハムです。クリスハート・キングストン伯爵からメッセージと贈り物をお届けにあがりました。」深々と礼をされた。
俺が会いたいと言ったから、養父をよこしたのか?平民の戯言と聞き流しても良いだろうに。
「まったく、あんたの息子はとんでもない領主様だ!」
それを言われたのは二人目だと告げられ、まずは用事をすまさせて欲しいと頼まれた。
「クリスハート様から"助言を感謝する"とのことです。こちらの菓子は都で貴族の方々にも人気の店の品です。」オヤジさんから箱を渡された。
「この品はご領主の指定なんだよな?」
「そうです。」
「ありがたくいただくが、"スイーツ伯爵と呼ばれたくなかったら、菓子の指定なんかするな"と伝えてくれ。」
「承知しました。」礼をされた。
「あと、菓子と都からの配送料はオヤジさん持ちか?」
「菓子の代金はいただきました。キングストンへは他の商用で来ましたので、配送料はサービスです。お得意様ならこれくらいはします。」
「そうか。わかった。」
「それで、クリスが又、貴族らしからぬ事をしましたか。」