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元商人の伯爵は領主初心者!?  作者: 川崎 こうじ
第六章 セレクト講義
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6-2.お茶会のケーキ屋

お茶会のケーキ屋 ベイカー


 城の庭に立ち入った。自分の様な者がここに来られるなんて!

指定のテーブルに近づくと、温和な感じの初老の貴族夫婦、厳つい感じの中年の貴族夫婦、より若い見るからに豪商の一人が座っているのが見えた。


 ケーキ職人は一つのテーブルに、一人座らせて頂く事にした。貴族相手に話ができなくてどうする、という意見が多かったからだ。私が選ばれたのはやはり、お茶会への思いの強さだろう。


 「失礼します。」深く礼をしてから席についた。

「席が埋まったので、自己紹介を始めましょう。」初老の貴族が話された。

「イエローストン前子爵と、妻カトリーヌです。」二人が会釈した。

「ザイオン男爵と、妻エレノアです。」中年の二人が会釈。

「ハーシー商会の主です。商工会議員の末席に、座らせて頂いております。皆様がよろしければ、後程"キングストンの家"の成り立ちを、お話させていただきたい。よろしく、お願いいたします。」にこやかな顔で深く頭をさげた。

商工会議員!?豪商どころじゃなかった!

「カフェ、スイーツ・ガーデンの店主、ベイカーです。本日はご領主のご好意で、参加させていただきました。」深く礼。

 「ベイカー殿は、ご領主と親交がお有りか。」前子爵から問われた。言葉使いが丁寧な方だ。

「親交など、とんでもございません。私が今ここにいるのは、前回出席させていただいた、職人組合長のおかげなのです。」

「どう言う事ですかな?」

「組合長がご領主に・・・。」言いかけて止めた。そのご領主が、メイド二人を連れてテーブルに近づいて来られたからだ。


 「クリスハート・キングストン伯爵だ。茶会へようこそ。今日は楽しく過ごして欲しい。"キングストンの家"の子達にお茶注ぎを頼んだ。一生懸命練習してもらったが、粗相があったら、ゆるしてもらいたい。」領主が軽く礼をした。

「"キングストンの家の為のお茶会"へようこそ。キングストンの家のジュディです。よろしくお願いします。」少女が挨拶した。


 「本日は柑橘類のケーキと、スイートポテトのケーキを用意した。小さめにカットしているので、おかわりしてぜひ両方味わって欲しい。」

「柑橘類のケーキが、先の方が良いですか。」ハーシー議員が聞いた。

「そうだね。」ご領主の答えに。私も小さく頷いた。

ケーキとお茶が配られている間に、全員がご領主へ自己紹介した。

 「私はクリス様を、抱き上げさせていただいた事がありましてな。たいへんご立派になられた。」前子爵が言われた。

「すまない。2歳以前の事は、全く覚えてなくてね。」クリス様は苦笑いをされた。

「無理もありません。初めてお目にかかる、ということにいたしましょう。」軽く会釈された。

 「伯爵を継いだ際のお祝いには、息子夫婦が出席させていただきました。今回、無理矢理に招待状を取り上げまして、嫁に恨まれそうです。」ハハハと笑われた。

「おかげで、この素晴らしいお茶会に、参加させていただけましたわ。」カトリーヌ様が言われた。

「お孫さんはおいでか。」クリス様が前子爵に聞かれた。

「6歳の女の子がおります。」

「次回は、お子様同伴にしてみようと思っている。」言ってから、私にうなずいた。

ええぇ!店で話されていたのは、お茶会の事だったのか!

「その場合は、もっと甘いケーキを出さないといけないよね?」私に聞かれた。

「は、はい!」思わず声が大きくなってしまった。

「それは孫が喜びます。」前子爵夫妻が喜んだ。

「日程も決まってないので、余り期待しすぎないように。かなり賑やかになりそうだしね。」

「次のお茶会までに、礼儀作法を特訓させます。な。」夫人に同意を求められた。

「ええ。」夫人がうなずかれた。

「厳しくして、嫌われないように。」クリス様がニッコリと言われた。


 「ご領主は、初めてご挨拶させていただいたときよりも、逞しくなられましたな。」

男爵が挨拶の後に、クリス様におっしゃられた。

「ありがとう。ザイオン男爵に褒めてもらえるなんて、光栄だ。」クリス様がにっこりと喜ばれた。

 「男爵はお子様は。」

「ありがとうございます。息子はまだ2歳なので無理です。」

「残念ですわ。」エレノア様が言われた。

「2歳の息子さんが、おられるのか。」ご領主は一度言葉をきった。

「今日は、十分楽しんで。」

「はい、ありがとうございます。」


 向きを変えられて「ハーシー議員久しぶり。」

「お久しぶりです。」

「今日も頼む。」

「はい。」

それだけ?二人は随分親しいようだ。


 ご領主は私に向いて「何か参考になりそうかな。」

「何もかも。テーブル、椅子の配置、食器、クロス。お茶会が始まる前から、参考になるものばかりです。」

クリス様はにっこりされて「テーブル周りはデイジーと従妹のニコルにお願いしている。後で褒めてあげてくれ。もちろん、お茶とケーキも堪能して。」

「はい。」


 「"キングストンの家"への寄付をお願いします。」お茶を注ぎ終わったジュディと、ご領主が並んで頭をさげられた。各自それぞれに返事をした。

「それでは、お楽しみください。」ご領主とメイド達が礼をした。

「ベイカー、ハーシー議員。お茶会が終わっても、ここに残っていて欲しい。」

「はい。」私が驚いている間にハーシー議員が返事をして、ご領主は次のテーブルへ向かわれた。


親身なご領主とは  ベイカー


 「お前は、ご領主とは親しくない、と言っていたと思うが。」男爵から言われた。

「は、はい!親しいなど、とんでもない!どういう事でしょう?」言葉の後半はハーシー議員に向けた。

「私も何も聞いていません。クリス様と親しくはなくても、面識があるのでは?」

「はい、店にお忍びでいらした際に、ご挨拶程度に少々お話させていただきました。」

「その際に私が、何かあなたの役にたつと、お考えになられたのでしょう。」

「私の役に?どんな?なぜご領主が?」

「どの様な事かは後でという事でしたな。お茶会とは関係ないのでしょう。」

 ハーシー議員は姿勢を正した。「平民の面倒を直にみるなど、およそ領主のされる事ではありません。しかし。」一度言葉を切った。

「クリス様は、そうした方が良いと思われれば、領主らしからぬ事でもされる、平民に親身なお方です。」

そうは聞いていたけど、そこまで?

「その最たる物が"キングストンの家"と言えましょう。」


 「あなたは随分、クリス様と親しいようですな。」前子爵が言われた。

「はい。伯爵になられる前から、親しくさせていただいております。」

「それは、次期伯爵になられる前から、ということですかな?」

ハーシー議員が、はっとして真顔で答えた。「はい、そうです。」

「それは、それは。クリス様は良いお友達をお持ちだ。」

「身に余るお言葉を、ありがとうございます。」ハーシー議員が、頭を下げ笑顔を取り戻した。


 「お前は、ご領主にその話をするよう、命じられているのか。」男爵が言われた。

「いいえ、自分で言い出した事でございます。第一回のお茶会の際に、クリス様立ち合いの元、キングストンの家の子から聞き、私があちこちで話をして、寄付を募る事を約束させていただきました。」

「それは、話を聞くしかないではないか。」

「恐縮です。」ハーシー議員は頭を下げた。

 男爵は前子爵夫妻に確認をとり、エレノア様にも確認された。

私には確認されなかったけど、私も聞きたい。

「話せ。」

「はい。これは一番年長の女の子、レミから聞いた話です。」

ハーシー議員が話し始めた。


 クリス様が、二軒目を言い出された理由を聞いて感動した。なんてありがたいご領主なんだろう!

叔父上に断られたのは残念だったけど、他の孤児院で人数を増やして貰える事になって良かった。

クリス様が、このお茶会を始められた理由もわかった。やるからには全力、という事なのだろう。

 「素晴らしいお話でしたわ!」エレノア様も感動されていた。

「うむ。」男爵がうなずかれた。

「クリス様の、お人柄が良くわかるお話でしたね。」とカトリーヌ様。

「良い話をありがとう。」前子爵が言われた。

「話す機会を与えていただき、ありがとうございました。」ハーシー議員は再度、頭を下げた。


 デイジー様が、メイド達と一緒に周ってこられた。「伯爵の婚約者のデイジーです。おかわりはいかがですか。」

皆、ケーキとお茶のおかわりをお願いした。

「たいへん可愛らしい婚約者だ。」前子爵が言われた。

「ありがとうございます。」頭を下げられた。

「"キングストンの家"の話を聞きましたよ。あなたもたいへんだったのでは?」

「いいえ。私はクリスを信じて、ついていくだけですので。」

「素晴らしい。大恋愛で婚約されただけはありますね。」

「ありがとうございます。」すごく恥ずかしそうだ。恋愛でなんて貴族では珍しんだろうなぁ。


 デイジー様は男爵夫妻、ハーシー議員にも声をかけられた。

「"スイーツ伯爵のセレクト講義"で会いましたね。」私にも声をかけてくださった。

「はい。その呼び名をご存知でしたか。」

「聞こえましたよ。このお茶会も役にたててくださいね。」

「もちろんです。」

デイジー様は微笑んで次のテーブルへ向かわれた。


 「セレクト講義とは、なんですか?」ハーシー議員から聞かれた。

「先程言いかけましたが、前回参加させていただいた職人組合長が、ケーキ職人の為に、ご領主にお茶会への参加。それと我々のお茶の席で、城でのお茶会のケーキをどの様に選定されるかをお話いただくことを、お願いしてくれました。」

「ケーキ職人の間での通称が"スイーツ伯爵のセレクト講義"だったのですが、お耳に入ったようです。」

「ご領主がケーキ職人の為に、このお茶会の席と、ケーキのセレクトのお話をされたのですか?」

「そうです。」

「さすが、平民に親身なご領主。」ハーシー議員が苦笑した。

私もそう思う。


 「そのお話ぜひ聞きたいわ。」エレノア様が身を乗り出された。

「私も聞きたいですね。」カトリーヌ様からも言われた。

前子爵が男爵に確認をとってから「話してもらえるかな。」

私はハーシー議員に確認してから、話し始めた。


 職人組合長から聞いた、前回のお茶会のセレクトまでお話した。

「組合長は前回のお茶会の終わりに、"スイーツ伯爵"を称号認定したそうです。」

「ステキなお話でしたわ!」エレノア様が、再度感動されていた。

「ケーキにクリス様の思いが、詰められているのですね。」カトリーヌ様も感心されていた。

「これも又、クリス様の人柄のわかるお話でしたな。ありがとう。」前子爵から言われた。男爵もうなずかれている。

「ありがとうございます。今回もどなたか、キーマンがおられると思うのですが・・・。」

「どのような方でしょうな。」ハーシー議員が、私をじっと見ながら言った。

それは私が知りたい。


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