5-7.かかった経費
かかった経費 ギル
「俺はあんたが、とんでもねー領主と分かっているから良いが、一介の商人が領主に親切にされたら、どう思うか分かるだろ?」名工がご領主に言った。
ご領主は腕を組んで、やや上を見て考え込んだ。「うん、この後、とんでもない代価を求められそうだ。」
俺もそう思っている。
「そのようなことは・・・。」マーガレットさんが言いよどんだ。
ご領主は手を上げて制した。「私の妄想だから気にしないように。」
いや、妄想じゃないでしょう?
「実際、請求するような費用は、発生してないんだよ。」
そんなはずない!!
「ほう、興味深いですな。お話を聞きましたが、色々かかっていそうですが。」議長が言い出した。
「まず、名工の所へ行かれましたな。」
「使者に言われたことの、確認をしに行ったんだよ?領主の仕事じゃないか。それに名工が男爵から何かされていた場合、既に前金の刀を受け取ってるから、私が行く義務がある。」
「ご領主のお仕事は、無償ではありますまい?」
「税金もらってるじゃないか。」俺は驚いた、税金を給料をもらうみたいに言われている!
「そうですか。そこまでは解りました。」
解るんですか!?
「次に、マーガレットさんの所へ行かれましたな。」
「使者に言われたことの確認の続きだね。そしたら、喧嘩売られちゃったわけだ。対処するだろ。」ご領主が言葉を続けた。
「こちらでやったことといえば、見回りの経路変更をしたくらいで請求するほどの費用は発生していないはず。」
いや、違うと思うぞ。
「むしろ、マーガレットには、このお茶会で出費をさせる事になりそうだね。」ご領主がマーガレットさんを見やった。
マーガレットさんが慌てた。「とんでもありません!お茶会に招待していただいて感謝しています。大金を出してでも、ここへ来たい人は多いと思いますよ!」ご領主を除いた全員が頷いた。
「そう言ってもらえると嬉しい。」ご領主がにっこりした。
「経費の件。納得のいくご説明です。領民の保全につくしていただき、ありがとうございます。」議長が頭をさげた後、マーガレッさんと俺を見渡した。
いや、俺は納得しないぞ。「でも、組合への参加はご領主に何の責任はないし、得にもならないでしょう?」
「責任はないね。得ねぇ?男爵領にいた職人たちをつなぎとめるとか?キングストンの技術向上、商売繁盛につながる。領地が栄えれば伯爵家はウハウハ・・・。」
「クリス様、今考えました感が抑えられてないです。」弟子が突っ込んだ。
「思いついたら即、行動に移しちゃうんだよね。デメリットは無いと思うが?」
「ありません、ありがとうございました。」マーガレットさんが頭を下げた。
ここで話を打ち切れって事か。これ以上聞くと怒らせそうだしな。
デイジー様が近寄って来るのが見えた。「失礼します。」
「何かあった?」ご領主が緊張した面持ちで尋ねた。
「ケーキが足りなくなりそうなの。」
「うわ、嬉しい悲鳴だね。」
執事へ向いて「ダルトン、レミ達用のワンホールは確保して、使用人用のケーキをこっちへ持ってきて。後でシェフに近日中に使用人達に作るよう伝えといて。」
使用人達にケーキを!?しかも後日、再度作れって!?
「承知いたしました。」執事が返事をして、足早に去って行った。
「失礼する。間を持たせないと。」ご領主がテーブルを離れていった。
「だからどうして行動に移せるんだ。ほっときゃいいだろ。あと、いろいろとありすぎる。」俺が漏らした。
「納得がいかないようだな。」名工が言った。
「いかないな。俺は王都でたくさん自分本位の貴族を見てきた。直接、自分の利益にならないことを、どうしてできるんだ。」
「あの領主は、キングストンが繁栄すればいいんだよ。親切にしてくれるってんだから素直に受け取ったらどうだ。」
名工が言う事はわかる、ただ、それがあちらが苦労してこちらが得をするなんて事は受入れがたい。
「そんな状態でセレクト講義をしてもらうのか。」名工に言われた。
「そうだな。」俺は顔を伏せた。疑っている相手から親切を受ける事になる。
「わかった。お前にはクリスがどうして伯爵家を継ぐことにしたのかを話してやる。」
俺は不思議に思った。「どうしてって、世継ぎだからだろ。」
「断ってたら、代行が領主になってたのか?」名工が議長へ聞いた。
「そうかもしれません。どなたがなるにしても、このような好待遇はされないでしょう。それと」議長は言葉を切ってカップを持ち上げた。
「スイーツ伯爵のお茶会は開かれません。」言って紅茶を飲んだ。
「それは間違いないな。」名工が苦笑いした。
何だ?このやりとりは?「二人で話を進めるなよ。今日何回目だ。」
「悪い。続きは俺の家で酒を飲みながらしよう。」
「ちょっと待って。場所とお酒を提供するから私にも聞かせて。」
マーガレットさんに割り込まれた。
「いいだろう。議長はどうする?既に聞いてるだろ?」
「名工からの話もお聞きしたいですな。対価は道すがら何か仕入れましょう。」
議長も知っているのか。「その話も何人も知ってるのか。」
「オヤジさんから直接聞いたのは俺と、ある商工会議員の二人だけのはずだ。」
「オヤジさん?」
「一般には養父だな。俺に言わせると、血が繋がってないだけの実の親子だな。」
議長がうなずいた。それは、おかしいだろう?
俺は名工に手を振った。「もういい。後でじっくり聞かせてもらう。」