5-6.セレクト
セレクト ギム
「おかわりはいかがかな。」再度、ご領主が周ってきた。
全員お茶のおかわりをいただく事にした。
俺はひんしゅくをかう覚悟で言った。「あの、花のケーキを、もう一ついただいても良いでしょうか。」
「あ、じゃ俺もシナモンを、もう一つお願いします。」弟子が便乗した。
「もちろんいいよ。」ご領主がメイドに指示した。
「気に入ったかな。」ご領主から尋ねられた。
「はい。ケーキ職人達に、このお茶会をぜひ見習せたいです。」
「ひとテーブル。つまり、5,6人なら招待してもいいよ?」
「へ?」
「そのかわりお茶代くらいは寄付して欲しいかな。あ、でも、シェフの承諾がいるか?」
ご領主が考えこまれた。
「い、いや、私が見習って欲しいのはケーキそのものよりは、そのセレクトのほうです。
もちろん、お茶会自体もすばらしいですが。」
「え、セレクト?」領主がきょとんとした。
「話が長くなるようなら、お茶会が終わってから、させていただいてはどうか。」
議長が割こんだ。
「うーん、二人だけで周ってもらってもいいか。少し待っていてくれ。」
ご領主はメイド二人に指示をして戻ってきた。この間に執事が席を用意した。さすがだ。
「お茶会のケーキは、どのようにして決められるのかって事だろ?」名工からフォローされた。
「そうだ。」名工に答え、ご領主に向いた。
「誰の為に、どのような物を用意するか、というお話が新作ケーキを考える参考になると思うのですが・・・。」言ってケーキを見つめた。
「お茶会で話すわけにはいかないな。テーブルを周らないといけないからね。」
「それ以前にご領主にご講義いただくわけには・・・。」
「あぁ、素人がプロに講義するわけにはいかないよね。」
「え?」俺は虚を突かれた。
「だから、領主だからというのは、理由にならないんだって。」名工からぼそっと言われた。
ご領主は腕を組んで考えこまれた。
「そうだなぁ。お茶に呼ばれて、話題として提供するくらいならいいかな?」顔を向けられた。
「い、いいんですか!?」
「参考になるんだったら。まさかと思うけど、お茶の席で部屋全体に響くような声で話す気はないからね。」
「大テーブルくらいでおさえます。」
「もうすぐ都へ戻るので、次にキングストンに来る日程が、決まったら知らせる。」
ご領主は後ろを向いて「ヨーゼフ、頼むね。」
「承知いたしました。」離れて控えていた執事が礼をした。
「お茶会のテーブルも、確保しとかないと恨まれるぞ。」名工から声をかけられた。
「お願いできますか?」慌ててご領主に言った。
「いいだろう。ケーキ職人じゃなくてもいいけど、"城のお茶会に行った"というような話題づくりを目的とはしないように。」
「もちろんです。」
「ひとまとめにしないで、各テーブルの貴族達の中に一人放り込んでも大丈夫かな?」
「・・・大丈夫です。そういう者を選びます。」
「そうするかもしれないから、覚悟しといて。」
「はい。」
「そっちの話がまとまったところで、こっちの話もさせてくれ。」名工が言った。
「どうぞ。」俺は手振りで示した。
「職人組合への参加を希望し、一覧を提出した。各自への審査待ちだ。」
「それは良かった。」ご領主がにっこりした。
「どうして、組合への参加を勧めてくれたんだ?」
「一覧を作ってもらっただろ。男爵の件で何かあったら、連絡を取り合うよね?それは組合の基本じゃないか。新規団体を発足させるか、既存の組合に参加させるなりした方が良いと考えた。」
「なるほど。お茶会を利用したのは?」
「マーガレットは、招待しないといけないと思ってたんだ。」
マーガレットさんが驚いて聞いた「どうしてですか?」
「無理やり、お茶をご馳走させちゃったからね。」
「えぇっ、だってあれは!」名工がマーガレットさんを手で制した。
「そこで、職人組合長と同席させることにしたのか。」
「親しくなるだけでもいいと思って。どこまで話がまとまるか、わからなかったからね。」
「よく分かった。采配を感謝する。」名工が頭をさげた。マーガレットさんも後に続いた。