5-5.とんでもないご領主
とんでもないご領主 ギル
名工が話を始めた。
「作業の手を止めてふと見ると、領主と婚約者が部屋の端に座っていたから、何かあったと思った。」
何でそれだけでそう思うんだ?名工は俺が疑問に思ったのが解ったようだった。
「あの領主は来る際には、こちらの都合の良い時を、事前に聞いてくるんだよ。」
「そうなのか?あちらの都合の良い時刻を、空けとけじゃなくて?」
「商工会へ行く際もそうだろ?」
「そうです。」
「こっちの都合に合わせるのか!?」俺は驚いた。そんな話聞いた事がない。
名工は城であった事と、ご領主をマーガレットさんの店へ連れて行ったところまでを話した。
「あとは、マーガレットから話す。」
「突然、振らないで。」マーガレットさんは、しばらく考えて話始めた。
ご領主から命じられるところで再度、ものまねを始めた。
「・・・スイーツ伯爵みたいな事は、しなくていいからね。」
「さすがクリス様。」議長が苦笑いしながら言った。
俺は唖然とした。「親切を強要された?」何だそれ。
「あの領主に"領主だから"とか"貴族だから"というのは、理由にならないんだよ。」
いや、貴族だったら自分が貴族である事を理由にするだろ!?名工につっかかろうとしてやめた。貴族の女性がメイド達を連れてテーブルへ周ってきたからだ。
女性貴族が自己紹介した。
「クリスハート伯爵の婚約者、デイジー・ブライスです。」完璧な礼をされた。
そばかすがあるけど、かわいい女性だ。
続いて孤児院の子が挨拶した。
「皆さま、おかわりはいかがですか?」
全員がケーキとお茶のおかわりをお願いした。
「デイジー様、服は順調に作成中です。」マーガレットさんが言った。
「次回のお茶会で着るのを楽しみにしています。」
そうか、婚約者様の服を作られているのか。それが対価に違い無い。
「デイジー様はここのテーブルについて、何か聞かれておられるのですか。」名工が聞いた。さっきと違い、言葉使いが丁寧だ。
「はい、お茶会とはかけ離れたテーマで、話をしているかもしれないと。」
「デイジー様は、ご領主の行いをどう思われているのですか。」
俺はぎょっとした。そんな事を聞いて大丈夫か!?
「とまどう事が多いのは確かです。私にはそれがどう良い事なのか、わからないのです。」デイジー様は顔を伏せ、すぐに持ち上げた。
「でも、最後には皆が喜ぶので、クリスのする事に間違いはないと信じています。」
すごく信頼されているな。
「今回も感謝しています。大いにとまどっていますがね。」
「クリスの行いが、皆様の良き事に繋がりますよう。」デイジー様が礼をして、次のテーブルへ向かって行った。
「あれこそが貴族だと思うぞ。」俺が誰にとなく言った。移住者の組合への参加なんて関心事じゃない。
「とことん尽くされる方ですねー。」弟子が漏らした。
あぁ、親しいなんてもんじゃないな。
シナモンケーキを口に入れた。こちらはさっきより甘さ控えめだ。俺としてはもっと甘くて良いのだが。
マーガレットさんが話を続けた。
「ご領主に、命じられた事を理由にして、この後の予約のキャンセルし、すぐに仲間に警告して回るように言われたの。ありがたかったわ。」
「自分のせいにして良い、と言ったのか!?」
「そう。もちろん、そんな事はしませんでしたけど。」
俺は再び唖然とした。自分を悪者にして良い?貴族がそんな事を言う??
「さらには馬車を貸そうかと言われて、お断りしようとしたのよ。そしたらサムがご領主の納得がいく理由じゃないと、歩いて帰ると言いだすぞって脅すの。」
「言い出しかねないよな。」名工が議長に言った。
「そうですな。ただし、デイジー様に了承を得た後、従者,メイドにも確認されるでしょう。」
おい、ちょっと待て。
「従者やメイドが万が一、嫌だといったら、あきらめるんですか?」議長に聞いた。
「別に馬車を借りるなりするだろ。」名工が答えて議長に同意を求めた。
「そうですな。双方が馬車を利用する方法を考えられるでしょう。」
「どうして、そうなる!?そこまでしないだろ、普通。」
「そういうヤツだからだ。」
「使用人にも配慮をかかさない方だからだ。」と議長。
ダメだ意外過ぎて言葉が出ない。
マーガレットさんがさらに話をすすめた。
「結局、三日間お茶の時間に服の打合せをして、最終日に職人組合への参加検討の指示とこのお茶会に誘われたの。」
「お茶会に来てみたら、商工会議長と職人組合長が、待ち受けていたわけだ。とんでもねーだろ?」名工が話を締めくくった。
とんでもなさすぎる。もうどう考えて良いかわからない。
「ご領主はなんで、そんなに親切を押し付けてくるんだ?何の得があるんだ?」名工へ言い。
「さっき、婚約者様に服を制作されている、と言われましたね。」マーガレットさんに聞いた。
「はい。」マーガレットさんが頷いた。
「もちろん、お代は無しですよね?」
「いいえ、代金は払うと言われました。」
「払う!?」
「"これでタダで物をもらったら、あちらと変わらないじゃないか"と。」
「いや、違うだろう!?」思わずマーガレットさんに、突っ込んでしまった。
「さすがクリス様。」横で議長が感心していた。
「お前、俺が剣を貰ってもらえなかったの、知ってるよな?」名工から言われた。
「どうしてそうなるんだ!?あなたは疑問に思いませんでしたか?」マーガレットさんを責めるように聞いてしまった。
「もちろん、サムに尋ねました。」マーガレットさんが名工を睨んだ。
名工が声のトーンを落として言った「あの領主は2歳から13歳まで商人として過ごしてる。平民の考え方ができるんだ。」
平民の考え方ができるご領主?
「そんな事、今まで教えてくれなかったじゃないか!」
「必要もなく広めていい話でもないだろ。」
「今、俺に話をしても良かったのか。」
「おおっぴらにはしないけど、何人も取引しているから、口止めしきれないってよ。副議長と議員の一人も取引した事があるそうだ。」名工が議長を顎で指した。
議長が頷いてみせた。
「そうか。」であれば、貴族らしくなくても不思議じゃない。
うん?クリスハート様が商人をされていた?それでは!
「アイリーン様のもらい受け先って、商人だったのか!?」
「そうだ。お前キングストンが長かったんだな。」名工に言われた。俺の出身についてはまだ話してなかったかな?
「キングストン生まれのキングストン育ちだ。都での下積みが長いけどな。年1回は里帰りしてたぞ。」
「そうだったのか。」
「商人から領主になったら、俺なら威張りまくるぞ。それと、なんで組合への参加と繋がるのかわからないぞ。」
「組合の件は、ちゃんと聞いてなかったな。」
「予想はできますけどね。」議長から言われた。
「後で聞いてみよう。」
名工に乞われて、職人組合の活動内容を話した。