1-2.主力商品
キングストンの主力商品 サム
キングストン城の謁見の間で領主から声をかけられた。
「この前はきちんと名乗らず、失礼した。刀をよこせという者が現れたのか。」
「いいえ。こちらの方こそ、この前は大変失礼をしました。あの時打っていた刀ができあがりましたので、献上にまいりました。」刀を差し出した。
「タダでは渡さないと同意を得たはずだが。」
「俺はあんたに使って欲しいんだ。」言葉が乱れてしまった。「すみません。」
「ここでは、ざっくばらんに話せないな。それは一旦預かって、別の所で話そう。」
言われたとおりにした。
庭に案内された。
「口調はこの前と同じで良い。私も堅苦しいのは苦手なんだ。クリスと呼んでくれ。」
クリス様が言われた。
「ありがとうございます、クリス様。かなり崩して話させてもらいます。」
「さっきも言ったが、領主にもタダで渡して良い物ではない。代金を払おう。」
「尊敬できる人なら、献上しても良いと言ったじゃないですか。あんたに使ってもらいたいんだ。」
「困ったお人だ。」
「それは君もだよ。」横から割り込まれた。見るといかにも王子様という感じの貴公子と令嬢が近づいてくるところだった。貴公子は謁見の間でクリス様のすぐ後ろにいた方だ。
「私も?」クリス様が貴公子に答えた。
「頑固で融通がきかない時があるよね。」
「そうか。」クリス様が下を向いた。
「こちらの方々は?」クリス様にたずねた。
「領主代行の長男でバージル。私の従兄でもある。」バージル様と礼をかわした。
「私の婚約者のデイジー。」こちらも礼をかわした。デイジー様はそばかすが特徴の、失礼だがそれ以外はいたって普通な感じの令嬢だ。
「それで、この状況を解決する方法があるかな?」クリス様がバージル様に尋ねた。
「あるよ。名工は君の庇護を求めて来たんだろう?その刀を代価に契約すればいいじゃないか。」
俺にはバージル様の話の内容がよくわからなかった。
「そうか、ありがとう。」クリス様は解ったらしい。剣を持ち、俺の方を向いた。
「私がこの刀を所有するかぎり、私の権限で貴方をわずらわせる者を退かせる事を約束する。」
俺はがてんがいった。「よろしくお願いします。」
クリス様がバージル様に尋ねた。
「デイジーを連れてきたのには理由が?」
「都で君を止めるのはデイジーだからね。」バージル様が手で示された。
「えっ、でも私バージルみたいに解決方法なんて・・・。」デイジー様が身を引かれた。
「意固地になっている事を、気づかせるだけでいいんだよ。方法はクリスが考える。」
クリス様がデイジー様にうなずかれた。
「クリスはもう解ったと思うけど、支払いは現金じゃなくても良いんだよ。」とバージル様。
「あぁ分かった。私はそういう考えができなかった。」クリス様はうつむかれた。
「平民の感覚を持つ領主は君しかいない。クリス流をつらぬいていくしかないんだと思うよ。」
「我流で行けと言うのか。」
「ひたむきにやりつづけてきた人に、意見を聞いてみては?自身の苦心作を献上してきた人なら信頼できると思うよ。」俺に向かって手を指し向けられた。
「もう、巻き込んでいるのに、よく言う。」
バージル様はこの場の思いつきのように言っているが、人格等は、ばっちり調査済みのはずだ。でなければ工房見学なんて勧めないだろう。
クリス様が俺に向いて「見苦しいものを見せた。話を聞いてもらえないだろうか。」
「俺でよければ。」貴公子に信頼されたからには、受けるしかないだろう。
「私も話を聞きたいけど、これで失礼する。デイジー、後で聞かせてね。」バージル様が離れた。
クリス様があらためて語りだされた。
何人にか知られているが、私は2歳から14歳前まで、都の商人の長男として育った。
15歳になるまでに立ち振る舞いを貴族らしくして、伯爵を継いだ時に自分の事を"僕"から"私"に変える事で気持ちを切り替えた。でも、感性とか根の部分が商人のままだ。
養父も私もそんな目にあった事はないけど、貴族だからという理由で店の商品を持っていかれるなんて、たまったもんじゃない。だから、貴方の刀を貰うわけにはいかなかった。
でも、領主なりの支払い方法がある事をさっき教えてもらった。
我流で行けなんて、どうやらまっとうな領主にはなれないらしい。
何かいいたげなデイジー様に先を譲った。
「クリス、慌てないで。しっかりやれているわ。」デイジー様が俺を見た。
すかさず俺が言葉を続けた「そうだな。クリス様はこの前、工房へいらした時のその剣と同じだな。」
「どういう事かな?」クリス様に尋ねられた。
「剣としての形ができてきたところで、まだまだ鍛えて整えていくところだ。」
クリス様は、はっとした感じだった。
「まだ15歳で領主になったばかりなんだろ?いきなり、一人前の領主なんて無理だろ。せめて5,6年経ってから一人前と言って欲しいな。領主になる前から領民に評判なんて方がすごいぞ。」
「そうか。」少し照れたのだろうか、頭をかいて下を向かれた。
「平民の感覚を持つ領主は、キングストンの主力商品だろ。現に俺はそれでここに来たんだからな。」
「養父みたいな事を言う人だ。」クリス様が笑われた。
「どんな事を言われたんだ?」
「養父は"お前ならキングストンを繁盛させられる"と言って送りだしてくれた。」
「大物だな。機会があったら話してみたい。」
「伝えておく。アドバイスをありがとう。私なりのやり方をしていくよ。」
デイジー様がクリス様と手を重ね、二人が見合われた。
「名刀の産みだし方は人それぞれだ。この前"俺の場合は"を連発しただろ?」
二人がこちらを見た。「確かに。」クリス様がうなずかれた。
デイジー様は何度もうなずかれていた。
クリス様がデイジー様の方へ向いた。「デイジーには又、心配させちゃったね。」
「いいえ、私も領主の妻としてもっと勉強しないと。」
「ありがとう。」デイジー様の手を取ってキスをされた。
「んん!」二人だけの世界に突入するのを止めた。
二人共はずかしそうにしていた。