4-7.帰郷
帰郷 ゼブ
クリスと別れ、キングストン城の門から馬車がでた。
「ゼブ様、楽しかったですか?」ジェームズから聞かれた。
「うん、楽しかった。」
「ゼブ様、帰られたら、クリス様へ礼状をお書きください。あと、お父様にもお願いしてください。私からも申し上げますが。」
「わかった。」
「クリス様を、どう思われましたか?」
「とってもやさしくて、"領民に親身な領主"だと思う。ジェームズは?」
「貴族らしからぬ事までされる、とんでもなく親切なご領主でした。」
「貴族らしくない?」
「ゼブ様への接客だけでも、普通あそこまでの事はされません。実の弟君以上の事をしていただけたのではないか、と思います。」
「とんでもなく親切な領主か。俺もなれるかな。」
「いえ、ゼブ様には、お父様のような領主になっていただければ結構です。」
「えー、いいだろ?」
「いずれにしろ、まずは礼儀作法からです。」
「そうか。うん、がんばる。」
「はい。がんばりましょう。」
グレイシャー伯爵
「キングストン伯爵はどんな方だった。」
ゼブから一通り話を聞いた後、ジェームズ一人を呼びつけた。
「はい、クリス様はご自身から事前にお知らせのあったとおり、とんでもねー領主であられました。」
「そのようだな。」苦笑いをした。ゼブの話の途中で何度となく、聞き直してしまった。とても貴族がするとは思えない事が語られたからだ。
「ゼブ様が、まねをされないか心配です。」
「それは側にいるお前が止めろ。彼のおかげで礼儀作法等やる気になった。」
「はい、それは行ったかいがありました。」
「礼状を出さないといけないな。ゼブにも出させろ。」
「承知いたしました。」
「数日中に詳細をまとめて報告しろ。」
「はい。」
キングストン伯爵は、なかなかに楽しい方のようだ、そのうち直接お話したい。
王都のキングストン邸にて クリス
キングストン邸の私の部屋にジョンが通された。ジョンは再婚した生母と、商人の養父の間に生まれた弟だ。
「クリスハート伯爵、ごきげん麗しゅう。」ジョンから完璧な礼をされた。さすが大商店の息子だ。
「堅苦しい挨拶なんか、しないでくれ。久しぶりだね。」
私は席から立ち上がって、ジョンを抱きしめた。愛おしい。
「9歳のお客を接待したんだって?」キングストンから手紙で、近況と共にジョンに会いたいと伝えたのだった。
「うん、そうなんだよ。実の弟以上にかわいがってしまった。」
「で、実の弟が恋しくなった?」
「その通り。私ってそんなに解りやすいかな。」
「予想どおりだよ。で、又とんでもねー事したの?」
「そう思う?」
「思う。」
「じゃ、ハーシー議員に教えなかった事を話すよ。取引材料にするといい。」
「いいね、あっちから話してもらうだけじゃ、悪いからね。」
二人で向きあって座った。カラメルケーキを出した。
「グレイシャー伯爵の長男ゼブルン殿との挨拶が終わった次に・・・。」
「あいかわらずだね。」ジョンが笑って言った。
「まぁね。」
「僕からも話があってね。化粧品を取り扱おうと思うんだ。」
「化粧品って・・・あの?」
「そばかすを消す物は人を選ぶし、時間もかかるから例外にして、肌に優しいというだけの物なら量産できると薬師が言うから、ブランドにして売ろうと思う。」
「ブランドだって!?」
「"クリスティン"というのは嫌?」
「私の名からとったのか!」
「兄さんが扱いはじめた化粧品だからね、だめかな。」
「いや、光栄だよ。たくさん売れるといいね。」
「競合が多いから、口コミでほそぼそと売っていくよ。サンプルを持ってきたから、オードリー様に試していただけないかな。」
「オードリー様に?」
「デイジー様は既にそばかすを消す物をお使いだから。」
「そうか、すすめてみるよ。」
「よろしく。」ジョンから化粧品を受け取った。