4-4.テーブルマナーのすすめ
テーブルマナーのすすめ デイジー
お茶の時間に客室へ行くと、二人が席について待っていました。親子程の体格差があります。
「今日はキャラメリゼケーキとミルクティーを選んだ。」クリスがセレクトを説明しました。
「ケーキは一種類だけか?」ゼブがケーキをじっと見ながら聞きました。
「そうだよ。二種類出したのは"キングストンの家の為のお茶会"の一回だけ。次のお茶会をどうするかは決めてない。」
「そうなのか。」ゼブはがっかりしたようでした。
ゼブはお茶とケーキを前にして固まってしまったので、クリスが気にせず自由にして良いと言いました。テーブルマナー同様、めちゃくちゃでした。
「おいしいかい?」「うん!」ゼブはごきげんです。
クリスはゼブがケーキを食べ終えたのを見て。
「ゼブ、友人として忠告したい。怒らないで聞いてくれるかな。」
「なんだ?」
「君の礼儀作法や、テーブルマナーは"キングストンの家"の子達並みだよ。立派な領主になる為に、帰ってから学びはじめた方が良い。」
「俺が平民と同じだって言うのか!?」
「今はね。」
「デイジーもそう思うのか?」ゼブが私に聞いてきました。
「ええ、そう思うわ。立派な貴族になるには、礼儀作法等いろいろ学ぶ必要があるの。ゼブは、これから始めればいいのよ。」
「そうか。」ゼブは泣き出しそうになりました。
「悲しむ事はない。君の父上も、これから始めれば良いとお考えだよ。」
「父上も?これから始めればいいのか?」ゼブが元気を取り戻しました。
「そうだよ、家に帰ったらジェームズに言えば良い。」
「そうする。クリスも9歳から始めたのか?」
「んー、テーブルマナーは、もう少し小さい時から始めたかな。ただ、貴族らしいふるまいとか、領主経営はぜんぜん、やらなくてね。後を継ぐと決まってから、慌てて学びはじめたんだ。今もまだ学んでいる途中だよ。」
「クリスは一生懸命やってるんだな。俺は・・・。」ゼブは先を口にするのを迷ったようです。
「クリスの客になれば、おいしいケーキが一度に二つ食べられると聞いて、客になりたいと思ったんだ。」
「期待はずれだったね。どうする?これで領地へ帰るかい?」
「嫌だ!クリスがどういう事をするのか見たい!」
「勉強熱心だね。では、私がバージル達と難しい話をする時、君は遊んでいてもいいけど、ジェームズに教わって、お茶をいただく練習をするように。」
「お茶を?」
「明後日に、貴族の客とお茶を一緒に飲んでもらう。ジェームズがダメって言ったら、一人で飲んでもらうからね。」
「わかった!」
「お客様にクリスのセレクトをいただいた、というだけでも羨ましがられるわよ。」私がフォローするとゼブは嬉しそうに「そうか!」と答えました。
貴族の弟 クリス
夕方からの剣の稽古をゼブが一緒にやるというので、私が素振りをしている間に木剣で握り方から教わってもらった。
私はジェームズに相手をしてもらったが、勝てなかった。とことんセンスないと思う。ゆえにゼブとはやらないでおいた。木剣を打ち込まれるか、こちらが力を入れすぎるかのどっちかになるに決まっている。
ゼブはもちろん、ジェームズにいいようにあしらわれていた。
稽古が終わって「私は汗をかいたから水浴びするけど、ゼブは?」汗を拭きながら聞いた。
「俺もそうする。」
「ゼブは自分で洗うの?それともジェームズが?」
「ジェームズがやってくれる。」
「じゃあ、一緒に入ろうか。洗ってあげるよ。」
「クリスが洗ってくれるのか?」ゼブが驚いた。
「たいへん手馴れていらっしゃいます。」ダルトンから声がかかった。
「クリス様、ジェームスさんが側に控えていてもよろしいですか?」
「そうか、側にいないと心配だよね・・・。」私は考えた。
以前、ダルトンに知らない人の前で裸になるのは嫌だ、と言った事があった。
今は?私は大人なったんだ。「かまわない。」
ゼブを洗ってやっていると「クリスは洗うのがうまいな。誰かを洗った事があるのか?」
「あぁ、弟を洗った事があるんだ。」
「弟がいるのか、俺は妹がいるんだ。妹を洗ってやろうかな。」
「男と女が一緒に水浴びしちゃだめだよ!」私は慌てた。
「あ、そうか。弟も欲しいなぁ。」
「妹だけでもいいと思うけどな。お父様と相談してくれ。」
「弟はこの城にはいないのか?」
「王都で離れて暮らしているよ。たまに会いにきてくれる。」
「ふーん、仲が良いんだな。」
「うん、とっても仲が良いんだよ。」にっこりと言った。
私の背中を洗ってもらってから、ゼブをジェームズに渡して拭いてもらった。