4-3.キングストンの家
キングストンの家 デイジー
リザがクリスに尋ねました。「決まりましたかね。」
「たぶんね。決まったら手続きをよろしくね。」
「承知しました。昼を食べて行きませんか。まずくて食べられないって事はないと思いますよ。」
「え、だって10人もいるよ?」
「突然の10人の客を相手にできなきゃ、大きな家の厨房はできませんよ。」
「さすがだね。ありがとう。」
私達の方に向いて「ゼブとデイジーはどうする?城へ戻る?」
「クリスは?」ゼブが聞き返しました。
「私はいただいていく。君達は城で食べてもいいよ。」
「俺もここで食べる。」
「私もこちらでいただきます。」私だけ城へ帰るつもりはありません。
近づいていきたクレドが「たいした料理はだせませんが、味だけは保証します。ウチの家内、貴族の家の厨房をまかされていた時期もありますんで。」
「そうなの?知らなかった。これは楽しみだ。」クリスが嬉しそうです。さすが"グルメ伯爵"怒るから言いませんが。
暫くしてから、二人の元へと戻りました。
「話の途中かもしれないけど、ジュディここに住みたいかい?」
「お姉さんと一緒に住んでいいの?」ジュディがレミに言いました。
「いいよ。クリス様がいいって言うんだから。」
「いいの?」ジュディがクリスに聞きました。
「いいよ。その為につれて来たんじゃないか。」クリスが答えました。
「お姉さんと一緒に住みたい。」
「じゃ、他の皆にお願いしないとね。話の続きは夕方にしてもらえるかな。」
「はい。」レミ達が言われたとおりにしました。
クリスは食堂に皆を集めました。レミとジュディを横に立たせて話だしました。
「皆にお願いがある。ジュディは帰る家がなくて困っている。ここで一緒に住んでもらえないだろうか。」
「その子も家が無くなったの?」ネロが聞いてきました。
「うーん。詳しい話は一緒に住んでから、少しずつ聞いてあげて欲しい。皆にはここ"キングストンの家"があるけど、ジュディには無いのは確かだ。ジュディ、レミからもお願いして。」
「私、お姉さん達と一緒に住みたい。お願いします。」ジュディが頭を下げました。
「ジュディは私達と同じだと思うの。一緒に住んでくれる人は手をあげて。」とレミ。
「はーい。」「はい。」「はいはい。」皆が一斉に手を上げました。
「さあ二人共、皆の方へ。」クリスがレミとジュディを送りだしました。皆が二人をわいわい取り囲んでいきます。
良かった。あれ、ゼブが泣き出しています。私に気づくと、ジェームズの後ろに隠れてしまいました。
食事でクリスは何の素材をどう調理していておいしい、とか詳しい感想を言って、リザを驚かせていました。
クレドの言うとおりだったので、私からも、とてもおいしいと伝えました。
食後にクリスは、クレドと少し打ち合わせをしていました。
市場へ戻る馬車の中で、ナンシーがクリスへと聞きました。
「私が"キングストンの家"へ遊びに行ってもいいんですよね。」
「いつでも行っていいよ。他の子達とも仲良くしてくれると嬉しい。」
「はい。ジュディがウチへ来るのは?」
「かまわないんだけど・・・、一人じゃあぶないかな。」
「そうですね。誰かついてきてもらうように言っておきます。」
「君もね。」
ナンシーは少し迷ってから「あの、どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?他の貴族はここまでしないですよね?」
「私は、目の前の困っている人を見捨てたら、領主失格と思っている。」
「クリスはこうした方が良いと思えば、それが貴族らしからぬ事でもするわよ。某商工会議員が"とんでもねー"って叫ぶくらい。」私が口を挟みました。
「あの人はおおげさなんだよ。」
「そうかしら?」私は笑いました。
「見捨てたら領主失格なのか?」ゼブがクリスに聞きました。
「私がそう思っているだけだよ。他の人がどう思っているかは知らない。」
「そうか。」ゼブは少し考えていました。
「 なあ、ジュディを"キングストンの家"に連れて行って、家の者にこの子の面倒を見ろと命令するだけで済んだんじゃないか?」ゼブは首を傾げました。
ナンシーがビクッとしてゼブを見ました。
「 確かにそれでも、レミがどうにかしてくれたかもしれないね。私がお願いしたかったんだよ。」クリスが頭をかきました。
「 こういう、やり方が"領民に親身な領主"なのだと思うわ。」私が口を挟みました。
「そうか。 」ゼブが納得しました。
「 私は自分のやりたいように、やっているだけだよ。」とクリスは言いますが、テレ隠しですね?
私達のやりとりを聞いていたナンシーが、頭を下げました。
「ジュディの事、本当にありがとうございました。」
「なんとかなってよかったよ。」
「ジュディは今まで大人からは"君の気持ちは解るよ"としか言われなくて、それが嫌だったそうなんです。でも、ご領主は"解らない"って言ったから、信じられると思ったんです。」
「そうか、それは良かった。」クリスがにっこりしました。
ナンシーの家はパン屋さんでした。クリスは菓子パンを8個買い込みました。
「半分持って。」クリスが紙袋をゼブに渡そうとしています。
「なんで、俺が持たなきゃいけないんだ。」
「町中でパンを買って持ち帰るなんて、やった事ある?やらなくていいの?」
「やった事ない!やる!」ゼブは嬉しそう。
貴族が町中で安い菓子パンを買う事があるでしょうか?
クリスはナンシーに、店にいる間は両親に領主と知られないようにして欲しい、とお願いしていたので今頃、驚かれているのではないでしょうか。
クリスはパンの1つを御者に渡して、残りを車内で全員に配りました。
「すぐに食べる事、命令。」とクリス。
「又そういう命令を・・・。」私はあきれました。
「そういう命令って?」ゼブが聞きました。
「クリスはめったに命令しないのよ。数えてみるといいわ。で、命令する時は大抵たいした事じゃないのよ。」
「ふーん。」
クリスは菓子パンを、もぐもぐ食べながら聞き流していました。
全員、菓子パンにかぶりついて、もぐもぐしている様は、なかなか楽しかったです。
予定していた、キングストン観光を再開しました。
城へ戻るとクリスは、バージルに領土経営を教わりに行きました。私は普段、別行動なのですが、ゼブと一緒についていきました。
しばらくして、ゼブが話についてこれないと見ると、クリスは「部屋で休んでいていいよ。本を読んだり庭で遊んでいても良い。お茶を飲みに部屋へ行くからね。デイジー、案内して。」
私はゼブを部屋まで送りました。疲れたから休憩するという事だったので、オリビア様のところへ、女主人の仕事を教わりに向かいました。