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第四章 来訪者 4-1.来訪者

王都のキングストン邸 デイジー


 「デイジー、キングストン城に、見学者が来ることになった。」

お茶の席でクリスから伝えられました。

「見学者ですか?」私はクリスに聞き直しました。

「そう、キングストン領の隣の、グレイシャー伯爵のご長男ゼブルン殿が"領民に親身な領主"を見たいそうだ。」

「他領の領地経営の見学を希望されるなんて、おいくつなの?」かなり年上でしょうか。

「9歳になったばかりだって。」

「9歳でもう!?何て熱心な方なんでしょう。」驚きました。

「それが、礼儀作法がぜんぜんできないらしい。」クリスが苦笑いしました。

「は?」私は話のギャップに、ついていけませんでした。

「近い歳の領主の噂を聞いて、興味を持ったらしくてね。立派な領主になるには、どんな事が必要なのか知る良い機会だと。」クリスは苦笑いのまま。

「それを隣の領主に頼みますか。」私は片手を額にあててしまいました。

「貴族らしからぬ事をする、"とんでもねー領主という評価もあるから、やめた方が良いのでは"とも言ったんだけどね。"大変ご迷惑をおかけするが、是非ともお願いしたい"との事でね。貸しとまでは言わないけど、良好な関係を築く為、お役に立つならと引き受けた。」

「叔父様には?」

「これから知らせるよ。目にあまるようなら、客室で応対する。」

「この前、似たような状況があったような・・・。」

「まさか、"キングストンの家"の子達程じゃないと思うけど・・・。」

「そうだといいわね。」

「 基本、私が相手をするけど、対応よろしくね。」

「 はい。」

その、まさかだとはこの時点では、わかろうはずもありませんでした。


キングストン城  デイジー


 クリスと共に出迎えに行くと、快活な感じのする男の子が執事といました。

「グレイシャー伯爵、長男ゼブルンです。よろしくお願いします。」ゼブルン様がぎこちなく礼をされました。

「クリスハート・キングストン伯爵です。ようこそ、キングストンへ。」クリスは大きな体ですらりと礼を返しました。

「こちらは婚約者、ブライス伯爵の次女デイジー嬢です。」私がゼブルン様に礼をすると、やはり、ぎこちない礼が返ってきました。

「伯爵にお願いがあります。」ゼブルン様が言われました。

「なんでしょう。」クリスが答えました。この二人は親子程にも体格差があります。

「俺は丁寧な言葉使いが苦手なので、ぞんざいに話させてください。」

「では、ゼブルン殿、私と友達になってくれませんか。そうしたら、馴れ馴れしく話しても大丈夫ですよ。私の事はクリスと呼んでください。」

「やった!友達になる!俺の事はゼブでいいぞ!」ゼブルン様は大喜び。

「では、私もデイジーでお願いします。」ゼブルン様に軽く礼をしました。

「うん、よろしくデイジー。」

「私は歳の近い友達が少なくてね。友達になってくれて嬉しいよ。」とクリス。

「クリスは友達が少ないのか。」ゼブが意外そうに聞き返しました。

「爵位を持つ方々はゼブのお父様の歳ぐらいからでね。10代はその子弟であまり会う機会がなかったんだ。」

「そうか。仲良くしような。」

「ありがとう。まずは部屋へ案内するよ。一休みできた頃に、城内を案内しに行くからね。」

「おう。」

ゼブはこちらのメイドに案内されて行きました。

「やっぱり、覚悟がいりそうね。」私がクリスに言いました。

「叔父上には知らせておくよ。」クリスがほほを掻きながら答えました。


 キングストンでのクリス付きの執事、ヨーゼフがゼブを城の主だった所を案内するのをクリスと共について周りました。ゼブは城が珍しいそうで始終、興奮していました、

終わりには疲れてしまったようだったので、夕食で再会する事にしました。


 ゼブは夕食の席ではテーブルマナーを実践しようとしていましたが、だんだん泣きそ

うになってきました。クリスが全員に目配せしてから「ゼブ、この夕食はマナーを守らなくてもいいよ。」と言うと、喜んで自由に食事をしていました。


 食後にクリスが「ゼブ、テーブルマナーをもう一度ゼブの執事から習いたいんだけど、いいかな?」

「ジェームズから?なんで?」

「ここの執事達からは習う事がないから。」

「ふーん。いいよ。」

「よかったら、ゼブも一緒にどう?」

「クリスと一緒に?」

「そう。」

「一緒にやりたい!」

「じゃ、次の食事からゼブの部屋で一緒にやろうね。」

「おう。」

「ジェームズよろしくね。」クリスがジェームズを向いて言いました。

「承知いたしました。」ジェームズが礼をしました。

 私はどうしようか、ためらってしまいました。クリスと一緒にいたいとは思うけど、これはお付き合いするのが辛そう・・・。

クリスは私の様子を見てとったようで「デイジーはマナーが完璧だから、つきあわなくて良いよ。男同士で良いよな。」言葉の最後はゼブに向けられました。

「そうだな!」ゼブは嬉しそう。私はクリスに感謝して、軽く頭をさげました。

 これは男の友情というよりは、ほとんど兄弟ですね。クリスは実際、弟君とこんな感じだったのかしら?

 クリスとゼブは、朝の鍛錬から一緒にする事にして今日は別れました。


 私が朝の鍛錬の場へ行ってみると、ゼブは座ってクリスを待っていました。

「おはようゼブ。一緒に走らないの?」

「あ、おはようデイジー。何周かは走ったんだけど、もう走れない。」ゼブはお疲れの様子でした。

「クリスも少しづつ増やしていったそうだから、初めはそれでいいのよ。」

「これも領主に必要な事なのか?」

「貴族の男性は、何かしらの武術を身に着ける事になっているのよ。クリスは剣術をやっているわ。」

「剣か、かっこいいな。俺もやりたい。」

「夕方は剣を振って稽古しているから、夕方できるわよ。ただ、剣を振って戦うには鍛錬が必要なんですって。」後半は兄様から聞いた受け売りです。

「う、そうなのかぁ。」ゼブはがっかりしたようです。

 クリスが戻ってきたのでタオルと飲み物を渡しました。「お疲れ様。」

「ありがとう、デイジー。ゼブもお疲れさま。」

「あぁ、疲れたぁ。」

「部屋で着替えて一休みして。午前中は市場へ行くからね。」クリスはゼブの手を取って立たせました。

「おう。」

「さぁ、行くぞ。」クリスはゼブの手をつないだまま、歩きだしました。ほんと、兄弟だわ。


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