3-5.城の日常
城の日常 レミ
城へ戻るとクリス様達は仕事をしに行きました。私達は服を脱いで、洗濯する事にしました。お城の洗濯場はさすがに広かったです。皆びしょ濡れになりながら楽しく洗濯しました。
昼ごはんにクリス様とデイジー様が来てくれました。
「皆、服を変えて良いね、すてきだよ。」
「ありがとうございます。一緒に食べてくれるんですか?」
「私は食事は必ず来るからね。他はごめん、あまりこちらへ来られない。」
「お仕事忙しいんでしょう?私達はここで遊んでいるから。」
「ありがとう。あと、女の子達はメイドから、お茶の継ぎ方を習う事になってるよ。男の子達はその間、勉強してもらおうか。」
「えっ、勉強!?」横で聞いていたネロが嫌な顔をしました。
「"お金の数え方"を執事に頼むから。聞いといた方が良いぞ。」
「それなら知ってるよ!」ネロが答えました。
「そうか?後で、執事の前で小さい子に説明してみて。教わった事は女の子達に教えて。」
「いいよ!」ネロが元気に答えました。
昼ごはんは立派なものでした。
「こんなすてきなご飯を、ありがとうございます。」クリス様にお礼を言いました。
「厨房にお礼を言いに行ったから、がんばってくれたかな。」
「レミ、厨房にお礼を言いに行く貴族なんて、めったにいないのよ。」デイジー様が言いました。
「そうなんですか!?」
「そうらしいね。」クリス様が答えました。
「へぇー?」そんなものなの?
お茶の継ぎ方の練習には、メイドさんの他にお妃様とお姫様が来た、と思ったのですが・・・。
「クリス様が領主様ですから、結婚されればデイジー様が、お妃様になると思って。」と子爵夫人のオリビア様から説明されました。
バージル様の妹さんだと言うお姫様は「私の事はニコルと呼んでね。」と言われました。
オリビア様とニコル様を相手に、まずは空っぽ、お湯なしで練習を始めました。
夕方に来たクリス様に聞かれました。「お茶継ぎはどうだった?」
「楽しかったです。一緒に来たのは、てっきりお妃様とお姫様と思った。でも、デイジー様がお妃様になるんだって教えてくれました。」
「そ、そうだね。」クリス様はデイジー様と顔を合わせました。
「そういえば、二人はいつも一緒ね。」
「うん。仲が良いんだよ。」クリス様がにっこり笑いました。デイジー様は恥ずかしそうです。
「ところで、執事にネロに買い物をまかせるのは不安だ、って言われたけど?」
「自分がいくら持っているかは、数えられるけど、いろんな物を買うのは難しいみたい。」
「みんなで、いろいろ練習した方が良いかな。明日は君とネロで、家をいくつか見に行こう。」
「もう、見つかったんですか!?」私は驚きました。
「ここの執事は優秀なんだよ。ウチの執事も優秀だけどね。」
「はい。」
クリス様とは一緒に寝てもらえませんでした。忙しかったのでしょう。
翌日私と女の子をもう一人、ネロと男の子もう一人の4人、馬車でデイジー様も一緒に家を見て回りました。どれもすてきだと思うのですが、クリス様達にもう少し見て回ろうと言われました。
「デイジー様は本当に、クリス様といつも一緒ですね。」私は帰りの馬車で言いました。
「そうよ。楽しい事も苦しい事も、一緒にしたいの。」
「苦しい事も?」
「今のところ、楽しい事しかないわ。」デイジー様が、にっこりして言いました。
「クリス様と一緒で良かったですね。」
「ええ。」と言って二人は見つめあっていました。
「うわぁ。熱い。」ネロがはやすと、二人は恥ずかしそうにしていました。
午後のメイドさんとのお茶継ぎの練習の後に、クリス様がエリーナおばぁさんのお手伝い夫婦クレドさん、リザさんを連れてきました。
二人に抱きしめられて「あぁレミ、よかったぁ。心配したのよ。」他の皆も気が付いて全員が夫婦に抱きつきました。
「二人を連れてきてくれたんですね。ありがとう。」クリス様に言いました。
「んー、二人が来て会いたいって、言ったそうだけど?」
夫婦がこちらに寄ってきました。「レミ、行く先を見つけられなくて、ごめんね。ご領主に面倒見てもらえてよかったね。」
「はい、クリス様には、とても良くしてもらってます。家も買ってくれるって。」
「その事なんだけどね。もし、良かったら私達も住んで、一緒に子供達の面倒をみさせて。」
「え、だってバースさんの家で、働いているんでしょう?」
「バースさんに相談したら、クリス様とレミ達が良ければ、仕事をそっちに変えてもいいって。」
「仕事なの?」
「"子供の面倒を見てくれる夫婦を雇う"と言ったのを、覚えていないかな。こちらの二人を雇っても良い。君達がそう望むなら。」二人ではなく、クリス様が答えました。
私はみんなの方を向きました。「みんなー!新しく家が決まったら、クレドさん、リザさんが一緒に住んでも良いって!一緒に住んで欲しい人は手をあげてー!」
「はい!」「はーい!」「はいはいはい!」
皆がこっちへ押しかけて来ました。「一緒に住んでー!」
二人が泣いて喜んでいました。
職員 レミ
クリス様にクレドさん、リザさんと私で別の部屋に、連れ出されました。
デイジー様も横で聞いています。
「クレドさん、リザさんを"キングストンの家"に職員として雇う。」クリス様が言いました。
「"キングストンの家"って?」私は聞きました。
「新しい家の名前なんだけど、もっと良い名を考えて。もう"エリーナおばあさんの家"じゃないからね。"クリスの家"はダメだからね。」
「なんでダメなんですか?クリス様が買うんだから、クリス様の家でしょう?」
「そうだけど、私がいなくなっても続いてくれなきゃ、いけないんだよ。だから、人の名前はダメ。偉人ならまだしも。」
「ふーん。皆で名前を考えてみるね。」
「そうして。」
「あと、しっかり聞いて欲しい事がある。」
「はい。」
「君も"キングストンの家"の職員に雇う。三人で子供達の面倒を見て欲しい。」
「私も!?」
「今後、君くらいの歳の子は仕事を見つけて家を出て欲しい。」
「家にいちゃいけないんですか!?」
「そうだ。大人として通用するようになったら、家を出ること。言っただろ。近所に部屋を借りて住んでも良い。そしたら、家がなくて困っている子を新たに連れてくる。」
「私もいちゃいけないの?」
「君は三人目の職員として雇う。だからいて良い。でも、他の子達が出て行く事になっても、君が職員であるかぎりは残って、新しく来る子を面倒見なきゃいけない。"キングストンの家のお姉さん"って事だ。」
「私がお姉さん。」
「ちなみに、クレドさんが"キングストンの家のお父さん"、リザさんが"キングストンの家のお母さん"になる。」
「もちろん、いつでも別の仕事に変えてもいいよ。」
「別の仕事って?」
「君のやりたい仕事なら何でも。メイドでも、パン屋でも、服屋でも。雇ってくれるところなら。」
「私"キングストンの家のお姉さん"がやりたい!」
「よし、雇おう。」クリス様が手を出しました。
「がんばります!」クリス様と握手しました。
「レミ、よろしくね。」クレドさん、リザさんとも握手しました。
「明日からは職員3人と、何人かの子供で家を探して。決まったら、僕達にも見せて。
納得したら手続きをする。家具を買いに行って、入れたら引っ越しだ。」
「はいっ。」
私は、ふとクリス様に聞きました。「クリス様は、キングストンの家の何になるの?」
「まぁ、大家ではあるんだけど、私はキングストンの領主だよ。知ってるだろ。」
「はい、とてもすてきなご領主です。」
「ありがとう。」とても素敵な笑顔をしました。デイジー様もにっこりしていました。
いろんな事がどんどん決まっていって、次の週には"キングストンの家"に引っ越しました。お城に泊まるなんて、もうないでしょう。
クリス様達は普段、都に住んでいてキングストンにはいないそうです。城へ来る時は必ず、"キングストンの家"にも来てくれると約束してくれました。次に来たら家でパーティーをします!
この国に学校はありません。各家庭で家庭教師を雇います。