花火大会狂騒曲6
〔あっさりばらしたああああああああああ!〕
〔つーかやっぱりユニーク装備かよ!〕
〔こんなタイミンクであっさり言うんかい!〕
〔ばなちゃんも雪姫ちゃんと同じで配信文化あんま知らない組だから……〕
〔ってか連続十二回の空中機動ってすごくね!?〕
〔空中戦に磨きがかかるな……〕
〔さっきの動きもほぼ立〇起動装置だったもんな……〕
〔やばいのはあんなもんをゲットしてすぐ使いこなすばなちゃんの身体能力なんだよなあ〕
「あっ」
自分のやったことに気付いてヒバナが口元を手で押さえる。
「しっかりしてください、ヒバナさん。熱くなりすぎてはいけませんよ」
「はーい……えへへ」
「何ですか」
「雪姫ちゃんに怒られると、なんか嬉しくなっちゃうんだよね。あたしのこと心配してくれてるのがわかるからかなぁ」
「……まったく」
注意しているつもりなのに相手が嬉しそうでは意味がない。
状況は全然よくなってないんだから、もう少し気を引き締めてほしいものだ。
〔ア゛ッ尊い〕
〔衛生兵ーッ! 衛生兵を呼べぇ!〕
〔はい可愛すぎます〕
〔隙あらば仲良し姉妹ムーブ〕
〔雪姫ちゃん、手のかかる子が近くにいるとちょっと嬉しそうなんだよな。ガーベラちゃんしかりリアルお姉ちゃんしかり〕
〔つまり雪姫ちゃんは世話焼き属性……?〕
〔雪姫ちゃんは俺たちの娘で……ママ……?〕
〔Twisterで話題になってたから気になって配信見に来たんだけど、コメント欄がカオス過ぎて混乱してる〕
〔コメント欄楽しそうで草 大事なイベントがかかってるエルテックさんの気持ちも忘れないであげてください!〕
〔渦亀のこと忘れてない?〕
ヒバナのユニーク装備の能力――足裏から爆発を起こす【ボムグリーブ】の無詠唱十二連発があれば、湖の上を飛んで渦亀に攻撃できる。
だが相手が固すぎてどうにもならない。
耐久の高い相手は俺の得意分野だが、渦の槍が強力過ぎるうえに範囲が広く、<薄氷のドレス>の効果を使えない。
『ガアアアアアア――――……!』
渦亀が空に向かって吠える。何かを呼んでいるかのような遠吠え。
「何だ……?」
「おい、あんな行動見たことないぞ!?」
「離れろ! 何かヤバイのがくるかもしれねぇ!」
探索者たちが警戒の声を上げる。
渦亀の吠え声に合わせて空が淀み、黒い雲が現れ始めた。
空が覆われすぐに雨が降り始める。
〔雨降らせやがった!?〕
〔天候操作とかこいつ本当にDランクダンジョンのモンスターかよ!?〕
「天候操作って何ですか?」
少なくともこの横浜中華街ダンジョンでそんな技を使うモンスターはいないはず。
〔簡単に言うと超強力な無差別バフみたいなもん!〕
〔雨天状態は水属性攻撃の威力が上がって、炎属性攻撃の威力が下がる〕
〔あとはモンスターによっては特殊行動をすることもある……〕
〔基本的にAランクダンジョン以上でしか見られないはず。やっぱりあの渦亀おかしいって!〕
水属性攻撃の威力上昇?
今でさえ相当強いのに、あれ以上……?
『ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
渦亀がひれで湖面を叩く。
振動が響き――巨大な津波が全方位に襲い掛かった。
「ちょ待っ……」
「ぎゃああああああああああああああ!?」
「ふざけんなぁあああああああああああああああああああああ!?」
渦亀の巻き起こした津波によって、探索者たちが押し流されていく。
「雪姫ちゃんは俺たちが守――ぶげぇえええ!?」
「ごっぷぁあああああ!」
俺を守ってくれていた盾持ち探索者二人は一瞬だけ持ちこたえたが、すぐに波に飲み込まれた。
「雪姫ちゃんっ!」
ヒバナが俺を咄嗟に抱えてジャンプした。ユニーク装備<星炎のブーツ>によって推進力を得て、津波を越えるくらいの高さまでたどり着く。
上から見たら探索者たちがあちこちに倒れる地獄絵図が広がっていた。
ば、馬鹿すぎる……! なんだよこの威力!?
〔アホかぁああああああああ!〕
〔ちょっと……これは……聞いてないですねえ……〕
〔信じられます? これDランクダンジョンの通常モンスターなんですよ〕
〔横浜中華街ダンジョン、魔窟すぎるだろ〕
〔っていうか強化されすぎじゃないか!? いくら<妖精の鱗粉>が使われてる(?)としてもここまでなるか!?〕
〔誰か何かしらの特殊行動のスイッチ踏んだ……?〕
阿鼻叫喚となるコメント欄。
って花火の打ち上げ装置は無事か!?
「何とか……これだけは守った……ぜ……!」
「ばなちゃんの頑張りの結晶……俺たちが守らなくてどうするってなァ……!」
「み、みんな……!」
視聴者っぽい探索者たちが壁を作って、何とか守ってくれたようだ。ヒバナが感極まったように声を震わせる。
「ヒバナさん、花火そのものは大丈夫なんですか……? 火薬が濡れたら困るんじゃ」
「それは平気! 本物の火薬じゃなくてマジックアイテムだし、花火は辻さんたちが持ってるから!」
そうだったのか。近くにドロップした気配もないし、おそらく辻さんたちが持ったままダンジョンの入口まで飛ばされたってことだろう。
あかね〔しばらく観察したところ、あの渦亀は地形連動の能力を持っていると思われる。渦槍の威力、範囲からして異常だった〕
あかね〔地形連動に加えて天候操作、さらに何者かが用いたと思われる<妖精の鱗粉>。これら三つが重なったことによってデタラメな強さになっているんだろう〕
〔有識者きた!〕
〔これクラスターコアトルの時もコメントしてた人と同じ名前じゃね?〕
茜のものと思われるコメントが目に留まる。
地形連動か。
つまり渦亀は湖から力を得ている可能性があると。
普通の渦亀にそんな能力はなかったはずだが、<妖精の鱗粉>によって使えるようになっているのかもしれない。<妖精の鱗粉>をかけられた女王ハードホイールバグも新たな特殊能力を得ていたし、あり得る話だ。
「ねえ雪姫ちゃん、地形連動って……」
「はい。私たちが以前倒したガーディアンボスと同じ能力です。ここまで異常な強さとなると、その可能性はあるかもしれません」
「ってことは、湖を凍らせちゃったら勝てるかも!?」
「とはいえ、そもそも湖に近づくのが難しいですからね……ヒバナさん、私を抱えて一発も食らわずに湖のそばまで行けますか?」
「う、うーん……う――――ん……難しいかも」
悔しそうに首を横に振るヒバナ。
ヒバナのユニーク装備は動きが激しい。渦亀の攻撃を避けられたとしても俺は振り落とされるだろう。詠唱だってまともにできないだろうし。
仮に壁役に囲まれていても同じだ。
渦亀を弱体化させるために湖に近付きたい。
だが、近づけば渦槍やら大波やらを避けられず俺がすぐにやられてしまう。
『――――……』
「あああっ! あいつ、水の中に潜りやがった!」
「まさか俺たちが全滅するまで出てこないつもりじゃねーだろうな!?」
渦亀がなんと湖の中に潜ってしまった。
そのままでも水を操って攻撃できるようで、大波を食らって態勢を立て直そうとしている探索者たちを渦の槍で薙ぎ払っている。
どうするんだよあれ……
「雪姫さん……これを使って……ください……」
「わあっ!?」
「驚かせてすみません……エルテック社員の者です……」
ああ、エルテックの人か。
名前は知らないが、確かに辻さんと同じ服を着ている。渦の槍か、あるいは狙撃にやられたのか、片腕と胴体がごっそりなくなっている。
渡されたのは手のひらくらいの大きさの球体。受け取るとずっしりと重い。
「……これは?」
「<音響爆弾>というマジックアイテムです。花火を製作する際に偶然生まれたもので……魔力を込めると大きな音を出します。実験では、飛行型の魔物を落としたり、水中の魔物を驚かせて自ら飛び出させたりする効果がありました……」
「ええっ!?」
何だそのマジックアイテム! ありがたすぎないか!?
〔神アイテムキタァアアアアアアアアア〕
〔別のもの開発中に有用なものが生まれるとかコーラかな?〕
〔一応エルテック側も渦亀と戦うことになった時の想定はしてた模様〕
〔謎強化仕様でなければ……〕
〔というかエルテック社員、狙撃され過ぎでは? エルテック社員の服着てる人もう残ってないぞ〕
〔明らかに狙われてたっぽいな。今は狙撃止んでるけど〕
「君たちに任せるのは申し訳なく思います……! ですが、もうエルテックの社員は私以外全滅してしまいました。私も魔力には自信がありません……だが、雪姫さんの魔力ならきっと渦亀にも通用する威力になるはずです。どうか、このイベントを守ってください……!」
エルテックの探索者がこの人以外全滅か……
狙撃手は明確にエルテックの探索者を狙っていたらしい。
「……わかりました。私がやってみます!」
何にしてもこれを使わない手はない。
離れた位置なら<薄氷のドレス>を使っても大丈夫だろう。
これ以上味方が減らされる前に手を打つべきだ。
「【コンバート】!」
エルテック社員からもらった<音響爆弾>を手に、俺は道中用装備から<薄氷のドレス>に換装。
「光の空、闇の湖底。隔つるはただ一枚の薄氷のみ。しかしてただ前だけを見て」
俺の全身を薄青い光が覆う。
これで準備完了。
<音響爆弾>を使うには魔力をこめる必要があるらしいので、意識を集中させてみる。
せぇのっ。
カッッ――ビシバキビシッ!
「雪姫ちゃん待って! 割れそう割れそう!」
「あああああ、や、やりすぎました」
あっぶねぇ……! 加減に失敗して自爆するところだった。
〔あぶないあぶないあぶない!〕
〔渦亀用の秘密兵器がなくなるところだった……〕
〔正直こうなる気はしてた〕
魔力を込め終えた<音響爆弾>をヒバナに渡す。
「ヒバナさん、お願いします。今の私だと湖には近づけないので……」
「わかった。絶対成功させるよ!」
ヒバナが勢いよく駆け出した。
探索者を巻き込んで大暴れする渦槍をかいくぐり、あっという間に水辺に到達(さらっと成功させているが普通に神業だ)。
渦亀の潜む水の中に<音響爆弾>を投げ込み――直後。
バギィイイイイイイイイン!!!!
『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
渦亀が水中を荒れ狂う爆音に耐えかねて飛び出してきた。
『ハァッ……ハァッ……!』
まるで毒の沼にでも落とされたかのように、岸に必死に上がってくる。
……そんなにエグいのか、あの<音響爆弾>って。
いや、見ている場合じゃない。
「【滑走】!」
茜の予想は当たっていたようで、渦亀が湖を飛び出してからは渦槍の勢いが見るからに弱まった。やはり渦亀は湖という地形から力を得ていたのだ。
今なら俺でも湖のそばにたどりつける……!
「【オーバーブースト】!」
金色のオーラを重ねて纏う。
今回は火山相手の時と違って水が相手なので、【一撃必殺】は発動しないだろう。
だが前回のガーディアンボス戦で俺は【環境侵略】というスキルを得た。
特殊環境時に地形へのダメージを変更させるこのスキルは、雨が降っている今なら発動するはずだ。
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは冷ややかなる霜の吐息、【フロスト】!」
ピキィイイイン――――!
冷気の塊が勢いよく吹き抜け、湖が凍った。
火山の時と同じだ。
地形の特性を失わせれば地形連動は切れる。
“大量の水”という湖の属性を凍らせて塗り替えることで、渦亀を弱体化させることができる。
〔よっしキタキタキタ!〕
〔湖が凍った! 明らかに渦亀も弱ってきてる!〕
〔本当に地形連動型だったのか……〕
〔あとは倒すだけ! 現地組頑張れぇええええええええええええええ!〕
「雪姫ちゃん、さすがだねっ!」
「ヒバナさんこそです!」
近くにやってきたヒバナとお互いをたたえ合う。
あとは渦亀を湖に戻さないようにしながら倒すだけだ!




