花火大会狂騒曲3
〔高峰兄妹キタァアアアアアアアアアアアアアアア!〕
〔勝利確定BGM〕
〔処刑用の間違いだろ〕
〔酒呑会ざまぁあああああああああああああああああ〕
〔勝ったな! ガハハ!〕
「高峰北斗だと……!? 何でよりにもよっててめぇが……」
「プライベートだよ。それよりヒバナさんはうちの準構成員だ。彼女が作り上げた花火大会を邪魔しようというのなら、彼女の友人として見過ごすわけにはいかないな」
吹場座虎也は一瞬怯んだが、隣の男――魚見坂というらしい、Sランク探索者だという男に命じた。
「文太、あいつをぶちのめせ! お前なら高峰と相性は悪くねえだろ!」
「……ぁい」
低い声を出して魚見坂がのっそりと前に出てくる。
改めて見ると……確かに威圧感は本物だ。なんか戦っても勝てない予感しかしない。
「……あくまで続けるつもりか。そうなるだろうと思ってはいたけど。しかし魚見坂文太まで連れてきているとはね……」
高峰さんは溜め息を吐く。
「おっと」
ギンッッ!
銃弾が高峰さんの元に飛び、持っていた片手剣で高峰さんはそれを弾いた。
……それ高峰さんもできるのか。やっぱりSランク探索者って人間やめてないか?
「榊さん。来て早々仕切るような真似をして申し訳ないけれど、一つ提案してもいいかな」
「……何でしょうか」
「役割分担をしよう。僕と南波が酒呑会と、一緒にいる仲間らしい探索者の相手をする。榊さんは狙撃手を抑えに行ってほしい」
「では――」
「渦亀は雪姫さんとヒバナさんに任せたい。二人ならできる……というより、単純にこの分け方しかないと思う。この様子だと、狙撃手のほうもSランク相当で間違いないだろうし」
「狙撃を抑えるのは構いませんが……その場合、あなたがさっさと魚見坂と吹場座虎也を処理して、渦亀も倒せばいいのでは?」
「それも考えたけど、少しやることがあるんだ。ボスの指示でね……残念だけど今回、僕は酒呑会の彼らと全力で戦うことはできない」
ボスの指示。
……何か事情があるんだろうか? あまり余裕がないこともあってか、高峰さんは詳しく話そうとしなかった。聞いても教えてくれなさそうだ。
「私がいない間、銃弾が雪姫様やヒバナ様に飛んだら処理をお願いできますか?」
「もちろんそのつもりだよ」
「……わかりました。そうする他ないでしょうね。雪姫様とヒバナ様のもとを離れるのは遺憾ですが――」
複雑そうな顔をする水鏡さん。
「いえ、行ってください、水鏡さん」
「お願いします! あたし、水鏡さんみたいに撃たれても防御なんてできないし……雪姫ちゃんはできる?」
「もちろん無理です」
俺は人間なのでライフル弾を叩き落すなんて真似はできない。
高峰さんと南波さんが吹場座虎也たちの相手。
水鏡さんが狙撃手の対処。
そして俺とヒバナで渦亀の討伐。
俺とヒバナが一番重要だ。俺たちさえ勝てば事態はほぼ解決する。
「高峰さん、一つお願いがあります」
「何かな?」
「敵の攻撃を一発も通さないでほしいんです。特に打ち上げ装置と、渦亀に当たりそうなものは、絶対に」
高峰さんは目を瞬かせたあと、俺の考えを理解したように「わかった」と頷いた。
「それでは雪姫様、ヒバナ様――ご武運を」
「はい!」
「頑張ります!」
「僕たちも行こうか、南波」
「仕方ないわね、まったく……」
水鏡さんが狙撃手を抑えるために中央火山へと向かう。高峰さんと南波さんは吹場座虎也たちと向かい合う。
俺とヒバナは渦亀討伐だ。
▽
「あの馬鹿野郎ォオオオオオオオオオ!」
部下から報告を聞いた吹場組組長、吹場飛宗は怒鳴り声を上げた。
報告をした部下――酒呑会の幹部の一人は肩をすくめる。
「ギルマスの勝手な行動でエルテックから抗議の電話がきてます。打ち上げ装置を壊す軌道で攻撃してるんだから当然ですが……万が一壊しでもしたらいくら請求されるか、正直想像もつきません」
「だろうなぁ! 何より渦亀を起こした狙撃――あれは例の客人の腕がなきゃできない芸当だ! この状況、下手をすれば国際的犯罪組織のナイトバナードと俺たちがつながっていると露見しかねない! 最悪共倒れだ!」
ナイトバナードの悪名はもはや壮絶なほどだ。
それと結託して、日本有数の大企業が行うイベントを妨害する。
後始末が大変、などという次元ではない。
状況次第では酒呑会、吹場組の壊滅まであり得る。
「座虎也のやつ、何でこんな真似をしたんだ!?」
幹部の男は神妙な顔で言った。
「……ギルマスは日頃から、自分のランクを気にしていました。自分や魚見坂なんかはSランクですが、ギルドリーダーはAランク。こんなことを伯父貴に言うのも何ですが、ネットでは……まあ、その、馬鹿にされるようなことも言われています」
具体的には“名は体を表してて草”、“酒呑会はギルマスというお荷物を抱えることで強くなった”、“な〇う小説で最初に倒されるチンピラ”、“Aランク(Cランク)”、“最後にパーティからギルマスを抜いて完成”などなど、座虎也を揶揄する言葉は数えきれない。
「それが今回のこととどうつながる!?」
「察するに、<妖精の鱗粉>やら<狂化薬>やらで特別になった渦亀を大勢の前で倒すことで、周囲を見返したいと考えているのではないかと」
「そんな……ことの……ために? 組を窮地に?」
「あくまで予想ですが……他に動機が思い当たりません」
飛宗は、「フゥー……」と静かに息を吐いた。
「平助よぉ。俺は吹場組と酒呑会を別の組織だと認識させるために、色々と工夫をしていきた。探索者がヤクザのシノギだと知られたら即解体されるだろうからなあ」
暴力団の資金集めは年々厳しくなっている。
そんな中、ダンジョン事業は救いの光だ。
酒呑会は吹場組の一部だが、様々な工夫を凝らすことで法的には無関係の組織となっている。酒呑会の探索者が得たマジックアイテム、素材アイテムの加工品を売りさばいて吹場組は莫大な利益を得ているのだ。
「だが、酒呑会が独立しすぎてもいけねえ。楔が必要だ。そのために息子をリーダーに据えた。警察に疑われねえよう小細工もしてな」
「……」
特別養子縁組。
これによって現在、飛宗と座虎也の間に法的な親子関係はなくなっている。ここまでやったからこそ、座虎也は吹場組という大暴力団の親分の息子でありながら、クリーンな存在として行動できる。
吹場組を訪れるのも、吹場の姓を名乗るのも、ただ座虎也が自由にやっているだけ――そういうふうに対外的には認識されている。
もっとも座虎也は吹場組としっかりつながっており、中には座虎也を若頭と呼ぶものもいるのだが。
「座虎也は納得したが、俺は罪悪感みたいなもんがあった。だから座虎也にはこれまで甘く接しちまった部分もある。金も、手下も、いくらでも与えた。だがな、だが――なあ平助、正直に言ってくれ。俺は今から重要な質問をする。心して答えろ。嘘もおべっかも許さねえ……」
「はい」
平助、と呼ばれた酒呑会の幹部の男は頷く。
飛宗は重々しく口を開いた。
「座虎也は……俺の息子は……………………とんでもねぇ馬鹿、なのか…………?」
「……………………少なくとも、今回の一件でどれほどの損害が出るかは考えていないかと」
「ああああああ……!」
「叔父貴! お気を確かに!」
薄々思ってはいた。だが今まで見て見ぬふりをしてきたのだ。特別養子縁組の件で負い目があったので、色々と失敗をしても見逃してきた。
だが今回ばかりは……
(俺の感情だけで組を崩壊させるわけにはいかねぇ……座虎也の処遇も……考えなきゃいけねぇな……)
そう考えて、飛宗は苦い顔をするのだった。




