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赤羽家にお泊まり3

 風呂から上がった俺たちは、洋子さん――ヒバナのお母さんの作ってくれた夕飯を食べたあと、再度ヒバナの部屋に戻ってくる。


「雪姫ちゃん、こっちこっち」


「?」


 ヒバナに手招きされてベランダに出る。すると都内とは思えないほど綺麗に星が見えた。


「すごく綺麗に星が見えますね」


「最近お隣さんが家取り壊しちゃったから、視界が開けてるんだよね~」


「なるほど」


「……それで、電話で言ってた話なんだけど」


 ヒバナはそう口を開いた。


「私に言いたいことがあるんですよね」


「うん。あたし、雪姫ちゃんに感謝してる。どれだけお礼を言っても足りないくらい感謝してる。……でも、こんなことを言っても伝わらないと思うから、ちょっとだけあたしの事情を聞いてほしくて」


「……どんな事情があるんですか?」


 ヒバナはゆっくりと話し始めた。


「あたしのおじいさん、花火職人だったの。毎年夏休みはおじいさんの家に行って、近くの夏祭りに遊びに行ってた。そこではおじいさんが作った花火が毎年打ち上げられてて、お祭りに来てる人が花火を見て楽しそうにしてて……あたしはそれが大好きだった」


 大好き“だった”。

 過去形ってことは……


「ヒバナさんのおじいさんに何かあったんですか?」


「病気なんだって。詳しい病名は聞いても教えてくれなかった。おじいさんは花火職人を引退しちゃった。後継ぎもいないみたいで、今年からおじいさんの家のそばの夏祭りは、花火なし」


「……」


「あたしはそれが嫌で……でも中学生のあたしが後継ぎになるのも無理で……でも、ダンジョンだったら子どもでも色んなことができるでしょ? だから何かできないかなって考えて、花火を作ることにした。たくさん花火を打ち上げて、それを大勢の人に見てもらって……おじいさんが毎年見せてくれたみたいな花火大会を、あたしがやろうって思ったの」


「それが、今回の花火大会の理由ですか?」


 うん、とヒバナは頷く。


「おじいさん、あたしの配信見てるんだ。でも、あたしがおじいさんのために花火を作ってるって知ったらやめろって言うと思う。おじいさん、あたしが後継ぎになるのに反対してたから」


「そうなんですか?」


「『お前にはいろんな可能性がある、子どものうちから一つに絞ったらもったいない』って言ってた。正直あたしも、自分が将来何になるのかなんてまだわかんないし……」


「いいおじいさんですね」


「えへへ~」


 俺が言うと、ヒバナは嬉しそうに笑った。

 そういえばおじいさんっ子なんだっけ。


「ああ、だから素材を集める目的を公開してなかったんですか?」


「そうなんだよね。だからこの前の配信で花火大会やるーって告知した時、おじいさんすごくびっくりしてたみたい。電話かかってきたよ」


「素材を全部自分で集めようとしてたのは……」


「それは単純に、できるだけ自分の力でやりたかったから。人任せで作った花火を見せたいわけじゃなくて……うーん、うまく言えないんだけど……あたしはおじいさんの花火が大好きだった。たくさんの人がそれを見に来る夏祭りも好きだった。だから今までたくさん見せてくれたお礼と……おじいさんが安心して引退できるように、あたしがおじいさんの代わりに花火大会をしたかった」


 ……なるほど。

 なんとなく事情はわかった。


 どうしてエルテックの力を使って素材集めをしなかったのか。なぜギリギリまで告知をしなかったのか。


 これはヒバナからおじいさんに向けたメッセージなのだ。


 おそらくヒバナのおじいさんは病気によって花火職人を引退することに、心残りがあったんじゃないだろうか。

 だからおじいさんの心残りを消し去るために、ヒバナは勝手にその役目を継いだ。

 ダンジョンの中限定ではあるが、思い出の花火を再現するという形で。


 今まで素敵な花火を見せてくれてありがとう。

 今年は――あるいはこれからは、あたしがおじいさんの代わりに花火で人を楽しませるよ。


 そんな感じだろうか。


 っていうかヒバナ、いい孫すぎないか?

 俺がお爺さんなら号泣するぞ、こんなことされたら。


「でも、あたしだけだったらできなかった。雪姫ちゃんのおかげで夏が終わるまでに間に合った。本当にありがとう、雪姫ちゃん」


 ヒバナが深々と頭を下げてくる。


「そんな、いいですよ。私は大したことをしていませんし……」


「そんなことない! <灼火結晶>も<白銀魔鉱>も、告知を大勢に見てもらえたことだって、全部雪姫ちゃんのおかげだよ! あたしすっっっごい感謝してるんだから!」


「そ、そうですか」


「あたし雪姫ちゃんのアーカイブ見たんだ。友達の体を元に戻すために配信活動してるんでしょ? よかったらそれ、あたしにも手伝わせてくれない?」


 ヒバナは真剣な表情で言った。


「あたし、雪姫ちゃんにどうしても恩返ししたい。あたしにできることがあったら、遠慮なく言ってほしい。雪姫ちゃんのためなら何でもするよ。今日はそれを伝えたかったの」


「ヒバナさん……」


 やっぱりヒバナはまっすぐでいい子だ。

 茜が危惧していたような裏がないことは、この様子を見れば明らかだった。


「……ヒバナさんは私が固定パーティを組んでほしいと言ったら困りますか?」


 ヒバナがぱあっと顔を輝かせた。


「ううん、嬉しい! すっごく嬉しい!」


「私もヒバナさんとこれからも一緒にいられたら嬉しいです。ただ、私は事情があって自由にパーティを組めなくて……家族やお世話になっている家の人に相談しないといけないんです。だから確実なことは言えないんですが……多分大丈夫だと思います。そうなったら、また組んでほしくて」


「うん、うんっ」


 ヒバナははっと気づいたような顔をした。


「あ……でも、実は雪姫ちゃんに言ってないことがあって」


「スカイフォックスのことなら宗助さんから聞きましたよ」


「そうなの!?」


「それも込みで、今の話をしました。……というか私のほうも、以前家に強盗に入られたことがありまして……」


「ご、強盗……あたしはそこまでじゃなかったなぁ……今は大丈夫なの?」


「はい。今は平気です」


 須々木崎邸という要塞に保護されている今、俺や月音の身の安全は絶対的に確保されている状態だ。


「だからどっちかというと私のほうがヒバナさんに迷惑をかける心配が……」


「うーん、大丈夫だと思うよ。あたし今ずっとお父さんかお母さんに送り迎えしてもらってるし、スカイフォックスの件からがっちがちに家も防犯システムを整えてるみたいだし」


 何でもヒバナのお父さんはエンジニアで、防犯システムを設計する仕事に携わった関係から、防犯関連の企業に知人が多いとかなんとか。


 普通の一軒家に見えたヒバナの家は、もはやバールやらピッキングツールやらでどうこうできる代物ではなくなっているらしい。


 ……なら問題ないのか?


「えーと、とにかく、スカイフォックスの件もわかったうえで言ったことです。だからそこの心配はいりません」


「じゃあじゃあ、雪姫ちゃんも花火大会に来てよ! そこでちゃんと話をしよう!」


「そうですね。そうしましょうか」


「絶対だよ!」


 ヒバナはそう言って楽しそうに笑った。





「……探索者協会からメール?」


 榊水鏡は赤羽家の近くで待機中、探索者協会からの連絡を受けていた。

 緊急依頼につき、期限までに指定のダンジョンで素材を集めてきてほしいというもの。


 それだけならよくあることだが……よほどの事情でもあるのか、文面の最後に「拒否した場合はペナルティで海外での探索義務が増えるかもしれない」という旨のことが書いてある。


(今までこんなことはありませんでしたが……)


 何やらきな臭いものを感じる。


 しかし海外での探索義務――Sランク探索者が定期的に国からの依頼を受けるというもの――を課されると、茜や雪姫、月音の護衛に支障が出る。


 つまり、メールの内容に従うしかない。


「数日かかる依頼、ですか。この内容では赤羽様の花火大会までには戻ってこられない……」


 これでは雪姫が日花の花火大会に参加する場合、水鏡が護衛できない、という状況に陥りかねない。


(あるいはそれが狙い……? しかしそんなことをして何のメリットが……)


 水鏡は少し考え、ある人物に電話をした。


『もしもーし!? みかみーどうしたの、私に電話なんてめっずらしー!』


「刀子、急で済みませんが大量に溜まっている私への貸しを一つ返してください」


『へ?』


「代わってほしい依頼があります」





 場所は人けのない路地裏。

 吹場座虎也はスカイフォックスの面々に対して告げる。


「やることは理解したか?」


「は、はい……でもこんなこと、うまくいくんですか?」


 スカイフォックスのリーダーである青年が不安そうに言う。


「心配か?」


「噂で聞いたんです。雪姫ってやつにはSランク探索者の榊水鏡が護衛についてるって! あんな怪物がいたら全部引っくり返されるんじゃないかって……」


「なるほど」


 座虎也は頷き、それから暗がりに声をかけた。


「おい、出てこいよ」


「…………ぁい」


 くぐもった声とともにその男は現れる。


 ナイトバナードの青年ではない。

 別の存在。

 しかしスカイフォックスのメンバーはナイトバナードの青年に対して感じ取ったものと同じものを感じた。それは本物の強者が纏う威圧感だ。

 座虎也にはない、強者特有の風格。


 その男は年齢はおよそ三十代から四十代くらい。背は高く横にも広い巨体を持っている。


 しかし何より男は醜かった。スカイフォックスのメンバーたちは最初、その男をモンスターかと思ったほどだ。


「こいつも連れて行く。酒呑会の幹部の一人だ。こいつがいれば何の問題もねえ」


「そ、そうでしたか……」


「加えて榊水鏡に関しては、探索者協会に潜り込ませたうちのもんを使って依頼を受けさせる。これで完璧だ。何の問題もねえ。そう思うだろ?」


「は、はい……! すごいです! さすがは酒呑会のギルドマスター、吹場座虎也さん! 最高です!」


「はははは! そうだろう! それじゃ計画はしっかり頭に叩き込んどけよ!」


 目を輝かせるスカイフォックスの面々に、座虎也は気をよくして笑い声を上げるのだった。

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― 新着の感想 ―
きちんと護衛を遠ざけようとしてるのはえらい。でも他の護衛つけるなりなんなりはするだろうって考えられないのかな。
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