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赤羽家にお泊まり2

「雪姫ちゃん、時間稼ぎよろしく! あたし【ランドクラッシャー】の詠唱するから!」


「わかりました!」


 俺が操作する剣士“雪姫”と、ヒバナが操作する地属性魔術師“にちか”が、モニターの中でガーディアンボスと死闘を繰り広げる。


 赤羽家に着き、昼食をご馳走になったあと、俺たちはヒバナの部屋に行ってダンジョンシミュレーターで遊ぶことにした。


 ヒバナの部屋はよくある子供部屋という感じ。


 壁際の勉強机にはエルテックから渡されたらしい資料が積まれている。相当読み込んだようで、紙にはメモ書きや付箋が大量に見える。


 ……また、夏休みの宿題らしきものは机の端に積まれている。

 なんとなくだけどヒバナは宿題やっていなさそうな気がするな。


『ウグォアアアアアアア!!!!』


 モニターの中で敵ガーディアンボス、“トワイライトエント”が爆散した。俺とヒバナのキャラクターに大量の経験値が入り、アイテムも手に入る。


「雪姫ちゃんナーイス!」


「やりましたねっ」


 勝利を祝って二人でハイタッチ。ダンジョンの中を思い出すなあ。


「って、もうこんな時間かー。雪姫ちゃんちって晩ごはんいつも何時くらい?」


「結構遅めかもしれません。お世話になっているところの人が夜型なので」


「お世話になってるとこ……あ、水鏡さんって別の人のお手伝いさんなんだっけ」


「はい」


 なんて話していると、コンコンと扉がノックされた。すぐにヒバナのお父さん――って言うとややこしいな。宗助さんの声が聞こえてくる。


「ちょっといいかい?」


「どうぞー。どうしたの、お父さん」


 ヒバナの声を受けて、宗助さんがドアを開ける。


「二人とも、悪いけど先にお風呂に入ってくれるかい? 洋子が夕飯作りに気合を入れ過ぎてしまって、まだ少しかかりそうなんだ」


 ちなみに洋子さんというのはヒバナのお母さんの名前だ。夕飯作りに気合を入れてくれるなんて言われると、楽しみになってしまうな。どんものを作ってくれているんだろう。


 ……ん? 風呂?


「わかったー! それじゃ雪姫ちゃん、お風呂いこ!」


「い、一緒にですか?」


「え? うん」


 当然ですけど? みたいな顔で頷かれる。


 いや、そんなふうに言われても困る。俺は見た目は女の子でも中身はれっきとした男だ。中一のヒバナと一緒に風呂になんて入ったらもはや犯罪の域だ。


「日花、無理やり誘うのはよくないよ」


「お父さん……」


「今まで泊まりに来た子はみんな一緒に入っていたけど、そうじゃない子もいる。ワガママを言って困らせてはいけないよ」


「そっかー。そういう子もいるんだね……」


 え? 今まで泊まりに来た他の女の子はみんなヒバナと一緒に風呂に入っていた……?


 女の子同士ってそういうのが普通なのか? なら拒否すると怪しまれる?


「それに雪姫さんはきっと外国人のご家族がいらっしゃる。日本の文化とは少し違うのかもしれない」


「確かに! 雪姫ちゃん、すっごい綺麗な銀髪だもんね!」


 馬鹿な!? 文化の違いを持ち出されるほど俺は変なことを言ったのか!?


「え、ええと、ちょっと待ってください」


「え?」


 くっ、動揺するな。冷静になれ白川雪姫――じゃなくて雪人。

 俺の感覚から言うと、ここは断ってもいい場面だ。だが仮に女の子の常識では違ったらどうする?


 考えろ。

 きちんと身の回りの人間の言葉を思い出せ。

 日頃は男らしさを隠しきれない俺も、今だけは完璧な女の子を演じる必要がある。

 そう、最近こんな話をしたような……



『女の子同士なんだから一緒にお風呂に入るのは普通だよ?』



「――ッ!」


 ……そうか。

 信じるぞ、月音。


「それじゃ雪姫ちゃん、先に――」


「いいえヒバナさん、い、一緒に入りましょう!」


「いいのっ!?」


「もちろんです! だって私女の子ですから! 女の子が一緒にお風呂に入るのは普通ですから!」


「やったー! そうこなくっちゃ!」


 宗助さんが首を傾げる。


「本当にいいのかい? 顔が真っ赤だけど……無理はしなくていいんだよ?」


「いえ、大丈夫です! 行きましょうヒバナさん!」


「うん! こっちこっち!」


 俺はヒバナに連れられて脱衣所に入った。

 できるだけヒバナのほうを見ないようにしながらもそもそと服を脱ぐ。


 ……ヒバナのほうを見ないのも大事だが、自分の裸を見られるのもたいがい恥ずかしいな……いや、仮の体なんだから気にする必要はないのかもしれないけど……


「雪姫ちゃんすっごい肌綺麗だねっ」


 これはあっさり服を全部脱いでしまったヒバナの台詞。


 見えない。カゴの端に引っかかっているヒバナが脱いだばかりの白と水色のしま模様のパンツなんてまったく見えない。ヒバナはもう少し丁寧に脱いだ服を扱ってほしい。


「そ、そうですか? あはは」


「? なんであっち向いてるの?」


「い、いえ。気にしないでください」


「それにしても本当に綺麗だねー。髪もさらさらだし……やっぱりお姫様って感じだね!」


「~~~~っ、ひ、ヒバナさんも健康的で素敵ですよ!」


 これ以上褒められるのに耐えられなかったのでヒバナのほうに話を逸らす。

 視線を下げているので足元しか見えないが、健康的に日焼けしたヒバナの肌も綺麗だと思う。


「そう? えへへ、雪姫ちゃんに褒めてもらえると嬉しいな~」


 にこにこしているヒバナの気配。果たして俺はこの笑顔を守り切ることができるんだろうか。


 二人で浴室へ。かなり広いな。


 椅子が一つしかないので先に俺が髪を洗う(ヒバナが手伝ってくれた)。

 次は体だ。

 正面の鏡に反射するヒバナの裸は見ない。見ないぞ……!


「背中流すよ~。かゆいところありませんかー?」


「……もう、美容院じゃないんですから」


「雪姫ちゃん、すっごい鏡から目を逸らしてない? なんで?」


「それはその……見えてしまう、というか……」


「――こちょこちょこちょ」


 唐突にヒバナが後ろから俺の脇腹をくすぐってきた。なぜ!?


「きゃあ!? あは、あはははははっ! やめてくださいヒバナさんっ……!」


「こーちょこちょこちょこちょ」


「あはははははっ、あはっ、もう、ヒバナさん! いい加減に――きゃあ!?」


「わあっ!?」


 くすぐり続けるヒバナの手を抑え込もうと振り返る途中、態勢を崩してヒバナもろとも倒れてしまった。俺が下で仰向けになり、覆いかぶさるようにヒバナが四つん這いになっている形だ。


「い、いたた……ぁっ」


「ご、ごめん雪姫ちゃん!? 頭打ってない!?」


「い、いえ、それより……その、ヒバナさんの手が」


 そこで初めてヒバナは気付いたようだった。

 ヒバナの片手が俺の胸に触れている。


「あ、雪姫ちゃんの胸……」


 ふにふにふに。


「やぁっ!? う、動かさないでくださいっ……!」


「え? うそ、え? け、結構ある……」


 無意識だろうが、ヒバナの指が俺の胸の上でわずかに動く。ボディソープのぬるぬる感もあって俺は思わず悲鳴を上げるが、ヒバナは何やら衝撃を受けていてやめてくれない。


 滑るような小さな刺激が妙にぞわぞわする。逃げようにも、俺が下になっているせいで身動きが取れない。そもそも今の俺よりヒバナのほうが力が強いのだ。


 結果、されるがままになってしまう。


「んん、んぁっ……ひ、ヒバナさんっ……」


「あ、ご、ごめん! つい!」


「うう……」


 押し倒されて胸を揉まれた……


「ごめんね雪姫ちゃん……なんか緊張してるみたいだったから、くすぐって気持ちをほぐそうと思って……」


 ヒバナが申し訳なさそうに言う。その気持ちは嬉しいが、できれば他の方法がよかった……


「……っていうか雪姫ちゃん、意外と胸大きいね。びっくりしちゃった」


「……そんなことないと思いますけど」


「だってあたし全然ないよ? ほら」


 ぺた。


 ヒバナが俺の手を取って、自分の胸に押し当てた。

 ああ、確かにあんまりあるようには――って待て待て待て待て!


「ひ、ヒバナさん!?」


「あはは、ちょっと恥ずかしいね……で、でも、これでおあいこだよね」


 さすがにヒバナも照れるらしく、小声でそんなことを言った。

 こんなところでまで義理堅さを発揮しなくてもよくないか!?


「転んじゃったから洗い直しだね。雪姫ちゃん後ろ向いて! 頭洗ってあげる!」


「ああ、ああああ……!」


「雪姫ちゃん?」


「何でも……何でもないです……」


 忘れよう。見られたことも触られたことも触ってしまったことも、もう全部忘れよう。須々木崎邸に戻ったら頭を壁にぶつけまくって記憶を飛ばすのだ。


 その後俺は釈迦もびっくりの無我の境地でヒバナと一緒の入浴をやり遂げた。


 ……とりあえず。


 ヒバナにだけは俺がTSしてることを未来永劫明かさないようにしよう。

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