【コラボ配信】ガーディアンボス戦! 魔法少女コンビで横浜中華街ダンジョンを攻略するよ~!【雪姫ちゃんと】5
もろもろの準備を整えた俺たちは火山の頂上へと足を踏み入れた。
地面は黒く、あちこちに亀裂が走っている。くぼみの奥にはオレンジ色のマグマが見える。
……暑い。
「本当にガーディアンボスの部屋ができてる……この前まで何もなかったのに」
ヒバナの視線の先にはドーム状のガーディアンボスの部屋があり、その前には協会職員が見張りとして立っている。
「「「……」」」
加えて恒例の、俺たちが負けた後にボスに挑みたいらしい探索者たちが数十人。
神保町ダンジョンの時より数が少ないのは、開通工事がなかった分まだ新規ガーディアンボス発見から時間が経っていないこと、ダンジョンのランクが少し上がっていることなどが理由だろう。
「雪姫ちゃん! ばなちゃん! 頑張れー!」
「配信見てるぞー!」
「神回を見せてくれええええええ!」
一方俺たちを応援してくれる視聴者らしい人たちもいる。
……こんな暑い場所で待っててくれたのか。感謝の気持ちも込めて「ありがとうございます! 頑張ります!」とヒバナと一緒に手を振る。
「「「――パパって呼んでもらっていいかなー!?」」」
中にはただ気合いが入っているだけの変態もいる。絶対に目を合わせないようにしよう。
「頑張るよー! パパー!」
「「「うわああああああああああかわいいいいいいいいいいい!」」」
「ヒバナさん!? あなたのパパはあの人たちではありませんよ!?」
素直なヒバナを慌てて止める。この配信を支えてくれている本当のヒバナのお父さんが複雑すぎるだろ。
なんてやっている間にボス部屋の前にたどり着く。
「雪姫様とヒバナ様ですね。ガーディアンボスに挑戦されますか?」
「「はい!」」
「――それではご武運を」
協会職員に道を開けてもらい、俺たちはボス部屋へと足を踏み入れた。
いよいよだ。
〔始まるぞ……〕
〔ざわ……ざわ……〕
〔うおおおおお緊張してきた!〕
〔がんばれ二人ともおおおおおお!〕
ボス部屋は半径三十メートルほどの円形。
外から見た時と比べて高さが圧倒的にある。新宿ダンジョンの時から薄々思っていたが、外から見たドームの大きさとボス部屋の広さは必ずしも一致しないらしい。
中心部にある噴火口。
そこから大きな影が飛び出してくる。
『――キュァアアアアアアアアアアアアアアア!!』
翼竜だ。
溶岩を滴らせている。どうやらマグマの中に潜っていたらしい。
あれが新規ガーディアンボスだろう。
「おっきいー!? 十メートルくらいありそうだよ!?」
ヒバナの言う通りかなりのサイズだ。全長十メートル以上、翼の先から先までも同じくらいある。そんな巨体がはるか上空から俺たちを見下ろしている。
「ちなみにあのモンスターを知っている視聴者さんは……」
〔見たことないモンスターキタァアアアアアアアアアア!〕
〔翼竜系モンスターで溶岩の中から飛び出してくるやつなんて聞いたことねーよ!〕
「いないみたいですね」
「雪姫ちゃん、落ち着いてるね」
「知り合いからこういう可能性があると聞いていましたから」
もちろん知り合いというのは茜のことだ。
WLOやら探索者協会からも頼られる茜は、いわば新規ガーディアンボスの性能予測のプロである。キーボスのウイングラプトルが鳥に近い外見であることから、今回のガーディアンボスが翼竜の可能性が高い――そんなことまで言っていた。
問題はあの翼竜の能力だ。
「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは敵を穿ち削る氷槍!」
<スノータイトの封唱杖>を構える。
「【アイシクル】!」
氷の槍がまっすぐに翼竜に飛んでいき――
『シャアアッ!』
命中する直前、ゴウッ! という音とともに溶かし尽くされた。翼竜の全身を炎が包み込んで【アイシクル】を防いだのだ。
「雪姫ちゃんの魔術が効いてない……!? っていうかなんか炎でバリア張ってる!?」
〔!?!?!?〕
〔雪姫ちゃんの【アイシクル】でノーダメとかマジか!?〕
〔火山のボスだし百歩譲って炎バリアまではわかるけど、さすがに防御力高すぎないか!?〕
……うーむ。
このパターンって茜が言っていた中で最悪の流れじゃなかったっけ。
ヒバナが叫ぶ中、翼竜は甲高い声で鳴いた。
『ギュァアアアアアアアアア!』
それに呼応するように、ボス部屋のあちこちで噴水のようにマグマが噴き上がった。足場が揺れ、まるで噴火の直前であるかのような恐怖を感じさせてくる。
同時に翼竜の全身を覆う炎の勢いが増した。
やっぱりそうだ。
「……あのモンスター、火山と連動しているみたいです」
「えっ!?」
「ガーディアンボスの中には、地形から力を得るものがいるそうです。その場合、ボスが出現するランク以上の能力を持つことがあるみたいで……あの翼竜は、火山から――というかこのボス部屋そのものから何らかの力の補助を受けているんだと思います」
地形連動型のボスモンスター。
これは今回の火山のように、特殊な地形にボス部屋がある場合のみ出現する。
ボスモンスターそのものはランク相当の能力だが、地形から補助を受けるぶん能力が高くなる。あらゆるボスの中で特に難敵とされる相手だ。
〔地形連動ボスってそれ、基本戦っちゃ駄目なやつでは!?〕
〔普通にランク相当の強さのくせに、地形バフでそこからさらに能力上積みされてるからな……〕
〔知ってたらそのルートはみんな避ける。知ってれば〕
〔新規ガーディアンボスだからこそ地雷踏んだってことか……〕
〔というかこれめちゃくちゃやばくないか!? 地形連動型の上に炎系のバフとか、氷属性魔術師の天敵じゃねーか!〕
〔ばなちゃんもヤバい。マグマの中から出てきたってことは、絶対炎耐性も持ってる〕
〔雪姫ちゃんとばなちゃんガンメタボスかよ! そんな不運ある!?〕
コメント欄も阿鼻叫喚である。
まあ、うん……あらゆる可能性の中で最悪の引きをしたのは間違いないよなあ……
超強力な炎のバリアを常時まとい、さらには魔術を当てにくい飛行型モンスター。
これを天敵と言わずして何と言おうか。
せめて動きの遅い陸上型ボスだったら、手数でどうにかできたかもしれないんだが。
『ギュアアアアアアアアア!』
ゴバッッ!!
翼竜が炎を噴いた。
「ヒバナさん、こっちに!」
「へ!?」
「【荒ぶる炎を鎮めたまえ】!」
手を前にかざして呪文を唱える。左手の指輪が輝き、半透明の障壁が発生する。炎ブレスは障壁にぶつかって左右に割れ、俺たちの両横の地面を抉っていった。
「雪姫ちゃんありがと! その指輪、キーボスのドロップアイテムだよね?」
「はい。<静炎の指輪>は一日一度だけ相手の炎属性攻撃を無効化できるんです。精神力は使いますけどね」
キーボスであるウイングラプトルからのドロップアイテムだ。
<灼火水晶>のお礼としてヒバナが俺に譲ってくれたあれである。
「一日一回……ってことは」
「次のブレスはもう防げません」
「ええー!? 今のめっちゃ範囲広かったよ!? あれを避けるのは……いけるかなあ……?」
「ヒバナさんができても私が無理です……」
さすがのヒバナでも俺を背負ってあのブレスを避けるのは無理だろう。
〔これはさすがリタイアしたほうが……〕
〔一回ならキーボスからやり直せるしな〕
〔全裸の時と似てるっちゃ似てるけど、相手の攻撃力が違いすぎる〕
〔そもそもメガホンみたいな刺さるマジックアイテムがない〕
〔追尾系の魔術があればギリ戦えなくもないけど、多分雪姫ちゃんもばなちゃんも持ってないんだよなあ……〕
いたたまれない雰囲気のコメントが流れ始める。
……一応、考えていることがないこともない。
だがさすがになあ……うまくいかなかったら洒落にならない。重要なスキルを二つも使ってしまうことになる。
「雪姫ちゃん、難しい顔してる」
「え?」
ヒバナは考え込んでいる俺の両手をがしっと握った。
「あたし、キーボスの時に雪姫ちゃんが言ってくれたことを覚えてるよ! あたしたち二人で勝つって――どんなボスも倒せるって!」
「……そ、そんなことも言いましたね」
「今回も同じだよ! あたしたちなら勝てる! あたし、雪姫ちゃんと一緒ならどんな相手だって負ける気がしない!」
「ヒバナさん……」
「思いっきりぶつかればきっと勝てるよ!」
何だろう。うまく言えないが、こう、ぐっと胸に迫るものがあるな。
〔おお……おお……!〕
〔これは間違いなく炎属性の魔法少女〕
〔ばなちゃん熱すぎる!〕
〔そ、そうだよな。俺たちが諦めるのは違うよな!〕
〔やるなら応援するぞ! どんな結果になってもいいから思う通りにやってくれ!〕
コメント欄の雰囲気も変わってきた。
ヒバナすごいな。
……こうまで言われたらやるしかないか。年下のヒバナがやる気なんだ、俺だけ引け腰なんてかっこ悪いことはできない。




