新しい杖を作ろう
ヒバナ『配信は明日の朝十時からでいい?』
雪姫『はい、大丈夫です』
雪姫『今回はドローン操作をヒバナさんにお任せしてもいいんでしょうか』
ヒバナ『いいよー』
ヒバナ『あたしっていうかお父さんだけど』
ヒバナ『ところでTwisterのDМに、仲間に入れてほしいって人がたくさんメッセージ送ってきてるみたいなんだけど……雪姫ちゃんのところはどう?』
雪姫『来てますね。私としてはヒバナさんと二人で挑みたいんですが、どうですか?』
ヒバナ『あたしも雪姫ちゃんと二人がいい!』
ヒバナ『せっかく二人でキーボス倒したんだし、このままやりたい』
雪姫『私もです』
ヒバナ『よかった~。あたしだけだったらどうしようかと思った』
ヒバナ『それじゃ明日、頑張ろうね!』
雪姫『はい!』
ヒバナとやり取りをしていたTwisterのDМ欄を閉じる。
「ヒバナ様とは話がつきましたか?」
運転席から水鏡さんが話しかけてくる。
「はい。明日挑戦することにしました」
「早いですね」
「メインの目的は偵察です。戦って駄目そうなら引き返して対策を練ります。優先挑戦権は一週間しかないので、最初の挑戦は早い方がいいかなと」
ボス部屋への案内用アイテムを見つけた特権として、一週間の間は俺とヒバナに優先的な挑戦権が与えられる。
優先挑戦の権利は一度負けたらなくなるが、負ける前に逃げれば一週間の間は何度でも挑める。
「なるほど、それはよい考えだと思います」
水鏡さんは納得したように頷いた。
俺と水鏡さんは横浜中華街ダンジョンの協会支部へと向かっている。
今日の目的は俺の装備の更新。
【氷弾の心得】のスキルを得たことで、<初心の杖>が必要なくなった。よってこれを素材に用いて新しい武器を錬金炉で作るのだ。
ガーディアンボスの部屋自体はすでに協会が見つけてくれているらしい。だが、封鎖やら他の探索者への通達やらで一日かかるらしく、今日一日空いてしまった。
ヒマな一日の使い道を須々木崎邸のみんなに相談した結果、装備の更新が最優先となったわけだ。
ちなみに防具についても考えていることがある。
これについては月音がこだわりたいらしいので任せてしまっているが。
……変な衣装とか用意されたりしないよな? 信じてるぞ月音。
「念のためもう一度お聞きしますが、新しい武器の素材として、私の持っているアイテムは本当に必要ありませんか?」
確認するように水鏡さんが尋ねてくる。
確かにSランク探索者である水鏡さんに素材を譲ってもらえば、強力な武器が作れるだろう。だが、俺は断った。遠慮したというわけじゃない。
「それをしてしまうと、下手をすると炎上するそうなので……」
ダンジョン配信者が上位の探索者に必要以上の支援を受ける――月音が言うところの“キャリー”はかなり危うい行為なんだそうだ。
視聴者がダンジョン配信に求めているのは主に冒険によるスリルや興奮。
強い武器で弱い敵を作業的に倒し続けるような配信は、少なくとも攻略系動画ではよくないらしい。
「月音様もそうおっしゃっていましたね。ダンジョン配信特有の問題ですか……それでは仕方ありませんね」
「でも、私が持っている素材や、Dランクダンジョンまでで手に入る素材でもいい武器は作れそうです。それで頑張ります」
協会の錬金リストを見て色々考えてきている。ガーディアンボスとの戦いでもきっと役に立つことだろう。
「わかりました。差し出がましいことを言って申し訳ありません」
「そんなことないですよ」
さて、そんなことを話しているうちに目的地に到着。
素材アイテムのショップに行くとしよう。
「ああ、榊様! 少々よろしいですか?」
「……何かご用ですか?」
水鏡さんを見つけた協会職員がこっちにやってきた。ちょっと面倒くさそうな顔をしてないか、水鏡さん。
「実は国から依頼が溜まっていまして。海外のSランクダンジョンの素材なんですが……」
「その件はお断りしたはずですが。定期的な“探索義務”も私はクリアしているはずです」
「それはそうなのですが、榊様以外のSランク探索者の皆様にも断られてしまい……何とかお願いできないでしょうか? もし難しければ国内用の依頼もありまして――」
「……はぁ」
水鏡さんは溜め息を吐き、俺を見た。
「申し訳ありません、雪姫様。少し外させていただきます。素材アイテムを売っている場所はわかりますか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「後ほど向かいますので、先に行っていただけますか?」
「わかりました」
協会職員は俺にも会釈をすると、水鏡さんと一緒に職員用スペースの奥へと入っていった。
……Sランク探索者って大変そうだなあ。
親父もああいう協会職員からの頼みごとを引き受けたりしていたんだろうか?
全然そんな印象はないんだが。
素材アイテム屋に行く前に、俺も俺でやることがある。
俺は受付窓口の協会職員に話しかける。
「あの、すみません。聞きたいことがあって」
「はい、何でしょう?」
「【コンバートリング】について質問なんですが――」
いくつか協会職員に聞き、必要なことを教えてもらう。ちょっと考えていることがあるのだ。横浜中華街ダンジョンの攻略とは全然関係のないことだが。
「ありがとうございました」
話を終えて窓口から離れる。
……気になっていたことを聞いただけなんだが、思ったより大事になってしまった。まさか支部長まで出てくるとはなぁ。最終的に許可はもらえたのでよかったんだが。
さて、気を取り直して素材アイテムを買いに行こう。
二階に行く。
前に言った神保町ダンジョンと似てるな。
協会支部の二階には武器屋、防具屋などが並んでいる。ショッピングモールみたいな雰囲気だ。今回はそういった店をスルーして、素材アイテムを専門的に取り扱う店に直行する。
うおお……すごいなこれ。
高い棚にびっしりと瓶詰めの葉っぱやら魔物の爪や牙なんかが並んでいる。
「必要なのは、<雪羊の角>に<精神回復薬(中)>、<魔樹の枯れ枝>……」
スマホのメモ帳を確認しながら必要なものを探していく。
今回作ろうとしているのは<専心の杖>。
連続して同じ魔術を使うことで威力を増やしたり精神力の消耗を抑えたりできるらしい。レア武器の<初心の杖>を素材として使うため、Eランク探索者の装備品としてはかなり強いそうだ。
あ、<魔樹の枯れ枝>発見。
でも場所が高いな。
ジャンプ力が試される。
「せえのっ!」
スカッ。
くっ、届かない……! というかこれは脚立がないと無理では?
周囲をきょろきょろ見回していると、後ろからやってきた人があっさり<魔樹の枯れ枝>を手に取った。
「はい。これが取りたかったんでしょう?」
「あ、ありがとうございます!」
困っていた俺を助けてくれたのは、茶髪をショートカットにした十五、六歳くらいの女の子だった。背は女子として平均くらいだと思うが、足が長いので高く見える。
絵に描いたようなモデル体型だな。
顔立ちまで綺麗に整っている。芸能人と言われても納得できてしまいそうだ。
……ん?
なんかこの人、初対面なのに既視感があるな。何でだ?
「あなた、ダンジョン配信者の雪姫でしょう?」
「は、はい」
「私は高峰南波。白竜の牙の正規メンバーよ」
「あ」
少しデザインは違うが、目の前の女の子の左腕には白銀の腕輪が着けられている。
というか高峰?
「もしかして高峰北斗さんの……」
「そう、妹」
既視感の正体はそれか!




