【コラボ配信】魔法少女コンビで横浜中華街ダンジョンを攻略します【ヒバナちゃんと】4
横浜中華街ダンジョンには現状三種類のキーボスが確認されている。
その一、“サウルスコマンダー”。
このキーボスは以前戦ったインプコマンダー同様、仲間呼びを多用する敵だ。この敵自体は倒せなくもないだろうが、次のガーディアンボスがさらに大量の仲間呼びをしてくるので、戦力が二人の俺たちとは相性が悪いため却下。
その二、“アンモナイト・ナイト”。
槍を持ったアンモナイト型モンスター。防御自慢で動きが遅い。戦いやすそうではあるが、キーボスもガーディアンボスも部屋が水中にあり、特にガーディアンボスの部屋は厄介なモンスターの縄張りなのでなし。
そもそも水生生物の敵とかヒバナが相性悪すぎである。
というわけで――
「ここが“ウイングラプトル”のキー部屋ですか」
「やっとついたね~」
俺たちは今回の標的、ウイングラプトルのキー部屋の前までやってきた。
〔結局ここにしたんか〕
〔まあ他のキーボス二体が雪姫ちゃんたちとあんまり相性よくないしな〕
「はい。ここのキーボスも厄介な攻撃があるみたいですけど……その、戦いやすそうな噂を聞いたので」
〔ああ……ww〕
〔アホだからな、ウイングラプトル君〕
〔頭がカラだからそのぶん軽くてよく飛べる〕
言い過ぎでは?
いや、まあ俺たちもそれを知ってここに来たわけだが。
ウイングラプトルはひたすらに近くにいるものを攻撃する性質がある。たとえ目の前にいるのがガチガチに鎧を着こんだ前衛であっても関係ない。機動力が高いため、その気になれば後衛を脅かすこともできるはずだが、しない。
なぜなら遠くの敵は見えていないからだ。
その視野の狭さから、ウイングラプトルはダンジョン配信ファンの間では“阿呆鳥”、“よだれ鳥”、“視野一センチメートル”などとさんざんな呼ばれ方をしている。
一応能力値自体は高いみたいなんだけどな。
油断だけはしないようにしよう。
「ヒバナさん、準備はいいですか?」
「う、うん。うわーどうしよ。キーボス戦久しぶりだから緊張する!」
その場でそわそわと足踏みするヒバナ。
あんまりプレッシャーに弱いタイプには見えないが、念のため励ましておこう。
「ヒバナさん、今は私もいます。ヒバナさんがミスをしても私がフォローします」
「雪姫ちゃん……」
「代わりに私がピンチになったら、ヒバナさんが助けてください。そうやって二人で勝ちましょう。大丈夫です、力を合わせればきっとどんなボスだって倒せます」
ヒバナは「二人なら……うん、うん!」と頷き、笑みを浮かべた。
「そうだね! あたしたち、パーティだもん。二人で頑張ればいいんだよね。それなら全然負ける気がしないよ!」
よかった。平常運転に戻ったようだ。
「ありがと、雪姫ちゃん! 元気出てきた!」
「きゃっ!? ……もう、急に抱き着かれたらびっくりしますから」
「えへへ~」
腕を組むように抱き着いてきたヒバナを慌てて受け止める。もともと人懐っこい性格なんだろうな。同じ年下の女の子でも、月音はこういうストレートなスキンシップは取ってこないので新鮮だ。
〔ゴパァアッ〕
〔うわあああああてえてえええええええ〕
〔キマシタワーの高度が上がっちゃうううううう!〕
〔増築してて草〕
〔雪姫ちゃん、お姉ちゃん適性ありすぎでは?〕
〔しっかり者のお姉ちゃんと天真爛漫な妹でご飯がうまい〕
〔毎朝寝坊するばなちゃんを雪姫ちゃんが起こしてるところまで見えた〕
〔そのあと二人で仕事に行く俺を見送ってくれるんだよな〕
〔いいや俺がパパだ〕
〔なら俺がママだ〕
ヒバナのスキンシップのせいで視聴者が錯乱し始めている。これ以上焦らさない方がいいだろう。
「それじゃ行きましょう、ヒバナさん」
「うん! やるぞーっ!」
ドーム状のキー部屋にヒバナと一緒に足を踏み入れる。
『ンガッ……』
広めの公園くらいのスペースの中心で、丸まって寝ているモンスターがいる。そいつは俺たちに気付くと鼻提灯を割って起き、勢いよく体を起こした。
高さ二メートル程度の恐竜型モンスター。二足歩行で、特徴的なのは全身を覆う灰色の羽毛だろう。見た目としては始祖鳥に近い。
あれがウイングラプトルか。
素早くヒバナが俺の前に出る。
「雪姫ちゃんは後衛よろしく! 炎神フラムよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むは形なき爆ぜる籠手【ボムガントレット】!」
ゴウッ!
前にヒバナの両手に爆ぜる炎が灯る。
「ウイングラプトルは噛みつきや踏みつけが基本動作ですが、ごくまれに“滑空攻撃”を行うことがあります! 距離を離されすぎないよう注意してください!」
「おっけー!」
基本的な戦い方はこれまでと変わらない。ヒバナが前衛で戦い俺が魔術の詠唱。タイミングを見てヒバナが離脱、あるいは敵の位置を調整し、俺の魔術をぶつけるというものだ。
その際に警戒するべきは滑空攻撃。
ジャンプ力と翼を活かして長距離を滑空しての突撃だ。
これもやはり近い位置の敵を狙う攻撃だが、延長線上に後衛がいる場合、前衛がよけた時に後衛に当たってしまう。そうなれば大ダメージは必至。
俺は耐久が低いので食らうわけにはいかない。
さて、俺も詠唱を――ん?
『クンクン……』
「え、な、なになに?」
何だ? ウイングラプトルが鼻をひくつかせて、吸い寄せらせるようにヒバナのほうに近付いていく。攻撃の予備動作という感じでもない。
〔何してんのあの鳥〕
〔おかしい。ウイングラプトルなんて、探索者に気付いた途端にダッシュして襲い掛かってくるのに〕
〔腹減ってんのか?〕
〔いやそんなダッシュイーターじゃないんだから〕
視聴者も困惑している。
『クェエエエエエエエ!』
ウイングラプトルは目を輝かせ甲高く鳴いた。
その視線の先はヒバナのレッグホルスター。
直後、異様なことが起こった。ヒバナのレッグホルスターがひとりでに開き、なかからふわふわと輝く物体が飛び出したのだ。
「<灼火水晶>が……!?」
飛んでる! 念力でも使えるのか、あの鳥!?
『アァー……』
ウイングラプトルは大きく口を開けて<灼火水晶>を待ち受ける。どう見ても<灼火水晶>を食おうとしている構えだ。
「駄目――――!」
『ギャハァ!?』
ヒバナが叫び、ウイングラプトルを思い切り殴り飛ばした。ドガンッ! という音を立てて拳が爆ぜ、ウイングラプトルが口から煙を吹きながら後退する。
<灼火水晶>を浮かせていた謎の力がなくなり、その場に落ちる。ヒバナは慌ててそれを爆炎の付与がなくなったほうの手でキャッチし、レッグホルスターに戻す。
「あ、あっぶなぁ……!? 何てことしようとするの! これ、すっごく大事なものなんだからね!? 食べようとしないでよ!」
とりあえず<灼火水晶>が奪われなくてよかった。
しかしどういうことなんだ、これ。
〔なんだ今の!?〕
〔<灼火水晶>を盗もうとしてたってこと?〕
〔盗むっていうか食べようとしてなかった? え、マジで何だ?〕
〔こわいこわいこわい〕
視聴者もウイングラプトルの奇行に混乱している。
気を取り直して戦闘再開――とは、ならなかった。
『バフ、ガッフ……スゥウウウッ』
ウイングラプトルが跳ね起きる。
大きく息を吸い、ヒバナの爆炎によって焦げた顔の周りの毛や残っている火を飲み込む。
そして。
『ククククケェエエエエエ――――ッッ!』
ボウッ! と全身を炎に包んだ。
炎はすぐに消えるが、そこにはさっきまでのウイングラプトルはいない。
羽毛は赤く変色し、頭には目立つ冠羽が生えている。
だんっ、と地面を踏みしめた爪からは、火打石でもぶつけたように火花が散る。
「………………は?」
変身、した……?
〔えええええええええええええええええええええ〕
〔なにこれ、え、なにこれ?〕
〔ウイングラプトルが変色した〕
〔こんなの見たことないぞ。っていうか協会の資料に載ってない!〕
〔未確認の特殊行動ってこと!? そんなことある!?〕
特殊行動。
モンスターの中には特定条件を満たすと特別な行動をしてくるものがいる。
ベタなのは“狂化”などだろう。生命力がなくなる寸前に、最後の力を振り絞って暴れ回るというものだ。
だがウイングラプトルの変身は協会の資料にもなかった。
おそらく条件は<灼火水晶>を持ってキー部屋に来ることなんだろう。
それを捕食することでウイングラプトルは特殊行動をとる。
でも<灼火水晶>の捕食はヒバナが防いだはず……
「……まさか、ヒバナさんの爆発魔術が?」
〔あー、有り得る〕
〔<灼火水晶>も炎魔力の塊みたいなところあるし、代替しちゃった説はある〕
〔っていうかこれどうなるの? 特殊行動って相手の能力も変わるよね?〕
〔ドロップアイテムも全然変わったりな〕
〔これこのまま戦って大丈夫なのか?〕
〔いったん引くのもありだと思う!〕
どうするかな。相手の行動が変わるなら、対策を考え直さなきゃならないんだが。




