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「おはよう雪姫君、月音君。結論は出たかい?」


 翌朝、俺と月音は茜の待つ部屋へとやってきた。執務机のそばには水鏡さんもいる。


 俺は言った。


「<完全回帰薬>の作成に協力させてもらう。ただし一つ条件がある」


「条件?」


「これだ」


 俺が差し出したのは魔力でできた植物の種だ。


「この種はリーテルシア様――妖精女王の魔術でできている。飲み込んだ者がリーテルシア様の定めたルールを破ると、【カースヴァイン】が発動するようになってる」


「【カースヴァイン】……体内に寄生した植物が相手の呼吸を奪う魔術だね。まさか地上でそんなことができるとは」


 茜が目を輝かせる。研究者魂が刺激されてしまったんだろうか。


 昨日電話でリーテルシア様に相談した結果、リーテルシア様はある提案をした。それが条件付きでの茜への協力だ。【コンバート】した俺経由でリーテルシア様が魔術を使い(こんなことができるのかと唖然とした)、この種を生み出した。


 これを飲み込めば、リーテルシア様の定めたルールを破った場合にペナルティを与えることができる。


 ちなみにリーテルシア様は、地上で俺たちの味方が増えることを喜んでいた。

 どうも地上で俺たちの身を守る手段が少ないことを気にしていたらしい。

 ……優し過ぎでは?


「まあ、雪姫君に地上での【コンバート】をさせたほどだ。リーテルシアならこんなことも可能ということだろうね」


 うんうん頷きながら茜が言う。


「それも知ってたのか?」


「君が自室でそれを試した時、盗聴器を仕掛けた鞄は君の部屋にあったからね」


 ……どうも致命的なことばかり知られている気がするな。

 まあ今さら気にしても仕方ないか。


「リーテルシアの定めたルールというのは?」


「“<完全回帰薬>の一つ目をこっちに渡すこと”と“俺たちの安全を確保すること”。昨日そっちが言ってきたことを守ってくれればいい」


「何だ、そんなことでいいのか。わかった、飲もう」


「……お嬢様」


「水鏡、ここで揉めてもいいことはないよ。それに【カースヴァイン】はあくまで魔術。本当に植物に寄生されるわけじゃない。条件を破らない限り無害だ」


 水鏡さんは心配そうにしていたが、茜はあっさり種を飲んだ。


 茜の体を緑色の光が多い、皮膚を植物のツルのような模様が覆う。

 光はすぐに消え去った。


 水鏡さんはヤクザから月音を守ってくれたので、【カースヴァイン】を使うのは申し訳なくもあったが……水鏡さんのほうから「自分だけ無事なのは納得いきません」と言ってきたので、茜と同じく種を飲んでもらうことにした。


「これで問題はないかい?」


「あ、ああ」


 思ったよりあっさりことが進んだので拍子抜けだ。


「では、協力関係成立だ。よろしく頼むよ雪姫君、月音君!」


 満足そうに茜はそう言うのだった。





「<竜癒草>があるのは箱根ダンジョン。Bランクのダンジョンだよ」


 茜と協力関係になったことで、昨日伏せられていた情報があっさり共有された。


「霧がかった樹海が広がる特徴的な地形だ。出現するのも毒や麻痺といった、状態異常系の攻撃を多用してくるトリッキーなモンスターが多いね」


 俺と月音は顔を見合わせた。


 樹海。

 つまり、木が多く生えるダンジョンだ。ということは――


「<完全回帰薬>の素材はメッセージで送っておくよ。口頭で伝えても覚えにくいし、リストは手元にあったほうがいい。連絡先を教えてもらえるかい?」


「あ、ああ。わかった」


 茜に言われて思考が中断される。

 メッセージアプリの連絡先を交換すると、すぐにメッセージが届く。そこには五つの素材アイテム名が書かれていた。


 <アンブロシアの実>だの<永遠の灯晶>だの、稀少っぽい雰囲気が漂うものばかりだ。昨日の話にあった<竜癒草>の名前もある。


「雪姫君さえかまわなければ、水鏡と一緒に探索者ランクを上げてきてほしい。今の雪姫君ではBランクの箱根ダンジョンに入れないからね」


「あー……そのことなんだが、ランク上げの必要はないと思う」


「? ランク上げをせずに上位のダンジョンに入る手段があるのかい?」


「一応な。というか下手をすれば、箱根まで行かなくてもいいかもしれない」


「……リーテルシア関連かい?」


「ああ」


「ほう!」


 茜が目を輝かせる。質問攻めされそうな気配がしたので、慌てて先手を打つ。


「け、けど先にリーテルシア様に確認してからでいいか? 茜と組むのは了承をもらってるけど、念のために」


「むう……仕方ないね」


 残念そうに引き下がる茜。


「そういうことでしたら茜お嬢様、一つお願いが」


 それまで静かだった水鏡さんが手を挙げる。


「どうしたんだい、水鏡?」


「私は雪姫様と今後行動を共にすることになります。そのために実力を把握しておきたいのですが、地下室を使用しても構いませんか?」


 ……地下室?


「ああ、構わないよ。雪姫君にも地下室のことは説明したほうがいいだろうしね。雪姫君も水鏡の実力は知っておきたいだろう?」


「そりゃ、興味はあるけど」


 ヤクザ数人を一蹴し、探索者協会から絶大な信用まで得る水鏡さんの実力。

 見てみたい気持ちはある。

 素材アイテム回収の際に組むことを考えても、必要なことだろう。


「私も興味ある! 水鏡さんの実力!」


「悪いが月音君は私に付き合ってもらう。水鏡たちが戻る前にやっておきたいことがあるからね」


「ええー……わかったよ」


 不承不承ながら頷く月音。まあ、この屋敷で過ごすなら水鏡さんの実力が見られる機会は他にもあるだろう。


 そんなわけで一時的に分散行動をとることになった。

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[一言] マジで探索者業界ろくなのいねえな
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