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復活のガーベラ

 澄んだ空気。

 愛らしい花々。

 どこまでも続く翡翠色の広い大地。



「………………よくもおめおめと顔を出せたわね、このうわきもの………」



 至近距離から俺にガンを飛ばしてくる金髪ツインテールの妖精。


「が、ガーベラ。また会えて嬉しいです……」


「はっ、本当かしらね。私が杖の中で眠ってる間にま~~~~楽しそうにそこの人間――ヒバナとか行ったかしら? その子と過ごしていたみたいじゃない。私あんたの配信全部見たわよ。お母様のスマホ? で見せてもらってね。全部知ってるんだから」


 まずい。想像の五百倍くらいガーベラの機嫌が悪い。


 石動神社の夏祭りの翌日、俺はヒバナを連れてフェアリーガーデンにやってきた。入口は(職員にちょっと用があったので)横浜中華街ダンジョン。もちろんヒバナを連れてくることに関して、リーテルシア様の許可はもらっている。


「ゆ、雪姫ちゃん……あー、うー、どうしたらいいかなあたし!」


「やはりこうなりましたか……すみませんユキヒメ。しばらくすればガーベラの気も済むと思うので、少しだけ相手をしてやってください」


 ヒバナは話に入るタイミングを失っており、リーテルシア様は今のところ静観の構え。


 ……とりあえず釈明しよう。


「ガーベラ、落ち着いてください。私はあなたのことを忘れていたとか、そういうわけでは」


「『代わりに私がピンチになったら、ヒバナさんが助けてください。そうやって二人で勝ちましょう。大丈夫です、力を合わせればきっとどんなボスだって倒せます』」


「え?」


「『ヒバナさん、頑張っていい子に育てましょうね』」


「ちょっ」


「『……まったくもう、そんなことで無茶したら駄目ですよ。褒めてほしかったらいくらでも褒めますから』」


「ガーベラ!?」


 全部俺の言葉じゃないか! ガーベラ、どんなに真剣に俺たちの配信を見ていたんだ!?


「何よこの優しい言葉の数々! ユキヒメの女たらし! 浮気者ーっ!」


「ひふぁいですひふぁいです、ふひをひっはらないへくらはい!」


 ほっぺを引っ張られて頭をぶんぶん振られる俺。どうしようかなぁこれ……


「ガーベラちゃん!」


 と、それまで静かにしていたヒバナが意を決したように口を挟んだ。


「何よ、この泥棒猫!」


「あたし、赤羽日花って言います! ヒバナっていう名前でダンジョン配信をしてます!」


「知ってるわよ!」


「あたし、雪姫ちゃんに何度も助けてもらってて……だから恩返しがしたいです! だから二人のパーティに入れてください!」


 勢いよく頭を下げるヒバナ。彼女らしいまっすぐな言葉だ。


「ふ、ふん……なかなか殊勝な態度じゃない」


 あ、ガーベラがちょっと怯んだ。


「でもそんなことで気を許したりしないわ。だいたい、ユキヒメには私とお母様がいれば十分戦力は足りてるのよ。追加メンバーなんていらないわ!」


 それを聞いて、ヒバナはこんなことを言った。


「なら、あたしと戦ってください! ちゃんと役に立つって証明します!」


「ヒバナさん!? そこまでしなくても――」


「ううん、やる! あたし、ガーベラちゃんにも認めてほしいもん!」


 ヒバナの意志は固そうだ。


「いい度胸ね新入り候補! それじゃテストしてあげる! あたしに指一本でも触れられたら実力を認めてあげるわよ!」


「はいっ! それじゃ――行きます!」


「かかってきなさい!」


 ガーベラとヒバナが戦い始めてしまった。

 お互いを本当に消し飛ばすようなことはしないと思うが……


「大丈夫ですよ、ユキヒメ。危なくなったら私が止めに入りますから」


 近くにやってきたリーテルシア様がそんなことを言った。


「お願いします。……ガーベラ、怒ってましたね」


「あれは怒っているのではなく拗ねているだけですよ。見ていてください」


「え?」


 リーテルシア様に従って視線をガーベラに向けると、ガーベラが障壁を前方に十数個も同時に出現させた。


 何だあの数!? ガーベラの【バリア】って一度につき一つだったはずなのに!


「<妖精の鎮魂杖>の中で眠っている間、ガーベラはイメージトレーニングを積んでいたようです。もともと勘のいい子ですから、【バリア】の応用ができるようになっています」


「そんなことが……」


「ユキヒメの役に立てなかったことが相当悔しかったようですね」


 ……ううむ、そんなふうに思ってくれていたのか。


 それなのにいざ目が覚めたら俺が他の女の子と仲良くしていたら、そりゃがっかりもするか。なんだかガーベラに対して申し訳なくなってきた。


「とはいえ、ユキヒメもガーベラを忘れていたわけではないのでしょう? そんなものを用意していたくらいですから」


 俺は目を見開いた。


「……何でわかるんですか? 俺がガーベラにプレゼントを持ってきてるって」


「さあ、なぜでしょう?」


 くすくすと笑うリーテルシア様。

 相変わらず底知れない。


「そうだ、ユキヒメ。例の従魔の卵は持っていますか?」


「これですか?」


 <拡張マジックポーチ>から従魔の卵を取り出す。<叡智の丸眼鏡>で鑑定した通り、まだ孵化条件がクリアされていないため孵っていない。


「よければ私にも抱かせてもらえませんか?」


「リーテルシア様に?」


「従魔の卵は温めた相手の能力を反映する、と聞いています。私の力も役に立つかもしれません」


「い、いいんですか? ぜひお願いします!」


 リーテルシア様ほどの実力者から何かしらの力を受け継げば、生まれてくる従魔も強くなるだろう。これはありがたい。


 ……生まれてくる従魔が言うことを聞いてくれなかった場合のリスクが跳ね上がる気もするが、そのことはひとまずおいておこう。


「では、少しお借りします。あとでガーベラにも抱かせましょう」


「お願いできる雰囲気であればいいんですが……」


「私はあまり心配していませんよ」


 リーテルシア様に従魔の卵を預けつつ、ヒバナとガーベラの戦いを見守る。

 話しているうちに戦いはクライマックスを迎えていた。


「なかなかやるじゃない、ヒバナ! それじゃあこれで最後! 防いでみなさい!」


「うんっ!」


「【バリア】からの【シールドスピン】!」


 ギュアッ!


 ガーベラの作り出した障壁が巨大化、回転する。

 それをガーベラは勢いよく投げつけた。


 盾の扱いが自由すぎないか? 投げられたのか、あれ。


「世界の果て、己を忘れた星の骸よ。今一度(あか)く輝き、閃光をもってその存在を刻み込め!」


 ヒバナの<星炎のガントレット>が輝き、投げられた盾を正面から迎え撃つ。


「【ノヴァ・インパクト】!」


 ドォオオオオオオオオオン!


 爆風が吹き付けてくる。


「「――――っ!」」


 ヒバナのとっておきの一撃が、ガーベラの障壁手裏剣を消し飛ばす。

 その衝撃で二人はそれぞれ後ろに吹っ飛んだ。

 しばらくして二人は立ち上がると、無言のままに近付き――


 がしっ、と握手した。


「なかなかやるじゃないヒバナ。あんたの覚悟、しっかり見せてもらったわ」


「うん! ……あ、はい!」


「敬語なんていいわよ。それに呼び捨てでいいわ。ちゃん付けってなんかムズムズするのよ」


「わかった。これからよろしく、ガーベラ!」


 やれやれ、仲良くなってくれてよかった。


 戦いの果てに仲良くなるなんて昔の不良漫画のようだが、実際それでうまくいったんだから言うことなしだ。


 二人がこっちに戻ってくる。

 さて、ヒバナとガーベラの間はもう問題ない。

 今がいいタイミングだろう。

 俺は<拡張マジックポーチ>からあるものを取り出した。


「ガーベラ、実は渡したいものがあるんです」


「渡したいもの?」


「これを受け取ってください」


 俺が差し出したのは、指輪ほどのサイズのコンバートリング。

 ガーベラがそれに腕を通すと、自然と収縮してガーベラの腕にサイズが合う。


「え、なに、なにこれ!? ユキヒメたちのしてるのと同じやつ!?」


 ガーベラが自分の腕にはまったコンバートリングを見て戸惑っている。


「そういえばダンジョンに入る前、雪姫ちゃんが何か協会の窓口で受け取ってたなー……よくこんなものが作れたね?」


 ヒバナが驚いたようにそんなことを言う。


「特注したんです。もともと探索者協会ではコンバートリングのサイズを自由に指定できる制度があるので、それを利用しました」


 コンバートリングのサイズはかなり融通が利く。


 探索者は人手不足なので、国としては標準サイズのコンバートリングが体に合わないから、というだけの理由で探索者を逃したくないんだろう。


 <スノータイトの封唱杖>を作った日、俺は協会の職員に妖精でもつけられるコンバートリングを注文できるか尋ねた。


 本当はできなさそうだったが、妖精との今後の関係を鑑みて特別にOKが出たのだ。


 あの時は支部長やら他の職員やらも出てきて大事になったんだよな……


 配信や協会の資料などからガーベラの腕のサイズを割り出し、専門の職人に頼んでコンバートリングを作ってもらった。

 見た目だけでなく性能も俺たちのものと同じだ。


「な、何でこんなものを?」


 ガーベラが尋ねてくる。


「ガーベラ一人だけ仲間外れみたいになってしまったら寂しいかなと思って。迷惑でしたか?」


「ま、まあ、結構、それなりに嬉しいわ。うん。……へへ」


 おお、嬉しそうだ。

 しかしこれだけじゃない。


「ガーベラ、【コンバート】と唱えてみてください」


「? 【コンバート】」


 ガーベラが唱えると、その服装が変わる。

 一言で表せば白い修道服だ。……思っていた数倍似合ってるな。


「服が変わったんだけど!? ちょっとこれ、どうなってるの!?」


「コンバートリングの効果です。服装を一揃いストックして、自由に入れ替えることができます。ガーベラの普段の服装もきちんと保存されていますよ」


「これ、雪姫が作ったの!?」


「残念ながら私は注文しただけです。でも、ガーベラにぴったりのものを選んだつもりです」


 <清廉の修道服>。


 目を閉じて手を組む姿勢を取ることで、聖属性魔術の威力が上がるマジック効果がある。


 防具を作る職人に依頼して作ってもらった。

 サイズは配信に映るガーベラから予想したが、どうやらぴったりのようだ。


「わざわざ、私のために……」


 呟くガーベラに俺は告げた。


「私はガーベラのことを忘れたことなんてありません。また一緒にいられて嬉しいですよ」


「ふ、ふん! まあそこまで言うなら今回は勘弁してあげるわ!」


 ニマニマした表情のままガーベラはそんなことを言うのだった。







 ……で、どのタイミングでガーベラに俺のTSについて話そうか。


 言いにくいんだよなぁ、これ……

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