読了後の『君』の夜4
作者:黒川 明菜
作品名:
『実家を追い出され文無しとなったB級冒険者、性別を偽り冒険配信で成り上がる』
――読了。
★ ⌂ (´ー`)
「厨二かよ……」
布団の中でスマホの画面を動かし続け、
ようやく最後のオチまで読み終えると、
『君』はつぶやいた。
つまり、この物語の舞台設定は異世界ではなく現実世界で、
主人公が冒険者として描かれている様子は、
実はすべてネトゲのプレイ描写だったという事か。
会話に鍵括弧が二種類あったのはそのためか……。
「」の鍵括弧が使われているのが直接の会話で、
そして『』のほうがネトゲ内でのプレイヤーや視聴者との会話だった、と。
家族が主人公の女体化にツッコまなかったのも当然だ。
それはあくまで主人公本人ではなく、
ネトゲのアバターの事だったのだから。
――しかし、そうやって改めて物語を見返すと……、
「主人公、どうしようもないな……」
『君』は思った。
いいトシこいて親のスネをかじり続けておきながら、
その親の言う事全てを拒否して、
それでいて何も行動しようとしない。
あげく家を追い出されて逆恨み……。
そして、キレてカツアゲを刺殺か……。
クズにはふさわしい末路だな。
(だが……)
『君』は思った。
それでも、この主人公に同情してしまう自分がいる。
常に優秀な誰かと比べられ、
常に高圧的な誰かに押さえつけられ、
常に自分のやる事を否定され続け、
常に身近な者たちにさげすまられ……。
(自分にも覚えがある……)
もしかしたら、
自分もそうやってどん底に落ちていたかもしれない。
今、不満だらけの毎日ではあるが、
かろうじて社会の底辺をはい回れている事も、
ただ運が良かっただけの話だ。
この主人公と同じで、
何かを頑張って積み重ねた記憶もない。
それは、勉強、運動、労働、
どのジャンルでも何の成果も得られなかったから、
結果を出せていないから、そこまでの過程に意味を見出せていないのか。
それとも、
本当に『君』はここまでの人生で、何の積み重ねもなかったのか。
(分からない……、
何も分からない……)
物語にハマると没頭してしまう『君』は、
不必要なほど考え込んでしまう。
それも悪い方向に。
明け方近く、
頭が重くなるまでスマホで作品を読み続けたせいもあるのだろう。
こうやって、
『君』はよく読了後に気落ちするのだ。
こりずに夜更かしの閲覧で生活のリズムを乱した事に。
そして今回は、
それに加えて哀れな主人公と『君』自身を重ねて見てしまったために……。
「『俺、いったい何やってんだろ……』」
いつか見た、漫画のセリフをつぶやく『君』。
――だが『君』は、この悪癖を改められない。
小さな、ほんの小さなきっかけがあれば、
『君』はまたスマホ片手に、底辺でもがく自分に刺さる物語を求めるのだ……。
そう、
『君』はまだ……、
この沼から抜け出せない……。
【陰鬱の異世界配信編 完】
そして『君』は忘れない。
最後まで読み切った作品には、
『いいね』や『コメント』のみならず、『スター』を押して『レビュー』も書いて作品を評価しよう、という作者への配慮の気持ちを。
他者の気持ちを想える『君』は、日常を生き抜くために描かざるを得ない作者の心情を想ってそのルールを破れない……。




