9 バーサーカーの進化
レティと口を聞かなくなって、2週間が経った。ニコライやクイルが仲を取り持とうとしてくれていたが、俺は頑なに拒否をし続け、レティを避けていた。
そこへ回復室からリアが出て、今日にも部屋に戻ってくるらしいと聞いて、会えるのを心待ちにしていた。ヨーガの訓練から戻ってきた俺は、先日、ロルフ師匠から言われていた違うメンバーとバディを組み、模擬戦闘訓練を行う事になっていた。レゾナスーツを着て部屋を後にし、訓練施設に向かおうとしていたところ、
「カオル!」
優しいその声が聞こえた。
「リアッッ!!」
勿論、ニコライも一緒にいて、俺はすぐさま二人に駆け寄って行った。
「おかえり、リア! 待ってた」
「おー、おー、俺には見せない顔をするなぁ、カオルー」
「リアは同期で初めて教え導いてくれた人なんだから、当たり前だろ。大切な先生なんだ」
「そうか」
ニコライは何だか嬉しそうな顔をしていた。
「フフッ、嬉しいわ! ありがとうね、カオル」
ちょっと照れくさいけれど、本当の事だ。リアからOHC戦闘スキルについてのヒントを貰えなければ、模擬戦闘訓練の移動する厄介なバーサーカーには絶対に勝てなかった。
それにあのままだと、俺はきっとまだ刺々しいまま、周りを見る事も出来ず、苦しみの中で踠いているんだろうなと予想できる。だから、リアが一筋の希望を差してくれたことには感謝しかない。
「そういえば、カオル。レティと喧嘩をしてるんですって?!」
ジトッとニコライを睨んだが、素知らぬ顔をしている。溜め息を吐き、
「喧嘩っていうか……。だって、濡れ衣を着せられて、恩を仇で返しやがったんだ、アイツ! 俺は質問された事をちゃんと一生懸命に答えたのに、俺の部屋に勝手に入って来た挙句、人を変態扱いして、みんなに嘘言いやがって……」
「まぁ、そうだったの。……それは、レティがいけないわね! 私がちゃんと言っておくわ」
「この前……ロルフ師匠からも怒られたくせに、上から目線で全く反省していない態度で謝ってきやがったんだ! アイツとは、もう関わり合いたくないよ」
「そうなの?! それはさらにこっ酷く叱らないといけないわね! それで、もしレティが本当に反省した様子が見えて謝ってきたら、許してあげられるかしら?」
「うーん……」
「OHC戦闘スキル……レティのスキルを使う事が出来たんですってね! だったらカオルにとって、そのチャンスは逃してはいけない事だと、私は思うの。嫌な事をした相手でもその子なりの理由があるかもしれないから、まずはちゃんと話をしてみてはどうかしら?」
「……うん」
「何も話を聞かないままじゃお互い平行線で、チームとして、その状況は良い状況ではないと思うの。話す事でわかる事もあるし、レティももしかしたら、今ごろ悪かったなぁと思ってるかもしれないから」
「そんなふうに思ってなさそうだけど……。もし今度、会って話す機会があれば……そうしてみるよ」
すると黙って聞いていたニコライが、
「お前ーッッ!! 俺とクイルで説得しても頑なに意思を変えなかったくせに、リアなら変えるのか?!」
「えっ? 当たり前だろ。リアは俺の先生だし」
「あぁーそうかよ、そうかよ」
「それにニコライは俺の話を聞いてなかったのに、レティの話だけを信じてゲンコツしてきたからなっ!! それもある!」
するとその話はリアには言ってなかったようで、
「まぁ、ニコライ! それは年長者として良くないわ……カオルに謝ったの?」
「まだ、謝って貰ってないっ」
俺が即答すると、今度はジトッとニコライが睨んできた。ふふん、立場逆転だなっ。
「…………悪かった」
「えぇー? 聞こえないなぁー」
耳元まで来て、耳を引っ張り、大声でニコライが、
「わ・る・か・っ・た!」
耳がキーンとなり、俺は顔を顰めたのだった。
それを笑いながら見ていたリアが、
「あっ、そういえば、今日はクイルと組むらしいのだけど、その次はニコライとでしょ? どんな模擬戦闘訓練になるのか、楽しみだわね」
「「えぇっ?!」」
俺もニコライも寝耳に水だった。
「あらっ?! 違うのかしら?? でも、ロルフ師匠が言ってらしたわ。本当に他の人のスキルでも使えるのかを確かめる為だって……」
「マジかぁー! ニコライは嫌だぁー」
「おい、カオル。お前、覚えてろよ! 柔軟バッキバキにシゴいてやるからな!!」
「ほらぁー、これだもん!」
「フフッ、本当に仲良しさんになったのね」
「リア……、どこをどう見ても仲良しさんではないと思うんだけど……」
「あら、そうかしら。今までのカオルは相手に返事をする事などなかったのに、今はとても楽しそうに話をしているわ。顔も素敵に輝いているもの!」
「そうかなぁ……」
「OHC戦闘スキルはまだ解明されていない事もあるだろうし、未知の領域に足を踏み入れて研究するなんて、胸が高鳴るじゃない?! カオルの戦闘能力アップに希望の光が差したのよ、素敵だわ! 頑張ってね、カオル」
「リアにそう言われるとそんな気がするよ。……いつもありがとう、リア! ワクワクしてきたよ」
するとニコライが拗ねた様に、
「おーおー、お二人ともとても仲の宜しいことでッ!」
リアと俺は顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、俺、行ってくる! 今日はクイルかぁー。足手纏いにならないように頑張るよ」
「ええ! きっとうまくいくわ、大丈夫!! いってらっしゃい」
二人と別れて、訓練施設の司令室へ行くとレゾナスーツを着たクイルがいた。
「よっ! カオル、今日はよろしくな」
「うん、よろしく! クイルの足手纏いにならないように頑張るから」
「カオル、足手纏いって何だよ。俺はカオルの事をそんなふうに思った事はないぞ」
「いや、だって俺はOHC戦闘スキルが……」
「だから、何だよ。今日もそれをどうするか考える為に模擬訓練をするんだろ? 足手纏いもクソもあるかよ。戦闘中は何が起こるか、分からない。俺だってお前に助けを求める事だってあるかもしれないんだ。仲間なんだから助けたり、助けられたりとお互い様だと俺は思ってるぞ。だから、スキルがないからって卑屈になるなよ。足手纏いなんかじゃないんだ、カオルは! 自信を持って、最速で倒していこうぜ」
「うん、ありがとう。クイル! 最速でいこう!!」
それを聞いていたロルフ師匠は、
「クイル、カイル。最速もいいんだが、クイルのスキル使用が可能かどうかを確認する為でもある。大事な目的を忘れるんじゃないぞ?」
「「Yes,sir!」」
「それから今日のバーサーカーは少し変化を加えているから、心して掛かるように。……研究機関から報告が入り、バーサーカーの知能が確認されたんだ」
「はいっ?!」
俺は驚いた声を上げ、すかさず
「えっ、今までバーサーカーに知能はないと知識学で教わりました。何故、今になって、そんな事が……」
「今までは本当に知能はなかった。しかし、……イレフト・キリーギルの初戦、……ベアーズが攻撃を受けた戦闘のバーサーカーから先だってのバーサーカーに至るまで、……こいつらに知能が備わっているという研究結果が出たんだ」
「!!」
あまりの衝撃的な研究結果に言葉を失った。黙っていたクイルは静かに、
「それは……バーサーカーが進化しているという事ですよね?」
「そういう事だ。今は人間の子どもの3から5歳くらいの知能ではないかという事だ」
「これ以上、戦闘が長引くと、更に進化を遂げるという事でもありますよね」
「……残念ながら、そのようだな」
司令室は重苦しい沈黙に沈みそうになっていたが、
「なら、俺たちも強く賢く進化していかなきゃいけませんね!」
その雰囲気を俺は明るく力強い声で払拭した。その言葉を聞いて、ロルフ師匠は驚嘆した顔をしながら、
「いや……カオルからそんな言葉が出てくるとは……。驚いたな……」
「だって相手が進化しているからと落ち込んでも前には進みません。だったら、俺も成長して進化してやるんだって考え方を教えて貰ったんです」
「ほう……そうか。それは誰に教えて貰ったんだ?」
「リアからです! 逆転の発想が出来ないとピンチはチャンスに変わらない。……絶対にヤツらに負けたくないんです」
「俺も負けたくないな! カオル、一緒に頑張ろうな」
「おう!」
クイルと俺の絆を前に目を細めるロルフ師匠がいた。
「では、2人とも。出動の準備を!」
「「Yes,sir!」」
クイルはティート-NO.6へ、俺はカテドラル-NO.8へとそれぞれ搭乗していった。
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