7 一筋の光
レティの言った通り、2日後、またレゾナスーツを着て、訓練施設に来るよう連絡があった。前回の訓練から1ヶ月以上経っていたから、少し心配ではあったが、ファエルが以前言っていたように、今やれる事を一生懸命にするしかないのだ。そう自分に言い聞かせ、部屋を後にした。
司令室に着くと、ロルフ師匠もガイア副総督もレティも揃っていた。開口一番、レティがまたうるさく念押ししてきた。
「カオル! 今回こそちゃんとしなさいよ!! 喧嘩をしに行く訳じゃないの。冷静に状況を判断して、必ず倒さないといけないの、分かった?!」
言い方がいちいち上から目線で腹が立つ……が、今はそんな事はどうでもいい。とにかくその通りに、言われた通りに出来なければならないからだ。
「……分かった。頑張ってみる……ので、手助けを、お願いします」
口をあんぐりと開けたまま、レティは珍しいモノを聞いたかの如く黙っていた。その様子をみて、ガイア副総督はクツクツと笑っていた。するとロルフ師匠が、
「カオル! いい心掛けを持てるようになったな。ただ、レティにも限界はあるから、状況はしっかりと自分でも見極められないといけないぞ。聞く耳だけは閉じるな! その意識だけあれば大丈夫だ。自分を信じて、思いっきりやってみろ」
「はい!」
それからサーヴァントへと搭乗し、発進の準備を待っていた。するとレティから、
「出動後は安易に飛び出すんじゃなくて、最大限の警戒を怠らないように気をつけてね」
「Yes,sir!」
「さぁ、思いっきりいきましょう! リベンジよっ!!」
するとアナウンスが流れてきた。
「セラフ-NO.1、カテドラル-NO.8、共に搭乗完了! クラノス通信機、解放使用! 出動まで5・4・3・2・1、……GOッ!!」
前回と同様のアクリルドーム型となっている地上へと出た。身構えていたが、今回はすぐに攻撃を喰らうことはなかった。不気味な静けさが漂っていた。こうした時に気を散らせていると、殺気を感じる事が出来なくなってしまうため、歩みを止め、感覚を研ぎ澄ませ、集中力を高めていた。
すると、足元にチリチリと静電気のような痛みが来た。
――ヤツが来るッッ!!――
すぐさまその場を離れるように、セラフ-NO.1を抱えて跳躍した。レティは驚いて、
「カオル! 何してっ……」
言い終えるのを待たずに、バーサーカーがその姿を現した。それは、先日のフロントスクリーンに映し出されていたスピラーブルに変化させた腕だけで、地中から襲って来た。速さはあの時より遅かったが、その様は全く同じであった。
ということは、今回の模擬戦闘訓練のバーサーカーは瞬間移動に空間移動もでき、腕もスピラーブルに変化するバーサーカーだ。リアの、アイオン-NO.4の時止めを使用して、やっと仕留めたバーサーカーなのに、スキル無しの俺にどうやって戦えと言うのか、頭が痛い……。セラフ-NO.1をゆっくりと下ろすと、
「カオル、お互いを背中合わせに! 近くにいた方が良いわ」
すぐさま、その通りにフォーメーションを組み、迎撃に備えた。そして呼吸を整え、探り感じとることに集中した。すると、セラフ-NO.1の左肩辺り、俺の右肩後ろ辺りにまたチリチリと痛みを感じた。
「レティ、左の前方から攻撃あり!」
「えっ?!」
俺はすぐに体勢を変えたが、レティは一瞬、判断が遅れてしまった。すると次の瞬間、セラフ-NO.1の左前にバーサーカーが出現し、左肩をスピラーブルが貫通してしまった。
「あぁッッ!」
「レティーー!!」
バーサーカーはそのまま地中に姿を消した。セラフ-NO.1は倒れそうになりながらも踏ん張って耐えていた。そのセラフ-NO.1を支えようと手を伸ばした時、足元からチリチリとした痛みをまた感じ、すぐにまたセラフ-NO.1を抱え跳躍し、その場を離れた。
地中からスピラーブルの腕だけが飛び出して来た。串刺しにするように、何度もしつこく俺たちを追い詰めるように、下から突き刺してきた。脚がもつれ、俺たちは転がりながらも攻撃を避ける事が出来た。
しつこい上に、体を現さないバーサーカーに苛立ちが募り、次の瞬間、飛び出してきたスピラーブルを思わず掴んでいた。すかさずレティは、
「ッ……シャイン!」
OHC戦闘スキルを発動させ、光剣を生成し、スピラーブルを粉砕した。大地はバーサーカーの咆哮で揺れていた。だが、負傷した肩の痛みで、セラフ-NO.1は立つ事がやっとの状態だった。俺は後ろから抱え、支えるように立った。
「レティ、大丈夫かっ?!」
「だ、大丈夫ッ……。それよりも次の攻撃は強烈な攻撃が来るだろうから、気を緩めないで!」
すると、腹の前辺りから……来るっっ! セラフ-NO.1を後ろから抱えて、横に跳んだが、判断が遅かった。セラフ-NO.1の脇腹を掠った。
「あっつぅっ!!」
「ごめん、レティ! 判断が遅れたっ」
「は、判断って何の?? カオル、攻撃がどこから来るのか……分かるの?」
「う、うん……分かる」
「そうなの?! それはどんなふうに??」
「攻撃が来るところが……静電気がくるように、チリチリと痛くなるんだ」
「なら、話が早いわッッ……次に攻撃が来る時、場所を教えて! 次の攻撃で終わらせるわっ」
俺は集中した。すると、今度はレティの頭上に感じた。すぐさま、
「レティ、お前の頭上だっ!」
すると、迷う事なく光剣を頭上目がけて、刺しに行った。予想通り、バーサーカーはその姿を現したが、腹に突き刺しただけで、粉砕とまではいかなかった。それでも一撃を喰らわせる事は出来た。
すぐに地中へと潜り、地鳴りのするような雄叫びを上げたバーサーカーはやがて静まり、また不気味な静寂が辺りを包んだ。
しかし、時間が流れると共にセラフ-NO.1は肩で息をし始め、体力に限界が訪れようとしていた。二ヶ所の負傷にジワジワと体力を削る様な、嬲り殺すかのようなやり方に、心底腹が立った。でも、それがバーサーカーだ。ヤツらに正常な精神の持ち合わせなどある訳がない。どうするべきなのか……。そう考えていた時に、フッと思いついた。それはリアの言葉だった。
「レティ! その、良かったら光剣を貸して貰えないだろうか」
「何を言ってるの? OHC戦闘スキルはその本人にしか使えない能力なのよ??」
「俺にはOHC戦闘スキルがない。だからこそ、もしかしたら……」
「そんな扱えるのか、扱えないのか分からない状況の中で、危険を冒してまでする事じゃないわよッ!」
すると、今まで黙って戦況を見ていた司令室から
「レティ、光剣をカオルに渡してみるんだ」
「エッ!? ……ッ、Yes,sir」
レティが差し出した光剣に初めて触れると、とても眩しい光を放った。次の瞬間、怒りとも苦しみとも取れる雄叫びを唸らせながら、バーサーカーが地中から飛び出してきた。
俺はすぐさま反応し、飛び出してきたバーサーカーを目がけて、一太刀、光剣を振るった。バーサーカーは動きを止め、ゆっくりと崩れる様に粉砕していった。これも今まで見た粉砕とは全く違っていた。何が起こっているのか、自分でもよく分かっていなかったが、厄介なバーサーカーを倒す事が出来た安堵感は押し寄せていた。
レティは満身創痍の中、目の前で起きたその光景に呆然と立ち尽くすしかなかった。一体、何が起きたというのか……。二人とも訳が分からず立ち尽くしていたが、帰還命令が出て、レティを支えながらとりあえず施設へと戻った。
訓練施設へ帰還したと同時に、倒れてしまったレティは回復室へと運ばれ、俺が呼ばれた司令室は動揺と驚きの騒めきが広がっていた。それもそのはずだ。今までの研究では、OHC戦闘スキルはひとりに一つのスキルで、しかも本人にしか扱えなかった。
例え、能力が高くても、他のサーヴァントのOHC戦闘スキルを別のサーヴァントが使用するという事は出来なかった。別のサーヴァントが使用しようとすれば、OHC戦闘スキルは消えてしまい、扱うにも扱えなかったからだ。
すると、ロルフ師匠が喜びの声を上げた。
「カオル! よくやったな。うまくいって良かった!」
「でも、何で……」
「お前のレゾナンスレートはSランクだ。そして、スキル無し……。お前が言った通り、スキル無しだからこそ様々なスキルが使い熟せるのではと私も予想していたから指令を出したんだが、その通りだったようだな。しかも、光剣を握った時に放ったあの光は、バーサーカーにとって苦痛そのものだったらしい。弱点になるぞッ!!」
「まだ……よく理解が出来なくて、思考も追い付かなくて……」
「ああ、突然の事で頭の整理が追いつかんだろう。この後はゆっくり休んで、また明日、話をしよう」
「はい……、すみません」
「いや、謝る事ではないぞ。お疲れだったな、ゆっくり休め、カオル」
「……はい」
それからどうやって部屋に帰ったかも覚えてなく、着替えもせず、風呂にも入らず、レゾナスーツを着たままベットへと倒れ込む様に寝てしまっていた。
朝の点呼まで目覚める事はなく、……そして何よりも、あの毎日見ていた悪夢もその日を境に見る事はなくなり、久方ぶりにグッスリと深く眠る事が出来たのであった。
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