5 得体の知れぬ敵
サーヴァント初搭乗から一ヶ月が過ぎようとしていた。まだ通常の訓練だけだけれど、以前よりも精力的に取り組んでいた。今までは何の意味があるのかと斜に構えて、深く考えずに行動していたが、違う角度でモノを見れるようになってからは世界が違って見えて、毎日が楽しい。
今日は知識学のバーサーカーについての第3講座だ。ニコライとクイル、それにカイルもいる。俺は今までバーサーカーについての事を詳しく知ろうとはしなかった。だが、ヤツらは何処からやって来て、どうやって仲間を増やしているのかが、ふと気になった。
「なぁ、ニコライ。バーサーカーの基地みたいなのってどこにあるんだ? 毎回、神出鬼没だからさ、どこからどうやって出てくるのか、予測出来たりはしないのか?」
「その解明は進んでないな。ただ全てのバーサーカーは地中から出て来るという共通点はあるんだ。浮遊バーサーカーでも必ず地中から出て来るらしいから、地下に基地というか、根城が存在するのではないかと言われている」
「地下……」
「だから、レーダーを配置したり、追跡装置を付けてみたりしたらしいが、ある一定の所で必ずデータが消えてしまうから、分からないままらしいんだ」
「どんな探知にも残らないまま、という事なんだな」
「そういう事だ……」
――ヴゥー、ヴゥー、緊急司令! 緊急司令! バーサーカー出現。座標コード3523-5010-131! イレフト・キリーギルは直ちに出動せよ――
「カイル、クイル、カオルっ! 司令室に急ぐぞっ!!」
「「「おう!」」」
司令室に行くとフロントスクリーンに大きく戦闘状況が映し出されていた。今回は単体の出現で、イレフト・キリーギルの第11戦士チームが戦闘に出ているらしい。チーム人数は必ず8人で構成されている。
だが、このイレフト・キリーギルは……、全部で7名しかいない。先の戦闘で、陰に潜んでいたバーサーカーの不意打ちを喰らい、サーヴァントは引き千切られ、頭部を潰されてしまい、中にいた搭乗員のベアーズは亡くなってしまったのだ。
亡骸を回収できたのは良かったが、人とは判別できないほど損傷が激しかったらしい。だが、イレフト・キリーギルのメンバーに悲しむ暇など与えてくれない。それが戦士の宿命だからだ。
「……なぁ、なんか、このバーサーカーおかしくないか?」
ニコライが考え込むように言った。すると、カイルは、
「そうか?? まぁ、タラタラと動きが鈍くて、レベルの低い個体なんじゃねぇの?」
「……いや、コイツ……イレフト・キリーギル全体の動きを確認してないか?」
「そんなことあるかよ。バーサーカーに知能はないはずだし」
「そうなんだが……。……そもそも、この前の不意打ちも納得がいかないんだよ。知能がないのに、陰に潜むなんてことが出来るとか。うまく言えないけど、なんかおかしいんだよ、この前から」
すると、今まで動きの鈍かったバーサーカーが突如として、瞬間移動を使ってきた。しかも、空間も移動出来るらしく、イレフト・キリーギルのメンバーは翻弄されて、統制が取れなくなってきていた。
今までのバーサーカー、つまりこれまでに解明されてきたバーサーカーは浮遊や単調攻撃、集団攻撃などで、力の強さに違いはあれど、今回のような作戦を考えて動くバーサーカーは初めてだった。フロントスクリーンを食い入るように見つめ戦況を見守っていた時、
「あぁっ!」
俺は思わず声を上げてしまった。
隙をつかれ、一体のサーヴァント腹部をスピラーブルに変化したバーサーカーの腕が貫通していた。スピラーブルという腕がドリルのように変化をするなども初めてで、とても厄介なバーサーカーだと感じた。それにバーサーカーの弱点はまだ解明されてはいない。現段階では粉砕か、頭部中央奥にあるセッレ細胞を破壊して倒すしか方法はないと、先の知識学で言っていた。
倒れたサーヴァントの回収は出来たが、すぐに搭乗の解除をする訳にはいかない。仲間同士で抱えながら、戦闘を行っていた。
クイルが悔しさを滲ませながら、
「接近戦は無理だし、俊敏に動くし、空間を移動するし……どうやって倒したらいいんだっ!」
その時だった。アイオン-NO.4が突如として現れた。
「「「「リアッ!」」」」
4人は同時に名前を叫んだ。
「何でリアが……」
ニコライは動揺した声を漏らす。すると、クイルが、
「そうか! リアのOHC戦闘スキルは時止めだ!! あのバーサーカーを止めて、一気に攻撃を仕掛けるつもりなんだ」
「だけど、チームとして動いた事がないのに……大丈夫なのかッ……」
ニコライは心配の方が先に立つ。するとカイルが、
「リアなら大丈夫だろ。周りをよく見て、阿吽の呼吸を感じとれるだろうし。見てみろ! 訓練生とは思えないほど堂々としてんじゃん」
リアは、頭に装着されているクラノス横にある通信機でサーヴァント全体に連絡を伝える。
「私の時止めは三秒なので、その間に粉砕かセッレ細胞の破壊をお願いします。こちらに近付いて、攻撃を仕掛けてくる瞬間を狙って、発動させますので、よろしくお願いします」
ジリジリと、膠着状態が続いた次の瞬間、アイオン-NO.4の背後にバーサーカーが現れた!
「ティーブン」
リアは冷静にスキルを発動させたが、Cランクである彼女の時止めは3秒のみ有効であるため時間が短い。それに他のサーヴァントはアイオン-NO.4から少し離れていたため、一撃を喰らわせたのみで消滅には至らなかった。バーサーカーはすぐに地中に隠れてしまい、どこにいるのか分からなくなってしまった。すると、司令室のロルフ師匠から
「直ちにリアの周りに集まり、次の攻撃に備えろっ!」
全サーヴァントがアイオン-NO.4の周りに集合しかけた時。倒れた戦士を回収し、担いでいたサーヴァントの頭をめがけて、地中から速いスピードで何かが飛び出して来た。それはスピラーブルに変化させたバーサーカーの腕だった。
「ティーブン!!」
少し離れた場所から、OHC戦闘スキルである投玉器により明玉が飛んできた。バーサーカーの体は地上に出ていなかったため、腕だけの粉砕となったが、痛みがあったのか、バーサーカーは地中からこの世のものとは思えない雄叫びを上げた。その雄叫びは地面をも揺らすほどの咆哮だった。
その後、静寂の戻った大地。不気味さの漂う静けさの中、迎撃に備えていたアイオン-NO.4の正面に突如として現れた。
「リアッ!!」
ニコライが叫んだ。
「ッ……、ティーブンッッ……」
バーサーカーの残っていた片腕がスピラーブルに変化して、アイオン-NO.4の肩を貫通させていた。すぐさま、他のサーヴァントが光斧を振り翳し、粉砕した。厄介なバーサーカーを倒すことが出来たのだった。
「やった!」
俺は目の前の出来事だけに囚われていて、アイオン-NO.4の様子がおかしいことに全く気付けていなかった。すると、ニコライがまた叫んだ。
「リアァアアーッッ!」
アイオン-NO.4は大量の義血を吐き、その場に倒れてしまった。義血とはサーヴァントの体に巡っている循環型活動成分液の事を指す。それは人間の血液と同じように体内を巡り、サーヴァントを動かす原動力となっている。
中にいるリアとサーヴァントは一心同体だ。肩の貫通もリア自身に出血はないにしても痣と痛みは必ず残る。アイオン-NO.4が大量の義血を吐き倒れたという事は、中にいるリアは吐血をして意識を失っているという事を示していた。
すぐさま、非戦闘員の回収チームがアイオン-NO.4を緊急解除をし、中にいたリアを救い出し、すぐに基地へと帰還させ早々に戻って来た。
司令室ではその様子が映し出され、真っ白で意識のないリアは担架で運ばれていた。心配そうにソワソワしていたニコライはリアが到着するとすぐに司令室を後にし、リアの元へと行ったのだった。司令室全体が騒めき、落ち着きのない状況だったが、ロルフ師匠はすぐさま指示を出した。
「ファエルはどこだっ! ファエルを呼べ!! 負傷したサーヴァントは、バルダサーレ-NO.3からの回復スキルを待てっ! ガイア、戦闘の反芻記録を確認しろ! あとは任せた! ルカルは回復室にいるのか?! 確認してルカルを呼べッッ。私もすぐに回復室へ向かう」
「Yes,sir!」
司令室の中はバタバタと慌ただしく動いていた。バーサーカーは襲撃から暫く経たないと出現はしないため、束の間の休息となるのだが、その間に戦闘記録を見返し、新たな作戦を考え、殲滅に向けて研究せねばならない。
今回のバーサーカーの出現により、新しい問題が追加された様に思う。この戦闘で、今までの常識はずっと通用はしないという現実を叩き付けられたからだ。だから、常に考え、研究せねばならない。
ここにいる全員、同じ仲間で互いに助け合い、そうして初めて実戦に立てるのだ。俺はそれに気づき、自分の愚かさと身勝手さを痛感し、恥じる思いが込み上げてきていた。
―― ひとりでは必ず限界が訪れる ――
本当にその通りだ。それは俺がやるべき事、考える事の大切さを教えてもらい、周りを見る事ができ始めてきたからだろう。でもそこに辿り着くまで、ひとりでは到底難しく、改めて仲間の大切さを痛感した。それを一番はじめに、優しく教え導いてくれたのはリアだった。
その優しかったリアはなかなか目を覚さず、不安に押し潰される日々を俺は過ごした。リアが目覚めたという朗報が届いたのは、その戦闘から2週間が経っていた。
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