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30 地下へ続くもの

「……あれはブラック・アウェイクニングだったのか?」

 

「いや、バッドエンパシーだろう。まだそこまでではない」

 

「だが、バッドエンパシーでも危険だッ!」

 

「……そうだな。引き続き、見張っておく必要があるな」

 

「だが、ブラック・アウェイクニングしては誰も止められないとッ……」

 

「方法がない……訳ではない。()の方に……お聞きしてみてくれ……」

 

「……引き返せなくなったらどうする気だ? ……最悪の場合は……」

 

「……分かっている。そうならないように……する」

 

 薄暗い廊下で2人が地下へと向かい、話をしている。その2人が身に付けている指輪とイヤーカフには、紋章となる神空鳥(しんくうちょう)とリース、それに円が7つ描かれていたのだった。

 

 ハッと目が覚めたら、俺の部屋の天井が見えた。

 やけに具体的な……。神空鳥? 何故、あの鳩がそう呼ばれるのか、俺は何故理解をしたのか分からなかった。それにあの声の主たちは多分……。いろんな事の混乱はあったが、ただの夢なんだろうと俺は寝ぼけ眼の自分に言い聞かせ、また眠りについたのだった。


◆◆◆◆◆


 スゥント・キリーギルの模擬チーム戦闘訓練から1ヶ月が経とうとしていた。相変わらずバーサーカーは神出鬼没だが、進化には至らず、同じようなヤツが攻めて来ている。しかし、こちらも分析と研究によって、対策を立てていたため、戦闘による荒廃の広がりはひとまず止まっていた。


 バーサーカーの出現が比較的少ないだろうと思われる期間に、時間が空いている者は非戦闘員と共に荒廃した場所や辛うじて残っている森林の保全、荒地の整備などに向かう。今日は朝早くから森林の保全と、空中庭園である程度に育てた苗木や植物を植え、森林を拡大する作業となる。庭園に置いてある堆肥も積み、それぞれの箇所へと運ぶため、結構な重労働となる。

 

「ほら、クイル! さっさと運んでくれよ!! 進まないんじゃ腕が重くなって大変になるだろー」

 

 俺はクイルを急かした。

 

「……すまん。ッヴェッ! ……は、吐きそう」

 

「な、なんだよ?! なんか悪いものでも食べたのか?」

 

「……ち、違う。……堆肥の、臭いが……苦手なんだ」

 

「えっ?! そうなのか? 普通の堆肥だけどなぁ。むしろ、臭い少なめのような……」

 

「強烈なのに臭い少なめとか有り得んッッ……ウェップ」

 

「大丈夫か?! 俺が代わりに持って行こう……」

 

「は、吐ぐぅっ!!」

 

「ええっ?!」

 

 口元を抑え、森の中へ入っていった。俺は呆然と見送ってしまったが、心配になり、慌てて追いかけたのだった。クイルを見つけ、優しく背中を摩ってあげたのだった。ひとしきり吐き終えたクイルだったが、スッキリはせず、大木の根元で休むよう伝えたのだった。以前、治癒室が苦手だと言っていたが、吐きはしなかった。クイルは臭いに敏感のようで、堆肥の臭いそのものが苦手なのだと理解し、俺はクイルの分まで持って行くことにしたのだった。


 堆肥を運び終え、クイルの元に戻ると、大木の根元に居たはずのクイルがいなかった。慌てて探し回ると、茂みに隠れた警戒態勢のクイルがいた。音を立てず、近づくと、

 

「うぉぅッ?!」

 

「あっ、ごめん! なんか警戒態勢のようだったから、静かに近づいて行かなきゃと思ってさ」

 

「……焦ったぁー。まぁ警戒してたっちゃーしてたんだけどな」

 

「なんかあったのか? 肉食動物とかか??」

 

「いや、違う。……カオル、変な音がしないか?」

 

「音?」

 

「そう!」

 

 俺は耳を澄ませ、集中する。

 

「どうだ?!」

 

「んー……特には……。……んんっ?」

 

「聞こえたか?!」

 

「う……ん、微かだけど、……なんか耳に膜が張ったような籠った音で、……ドットン、ドットンって……」

 

「それだよ!! 吐いた後も気持ち悪くて、寝転んでたらその音が聞こえてさ」

 

「なんだろう……懐かしい音のような気もするし、気持ち悪い音でもあるような……。それに、なんか一定のリズムを刻んでいて、……心臓……のような」

 

「な? 気味が悪いだろ?!」

 

「これさ、報告した方が良いんじゃないか? 森林には不自然な音だよ。俺、ニコライに言ってくるよ。クイルは……」

 

「俺は一気に緊張したせいか、気分は持ち直したから、ここで様子見ながら警戒しとくわ! カオル、頼むな」

 

「分かった。すぐに戻るからひとりで無茶はするなよ!」

 

「おう!」

 

 それからすぐにニコライの元へ行き、現状を報告した。すぐさま司令室へと連絡をしてくれて、ガイア副総督が現場へとやって来たのだった。

 

「おかしな音がするというのは、どこだ?!」

 

「こちらです」

 

 ニコライと俺が案内をし、クイルを見つけた。しかし、まだ警戒態勢のまま、様子を伺っているようだった。ガイア副総督、ニコライ、俺で静かに近づき、クイルもこちらに気付いた。

 

「……どこから音がする?」

 

「……下からです」

 

「下……。地中からか?!」

 

「……はい」

 

「なるほど……。バーサーカーの可能性があるな……」

 

「……はい。ただ、ヤツには心臓はありません。脈打つような音を出すようには思えなくて。……ですが、」

 

「掘ってみるしかないな……。森林を壊すのはいただけないが仕方ない。ニコライ! 戻り、司令室へ連絡を!! 急ぎ、ローディングを持って来させろ」

 

 ローディングとは超大型掘削機の事を指す。森林には入りにくく、森林を壊してしまうため不向きなのだが、放置出来ないとガイア副総督は判断したのだった。最低限の掘削作業の場を確保しなければならず、広範囲の伐採をおこなう。スゥント・キリーギルメンバーの他、非戦闘員も一緒におこなった。


 程なくして、ローディングが到着し、掘削作業に取り掛かった。1時間程、掘り進めたところで、微かだった音は脈打つようにハッキリと聞こえてきたのだった。掘り進めると、最初に当たったのは半円のような形をした硬い強化ガラスのようなものだった。そこからローディングでの掘削作業を止め、今度は各々が手作業で、その周りを傷つけないように掘り進めると、どよめきが起こった。

 

「これはッッ……!!」

 

 現れたのはガラスケースの中で粘液のようなものに浸かった孵化前と思われるバーサーカーだった。ヤツはまだ眠っているようだった。慌てたガイア副総督は司令室へと連絡したのだった。そこから、ロルフ師匠にルカル室長、それに研究者たちが集まり、地中からそのガラスケースを引き上げることとなった。大型クレーンのラフターを3台配置し、ガラスケースにはケーブルが巻かれ、少しずつ引き上げていくにつれ、スノーグローブのような半球形のものが見えてきたのだった。下には時限装置のような時を刻んでいる機械装置の様な台が現れ、更にその下には人間の身長ほどあるかなり太いケーブルラインが繋がっていたのだった。残り175時間となっていて、カウントダウンしている。多分、1週間後辺りに地上へと出てくる予定だったのだろう……。


 ひとまず刺激して起こさぬように、強度のある台にガラスケースを設置し、引き上げた。脈打つ音はそのケーブルラインから聞こえてきていた。すかさずルカル室長が、

 

「なるほどな……」

 

「なるほど、というのは?」

 

 ロルフ師匠が尋ねた。

「こいつは、胎内培養装置だ。要は子宮の役割をしていて、この中でバーサーカーが育つんだ」

 

「えっ? でも機械……ですよね、バーサーカーって」

 

 俺はルカル室長に質問した。

 

「そうだ。……まだ仮説だったんだが、多分この培養液には成長と共に機械分子を大きくする成分がこのケーブルラインから送られて来ているのだろう。バーサーカーはサーヴァントと同じ構造だろう。サーヴァントは循環型活動成分液を全体に流し、人間を核にして動いているのだが、コイツはセッレ細胞を核にして内蔵機械を操り動くんだ。循環型活動成分液を純度が高い結晶にしたものに何らかのAIプログラムを組み込ませたものが……セッレ細胞だ」

 

 大きなどよめきが起こった。

 

「……最近仮説として立てたばかりなのだが、概ね間違いはなかったな……。一体、これはどこで作られているんだ……」

 

「あの、セッレ細胞が人間の役割を担い、動かしているという事でしょうか? 人間と同じ……という事ですか?!」

 

「……そういう事だ」

 

「……じゃあ、ミハチェの使用が……」

 

「それは不可能だろうな。細胞と言っても、人間と同じ細胞ではないからだ。さっきも言ったようにサーヴァントと同じ人造人間を機械的に強度を上げさせたものがバーサーカーだからだ。ミハチェでは回復不可能だ。核であるセッレ細胞が壊れれば動きも封じられ、痕跡を残さないように粉砕設定されているんだろう」

 

 どよめきが起こった。構わず俺は、

 

「でも、模擬戦闘訓練のバーサーカーは同じじゃないんですか?! 今になって分かったっておかしいッ……」

 

「アイツらにはセッレ細胞と見せかけた人工知能装置を搭載していたんだ。だから、少しだけ話せたり、作戦を考えたり似せるくらいにはできたんだ。そこを壊せば、粉砕や停止が出来るようにも設定した。本物のセッレ細胞とは違うが、類似させてはいるはずだ。……おい、ロルフ……。こいつはかなりの腕のある何かが裏にいるぞ。……親玉を潰さなければ状況は変わらないな……」

 

「そうだな……ならば、この装置の下に付いているケーブルラインを辿る事にしよう。その先に……必ず何かあるはずだ」

 

 ロルフ師匠の言葉を受けて、ガイア副総督が考える。

 

「誰に行かせるか……だ」

 

 間を置かず、

「俺が行きます!!」

 

 俺は迷う事なく手を挙げたのだった。

 

「いや、お前はまだ訓練生だ! 何かあっては対処は出来んだろうが?!」

 

「……それはみんな同じじゃないですか? それにヤツらの根城を壊す事が出来れば、希望がかなり見えてきます。行きたいんです!!」

 

「カオルひとりでは心配なので、俺も一緒に行きます!」

 

 次に声を上げたのはニコライだった。

 

「じゃあ、俺も……」

 

 すかさずクイルも声を上げたが、

 

「何人も行くと、敵も気づいてしまうかもしれない……2人くらいが丁度いいんだよ。クイルはこのカウントダウンを止める方へ力を入れてくれ。カオル、俺でいいか?」

 

「ニコライ、ありがとう。心強いよ。一緒に行こう!」

 

 するとロルフ師匠が全隊員に向かって、

 

「では、我々は地上でこのカウントダウンを止める作業に! ニコライとカオルにはケーブルラインの先にある探索を! それぞれの任務を全うしよう!!」

 

「Yes, sir!」


 日も傾き始めたため、次の日の朝早くに出発となった。スゥント・キリーギルのメンバーたちに手伝って貰いながら準備を整え、ニコライと俺はケーブルラインの先を探るため、地下へと進む新たな使命に燃えていた。

 

 その先に待ち受ける衝撃の事実を知るのは、かなり経ってからの事となる。導かれる運命だったんだなと、俺は彼女にそう打ち明けたのだった。

 

――終――

これにて、Artificial human 〜03〜は完結とさせて頂きます。最後までお読み頂き、ありがとうございました○┓))ペコリ

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