3 不甲斐なさと一筋の希望
レティはセラフ-NO.1に、俺はカテドラル-NO.8にそれぞれ搭乗した。
「セラフ-NO.1、カテドラル-NO.8、共に搭乗完了! クラノス通信機、解放使用! 出動まで5・4・3・2・1、……GOッ!!」
行く先は模擬戦闘訓練場となるため、透明のアクリルドーム型の荒地へと出たのだった。バーサーカーはどこから……背後をすでに取られていたっ!
そこに容赦などなく、すぐに殴られて飛ばされ、俺は何の反応も出来なかった。激しい衝撃と激痛に耐えながら何とか体勢を立て直し、投げられた方を見たが、そこにバーサーカーはいなかった。素早いッ!
「カオルっ! 上っっ」
言われた通りに上を見ると、すごい速さの赤黒い物体が、
―― 上からの攻撃は勢いが違うから反則だろッ!! ――
そう思いながら横に転がって行った。地面が軽く凹んでる。これをまともに喰らっていたかと思うと、ゾクッとした。バーサーカーの方はその行為に痛みを感じている様子もなく、体にも負担はなさそうだった。
表情は分からないため、詳しい様子は分からないけれど……、俺を痛ぶり、殺せる事を心から楽しんでいる事だけは感じられた。
―― このっ、クソったれがッッ! ――
俺は打撃の手を休める事なく、繰り出した。初対峙したバーサーカーは全体的に赤黒く、両目と体の紋様が同じ蛍光ピンクのような発色をしていた。ロブスターのような2つの腕に、頭・胴とあって、脚はなく浮遊している。しかも、頭上には大きな輪がついている。こんなバーサーカーを見るのは初めてだった。
攻撃が落ち着いて姿を現したその個体を見て、レティは声を上げた。
「浮遊バーサーカーは一番、厄介よッ! 頭部中央の奥に……」
「うるっせぇ! どれも一緒だっ!!」
俺はバーサーカーに向かって、正面から突っ込んで行った。
「人の話を……ああッ、もう! あんの、分からず屋ッ!!」
考え無しに突っ込んで行く俺に、苛立つ感情が口に出るレティ。
案の定、俺の攻撃は弄ばれているかの如く見切られていて、暫く攻撃を繰り出していたが擦りもせず、こちらの体力を削いできているように感じた。それも分かっていた。分かっていたけれど、それでも正面突破しか……俺にはなかった。
単調な攻撃を繰り返していたせいで隙がうまれ、ガラ空きになったボディへ強烈な攻撃を喰らいそうになった時に、光剣がバーサーカーの体を貫通した。それでも致命傷とはならず、少し動きが鈍くなっただけで、まだ攻撃を仕掛けてきそうだった。動きの鈍くなったバーサーカーを前に、レティが俺に言葉を放った。
「カオル……きっと、あんたとは誰も訓練を組みたがらないと思うわ……。それはスキル無しとか能力が低いからとかではなくて、あんた自身の問題だからよ。人の話は聞かないし、考えなしに突っ込むだけ。犬死したいのなら、ひとりでやってちょうだいッ! 無駄な戦いに大事な仲間たちを巻き込まないでッッ!!」
怒りを含んだその言葉の後に、煌々と光った剣はバーサーカーを木っ端微塵に粉砕し、模擬戦闘訓練に終止符が打たれたのだった。
「……強い……」
俺はなす術なく、呆然とその光景を見るしかなかった。
司令室に戻った俺たちは無言のままで、レティはまだ怒りが収まらないのか、ロルフ師匠の静止を振り切って、司令室を走って後にした。
「カオル……」
「……」
自分の不甲斐なさと悔しさと、いろんな感情が込み上げ、ぎゅっと唇を噛み締めて赤くなっている。戦えない愚鈍な訓練生、それがお前だ……どこからか、俺を見下す声が聞こえてくるようで耳を塞ぎたくなった。今は何も聞きたくないッッ!! 耐え難い苦痛が押し寄せ、さらに唇を噛み締め血が流れてきていた。それを見たロルフ師匠が、
「カオルッ、やめろっ! 自分自身を傷付けても問題の解決には、なりはしない!! ……何故、レティの話を聞かなかった?」
「俺にはOHC戦闘スキルがありません。接近戦しかないから、無我夢中で倒しに行きました。それの何が悪いんでしょうか? アイツの話を聞いていたら、僕でも倒せるんですか?! 無意味な事をする時間なんか俺にはないんですっ」
「……何をそんなに生き急ぐんだ、カオル。それではレティが言ったように犬死するだけだ」
「どうせ俺が死んだって、代わりの優秀な奴らはいくらでもいるっ! 俺がひとり死んだところで何もッ、変わらないッッ!!」
パシィーンッッ!!
乾いた音が司令室に響いた。何が起こったのか最初は分からなかったが、段々と左の頬が熱くなり始めた。
「お前は暫く、A・リアシュリング サーヴァントの搭乗は禁止だ! 通常訓練だけを行っておけッ!!」
踵を返し、ロルフ師匠は司令室を後にした。たくさんの指導や訓練を受けてきたが、こんなふうに怒られることは今まで一度もなかった。その様子を見ていたガイア副総督が、
「……カオル。自分の命を粗末に扱う者に、他の仲間たちの命は預けられない」
「粗末に扱っているつもりはないっ!」
「お前の先ほどの訓練のやり方では……その説得力はないな」
「じゃあ、どうすればいいんだっ! スキルも使えない者はどうやって戦えばいいんだっ! そもそも戦いに出てはいけないって言うのかっ?!」
「そうは言ってないだろ……。だから、レティにもロルフ総督にも話を聞けと言われたんだ。お前のレゾナンスレートはSランクで、最高のものだ。スキルは無いにしても、この訓練でその解決策を見い出そうと、ここにいるみんなが協力して考えようとしていたのに。それをお前は人の話も聞かず、自分から無駄にした。ここにいる全員の気持ちや携わる時間を無駄にしたんだっ! それを分かっていないだろ」
「そんなものッ、俺は頼んでいないッッ!!」
「だからダメなんだ、お前は。……ひとりで戦って、勝てるほどバーサーカーは甘くない」
「レティは出来ていた! だから、俺も……」
「お前はレティの血を吐くような努力を知らない。あそこまで戦えるようになった過程をお前は見ていないから、そんな簡単にモノが言えるんだ」
「……」
「頭をちゃんと冷やすんだな」
司令室を後にしても、感情の昂りは収まらなかった。
何が悪いんだ、何がっ! 俺の戦い方がマズかったのは分かるけど、じゃあ他にどうやって戦うんだよっ!!
ガンッッ!!
両手で廊下の壁を殴り、そのまま頭を壁につけて気持ちを落ち着かせようとした時だった。
「カオル?」
顔を上げると、リアが駆け寄ってきた。シルバーヘアーの容姿端麗な彼女はリアと言って、アイオン-NO.4に搭乗している。レゾナンスレートはCランク。レゾナスーツのカラーはレッドとホワイトで構成されていて、OHC戦闘スキルは時止めとなる。彼女はニコライについで次年長者になる。美人で綺麗で優しくて、いつもふんわりと笑っている。……ただ残念なのは、ニコライが恋人という事実だ。
「どうしたの? 壁を叩いてはカオルの手が痛いわよ」
「……俺の手なんか」
言い終える前に、そっと手を撫でてくれていた。
「自分を雑に扱ってはダメよ……。このカオルの手はこれからたくさんの人を救う手なの。貴方がいなくなるだけで、どれほどの人たちがバーサーカーによって無惨に殺されて、亡くなっていくか……考えたことはある?」
「おかしな事を言う。俺に人を救う力なんかはない……」
「そうね、今はまだね。でも私たちはライドマスター戦士として選ばれた訓練生。それは第15戦士、みんな同じなのよ。その戦士たちによって、守れる命があるの。だから、誰ひとりとして欠けてはいけないのよ」
「……」
「だからね、お互いの協力がとても大切になってくるの。……カオルは何故、サーヴァントに乗りたかったの?」
「俺は…………」
答えたかったけれど、答えられなかった。
「初心を忘れてはダメよ……。スキルが無くても、必ず打開策はあるはず。それをみんなが考えてくれているって、素敵な事だと思うの。だって、戦闘の作戦もひとつだけとは限らないじゃない?! 何通りものシミュレーションがあって、一番良いものを実戦で使う訳じゃない。私を含め、他の人もOHC戦闘スキルは与えられたひとつだけしか使えないけれど、スキルが無いからこそ、そこが一番の強みになるかもしれないじゃない?」
「スキルが無いからこその……強み……?」
「そう。それにレゾナンスレートはSランクよ! それはとても素晴らしいことだわ!! ……自分の可能性を自分で潰してはダメよ。出口の見えない迷路に入り込んで、迷って辛い時こそ逆転の発想が出来なきゃ……」
「逆転の発想……?」
「うん、逆転の発想! 型通りの答えの道ではなく、その間にある光が差す抜け道を見つけなきゃといえばいいのかしら……」
「……そんな道、ある……かな?」
「それは、カオル次第じゃないかしら。まず自分で探す努力をしなきゃ何事も始まらないんじゃないかと思うわ。与えられた答えの表面しか捉えず、終わりと捉えるのか、始まりと捉えるのか。……これからカオルはどうしたいの?」
「……終わりにしたくはない」
「じゃあ、……まずは自分の弱点、苦手な事の克服から始めてみてはどうかしら? きっとそこにはいろんな答えが落ちていると思うわ」
「それはなぜ?」
「嫌な事だから避けていたでしょ? 見ていないからよ」
「……」
「見ていなかったものを意識的に見るようになった時、そこに新しい道が開けてくる。……その可能性はあると思うの」
「……なるほど」
「それにカオルはSランク。それで終わりなはずがない気がするし、きっと何かあると思うのよ。だから、私はカオルの無限大の可能性を信じて、期待しているの! ふふっ、重たい話だったらごめんなさいね」
そう言ったリアの顔は、瞳がキラキラと輝き、洗練された綺麗な容貌が眩しかった。優しく諭すように励まし、導いてくれる人など俺には今まで居なかった。不甲斐ない自分の可能性を信じて、期待していると言ってくれた人がいる。そのありがたさと心強さに気持ちを持ち直し、
「……うん、やってみるよ。リア、ありがとう」
嬉しさに思わず、ギュッとリアの手を握ったのだった。すると、
「まぁ! ウフフ、どういたしまして。……カオル、一緒に頑張りましょうね」
そう言ってリアはフワッと俺を抱き寄せ、幼子をあやす様に背中を優しく撫でてくれるのだった。
「うん……。本当に、ありがとうっ……リア」
嬉しさに思わずリアを抱きしめ返し、感謝の意を示したつもりだったのだが、それが後にとんでもない訓練に巻き込まれる事になろうとは、その時は予想もしていなかった。
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