23 仲間の命
第15戦士の模擬チーム戦闘訓練が行われる一週間前、メンバーは比較的落ち着きを取り戻し、通常訓練に励んでいた。ファエルも自分で察知能力を上げていき、俺の方が遅れを取っていて、何とか追い付いている状況となっていた。二人で能力を上げていけば、チーム戦力の強化となるため、必死で頑張った。訓練終わりのクールダウンを行っていると、
――ヴゥー、ヴゥー、緊急司令! 緊急司令! バーサーカー出現。座標コード5531-8030-313! トゥフティ・キリーギルは直ちに出動せよ――
「ファエル!」
「うん! 司令室だね!」
二人ですぐに司令室へと向かったのだった。
トゥフティ・キリーギルは第12戦士たちとなり、これがチームとして初陣となる。〝光〟の名称がつくOHC戦闘スキルの者はいないが、それぞれ戦闘に長けたOHC戦闘スキルを持っている8人である。
現在の本戦士はイレフト・キリーギルのみとなるため、新たな本戦士の育成が急務とされていた。そのため、トゥフティ・キリーギルは上達の兆しが見え、ガイア副総督の薦めもあり、初陣が認められたのだった。
司令室に着くと、フロントスクリーンには戦況が大きく映し出されていた。そこには黒い大きな蜘蛛のような体に、太く長い大きな四本の脚がついている。顔には六つの黒い大きな瞳に口は裂けたように広がっていて、牙を剥き出しにしている。全体的に油虫のようなテカリがあり、気持ちが悪いの一言だった。
「なんって……気持ちの悪りぃー……」
俺は思わずその姿の気味の悪さを口に出し、ファエルは冷静に分析をおこなっていた。
「今までにこんなヤツ、見た事ないから、初めてのタイプになるのか。あの脚の先にある鋭い爪で攻撃してくる感じかな……と、なると接近戦は無理だし……」
独り言を呟きながら、戦術を立てるのだった。
戦場ではお互いに睨み合いが続いていたが、先に仕掛けたのはトゥフティ・キリーギルのステファンだった。彼は最年長でリーダーとなり、トゥフティ・キリーギルのまとめ役である。
彼のサーヴァントはクロハバキ-NO.1になる。OHC戦闘スキルは明苦無の大量生成だ。投げれば即座に手の内で生成され、使用回数は無限だ。サーヴァントのカラーは黒と藤色で構成されている。藤色とは日の国に咲いていたと言われている〝幻の藤花〟の色で、テオのバイオレットとは少し違う色をしている。
「バキーブラック!」
OHC戦闘スキルである明苦無が両手に現れ、ひとつふたつとすぐにバーサーカー頭部に目掛けて勢いよく投げられた。セッレ細胞の破壊を狙ったのだろう。真っ直ぐそのまま向かえば、セッレ細胞に到達するかもしれないと誰もが期待をした。
すると、口から何重もの強靭な糸を出し、二つの明苦無の攻撃を軽々と受け止めたのだった。それはすぐさま投げ返され、トゥフティ・キリーギルメンバー2名の頭部に命中した。それも中の搭乗者がいる部分を……。
2体のサーヴァントは力なく倒れ、
「ミナタッ! トキーユッッ‼︎」
ステファンの呼び掛けに応答はなかった。周りにいたサーヴァントたちはその声とともに動揺した。それもそのはずだ。スキルは消滅せず、敵がそれを投げ返してきたのだから。司令室にも動揺が広がっていた。
するとその隙を見つけて、バーサーカーは素早く移動し、脚の爪で攻撃を放ってきた。鋭い爪は次々とサーヴァントたちを串刺しにし、頭部ではなく、脚や腕、腹、背中など様々な部所を刺し、嬲り殺せるよう動きを封じようとしていた。サーヴァントたちは咆哮を上げている。焦ったクロハバキ-NO.1は、
「バキーブラックッッ!」
また明苦無を投げたのだった。
だが、それを軽々と受け取り、明苦無でひとり、またひとりと頭部を串刺しにしたのだった。2体のサーヴァントはまた咆哮を上げる事なく、力なくその場に倒れるのだった。これで4体のサーヴァントたちが動けなくなったのだった。
「カアーヤ……、カジタス……」
ステファンは自分の失態になす術なく、その場に項を垂れへたり込んでしまった。これでは統制が全く取れない。俺は生命反応に目をやると、4体とも反応なしでサーヴァントごと串刺しにされてしまっていた事を示していた。司令室からガイア副総督が、
「クロハバキ-NO.1ッ! 立てッッ!!」
クロハバキ-NO.1は何の反応も起こさなかった。その様を見て、戦意を無くした者には興味がないのか、残り3体に向かって、攻撃を始めたのだった。1体は脚の爪で頭部を串刺し、残り2体は口からの出てきた強靭な糸のようなものに頭部を掴まれ、跡形もなく潰されたのだった。これでクロハバキ-NO.1のみとなってしまったのだった。すると、
「クックックッ……」
バーサーカーが笑ったのだった。バーサーカーの知能が確認されたばかりなのに、言葉を喋れるようになったのかと、司令室はどよめきが起こった。
「た……たの……しいね。……たの……しいね」
地を這うような気味の悪い子どものような声を出し、〝楽しい〟と繰り返している。俺は怒りに震えていた。
「何が楽しいんだッッ! ふざけんなッ」
声は届きもしないのに、大声で怒鳴っていた。すると司令室にロルフ師匠が現れ、
「これがバーサーカーだ。カオル、忘れるな……絶対に忘れてはならない……」
無言で頷いた。すると、ロルフ師匠は、
「リア、レティ、クイル! 準備はいいか?!」
「「「Yes, sir!」」」
なんと訓練生である3人に出動命令が下されていたのだった。リア以外は初陣だ。
「「何で……」」
俺もファエルも絶句したのだった。するとファエルはロルフ師匠に喰って掛かっていった。
「何で3人なんですか?! 模擬チーム戦闘訓練もまだなのにッ、何でイレフト・キリーギルじゃないんですかッッ!」
「……イレフト・キリーギルでは無理だ、ファエル。コイツは多分、〝光〟でなければ……」
「多分? 多分ってなんですかッッ! なら、……なら、カオルはッ!? 何でカオルは行かせないんですか? 〝光〟が必要なら尚更ッ……」
「カオルにはまだ無理だッ!! この前も頭部を潰されたばかりで作動メインシステムの修復も完全じゃない! そんな状態で戦場には出せない。お前はカオルに死ねと言うのかッッ」
「ッ!! ……申し訳ありませんでした……」
「イレフト・キリーギルも〝光〟を持つ者は1人だ。他の訓練生にもいない。この3人が適任なんだ。そして、お前たちの後にもこの3人は少数チーム戦の訓練もしている。だから、任せるんだ!」
「……はい」
ファエルは黙ってしまい、静かにフロントスクリーンに向きを変えるのだった。俺は自分の僅かな気の緩みで出動が出来ない事を悔やんでいた。力になれそう時に力になれない情け無さ。この気持ちも絶対に忘れないと心に刻み、フロントスクリーンに目をやるのだった。
「たの……しい……ね、たの……しい……、……も、もう、……たたかわない? ……た、たたかわないのか?」
バーサーカーはクロハバキ-NO.1の周りを楽しそうに跳ねていた。
すると動きを止め、
「な、……なら、……バイバイ……」
太く長い脚の爪がクロハバキ-NO.1のパトリオット頭部に目掛けて刺されようとした、その時、
「ティーブン!」
アイオン-NO.4だった。時止めは3秒だが、セラフ-NO.1が素早くをクロハバキ-NO.1を回収し、その場を離れたのだった。
ズガァァーン!!
間一髪のところで、交わす事が出来たのだった。
「い、……いないねぇ、……いない……ねぇ」
バーサーカーは串刺しにしたと思われた獲物がいない事に訳が分からないようで、その場でクルクルと回るのだった。その隙を見て、ティート-NO.6は、
「リース!」
背後から光弓が、腰には5本の光矢が差さった箙が出現した。すぐさま、光矢を放った。しかし、またもや強靭な糸で掴んだ……かに思えたが、光矢を掴んでいるはずの糸はドロドロと溶け出し、ポトンと地面に落ちたのだった。
「……お、おちた。……お、おかしい……。……おかしい……」
すぐさまティート-NO.6は再度、光矢を放った。同じく強靭な糸で掴むのだが、ドロドロと溶けていくだけだった。バーサーカーにとって、溶ける糸は痛みを感じていないようだが、
「そ、それ……き、きらい……」
掴めない悔しさに怒ったのか、ティート-NO.6を目掛けてもの凄い勢いで突進してきた。すると、
「シャイン!」
「ティーブン!」
バーサーカーはティート-NO.6の前で止まり、レティは背後から光剣を振り翳し、バーサーカーのセッレ細胞を壊し、粉砕させたのだった。
「やったッッ!!」
カオルとファエルは手を取り合い、喜びの声を上げたのだった。それをキッカケに、司令室は歓声で盛り上がった。しかし、ロルフ師匠は冷静に指示を出した。
「ティート-NO.6はクロハバキ-NO.1を回収し、直ちに帰還せよ! リアとレティは非戦闘員の回収チームが行くまで、他のパトリオットたちを集め、そこで待機。周りの警戒を怠るな!」
「「「Yes, sir!」」」
ティート-NO.6は、すぐさまクロハバキ-NO.1を抱え、帰還するのであった。勝てた事だけに興奮し、トゥフティ・キリーギルメンバーの事を俺は考えていなかった。
自分の失態によって、仲間を失う事の辛さは想像を絶するものがある。一生、己を責め続け、重い十字架を背負う事となったステファンの今後が心配に思うのであった。
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