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22 幼馴染と罪作りなカオル

 俺は自分の失言を必死にリアへ謝った後、女性陣は退室し、ニコライとクイルに手伝って貰いながら隊服に着替えた。それから6人で休憩室へと行き、リアが俺のために食堂からレソンティーを持ってきて、残りのメンバーはそれぞれ自分の飲みたい物を用意して座ったのだった。

 

「それにしてもカオルは起きるのが遅かったなぁー。心配してたんだぞ!」

 

 クイルが言うと俺は、

「心配かけてごめんな。なんか、長い……夢を見ていたよ」

 

 それを聞いたニコライは、

「そうなのか?! それは……大丈夫だったのか?」

 

「うん、大丈夫。悪夢じゃない。俺の幼い頃の記憶だったように思うんだけど……。父親と母親と、……妹、かなぁ?? ハッキリと顔は見れなかったけど」

 

「……カオル。幼い頃の記憶がないの?」

 ファエルが聞いてきた。

 

「うーん、記憶がない……のかなぁ。時々、こうして夢を見て、〝あぁ、懐かしいな〟って事はあるんだけど、明確に記憶して覚えているのは施設で過ごしていた頃だけだからな。忘れているのかも。妹がいたなんて……。施設にもいなかったし、よく分からないよ」

 

「そうなのっ?! 私も懐かしいなぁって見る夢があるの。一緒だね!」

 

 ファエルは嬉しそうに言うのだった。同じような状況に俺は、

「ファエルも幼い頃の記憶はないのか?」

 

「うん。気付いた時にはこの上にある空中庭園で過ごしていたから。……戦争孤児だったみたいで、本当の両親も分からないんだよね。あ、でも、懐かしい夢も時々、見るんだよ! 私の場合は、なんか自分が大人の女性として動いているような感じのものばかりだから……前世の夢なのかなっとかね。まぁ、そんな事ある訳ないから、ただの夢なんだろうけど」

 

「へぇー……。いろんな夢があるんもんだなぁ」

 

 俺が関心していると、レティが、

「私もロルフ師匠に助けて貰って、四歳からこの上の空中庭園で過ごしてたの。クイルも同じなんだよ!」

 

「おう、聞いたぞ! 三人はお互い助け合って仲良く暮らしていた幼馴染とも」

 

「いやー……、仲良しか、どうかー……」

 

 横から歯切れの悪い物言いのクイルに俺は、

「えっ? なんだよ、仲良くないのか??」

 

「それはね、レティはうるさいから、私がいつもそれで怒るの! 少し年上なだけで、偉っそうに上からものを言ってくるから、ムカッてきちゃうんだよね!! 年を追うごとに険悪になっていってるの。今もまだ(・・)ね!」

 

 ファエルはすぐさま反応した。するとレティも、

「はぁー?! あんたねぇ、年上の人間の言う事は聞くもんでしょ?! クイルの事もナメてるし、小さい頃から可愛くないったりゃありゃしない!」

 

「あとから空中庭園に入って来た癖に何よッ! 先に住んでいたのは、私とクイル兄なんだよ。おかしくない?」

 

「後も先もないのっ! 年上の方が知識も豊富で経験も豊か! 従うに越した事はないのッッ」

 

「まーた、それ! たったの二歳差で、なんっっも変わらないってーの!! しかもお互い小さくて、知識も経験も豊富じゃないのにッッ」

 

 激化しそうな2人の口論に、ニコライとリアが宥めに入ろうとするが、聞く耳を持たず2人はまだ言い争っている。すると黙って聞いていた俺は、

 

「それは……レティが悪いだろ」

 

 その言葉を放つと、シーンと静まり返り、全員が俺に注目した。

「こういう場合はどちらかの肩を持つなどするのではなく、両方を平等に収める方向に持って行けよ」

 とクイルが小声で言ってきたが、

 

「だってさ、生活していく上で年上も年下も関係ないじゃん。出来る事を出来るヤツがしながら、お互いに助け合って過ごすもんだろ。それにまず、自分より小さい年下の相手には伝わるように優しく接してあげないと……。そりゃ生意気な態度とかで返されたら、こっちもムカつくけどさ、そこにまだ明確な悪意はなく、自分に素直なんだって事を理解してあげなきゃ……。知識も経験も豊かな方がそこを理解して教えてあげないと。人を教え導く事は難しくて、とても大事な事だけれども、だからこそ聞く側の人が耳を塞ぐような事を言ったり、したりしないように気をつけないとだよ。自分が嫌に思う人の言うことを、素直に聞きたいと思うか? それに、それを聞くのも聞かないのもその人の自由だよ。自分の話や意見は聞いてくれず、上から押さえ付けられるような物言いな感じだったら、俺も言う事は聞かないかなぁ」

 

「ちょ、カオルッ! ……それはっ」

 

 言い過ぎだとクイルは言おうとするが、続けて俺は、

 

「でもさ、ファエルも自分の事を思って言ってくれている人の話を聞かないのは悪いぞ。レティはうるさいけれど、相手の事を本当に心から心配していたり、考えてくれていたりするんだよ。それを真っ直ぐに、正直に言っているだけなんだ。そういう人はなかなか世の中にはいないもんなんだ。取り繕って適当な言葉で誤魔化して、なんとなく過ごすっていうヤツばかりで、相手のことなんか構ってらんねぇよって感じでさ。俺の育った施設はいつも〝昨日の友は今日の敵〟状態で、常に自分優先のヤツばかりだったよ。間違ってても謝る事もしないしな。でも、レティはそんなヤツじゃない。仲間思いの一生懸命な人だよ」

 

 俺からツラツラとそのような言葉が出るとは思いもせず、全員、呆気に取られ無言だった。

 

「だから、2人とも直さなきゃいけないところがあるから、喧嘩両成敗だ。それに言いたい事を言い合える仲は良い事だと思うし、小さい頃からそんな関係って羨ましいよ。だから、これからはお互いに自分の意見を押してばかりじゃなく、一歩引いて、相手の事も考えて話す事が出来たら、スムーズに事が運ぶんじゃないか?」

 

 俺の何気なく言ったその言葉は、数ヶ月後のチーム戦で大きな効果を発揮する事となろうとは、この時は誰も予想していなかったと思う。すると後ろから、

 

「へぇー……、カオルも偉そうに言うようになったもんだな」

 

 皮肉たっぷりの言葉が投げられた声のする方を見ると、テオが休憩室の入口の壁にもたれ掛けて、話を聞いていたのだった。俺はすぐさま立ち上がり、駆け寄って行った。

 

「心配かけてごめんな! この通り、元気になったから。それに、テオが防御壁を生成してくれなかったら、あのバーサーカーに捕まったままだったよ。ありがとう」

 

「お前の心配なんかしてねぇって!! 俺じゃなくて、ファエルにお礼を言うんだな。ファエルが回復スキルを持続的に使い続けてくれたり、危険を顧みず敵に立ち向かってくれたお陰で、俺もお前も今があるんだ」

 

「……それでも、バーサーカーから逃れられたのは、テオのお陰だよ……。本当にありがとう」

 俺は頭を下げたのだった。

 

「え、偉そうに説教垂れるくらいまでになって、お前のムカつく顔が見れたから良かったよ!! じゃあなッ」

 

 踵を返したテオの耳は真っ赤になっていて、そそくさと休憩室を後にしたのだった。その様子を見ていたファエルは、

 

「なーにぃー、あのぶっきら棒な言い方ぁー。ムカっとするんだけど?! どっちが偉そうなんだか! 素直に回復して良かったなって言えばいいのに」

 

 するとリアは、

「でも、テオはファエルが回復室で目を覚ました後にお礼をちゃんと言いに来たんでしょ? その時は喧嘩せずに、ちゃんと謝罪を受け取ったって……。テオも仲直りのタイミングを計っていたのよ」

 

「いや、リア! 私は許してないし、仲直りもしてないけどね?! 公私混同はしないと心に決めていたから、謝罪は受け取ったんだよッ! まったく……」

 

「そうだったわね! 偉いわ、ファエル」

 

 すると、席に再び着いた俺も、

「俺も、改めてありがとうな! ずっと背後から持続的に回復スキルを使ってくれていたお陰で、俺自身は大した怪我もなく済んだから……。本当にありがとう、ファエル」

 

「ううん、必死だったから……。最終的には回復力より攻撃力が勝っちゃったし……。カテドラル-NO.8の頭部も頑張って治してはいるんだけど、作動メインシステムがまだみたいで……」

 

「それもありがとうな。感謝ばかりだよ……。お前の回復スキルに見惚れてしまうとか、戦場ではあってはならない隙を出してしまった俺自身の落ち度だから……」

 

「「「「?!」」」」

 

 聞いていた4人は驚いた顔をしていた。すると、その様子に気付いた俺は、

 

「? なんだよ……。なんか変な事を言ったか、俺?」

 

 するとクイルが、

「いや……、〝見惚れていた〟って……」

 

「ああ、その事。いや、初めてファエルのOHC戦闘スキルを間近で見たからなぁ。癒しの光と相まって、とても綺麗でさ、その姿に魅せられてしまったよ」

 

「「「「!?」」」」

 

 俺からそんな言葉が出てくるようになるとは……と、4人はかなり驚いたと後に言っていた。言われた本人であるファエルを見ると、顔を真っ赤にして固まっていたのだった。だから、

 

「どうした、ファエル? 熱でも出たのか??」

 

「いやッ……だ、大丈夫! 暑いだけだからッ……」

 

「そうか。なら良かった」

 

―― カオルは、罪作りな男だな…… ――

 

 俺を除いた4人はそう思ったらしい。無意識なんだと分かるけれど、ファエルの様子を見るからにそうなのだろうと思ったと、随分あとになってニコライから打ち明けられた。

お読み頂き、ありがとうございます!

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