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21 幼い記憶と最強のリア

―― 緑豊かな木々に真っ青な澄み渡る晴天の空。暑い夏の日だろうか……。麦わら帽子を被った自分の手を引いて歩く女性と、その横には同じ麦わら帽子を被った小さな女の子。顔がハッキリと見えない……。胸のペンダントにたくさんの……模様が描かれている。あれは鳥か?

 すると不意に体が浮き、自分は抱え上げられたのだと感じた。目線はどんどんと高く上がり、男性の肩に座る様に体を持ち上げられた。落とされまいと男性の髪の毛を必死に掴み、そこに恐怖はなく、むしろ嬉しさに喜んでいた。男性は固く掴んだ俺の手をゆっくり緩め、自分の頭を抱えるように手を添えてくれ、その姿で4人で歩いて行くのだった。

 暫く歩いていると、アイスクリーム屋の前で小さなその女の子が女性の手を強引に引いて、カラフルなコーンアイスを指差し、何かおねだりをしている様だった。何度おねだりをしても願いを聞いてもらえなかったのだろう、泣き出してしまったのだった。

 すぐさま男性は肩から自分の横に俺を下ろして、女の子の頭を優しく撫で、アイスクリーム屋のおばさんに何かお願いをしている様だった。女の子の手を引いていた女性は男性に何か怒っているような(たしな)めている様子だったが、男性は宥めながらもアイスクリーム屋のおばさんから小さなカップを受け取った。

 屈んで見せてくれたそのカップの中には、白いアイスクリームと、茶色の液体にカラフルな色をした小さい粒がかかっていた。女の子は目を輝かせ、それを嬉しそうに受け取り、男性は俺にも手渡して来た。顔はハッキリ見えず、口元の微笑みで自分に笑い掛けてくれているのだと感じた。胸には女性と同じ模様が描かれたタイピンをしている。俺はそのカップを受け取り……――


 そこで目を開けた。

 見覚えのない天井であり、瞬時に、もの凄い臭さが鼻をついた。雑草がすり潰されたような渋い臭さだ。ここは何処なのか、何故こんなにも臭いのか、焦った俺は起きようとしたが、頭に一瞬の激痛が走り、頭を手で押さえたのだった。

 痛みが落ち着いてから、上体をゆっくり起こし、辺りを見回した。様々な植物が所狭しと置かれていて、部屋にはもくもくとしたスチームが焚かれていた。どうやら強烈な臭いはそこから出ている様だった。呆然としていると、部屋のドアが開き、聞き覚えのある低い声がした。

 

「起きたか」

 

 声のする方を見ると、ルカル室長だった。

 

「あの、……俺……」

 

「やぁーっと目覚めたか! どんだけ眠るんだ、お前は!!」

 

「えっ……」

 

「先の戦闘から三日間、目覚めないままでいるから何事かと思ったぞ。大した外傷もなく、脳も首も異常はないのに意識だけが戻らなかったんだ」

 

「先の……戦闘……?」

 

「まだ混乱してんのか? お前はあの蛇のような頭を持ったバーサーカーに捕まっちまって、カテドラル-NO.8の頭部ごとグシャグシャに潰されそうになったんだぞ。ファエルにお礼をちゃんと言うんだな! ファエルが自分の危険を顧みずに、カテドラル-NO.8へ回復スキルを使い続けていたから、大した事なく済んだんだ。それなのにお前ときたら……、はぁー!」

 

 何故だか責められて呆れられているように感じた。

 

「……そうだった……。俺は、あの……」

 

「脳波も正常、体にも異常はない! サッサと意識を取り戻せば、何のこたぁないのに、一向に目覚めない。どんだけ寝不足だったんだッ」

 

 ―― ね、寝不足……?? 最近は眠れてたはずだけどな…… ――

 

「お前が目覚めないもんだから、ロルフもファエルも〝おかしいから何とかしろッ〟ってうるさく詰め寄ってきて、鬱陶しいったらありゃしねぇ! とりあえず治癒室には入れたけど、内臓系は何の損傷はないし。起きたんなら、サッサと出ろッッ!!」

 

 戦闘で負傷した怪我人にそれはないんじゃないか? と言うくらい冷たく、呆れられた様子で言葉を放つルカル室長だった。

 

「あ、ありがとうございました。すみませんでした、ご迷惑をお掛けしちゃって……」

 

「本っ当になッ! ご迷惑をお掛けされちゃいっぱなしだ!! お陰で研究も進みゃしねぇ。じゃあな! 着替えたらサッサと出ろよッ」

 

 ドスドスと怒って、部屋から出て行ってしまった。そんなに言わなくても……と思いながらも、スゴスゴとベットから出て、回復着から隊服に着替える事にした。3日も目覚めなかったものだから感覚がおかしく、フラフラとしてうまく着替えられないようだった。もたつきながらもズボンを脱ぎ、上半身は裸で下着姿になった時、

 

 バンッッ!

 

 ルカル室長が連絡をしたのだろう。乱暴にドアを開け、息を切らせて走ってきたファエルがいた。

 

「のわぁああー! ファ、ファエルッッ」

 

 慌てる俺の様子にお構いなく、駆け寄り、抱き付いたのだった。俺は突然の事にアタフタと腕を上下させ、抱き締め返す訳にもいかず、焦っていたら、

 

「……カオルッ、カオルゥー……。うっ、うぅっ、……良かった、本当に良かったぁ……」

 

 ファエルは泣いている様だった。その様子に俺はすごく心配を掛けてしまったのだと申し訳なさがたち、

 

「……ごめん、心配かけて……。ありがとうな……」

 

 優しく抱き締め返したのだった。ファエルが泣き止むまでと、抱き締めていると、

 

「あ、あらっ……、まぁ……」

 

 呆れたような動揺した声がして見てみると、リア、ニコライ、クイル、レティの4人が意外なものを見たように呆気に取られた表情をしながら部屋の中を覗き込んでいたのだった。

 

―― ドアが開きっぱなしだよ! ファエルさん!! ――

 

 すぐさまファエルの肩を掴み、優しく引き離したのだった。

 

「いやッ! これは、そのッッ……」

 

「「「「……」」」」

 

 慌てふためく俺に4人は無言だった。すると、落ち着きを取り戻したファエルは、

 

「キャァアアー!」

 

 改めて俺のその姿を見て、顔を真っ赤にして、驚きの叫び声を上げたのだった。

 戦闘の際には、新品の黒いボクサーパンツを勝負パンツとして履く事をジンクスとしていた自分を褒めてやりたいと、この時ばかりは思った。使い古した変な下着じゃなくて本当に良かったと心から安堵するとともに、またいらぬ誤解を招いたのかと嫌な汗が出そうになった俺だったが、クイルがそれを払拭してくれた。

 

「ファエルゥ……。ちゃんと、カオルの様子を見て、部屋に入ってやれなぁ……。カオルが可哀想だわ、みんなに下着姿を晒されてさー……」

 

 クイルの言葉で我に返った俺。自身の体が半裸であること、パンツ一丁であること、諸々の恥ずかしさが込み上げ、すぐさまベットに置いてあったタオルケットを取り、グルグル巻きにして、体を隠したのだった。

 

 その焦った行動に、リアとレティの二人はプルプルと体を震わせ、口を結び限界まで我慢していたが、

 

「「ブフゥッーッッ!」」

 

 耐え切れなくなり、二人の爆笑を皮切りに、俺を除いた全員が笑い出したのであった。

 

「わ、笑うなって! 仕方ないじゃないかッッ。ファエルには本当に心配かけちゃったし、無下にする訳には……」

 

「うんうん、カオル! 分かっているわ。……ッ、でも、その後の慌てぶりがちょっとッッ……」

 

 後ろを向いて笑いを堪えているリア。するとニコライも、


「大丈夫だ、カオル。裸で抱き合ってたなんて、誰も見てないから心配するな!」

 

「だぁッ! しっかり見てんじゃねぇーかッ!! しかも誤解招く言い方すんじゃねーよ! もー、一生言われそうだぁー……」

 

 すると落ち込んだ様子のファエルが、

 

「カオル、ごめんね。……嬉しすぎて、つい……」

 

「お、おぉ。ファエル! おまえもさぁ、前にも言っただろうが! 警戒心を持って、安易な行動は控えるようにって」

「カオルに警戒心は持てないかなぁ……」

 

 すかさずリアが、

 

「ファエル、分かるわッッ! カオルの顔は肉食系、中身は草食系だものね。安心安全だもの。うんうん、分かるわ!!」

 

「ひとっっつも分かりませんが?! 俺は意味不明なんですが?!」

 

 肯定させまいと必死に抗ったが、

 

「まぁ、……オスとしては、無しって事よ! 良かったじゃない」

 

 レティは何故か勝ち誇った顔で強烈な言葉を言い放ったのだった。

 

「いや、オスって……。ククッ、レティの言い方ッ……」

 

「まぁ、私の弟子たちですからね! 逞しいわよ?!」

 

「フフッ、……リア。腕を組んで誇らしそうにしているところに悪いんだけど……、ククッ。……逞しさより警戒心を教えるべきだったよ。もうさぁ、女性三人でどんな修行してんだよ。ポンコツ過ぎて腹が痛ぇー!」

 

 その言葉にピシッと凍りついたニコライ、クイル、レティ、ファエルの4人は、ギギギギとゆっくり首を動かし、リアの方を見るのだった。すると、目の笑っていない微笑みを浮かべたリアがいた。その瞬間、

 

―― 地雷を踏んだな…… ――

 

 俺を除く4人は即座にそう思い、状況を把握し恐怖を感じたと後に言っていた。周りの状況を見ずに爆笑している俺に、リアは微笑みながら近づき、瞬時に固め技をかけたのであった。これも昔、日の国で行われていたプロレスという競技にあった〝コブラツイスト〟や〝卍固め〟のような形で固めたのだった。

 

「ああー!! リアッ、リアッッ! 肩、肩がぁあああー」

 

 ―― 全く外れない。この力はなんなんだ?! ――

 

 痛みに悶えながらもリアを見上げると涼しい顔をしていた。見兼ねたニコライが、

 

「リ、リア。……そのぉ、カオルは病み上がりだしさ……」

 

「だから?」

 

「……すみません」

 

 頼りのニコライは黙ってしまったのだった。

 俺はこれ以上耐えられそうになく、本能的に危機を感じ限界を迎えようとしていた時、涼しい顔をしたままのリアが、

 

「コホン。……カオル? ……私に何か言う事は?」

 

「俺が間違っていましたッッ! も、申し訳ッ、ありませんでしたぁあああー」

 

 大声で謝り、負けを認めざるを得なかった。

 リアの新たな一面と、側にいた4人の恐怖に満ちた顔がリアの強さを象徴しているかのようだった。以後、リアには絶対に逆らわないでおこうと心に決めた俺であった。

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