表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/30

16 空間察知訓練と違う知らせ

 元気を取り戻したファエルは、次の日の朝早くに俺を叩き起こしに来た。

「……ル、……オル、……カオルッ! ねぇ、カオルってば」

「んぁ……、ファエルか。…………ファエル……、ファエルッッ?!」

 俺は驚いて、飛び起きた。

「おまっ、……はっ? ……えっ?! なんで部屋の中に??」

「えっ? 鍵が空いてたから……」

「……お前もかぁああ!」

 また鍵を閉め忘れていたのであった。

「お前も??」

「あのなぁ、鍵が空いてたからって勝手に入ってきちゃダメだろ? 一応、男の部屋なんだぞっっ?!」

「うん、分かってるよ。カオルは男だね」

「そこじゃなくてッッ!」

「勝手には入ってないよ。ちゃんとノックして入ったよ??」

「返事がないなら入っちゃダメだ! 男の部屋に入るなんて、警戒心がなさ過ぎるって言ってるんだっ」

「警戒?! カオルに?? なんでッ!?」

「はぁああー……通じないッ、なんで通じないんだ! うちの女性陣にはッッ」

「それより朝の点呼が始まるまでに帰ってこなくちゃ! 早く訓練室に行こう! ほら、ほら、急いで!!」

「待て、待て、待てー! ふ、布団を取ろうとすんなッッ、やめろッ」

「なんでよ。早くベットから出て!! 着替えて一緒に行こうよ!」

「分かったッ! 分かったから布団から手を離せ!! そして、お前は部屋の外に出て、廊下で待ってろ。すぐに用意するからッ」

「嫌だよ、廊下は暗くて怖いもん……」

「怖いって……お前、それでよく部屋から来れたな?!」

「うん。だって、部屋に来るまでは新しい訓練の事で頭がいっぱいだったから、怖くなかったの!」

「……」

「だから、早く行こうってば! ねえ、ねえー」

 布団を再度、手に取り、揺らすファエルであった。力が強く、剥ぎ取られそうになる。

「あっ、ちょ、コラ! やめろ、やめろっ!! 分かった、分かったからッッ!! 椅子を出して、座っておけ! その代わり、こっち見るな、顔を隠しとけ。着替えるから」

「なんでよー」

「男にはいろいろと事情があるんですッッ! オラ、向こうを向いとけ」

「はーーい」

 背を向けたファエルを確認してから、慌ててベットから出て、深呼吸をしながら気持ちを整え、着替えを終えてファエルと共に部屋を後にしたのだった。


 瞑想室へと向かう途中、彼女はまだ子どもだから知らないんだと思い、人生の先輩として伝えねばと、意気込んでファエルに話し掛けた。

「ファエル! さっきの話の続きだけどッ!! 女の子なんだから、安易に男の部屋に入ったらダメなんだぞ。襲われでもしたらどうする?」

「襲われ……それはどうなるの?」

「それはッッ、アレだ! ほら、……おおお、お前に困ることが起きてっ、……痛い目にあうんだッ」

「痛い目……」

「兎に角だ! 至近距離で男に押さえ付けられたりでもしたら、か弱いお前は抵抗できないだろ?! そうなってからでは遅いんだ」

「なら、カオル! 私を襲ってきてみてよ」

「はぁっ?!」

「例えば、……そうだな、手首を掴んで、羽交締めしようとしてみて?」

「えっ……、なんで?」

「なんでもいいから!! ホレ、ホレ! 来てみ?」

 挑発するような言葉にイラッとした俺は言われる通りに、すぐさま手首を掴み、羽交締めにしようとした時、かなりの強い力で自身の体が引っ張られ、宙に舞ったのを自覚した。そして次の瞬間には床に叩きつけられており、あまりの速さに何が起こったのか分からず、なす術もなかったのだった。

 床に倒れたまま、ファエルを見上げると、得意げに笑っていた。そしてグイッと腕を持ち上げられ、一気にスクッと立ち上がった。強い、そして瞬発力がある。

「私、怪力なんだよね。だから、そんじょそこらの男には負けないよ」

「確かに……。いや、いや、そうじゃなくて! 至近距離で押さえ付けられたりしたら……」

「どうしようもなくなったら、〝キン一発蹴りをしろ〟ってリアには習ってるよ?」

「リアァァー……、そして言い方ぁー……。……んで、ファエル、お前も分かってて知らないフリしてたな?!」

「うふっ、バレたか。ごめん、ごめん! 自分の力には自信があったもんで!! それに私みたいな子どもは狙われやすいからって、入隊直後からリアにいろいろと指導してもらってたの。窮地に立たされたら、〝キン一発蹴り!〟ってね」

「ブフッ! ……クククッ、なんだよ、それ」

「〝隙を見誤るな〟ともね」

「あっはっは、なんでうちの女性陣はこんなに面白いんだ、腹が痛ぇ!!」

「そう?」

 ファエルは得意そうな顔をして、俺を見るのだった。そして、神妙な面持ちに変わり、

「……それにね、カオルはそんな事はしないって、……無理矢理とか、相手が嫌がる事はしない人だって分かったから……だから大丈夫と思って」

「そっか……。でもこれからはノックをして、返事がない時は勘弁してくれな。俺が困るっ」

「アハハ、分かりましたー!」

 俺たちは笑い合いながら、瞑想室へと向かったのだった。


 着いてからはまず、二人で集中力を高めるため瞑想を行った。それからピングポーンを用意して、ファエルに照準を合わせるように設定する。

「初めてだから威力は下げて、球が出る間隔もゆっくりにしているから、とにかく最初は目を閉じて、球が当たらないように動いてみろ」

「分かった!」

 ピングポーンは銀色のツルツルとした輝きのある八角箱の形をしていて、角から球が飛び出す仕様になっている。空間を自在に動き、設定された照準に対して撃つように、プログラムされている反射訓練用の機械である。

 ピューン……ピシッ!!

 僅かな発射音と球の小ささと速さに、ファエルも最初は苦戦を強いられた。

「ギャッ、いたぁい!」

「ほらほら、集中、集中! 次が来るぞ」

「はいっ!」

 ピューン…… ピシッ!

「いだぁっ! ……もー何でぇ……」

「お前、発射音がなる前に感じ取ってるか?! 鳴ってからじゃ遅いぞ?」

「鳴る前とか……どうやって??」

「集中力を増して、両耳を研ぎ澄ませてみろ! 聞こえるか、感じれるから」

「……うん」

 ……チチッ…… 

 それはほんの僅かな機械音と照準気配だったが、後方からのようにファエルは思ったようだった。すぐさま横へスライドし、避けていた。

 パシッ!

 壁に球が当たったと同時に俺は、

「やるじゃないか、ファエル! 今のは避けられたぞ」

「本当に?! やったぁ!」

「オラ、集中! 次が来るぞ」

「はいっっ!」

 それから5分連続に5分のインターバルの3セットを繰り返しおこなった。その間、ファエルは一度も集中力を切らさず、訓練を受けたのであった。近くで見守っていた俺だったが、ファエルの習得の速さに感心していた。訓練の終盤には飛んできた球を素手で、至近距離キャッチが出来るまでになったからだった。

「おぉー!! それは俺もまだ出来ないぞ!」

「えっ?! 本当に??」

「俺は今まで避けるまでしかやってないし、出来た事がないよ! なるほどなぁーそういうのも有りだな」

「エヘヘ、……偶々だよ、偶々!」

「それでも至近距離で掴むなんて、始めたばかりですぐに出来るもんじゃないよ! やっぱり、ファエルは空間察知できる素質があるんだよ」

「そうかな?! そうだと嬉しいな……」

「自信を持てって! これは凄い事だぞ?! 精度を上げれば敵の攻撃を見切り、反撃する事ができるっ!」

「そうか……そうだねっ!! 私、継続して取り組むように頑張るよ!」

「おう! 俺も一緒にやるぞっ!! 球も掴んでやる!」

「アハハ、うんっ! イエーイ、イエーイ、やったァー」

「うん、うん! よくやったなぁ、ファエルー」


 習得できた嬉しさに、俺たちは両手を繋ぎながら無邪気に飛び跳ねながら喜んでいた。するとバランスを崩したファエルが転びそうになって頭を打ちかけた。俺は思わず、腕を引っ張り、自分の方へ抱き寄せた。その時、

 バンッッ!

 瞑想室のドアを雑に開ける音がして、振り向くとロルフ師匠とガイア副総督が息を切らせていた。

 点呼前の朝早く、瞑想室に用事があるとは思えない二人がいきなり来て、俺もファエルも驚いた。点呼には来ない人たちだし、自分たちがここに居る事も知らないはずで、息を切らせて慌てた様子なのが何なのか……。そんな考えが駆け巡り、俺はファエルの体勢を戻しながら問い掛けた。

「お二人ともどうされたんですか?」

「お前たちこそッッ! ……ッ、こんな時間にここで何をしていたんだッ?」

 俺の質問に、ガイア副総督が怒っているかのようなキツい口調の質問で返した。

「えっと……、昨日、ファエルに空間察知能力の訓練の話をしたら、朝早くに叩き起こされて、点呼前に訓練したいと言われて、今までおこなっていたんです……が、何かありましたか?」

「それは本当かっ?! ……俺たちのところには違う知らせが入って、慌てて来たんだが?!」

「「違う知らせ??」」

 何を言われているのか俺たち2人は訳が分からずに、お互いに顔を見合わせるのだった。そんな2人の様子にロルフ師匠もガイア副総督も困惑し、瞑想室は静まり返ったのだった。

読んで頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ