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15 心の平穏と希望はココグルク

「ファエル!」

 あちこちと探し回り、俺はやっとファエルを見つける事が出来た。目はまだ赤く、泣き腫らした痕が残っていた。

「……っ、何よ」

「あのっ!」

 ガバッと勢い良く上体を下げ、

「俺が言い過ぎた! それにうるさく騒いで、訓練の邪魔をして悪かった、ごめんっ!!」

「!?」

 先程までとは打って変わり、低姿勢でさらには土下座する勢いの如く頭を下げた。ファエルはその姿を見て驚き、

「何?! なんなの? 何か裏があるわけッッ!?」

 戸惑う言葉を吐きながら、様子を伺っているようだった。頭を上げた俺は怪訝そうな顔をしたファエルへ真っ直ぐに向き直し、

「俺さ、今まで他人なんか信用してこなかったし、仲間なんてくだらないって思ってたんだ。ここに来ても、自分だけが強くなる事ばかり考えてて、周りを見てなかった。だから、ファエルの事情も知らなくて……。あの時、……リアが目覚めた時に話をした言葉で、ファエルを傷付けてしまってたんだよな……」

「……」

「知らなかったとは言え、いろいろと本当に申し訳なかった。そして、今回もみんなが真剣に訓練している場所で騒がしくして、訓練の邪魔をしたり、注意をしてくれたファエルに酷い言葉を投げて悪かった、本当にごめん!」

 俺は再度、頭を下げたのであった。心からの謝罪を感じ取る事が出来たファエルは、

「……リアたちから聞いたのね」

「……うん」

「そう……。私も……、八つ当たりだった、ごめん……」

「いや、俺の方こそごめん! 注意して教えてくれていたのに、酷い事を……」

「ふふっ、あながち間違いじゃないわよ。〝人の良いところだけを見て欲しがり〟って当たってるもの。それに……妬み僻み根性の醜い人間てのもね……」

「いや、ちがっ……」

「いいの! 自分でもそう思ってるから。もう最近ね、日増しにどんどん、どんどん……みんながっっ、妬ましく思うのッ……」

 ファエルは溢れ出る涙を抑える事が出来なくなった。ファエルの瞳から止めどなく流れるその様子に俺は狼狽えた。どうしたらいいのか困ったが、昔、施設で小さい子たちが泣いた時にしていた事を思い出し、ファエルの頭に手を乗せ、ぎこちなく、ゆっくりと撫でた。

 俺の予想外の行動に、驚いたファエルは涙が止まり、俺を見上げた。だから、

「大丈夫……。誰にも言わないから、思いっきり泣け……。俺が受け止めてやる……」

 不器用に撫で続けた。すると、自分に掛けられる俺の言葉に固く繋がれていた心の鎖は解けていったのか、俺の胸へと飛び込んできて、顔を埋めて嗚咽を漏らし始めたのだった。


 暫く泣き続けたファエルだったが、落ち着いてから二人で休憩室へ行った。ファエルを座らせて、俺特製の温かい〝ココグルク〟を作ってあげた。〝ココグルク〟は体が温まり、緊張が和らぐリラックス効果のある飲み物とされている。味は随分と昔にあったCocoaという飲み物に近いらしい。人それぞれの作り方があるのだが、俺の〝ココグルク〟は糖入りで仄かな甘さを出すようにしている。

「……ありがと」

 受け取ると、ファエルはすぐさま口にした。

「甘くて美味しい……」

「落ち着いたか?」

「うん……カオルの作るココグルク、美味しいね」

「うまいなら良かった。昔、施設の弟や妹たちによく作ってあげていたんだ。それを飲むと笑顔になってさ、涙も吹っ飛んでいったんだ」

「そうなんだ。私も気持ちが落ち着いてきて……なんかスッキリしたよ。ありがとね、カオル」

 泣き腫らした目が痛々しかったが、ファエルの初めての笑顔に目を細め、

「それは良かった」


 それから和やかな時間が流れた。

 落ち着いたファエルはこれまでの事や思い悩んでいる事をポツポツと打ち明け始め、俺は相槌を打ちながら話を聞いてあげた。

「……それで、ずっとずっと自分なりに限界まで努力を重ねて頑張ってきたのに、なぜ回復スキルなのか、それもBランクなのかが納得出来なくて、悔しくて……。戦うスキルではないサーヴァントは何の役にも立たないっていう思いがジワジワと膨らんできて。そしたら、どんどん卑屈になっていって……」

「分かるなぁ……」

「えっ?!」

「ファエルの気持ちがすごくよく分かるよ、俺も一緒だったから」

「そうなの?」

「おぅ。俺だってさ、最初の成績はビリだったし、スキルは無いしで、それこそ初搭乗後に役に立たないと分かった時には、かなり荒れたさ。毎日苛々したし、刺々しかったはずだよ、あの頃は。もうさ、周りのみんなが凄いように思えて、悔しくて、憎らしくて、羨ましくて!」

「あんまり接点がなかったから、そんなふうには見えなかったよ。カオルもそんな思いをしながら過ごしていたなんて知らなかった……」

「お互い様だな。俺もファエルの事情を知らなかったんだから。んでもって、ある日、ロルフ師匠に平手打ちを喰らって、リアに諭されて……」

「えぇ?! あのッ……穏やかで優しいロルフ師匠から?? 何したの……」

「んー……『どうせ俺が死んだって、代わりの優秀な奴らはいくらでもいるっ! 俺がひとり死んだところで何も変わらないっ!!』って言ったら、パーンってね」

「あぁー……」

「その時は本当にそう思ってたし、代わりはいくらでもいるとも思ってた。……だけど、違うんだよな。俺の代わりなんていないんだよ」

「そりゃそうだよ! だってカオルはSランクだもん……」

「違う、そうじゃないんだ。俺の代わり、所謂、存在に代わりはいないんだよ」

「??」

「スキルは個々で違うものが与えられて、同じものはないよな?」

「うん……」

「15戦士の仲間は8人。みんなの力はそれぞれ長けるものが違い、そして、それら全ては絶対に必要なんだ。その中に俺という存在は唯一無二であり、個々があってこそのチーム。だから、たとえ力が弱いところがあったとしても、みんなで補い合いながら戦うんだ。それがチームで、誰一人として欠けてはならない。故に俺は、絶対に必要で大切な存在なんだから、自分自身が己を大事にしなきゃならないんだという事だと分かったんだよ」

「……唯一無二」

「そうだ。よってファエルも唯一無二の存在なんだ。お前のスキルは本っっ当に凄いし、それに貴重で尊い! だって、みんなのサーヴァントを癒してくれるんだから。俺たちチームの中でも神的な存在だよ! 誰にも真似はできない大切な存在だって、俺はそう思ってる。ファエルの代わりもいないし、戦えるスキルが全てではない。だから、妬む必要も卑屈になる必要もないんだ。俺たちはみんなで戦うんだから!!」

「……そんなふうに考えた事なかった。だって個々の力が強くなきゃチームに迷惑がかかるし、戦闘では使えないって……」

「だよな。俺もそう思ってたよ」

「……私は、必要なのかな……?」

「もちろんだッッ!!」

「みんなの役に……立つ?」

「ものすっっごく、な!」

 俺は久しぶりの思い切った晴れやかな笑顔とVサインをしてみた。すると止まっていた涙がまた溢れ出てくるファエル。

「……ウッ、……クッ……」

 口を手で覆い、嗚咽するファエルに俺は動揺し、

「おぉぉお、俺はまた何か余計なことを?! 傷付け……」

「違う、……違うの。……ありがとッ……ありがとうッ……。とても、救われた……」

 良かったと安堵し、泣き止むまで俺はまた頭を撫でてあげた。

 

 少し落ち着いてから、

「なぁ、ファエル……。お前はよくヨーガの瞑想で集中力を高める訓練をしてるんだって?」

「うん、ほぼ毎日……。気持ちが落ち着くまでは必ずやってる」

「それは心を無にするように集中して、負の感情がなくなるように浄化意識を高めるってやり方だよな?」

「そう……だけど」

「今度はそれをな、空間察知意識に切り替えて、瞑想してみたらどうだろうか?」

「空間……察知意識??」

「そう、いつもの訓練に少し手を加えるんだ。最初の10分は普通に瞑想して集中力を高めるようにして、それからピングポーンを作動させて、投げてくる球を自分に向かってくるように設定するんだ。そして、その球を空間察知で捉えるように意識を集中させて、球を避ける訓練をするんだ」

「ピングポーンって、移動しながら多角度から球がすごい速さと威力で飛んでくるマシーンの事?」

「そう!」

「それを目を閉じて動くの??」

「そう!!」

「何それっ?! ……やった事ない、そんなこと……」

「そりゃそーだよ! 俺が最近、編み出したやり方なんだから」

「カオルが?! ……ひとりでそんな事をしてたの?」

「俺さ、最近まで悪夢を見てたせいで集中力が落ちて、敵の気配を察知する能力が低下してたんだ。早く戻そうとしたんだけど、なかなかこれが難しくてさ。やっぱりひとりでは限界があって、それでどうしたもんかと考えた結果、これを編み出したんだよ」

「敵を察知する能力?」

「敵が向かって来る気配を感じ取れる能力と言ったらいいんだろうか。敵がそこに攻撃をすると狙いを定めた時、その部分にチリチリと静電気のような痛みが来て、攻撃をかわす事が出来るんだ」

「えぇっ!? そんな事……出来るの??」

「出来る! ただ、誰にでも出来るものではないらしい。レティにも教えてやったんだが、未だに出来ている様子がない。だが、ファエルのような、常に瞑想で集中力を高めているヤツなら出来るんじゃないかと思うんだ」

「やりたいッ! その力を持ちたいッッ!!」

 泣き腫らした目に輝きが戻り、キラキラとした目をしているファエル。その姿を見て、

「やってみるか?」

「うんっ!!」

「そうか! 自分の足で立ち上がって、自分を高めて上げていこうと努力を惜しまないお前なら、必ず持てるようになるよ。いや、出来るまで付き合う! 一緒に頑張ろうな!!」

「ありがとう、カオルッ!」

 

 ファエルに自信が戻ったようで新たな希望も芽生えたと感じた俺は、その姿に頼もしさと嬉しさが込み上げ、安堵に胸を撫で下ろしたのだった。

お読み頂き、ありがとうございます!

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