10 Sランクの光と飛ばない光矢
「ティート-NO.6、カテドラル-NO.8、共に搭乗完了! クラノス通信機、解放使用! 出動まで5・4・3・2・1、……GOッ!!」
そうして、いつもの模擬戦闘訓練場に出た。互いに最大限の警戒を怠らず、攻撃に備えていた時だった。ひょっこりと間抜けに姿を現したのは単調攻撃でお馴染みのバーサーカーだった。人型で手足があり、頭には二つの巨大な角。不気味な顔をした面を被り、鋭い牙が出ている。全体は赤紫をドス黒くしたような何とも言えぬ色をしていた。
見慣れた姿に少し安堵したのだが、妙な気配を感じとり、即座に俺は警戒戦闘態勢に構え、すぐクイルに伝える。
「クイル、こいつ、いつものヤツじゃないっ!」
「へっ?」
「何かが違う! 気をつけよう……来るッッ!!」
バーサーカーはカテドラル-NO.8の前に素早く移動し、殴りかかってきた。その瞬間、ゾッとするような嫌な感覚に襲われ、俺は迎撃をせずに避けるだけに留まった。
すると、バーサーカーの振り下ろした腕は地面を割り、極大なクレーターが出来ていた。腕力の強化がプラスされていたのだった。
すぐさま体勢を立て直し向かってきたが、まともに受けてしまうとダメだと判断して、ティート-NO.6もカテドラル-NO.8も避けるだけとなっていた。膠着した状況にクイルが、
「このままじゃ埒が明かねぇからスキルいくぞ、カオル!」
「わかった!」
「リース!」
ティート-NO.6の背後から光弓が、腰には5本の光矢が差さった箙が出現した。すると、バーサーカーはティート-NO.6に現れた箙を目掛けて手を出してきた。避けようとしたが間に合わず、バーサーカーに箙を奪われてしまい、スキルは消滅してしまった。すかさず、
「リース!!」
改めてスキルを発動させたが、その隙にバーサーカーは背後の光弓を狙いに襲いかかって来て、光弓は消滅した。さらにはもう片方の腕でティート-NO.6の右脇腹を目掛け、打撃してきた。威力は先ほどまでではなかったが、それでもダメージを与えるには十分な攻撃だった。
「グアッ!」
クイルの苦痛な叫び声を聞き、怒りが沸き上がり、俺はすぐさま一撃を放った。その力は何故か凄まじく、バーサーカーは宙を舞い、遠くへと飛ばされた。ティート-NO.6に駆け寄り、すぐに支え起こした。
「クイル! 大丈夫か?!」
「ッ……、リ、リース」
「無茶を……」
「……急げ……握るんだっ……」
「えっ……」
「早くっっ!!」
雄叫びを上げながらバーサーカーが向かってきていた。時間がない。でも、もしも触って消えてしまったら……そんなマイナス思考が過り、躊躇していた。
「俺をっ……信じろッッ」
その言葉に突き動かされ、カテドラル-NO.8は光弓に触れた。その瞬間、以前にもあった眩しい光に包まれ、神々しい光が放たれた。突進して向かってきていたバーサーカーはまたもや怒りとも苦しみとも取れる雄叫びを唸らせながら、その場から動けずに悶え苦しんでいる様だった。
「カ、カオル……光矢を放てっ!」
クイルに言われるがまま、その通りに光弓を引き、光矢を放った! ……が、カテドラル-NO.8に搭乗する俺自身は弓を引き、矢を放つのは生まれて初めてであった為、光矢は悶え苦しむバーサーカーの前に、力なくポトンと落ちただけであった。急ぎ再び光矢を放った……が、同じくヘロヘロと飛んでいき、バーサーカーに届きもしなかった。
その光景に二人とも唖然となり、クイルは怒声を放った。
「ちゃんッッと引かねぇーか、カオルッッ!」
「引いたよ! 引いたけど、矢がうまく飛んでいかないんだよ」
「引いたのに、何で飛んでいかないんだよっ!」
「俺じゃダメだ、クイル! 支えるから一緒に引いてくれ」
「あーもー! カオル、俺の背後に回って一緒に引け!!」
ティート-NO.6は上体だけしか起こせず、苦痛に声を漏らしていた。悶え苦しんだバーサーカーは怒りの雄叫びを上げながら、向かってきていた。ティート-NO.6の背後からはカテドラル-NO.8が支え、二人で弓を引き、狙いを定め、渾身の力を込めて放った。
先程とは打って変わり、矢は強烈な光を放ちながらバーサーカーへと真っ直ぐに向かっていき、ヤツの頭に命中し粉砕したのだった。一撃で粉砕に至る威力の凄さに俺は驚きしかなかった。
「……すげぇ……」
「っ、はぁああー……良かった。どうなる事かと思った……」
安堵した2人はその場から動けずに倒れ込んだ。すると、クイルが突然、笑い始めた。
「ブフッ、いてててぇー……。カオルゥ、お前、弓を引くの下手くそなんだな」
「う、うるさい、うるさい! 弓なんか初めて引いたんだから仕方ないじゃないか」
「初めてでも、もう少しまともに引けるもんだよ。か弱くポトンって落ちたよ、ポトンって! 脇腹も痛ぇけど、腹も痛ぇー、ハハハ!!」
「……」
「アハハ、ごめん、ごめん! 今度、一緒に弓道っていう訓練もしような」
「弓道??」
「昔、日の国という場所があってな。そこは弓道という、的を狙って弓を引いて矢を放つスポーツが盛んに行われていたんだと。集中力と腕力、それに体幹も鍛われるから。今度、一緒にやろうな」
「うん。俺……今回は……」
言いかけた時、司令室から
「クイル、カオル。よくやった! 司令室へすぐに帰還するように」
「「Yes, sir」」
満身創痍のティート-NO.6を支えながら、訓練施設へと二人で帰還したのであった。
戦闘分析会議には絶対に参加したいと言い張り、帰還後にクイルは回復室へは行かず、司令室に一緒に向かった。司令室へ入ると、ロルフ師匠とガイア副総督、それにレティやニコライ、リアまでいたのだった。すかさずリアが労ってくれた。
「2人ともお疲れ様! 大変な訓練だったわね」
「うん、でも俺は今回、何の役にも立てなかった……」
カオルは落ち込んだ様子を素直にリアに見せたのだった。
「カオル、そんな事ないわ。最後の一撃、……あれはクイルだけの力ではないと思うの。私ね、一度クイルのスキルを見学した事があったんだけど、今日みたいな強烈な光は放ってなかったと思うの。……違うかしら、クイル?」
「その通りだねぇ。……あれは俺じゃない。Sランクのものだ」
「??」
「……それに、今回もスキルが消滅する事はなかった」
「そういえば……そうだった……。俺、躊躇してしまって、」
するとレティが口を挟む。
「あんな場面で躊躇するとか、おバカでしかないわっ!」
「あぁん?! なら消滅してしまったらどうすんだよ! それこそクイルを危険に晒してしまうじゃねーか!!」
「まぁまぁ、二人とも! 喧嘩しないの。ねっ? それにしてもカオルは本当に変わったわね。自分の事よりもクイルの事の方を考えてただなんて。仲間を思いやる気持ちをカオルが持てるようになって、そしてクイルの言葉を聞けた事で二人は救われたのね。とても良い連携だったわ」
リアに言われて、少し気恥ずかしい気持ちではあったが、嬉しさの方が勝り、誇らしい気持ちがしていた。
「それはそうと、今回のバーサーカーはもしかして、例の知能を付けたモノだったんですか?」
ニコライが確認するように言った。するとガイア副総督が、
「その通りだ。知能と……先の戦闘分析を加えた設定で作り上げたものだ」
その衝撃的な発言に、司令室はかなり騒めいた。バーサーカーに知能と戦闘分析、それによる戦闘作戦を考える能力が加わっていたのだ。
「だからかッ! 知能だけでなく、先の戦闘分析が……なるほど!! 俺のスキル消滅をしつこく狙ってきていて、正直すごく厄介でした」
クイルは合点がいったようだった。ロルフ師匠も
「我々も強く賢く進化せねばならんからな。そうだろ、カオル?」
俺は神妙な面持ちでコクリと頷いた。
「クイルには事前に説明していた事が幸いしたな。スキル発動後に危機的状況が訪れたら、カオルに触れさせる様にとな」
「そうですね、あの神々しい光に救われたのは確かですが、……あれは何なのですか? カオルが触ると放たれる光なのですか??」
「今のところはその様だな。Sランク特有のもの……かもしれないが、まだ分からない事だらけであるのは確かだ」
「Sランク特有のもの……」
俺は呟き考えていると、ガイア副総督がいきなり責めるように俺を怒り始めた。
「カオル! お前は弓道の追加訓練を受けろ。あれじゃあ、何の役にも立ちはせんぞ。今日はクイルが少し動けたから良かったものの、動けなかったらどうするつもりだったんだ?」
「……」
「黙っていないで答えろ! もしも、クイルが動けなかったとしたら、お前はどう考え、行動していたんだ? 戦闘に分かりませんは通用せんのだぞ? どうしていた?? 言わんかッッ!!」
「……少し思っていたのですが、」
「おう、何だ」
「光矢を手で持って、ブッ刺しに行こうかと……」
あまりにも単純で素っ頓狂な答えに唖然となったガイア副総督。滅多に見られない唖然となったガイア副総督の様子を見て、レティが最初に笑い始めた。
「ふっ、ふふっ、ガ、ガイア副総督の顔……プゥーッ!!」
その吹き出した笑いを皮切りに、司令室全体が爆笑の渦と化した。すると笑いながら怒っているガイア副総督が、
「そんなもんで倒せるかッッ!! だ、だから、お前はダメなんだッッ! ブワァッハッハッハ」
笑いながらダメ出しするなよと、文句を言いたくなったが、みんなの楽しそうな笑い声と顔を見ていると、まぁいいか、という気持ちになった。
夜になり、俺は部屋で今日の戦闘を反芻していた。やはり知能を付けたバーサーカーはとても厄介で危険極まり無い存在になる事は確かだと痛感した。今までスキル消滅を狙う事など有りはしなかったからだ。
この先たとえどんなバーサーカーに対峙したとしても怯む事なく、向かって行けるように日々の訓練をしっかり取り組んでいこうとそう思った。その大切さを改めて認識し、精進していけるよう気持ちを新たに引き締める思いだった。
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