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1 始まる道

 2999年 それまでの世界は色とりどりに華やぐ大地に青々と茂った木々、澄み渡る空の青さ、光り輝く海、そしてAI文明の発達。それらは見事に融合され、人々は豊かで幸せな生活を送っていた。

 だが、世界は突如として、人ならざる者によって作り出された巨大な狂戦士バーサーカーの襲撃により各国は戦地と化し、人間を殲滅するかの如く残虐な殺戮が横行する世界へと変貌していったのだった。

 バーサーカーはどこからやって来たのか。人々には見当もつかなかった。バーサーカーとの戦闘は年を追うごとに激しさを増し、世界は戦闘による破壊で荒廃の一途を辿っていった。


 時は流れ、3005年、世界は一部の国を除いて荒地と砂漠と化し、人々は隅に追いやられるように生活の場を失いつつあった。各国では貧困に喘ぐ人が溢れ、戦闘による孤児も増していた。

 その状況を打開しようと、世界各地から研究者たちがアイギス国へ集まり、エディフィス基地を建設。バーサーカーに対抗する研究とA・リアシュリング サーヴァントという巨大な人造人間をAI技術によって作り出すことに成功したのだった。しかし、それには知能と感情までを組み込む事は出来なかった為、操縦出来るようレゾナスーツを着た人間〝ランドマスター〟のみが操れるようにした。

 A・リアシュリング サーヴァントとレゾナスーツを着た人間の融合によってレゾナンスレートの数値が決定される。レゾナンスレートにはランクがあり、そのランクによって個々に与えられるOHC戦闘スキルの発揮力が変わるよう設定されていたのだった。一度設定されたランクとOHC戦闘スキルは永久決定され、変わる事はないとされていた。


 そこから20年の歳月をかけ、A・リアシュリング サーヴァントの個体数とライドマスター戦士を増やす為、エディフィス基地ではライドマスター訓練士たちを育てていっていたのだった。

 最初にハッキリとした記憶が残っているのは、施設にあった不思議な本を見つけた時だ。この世界に語り継がれる神話のようだった。大まかなあらすじは、今でも覚えている。


 太古の昔、地球を造られた創造神がアグレートマザーというひとりの女性をお作りになり、大地へと降り立たせた。彼女に七つの生命を宿らせ、七つ子を産み育て、大地を豊かにさせるよう命じられた。命を受けたアグレートマザーは我が子の成長と共に、それぞれの子に役割を担わせようと考えられた。1番目の子には全ての子をまとめ率いる役に、2番目の子には日々の天気を観察し、動き易い日を探る役に、3番目の子には飲み物や食べ物がある場所を探し伝える役に、4番目の子には得た物に工夫をし、増やす方法を考える役に、5番目の子には得た物を管理する役に、6番目の子には体に良い物と悪い物を区別・追究する役に、7番目の子には忙しい皆を癒す方法を考える役を担わせ、力を合わせ、暮らしていったのだった。

 アグレートマザーの教え導きにより、7人の子らは目覚ましい成長を遂げ、大地と己の生活を豊かにしていった。創造神はその様子を天空よりお喜びになり、さらに人間を増やされ、7人の子らは家族を作った。そして、アグレートマザーが与えたその役割は、統率・環境・情報・産業・財政・科学・芸術という名称に変わり、世襲とさせたのだった。しかし、その7家の正体はごく限られた親しい者のみが知る事を許され、決してその他の人々には明かしてはいけなかった。だが、密かに語り継がれる話を元に、人々はいつしか7家をアリマニト・インナーサークルと呼ぶようになり、世界を正しくコントロールしているのだと、次世代へと語り継いでいくのだった。人々もまた進化を遂げ、世界を更に発展させていき、幸せに暮らしていったのだった。


 長編のとても厚い本で重かったけれど、表紙と挿絵がとても綺麗で、初めて読んだ本に俺は夢中となった。この世界の始まりを教えてくれたように思い、何度も繰り返し読んだのは懐かしい記憶だ。

 だが、その本と出会った日を境に、俺は……様々な悪夢を見るようになって10年の時が流れたのだった。


◆◆◆◆◆


―― あぁ……、また…… ――

 

 暖かな芝生の上で仰向けで寝転んでいる自分。顎を上げ、上を向くと、そこには男性と女性の優しそうな顔が覗き込まれる。俺はうまく腕を動かせずにいて、ジタバタと動いている。その手を取り、女性は微笑む。だが、女性の背後から何かが下から迫り上がって来た。女性の肩越しに見えるその光景は破壊の到来を告げ、人ではないもの(・・)が襲い掛かって来ッ……!


「うぁああッッ!! ……ハッ、……ハッ、……ハッ、ハァー……」


 その瞬間、飛び起きて目覚めるのはいつものことだ。

 呼吸も荒く、冷や汗で寝具も湿っている。鼓動の速さに不安が押し寄せ、震える手で胸を押さえる。

 

―― 今日はこれか…… ――


 覚えのない幼い頃の記憶を彷徨っているのか……18歳になっても尚、悪夢に魘され、飛び起きる日々を過ごしている。何をしてもこの悪夢からは解放されず、熟睡することも出来ず、頭がクラクラしていた。その状況に更にイラつきが増し、

「もう嫌だッッ……誰かッ……」

 言い掛けたところにハタと気付き、誰かに救いを求める無駄な思考を止め、口を閉じた。求めたとしても、誰も助けてはくれないのに何を言おうとしているんだ……。そう自分に言い聞かせ、熱いシャワーを浴びに行くのだった。毎朝、その繰り返しだった。


 シャワーを出ると起床時間のベルが鳴り、身支度を整え、部屋前に整列をする。

「整列っ! 番号っ」

 次々と番号を叫んでいき、俺の番がきた。

「……8」

 この番号はA・リアシュリング サーヴァントのライドマスター訓練生になるための筆記試験の成績評価順位で、俺は8人中8位の最下位だったからだ。特に、上位に上がりたかったわけでもないし、どうでも良かった。この成績が良かったとしても何になるのか、実戦で使えるものでなければ意味はない。成績が良くてもバーサーカーを倒せるわけではないのに……。毎回、点呼のたびに苛立ちが募る。

 点呼が終わり、部屋へ戻ろうとすると、

「カオル」

「……何か」

「お前のA・リアシュリング サーヴァントが完成したのでライドテストを行う。レゾナスーツを着用して、訓練施設に来るように」

「……Yes,sir」


 西暦3025年、この地球にはバーサーカーという巨大な狂戦士が神出鬼没に現れ、次々と人間を襲い、大量虐殺を行うという殺伐とした世界と変わっていた。食するために殺戮を行うのではなく、ただ殺害の快楽を味わうために無慈悲に襲ってくる。その殺戮は目を覆いたくなるような光景だ。

 

 バーサーカーに対抗し殲滅させるため、人間はアイギス国にエディフィス基地を設立し、A・リアシュリング サーヴァントという巨大な人造人間を造った。A・リアシュリング サーヴァントという正式名称が長すぎてダルいから、俺はいつもサーヴァントと呼んでいる。

 

 サーヴァントには知能と感情はないため、レゾナスーツを着た人間〝ライドマスター〟のみが扱え、ライドテストで融合したA・リアシュリング サーヴァントだけ操縦できる。

 またサーヴァントとレゾナスーツを着た人間の融合によって、レゾナンスレートのランクも決定される。レゾナンスレートにはランクがあり、ランクは上からS、A、B、C、Dとなる。そのランクによって、OHC戦闘スキルの発揮力が変わってくる。レゾナンスレートの合致は未だにAランクを超えたことはなかった。解明の進まない領域でもあるという。


 エディフィス基地に隣接する訓練施設にサーヴァント製造設置室があり、そこに何体ものサーヴァントが置かれている。筆記試験の成績評価順にサーヴァントが造られていくため、俺のは最後になった。他の同期は早くからライドマスターとして搭乗し、模擬戦闘訓練も行っていた。出遅れた感はあるが、一番心配なことはレゾナンスレートがどのランクになるのか……だ。

 最初の搭乗で永久的にランクが決定する。決定してしまったランクは、その後、いくら努力したところで変化することは絶対にない。

 ランクが低ければ、OHC戦闘スキルの能力は下がるため、戦いには不向きになってくる。そうなれば役には立たないから、チームの足手まといとなる。誰にも蔑まれない最強の戦士として、何としても良いランクでありたい。同時に不安も押し寄せ、手に持っていたレゾナスーツをギュッと握り締めていた。


 レゾナスーツの着脱は簡単だ。胸の前にあるアルヒケティロスを押すことで、自分の体に合わせた形の強化スーツに変化し、頭にはクラノスが装着される。脱ぐ時も同じ場所を押す。元々、レゾナスーツは真っ白な状態で支給され、これも初めて着用する際に色が決定する。それがサーヴァントにも同じ色が現れる。俺のカラーはコバルトブルーに白で構成されていて、珍しいと言われた。

 レゾナスーツに着替え終わり、俺は部屋を後にした。


 訓練施設までの廊下を歩いていたら、前から鬱陶しい2人がやってきた。そのうちのお喋りなクイルが話かけてきた。ブロンドヘアーに爽やかな笑顔が似合うクイルは、俺と同い年だ。随分前にサーヴァントのライドテストを終えている。クイルが搭乗するサーヴァントの個体名はティート-NO.6。レゾナンスレートはBランクの強者だ。レゾナスーツのカラーはライトグリーンとブラックで構成されていて、OHC戦闘スキルは、光弓(コウキュウ)の生成となるらしい。

「おー、カオルー! 今からどこに行くんだ? なんでレゾナスーツ着てんだ??」

「……」

 すると黙っていた俺に向かって、クイルの横にいるヤツが、

「こいつはNO.8(・・・)だからな……どうせ今からが、サーヴァントの初搭乗なんだろうよ」

 この綺麗な青いグラデーションヘアーの冷たそうな顔をした嫌味なクソ野郎は一つ年上のカイルと言って、搭乗するサーヴァントの個体名はサンドロ-NO.5。レゾナンスレートはCランクのまぁまぁの野郎だ。レゾナスーツのカラーはアクアブルーとブラックで構成されていて、OHC戦闘スキルは蜻蛉珠からの槍の生成らしい。どうせCランクだから、大したことはない。俺は絶対にカイルより上のBランク以上になるんだっ! そうしたら、こんなふうに馬鹿にされることもなくなるはず……。

 黙っている俺の顔をクイルが下から覗き込んできた。

「頑張れなっ、カオル! 緊張するかもしれんが、落ち着いてな」

「……俺が頑張る訳じゃない」

「ほんっっとに、可愛くねぇしムカつくな、コイツ!」

 無愛想な俺の返事に苛ついたカイルが嫌味を言う。

「まぁまぁ、カイル。カオルも緊張してるんだよ。……搭乗前は深呼吸して、集中しろよ?」

「……あぁ」


 二人と別れて、訓練施設の司令室に着いた。そこにはたくさんの研究者たちと非戦闘隊員たちがいた。こんな大勢の前で搭乗しなければならないのかと、うんざりする気持ちが強くなった。もしも、最低ランクだったら、どんな結果になるのか……想像に難くない。体が微妙に震えてきた。そんな俺に柔らかな声が掛けられた。

「このA・リアシュリング サーヴァントの個体名は、カテドラル-NO.8と名付けられた。カオル……己を信じろ。大丈夫だ」

 コクリと無言で頷いた。不思議と震えは止まった。

 この柔和な人はエディフィス基地の総督、ロルフ師匠だ。その横には補佐のガイア副総督もいる。この二人は最強ツートップだ。以前はライドマスターとして、サーヴァントに搭乗し、戦いにも出ていたらしい。

 

 総督なのに何故ロルフ師匠と呼ぶのか。それは総督でありながら、俺たちに敵対訓練の稽古をつけてくれているからだ。それは特別なことらしく、他のライドマスターたちもいるのに、第15戦士の8人のメンバーのみに限られている。それを面白く思わないヤツらが、俺たちのことを「史上最弱の搭乗員たちだから、総督は心配をして稽古をつけているんだ」と陰口を回しているらしい。くだらない。

 ただ、総督は体を壊しているらしく、稽古に来れない時は補佐のガイア副総督が稽古に来る。これがまた容赦がなく、俺たちが気を失うまで攻めてくる。しかも、気を失って目覚めた後に必ず、

「ゲームオーバー! 良かったなぁ、これが訓練で。個人の能力が低いと、どうしようもない……。お前のせいで他の者が迷惑を被る。あぁ弱いとは罪だ。なぁ、そう思わないか?」

 という嫌味を言ってくる。しかも、俺にだけ。

 訓練は訓練で、実戦とは違う。ガイア副総督を倒す訳ではないから、本気なんか出せやしない。こんなことをしていたって、実戦で何の役に立つんだッッ。そんな思いがいつも喉まで出掛かる。だから、このガイア副総督も嫌いだ。


 それに最も苦手で、俺にとって天敵としか思えないヤツがいる。口を開けば偉そうに……。でも彼女はレゾナンスレートAランクの強者。現在のランクで最高にして最強のランク。それに、このエディフィス基地にAランクは3名しかいないから貴重な存在となる。でも俺は彼女の顔を見る度に、何故か胸が苦しくなって、涙が出そうになる。訳の分からない感情に苛立ち、そんな弱い自分が許せなくて極力近付かないようにしている。だから、組んで訓練をするのだけはごめんだ!

 

 俺の中で様々な感情が入り乱れていたが、司令室全体に緊張と期待の眼差しが注がれる中、俺の初めてのライドテストが行われる事となった。

一話目を最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます!

サンデガールをお読み下さっている方はご存知かと思いますが、紫藤真來監督の物語とは少し内容を変えております(^^)

今後ともサンデガールと共にお楽しみ頂けたら幸いです。

どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>

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