暗闇の中でその金色は現れる
ライフライブ。聞いた事も無ければ、仮想世界に複数の媒体がある事も知らなかった。
理想は時に身を滅ぼすだと?何か言いたげなこの文章からは何故だか分からないが、心が惑わされるような気持ちになった。
実際プロストリーマーになれるチャンスであり、俺の人生の分岐点が大きく変わるいいチャンスなのかもしれない。だが、あからさまに怪しすぎる…
何年か前にとあるゲームの仮想空間で多くのプレイヤーがログアウト出来ず、ゲームオーバーになると自身も現実世界でも死ぬという大量殺人事件があった。
あれ以降仮想世界内での痛覚やプレイヤーに直接的ダメージを与えることが法律的に禁止にされてはいるが、こういった事件は現在でも度々報道されている。
「今日は三島との用事もあるし、俺なんかがプロのストリーマーになんかなれるはずがないんや」
俺はメールを閉じようとした。しかし、メールのあの言葉が自分の手を止める。
理想を掴みしものにしか真の理想にはたどり着けない。
たしかに俺はこれまで色んなことに逃げてきた。
頭が悪いのは遺伝のせいだ。まわりより技術や才能がないのは俺が選ばれた人間じゃないからだとか、自分の都合のいいように誤魔化してそのせいか、こんな過酷な生活を送っている。
いつも逃げていた俺が自分の理想なんてたどり着けるわけがない。
「俺はまた俺から逃げるのか…」
口に出して言ったつもりじゃなかった言葉が勝手に外に出て驚く。
そして、しばらくすると俺はライフライブのサイトにカーソルを合わせた。
いいさ。これで死ぬようなサイトだとしてもどちみち俺はこのままじゃあの会社で過労死してしまうんや。なら一攫千金!俺の理想とやらを叶えにいく。
ライフライブのサイトに飛び、仮想世界へ接続する機械を首に装着した。
「行くか。」
カチッ
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おかしいな。いつもならすぐに仮想世界へ接続できるのに。ロードが長いのか……?
ライフライブへ接続してから暗闇の中に俺はいた。接続不可の場合やトラブルがあった場合は機械が強制シャットダウンをおこなう為、それがないということはおそらくここはライフライブの仮想世界なんだろう。
体は動かすことはできるが声は出ない。無重力空間にいるような落ちていくような引っ張られるような感覚。
まさか、騙された…のか?
そう思うと急に力が抜け、恐怖よりもやられた!という気持ちの方が強かった。
俺はゆっくりと目を閉じた。
「力に頼りすぎてはだめ…」
誰かの声がする。少し高めな声……女性?
「私だけはあなたの味方だから……」
途切れていく声に俺も何か言おうとする。しかし声はでない。
「赤瀬 あかり」
「え?」
声が出た。すると、暗闇の中から少女らしき人物がうっすらと見えてきた。
綺麗な白髪に金色の瞳。まるでどこかのお嬢様かのような真っ赤なドレスを着た少女は俺の方へ手を伸ばす。
「私の名前は赤瀬 あかり!貴方の……」
俺も少女に手を差し伸ばすが、届かない。
「お前は……!お前は俺のなんだ!?」
そう言うと少女は1粒の涙を流し、ニコリと笑った。
流した涙は俺の頬に当たると少女は暗闇に消えていった。
「ハッ!」
長い夢を見ていたような気がする。だが覚えているのはあの少女だけだ。
ここはどうやらどこの部屋らしい。ライフライブに接続出来たということなのか。
たいして現実世界と変わらない風景に少しほっとする。
それにしてもあの少女はだれだったんだよ。
「赤瀬…あかり。」
「えっ!」
不意に俺が放った言葉に誰かが反応した。しかも何だか聞いたことのある声だ。少し高い……女性の声。
「な……なんで、貴方私の名前知ってるの……?」
俺は重い体を起こし、声のする方を見る。しかし、さっきまで鉛のように重かった体からは想像できないくらいの速さで俺は飛び起きた。
なぜならそこに居たのはさっき夢で見たあの、金色の瞳をした赤いドレスを着たあの少女がそこに居たからだ。