これは__俺が有名配信者になるまでの残酷で悲しい物語
今から約五十年前、突如として現れた致死率六十%ほどのウイルスが全世界で流行した。人々は恐怖に怯え、日本でもこのウイルスが拡大し、約五年間で国民の約三割が死亡するという未曾有の大災害になった。
政府は国内からウイルスを完全排除すべく国外からの輸入含め全ての貿易、空港を閉鎖し、感染者及びその可能性がある人々を一つの病棟に隔離を行い、国内のウイルス蔓延を阻止しようとした。又、国民にも外出禁止令を指示し政府は多くの国民から批判を受けた。しかしながらこの効果は絶大であり、ウイルスはその後二年で国内からは完全消滅し、最悪の危機は免れた。
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「…きろ…………起きろ!!」
俺の耳元でやかましい声とともに視界が薄らと明るくなっていく。目はぼやけ、脳が回らない。今は何時だ
視界が少しずつ開きながら手元のスマホを手に取る。
午前ニ時三十分だ。
「ハッ!しまった交代…!」
「やっと起きたんかよ。いつまで寝とんや」
この時間は他の勤務者との仮眠交代の時間。つい寝すぎたみたいで三十分も他の人の仮眠時間を取ってしまった。このふくよかなお腹をした人は職場の上司、石田さんだ。俺が寝すぎたせいで機嫌が悪そうだ。
「すみません!次勤務被ったときは三十分多く寝ていいですから……!」
「そういう問題ちゃうけどな…まあいいや。あと頼むで」
そう言うと石田さんは仮眠室へと入っていった。
二形 直樹二十歳 職業 警備員
彼女 なし
ただのサラリーマンだ。しかしほかの人と少し違うことが一つだけある。それは、数少ない現実世界で働いているということだ。
五十年前に起きた未曾有の大災害。今では日本にあのウイルスは撲滅しているが、未だに海外からの訪日、輸出は停止状態。まるで鎖国だ。
それに五十年経った今でも外出禁止令は解除されたが、未だに外出自粛命令が出されている。おかげで、物価の上昇や失業者が八割も出る始末。国民も外出を恐れ、必要最低限の外出しかしなくなった。
しかし今から三十年ほど前、日本のとある会社が全世界へある開発を発表した。それはコンピューターの中に構築された三次元の仮想空間(メタバース)を利用し、そこで仕事や趣味、交流などを行えるようにするという開発だ。
数十年、就職難に陥っていた国民達は歓喜し導入と共に、多くの人々は仮想世界を利用した。
仮想世界の世界では痛覚以外の全ての五感、「味覚」「聴覚」「視覚」「触覚」が専用の機械を使うことで体験でき、第二の地球とまで呼ばれるほどに急成長をすることになった。
ただ仮想空間での仕事は誰でも出来るわけではなかった。頭の良い奴や仕事ができる奴が雇われ、失業者の改善に期待ができると言われていたが、実際のところは分からない。
逆に現実世界では、基本的に簡単な仕事はエーアイがこなすようになり、残った職業は医者や政治家など少なくなった。
警備員もその中の一つだ。ただ警備と言ってもAIの警備に不備がないかの警備。俺も意味がわからない。
ただ落ちこぼれの俺はこの仕事でしか食っていけないのも事実、ありがたいと思わないとな。
「ただ……ブラック企業すぎるんだよな。」
俺がもっと優秀ならばもっといい暮らしと良い職場につけるのだろうが、それはとうの昔に置いてきた。
午前八時 勤務終了
目にクマを宿しながら自宅を目指す。月の勤務時間は三百時間を超えることもあり、その癖給料が安い。
いつか絶対に辞めてやるとは思っているが、辞めても行くあてがない。これが限界社畜ってやつか
「今日も静かだな…ここが昔は大都市やって言われても正直分からんわ…」
俺が住む神戸はウイルスが流行る前は観光客などで盛んだったらしい。だが今は観光客なんて見る気配もなく、人よりも外を警備しているエーアイロボットの方が多いくらいだ。
俺はいつも自宅近くまで着くとその前のコンビニに寄って朝飯と晩飯を買って帰る。
店内に入り物色していると、ある雑誌が目に入る。それは仮想空間で主にゲームや雑談などを行い仕事にしているグループ
【メタストリーマー】だ
メタストリーマーは他の仮想空間の仕事と違い個人で仕事にすることができ、ストリーマーの事を閲覧する人【リスナー】の投げ銭や閲覧する際に度々でる広告費などで成り立っている。
仮想空間で仕事ができない人達でも気軽になれることや、芸能人などとは違い身近な存在であることから多くの人々から人気を高めている。
俺も一時期は挑戦したものの、人気もあって更に誰でもなれるっていう気軽さもあるからか、なかなか人が来なくて断念したんだ……世の中そんなに簡単では無い。
俺がもっと優秀ならば叶うかもしれないが……世の中そんなに甘くない。
朝食と今日の夕食を選び、レジへ向かった。
愛想の無いエーアイに商品をスキャンし、会計を済ませ自宅へと帰る。今日は朝から同僚の三島と仮想空間で待ち合わせしている。なんといっても可愛い女の子を紹介してくれるらしいからな。
自宅に帰り、おにぎりをお頬張りながら俺はパソコンを起動した。
すると起動してすぐ、一件のメールが届く。大体メールが送られてくるのは会社からだ。
「お願いだから急遽入ってくれみたいなメールだけは辞めてくれ……」
そう思いながらカーソルを動かし左クリック。
どうやら会社からのメールでは無かったようだった。
「ふぅ……驚かせやがって」
でも会社じゃなかったらどこからのメールなんだ?今どき迷惑メールなんてくるはずも無いし、間違いメール?いやそれこそありえない。
疑問に思った俺はそのメールの中身を開いてみる。どうやら何かの案内メールだったようだ。
「招待状…?左にも何か書いてあるけど分からないし、内容も記号ばっかで……なんなんだよこれ」
何の招待状が不思議に思い下にスクロールをしようとしたが、あるおかしな点に気づく。
「あれ…この差出人、アドレスが無い…じゃあどうやって俺に送ってきたんだ」
さらに驚くべきことに今見ているメールの文章が変わっていく
動揺と恐怖で俺は固まってしまう。
文字は段々と変わっていき最後にはこういう文章になった
差出人 〒×\|=+7*→%°
宛先 二形 直樹
09:58
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第二の人生への招待状€
人は自分の理想を求め、それになろうと努力をする
しかしながら理想は時に誘惑し、身を滅ぼすものである
それほど理想というものは人の身体を蝕み、苦しませるものである。
しかし、その理想を掴みしものにしか真の理想にはたどり着けない。
そんな理想を求める貴方にとある仮想世界のメタストリーマーへの招待状をお送りします。
貴方の第二の人生は全てここに。
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そう書かれた文章は読み終わると消えていき、そして、浮かび上がったのは、その仮想世界があるであろうURLとその世界の名前だった。
その名前は ライフ オア ライブ