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「目障りな国がことごとく同盟を結ぶのはカイ様とアンネ様の婚約のせい。向こうにしてみれば、その諸悪の根源が聖女サマの縁切り、って結論であの馬鹿王子は随分と盛り上がった様ですよ」


 流石に王族や公爵家の娘を手に掛けるのは不味い。レノーイが関わっていると露見した時にそれこそ戦争の口火を切る事になりかねない。それにそういった相手がいる場では警護も厳重だろう。ならば、もっと狙うのが簡単で、それでいてこちらの溜飲が下がる相手を探せ――そうしてセレスが、その標的となったのだ。


「初めは聖女サマは教会で守るはずだったんですが、イーデンとリフテンベルフの方がどうしてもね……聖女サマに挨拶したいってですね……」

「すまない……!」


 シークがどこか遠い目をしての言葉に、カイの詫びが重なる。


「私が長く一人でいたものだから……そんな私が自ら求めた女性の、その……恩人とでも言うべき方に是非一目会いたいと引かなくて」


 そういえば、とセレスの記憶も蘇る。すっかり遠い過去の日の様な気持ちになるが、ほんの数時間前の話だ。

 やたらと挨拶をされたのを覚えている。聖女である、というのを隠していての参加だったのに不思議な物だと思っていた。一応アンネの友人、という事にしてもらっていたので、それが原因かと自分を納得させていたのだがまさか、そんな理由であったとは。


「ごめんなさいセレス……イーデンの方にも、リフテンベルフの方にも全てをお話しできたらよかったのだけれど……」


 セレスがアンネの為に祈った縁結び、が起因した縁切り。それによりフェーネンダールに起きたかもしれない犯罪。それらを全て話すことができれば、セレスを無理に宴の場に引きずり出さずに済んだかもしれない。しかし。


「いくら同盟国とはいえ、相手国の第一王子だった人間が子どもを売り飛ばそうと計画していたなんて言えませんからね」

「ああああああああああ!! やっぱり! やっぱりそうだったー!!」


 うわあん、とセレスはアンネに抱き付いた。しれっと最大の禁忌事項を暴露されてしまった。


「そうやってさらにわたしを底無し沼に引きずり込もうとしてませんか!? 鬼! 人でなし!!」

「この場だけの話ですよ。それにこんな話しなくったって聖女サマ自身がこの国の禁忌ってか、機密事項みたいなもんですから。安心してください」

「いまの言葉のどこに安心できる要素があるって言うんですか! あとわたしが機密事項ってのもなんなんですかぁっ!」

「縁切りの祈りで王太子というこの国にとっての悪縁を断ち切って、隣国との縁を結ぶだけで無く、その先にあった大国とも縁を結ぶ程の力。こんなの国家機密にしなくてどうするっていうんですか」

「わたし! ただの! いっぱんじん!!」

「聖女サマがどう思おうとこの場合は関係ないですね。国を治める人間が、聖女・セレスという存在をどう取るか。少なくともレノーイとフェーネンダールはそういう認識をしたってだけです」


 セレスに会いたいという要望を断ると、自国での最大の不祥事まで伝わってしまう。かといって、護衛の手を二分するには一方の規模が大きすぎる。


「最大級に守らなければならないのは当然婚約披露の場。かといって、聖女サマを見殺しにするなんてもってのほか。で、だったらいっそ聖女サマもこの場にお呼びして、一緒に守った方が良いのではないか、となりまして」


 普通に招待しただけではセレスは断るだろう。だから、セレスが一番大切に想っている、そしてセレスを大切に想っている相手に助力を願ったのだ。


「ごめんなさいセレス……本当にごめんなさい……あなたを守るため、でもみすみす危険な場に呼ぶ事でもある……そう分かっていたのに、それでも貴女にも来て欲しかったの……」

「アンネ様泣かないでください! やっとこう、なんとか話が繋がりましたけど、改めてやっぱりアンネ様が悪いことなんてなにもないじゃないですか!」

「わたくしが彼と婚約なんてしていなければこんなことには」

「それはお家のことですからアンネ様に非はありませんし! そんなことまで言い出したら、そもそもあんなドクズに育てた親が悪いって話になります!!」


 不敬罪、の三文字が脳裏に一瞬過ったが、それを振り切ってセレスは力強く最後まで言い切った。パチパチと乾いた音が鳴るのは、シークが拍手をしているからだ。


「どこまで聖女サマへ対する殺意があるのかもその時点では不明ってのもあったんで、だったらもう下手に二手に分かれるよりは一カ所で纏めた方が確実だなと」


 納得はいかないが納得するしかない。ううん、とセレスはいまだ泣き止まぬアンネを宥めつつ、ふと疑問が浮かんだ。


「アンネ様から初めて今回のお話を聞いた後、一人で戻って来られたじゃないですか……あの時言っていたのがこのことだったんですよね?」

「そうですね」

「どうしてあの時、アンネ様が狙われているって話にしたんですか? ええと、わたしに恐怖心? を、与えないためっていうのは、わかるんですけど」


 アンネが狙われていると聞いて、むしろセレスは怒りに燃えた方であるが、あれは人によっては怯えてしまって参加自体を断る場合もあったのではないだろうか。しかもシークは「アンネを守る」為に動いて欲しいとセレスに頼んできたのだ。


「絶対一人になるなって……」


 それもセレスを守るため、なのは分かる。分かるが、なんだか釈然としない。

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