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「アンネ様とカイ様が今回ご婚約されたことで、フェーネンダールとイーデンも同盟国となる、のはわかります。そこからさらにフェーネンダールとリフテンベルフも……なる、んです、よね?」


 カイとシークが同時に頷く。やはりリフテンベルフの来賓が多かったのはそういう事であったのかと、これについてもセレスは腑に落ちた。問題はここから先の話である。


「それでどうして……わたしが標的になるんです?」


 何度考えても答えが浮かばない。同盟なんて国同士の話だ、聖女だなんだと言われようとセレスに権力などありはしないのだから、どうしてここで突然自分が渦中に放り込まれるのか。


 その答えは思ってもいない物だった。


「先程も言ったが、貴女が私とアンネの縁を結んでくれたからだ」

「聖女サマがアンネ様の元婚約者であるあのクズとの縁を切って、カイ様との縁を結んだからですよ」


 同じ様でも微妙に違うカイとシークの言葉である。


「元から険悪ってわけではなかったですけど、かといって友好国ってわけでもなかったイーデンの王弟殿下から突然の求婚が来たんです。でもってそこから怒濤の勢いで婚約が決まって、つまりは同盟まで決まりまして。ここまではよくある話ですけど」

「あるんですか!? こんな話がよくある話!?」

「リフテンベルフの国王はカイ様とも親密だそうで。カイ様がそこまで入れ込む程に素晴らしいご令嬢がいる国ならばと、あそこから使者が派遣される様にもなりまして」


 そうやってイーデンを介して、これまで交流の少なかったリフテンベルフとフェーネンダールは親交を深め、ついにはここでも同盟が結ばれる事となった。


「レノーイにしちゃ面白くないどころじゃないでしょうよ。ただでさえ邪魔なリフテンベルフだっていうのに、そこに戦闘に長けたイーデン、そしてのんびり農耕国家ですがおかげで食料も水も豊富なフェーネンダールが加わっての三国同盟。暗殺の一つや二つ仕掛けたくなっても仕方ないですよね」

「標的にされる方からしたらたまったものじゃないですけど!?」


 つい突っ込みを入れてしまうが、本当に言いたかったのはこれではない。


「これまでそんな素振りの無かったリフテンベルフとフェーネンダールが突然同盟関係になった。その切っ掛けはイーデンとフェーネンダールでの同盟があったから。ではこの二国が同盟を結んだのは、と探ればカイ様とアンネ様の婚約が結ばれて……」


 そして、その二人が婚約する原因となったのは――


「わたしなにもしてませんけどぉっ!!」


 セレスが二人の間を取り持ったわけではない。相手は隣国の王族だ。そんな人間と関わりなどセレスが持てようものか。それにアンネの素性についてもセレスは何も知らなかったのだ。飛び火どころの騒ぎではなく、これは完全なる濡れ衣ではないか! とセレスは叫びかけた。


「だから、ドクズとの縁を切ったでしょ、聖女サマ」

「貴女がアンネの悪縁を切ってくれなければ、彼女はあの男の悪行に巻き込まれていたかもしれない。例えそうはならなくとも、あのままではアンネは婚約破棄をされた令嬢として社交界から去っていただろう……」

「聖女サマにも言ったと思いますが、あのクズはあと一歩の所まできてはいたんです。あの時点でアンネ様との形式上の関係は切れていましたが、もし最悪の事態まであのクズが進んでいたら、アンネ様にだって飛び火しかねなかった」


 人身売買の為に子どもを拉致しようとしていた。その場面をまさに取り押さえたので未遂に終わったが、これがもし実行されていたとしたら。

 ただでさえ婚約破棄をされたという醜聞を抱えているアンネに、さらに元婚約者が人身売買に手を染めた犯罪者という事まで襲いかかる。アンネ自身に一切非は無くとも、そういった人物とかつて婚約関係であった、というだけでアンネどころかアンネの家自体も没落しかねない。


「それが聖女サマの縁切りのおかげで不幸になる子どももいなければ、その不幸にアンネ様が巻き込まれる未来も無くなった」


 そして、その悪縁が無くなったからこそ、その後に運命の相手との縁が結ばれたのだ。


「それは……でも……」


 セレスは口の中の乾きを覚えつつ、それでもどうにか言葉を紡ぐ。手を握ってくれているアンネの掌にさらにもう片方の手を乗せ、深呼吸を一つ。


「――こじつけがすぎやしませんか!?」


 原因を突き詰めていったら最終的にそこに辿り着いた、という事なのかもしれないが、勝手に終着点にされたセレスとしては堪ったものではない。


「たしかにアンネ様の縁切り……じゃなくて、悪縁が切れて良縁が結ばれますようにって祈りましたよ! 祈りましたけど!!」

「即縁切り効果出たの流石ですよね聖女サマ!!」

「だから縁結びぃっ!! それにしたって、結局はアンネ様が素晴らしい方だからこそカイ様も心を寄せられたわけじゃないですか! そこにわたし関係なくないです!?」

「だから何度も言ってるでしょ、アンネ様の悪縁が切れてなかったらそもそもカイ様との出会いも無かったんですって」

「これまでの縁切りで一番理不尽なんですけどー!!」


 やっぱ縁切りじゃん、とシークが突っ込むがセレスはそれどころではない。


「理不尽だと私も思う。こじつけがすぎる、とも思った。だが、レノーイ……少なくとも、あちらの王太子はそうは思わなかったんだろう」


 気の毒そうな眼差しをカイに向けられ、セレスはほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。


「彼はとにかく思い込みが激しく、粗野で、臣下の話を聞く事もしない愚鈍な王子であったそうだが」


 わりと仰る方だな、とついそんな事を考えてしまうセレスであるが、自分の婚約者も標的の内であったのだから仕方が無いかとも思う。それに、そう言われてしまうだけの物をセレスもあの短い時間でひしひしと感じていた。

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