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――婚約披露の場でアンネが狙われるかもしれない


 セレスがパーティーへの招待を受けたあの日。一旦帰ったはずのシークが再び教会へと戻って来たかと思えば、セレスにそんな爆弾を投げ付けた。


「アンネ様の婚約をよろしくない物だと考えている連中がいましてね」


 当然警備は厳重に敷かれる。アンネとその婚約者の傍には常に護衛も付く。


「それでも、もし万が一という事があるので、そこで是非とも聖女サマに協力して欲しいんですよ」


 セレスは二つ返事で頷いた。元からアンネの為に自分に出来る事ならなんでもするつもりだったのだから、ここで断る理由がない。


「聖女サマに危害が及ぶ様な事は一切させません。貴女自身、この国にとっては重要な人物ですからね、影ながらに護衛が付きます」

「わたしはなにをどうすればいいんですか?」

「絶対に一人にならず、アンネ様を見ていてください。もし貴女から見て、アンネ様の周囲に不信感があればすぐに近くにいる者に声を掛けてもらえれば、それで」

「それでいいんですか?」

「それで、とは言いますけどね、これも中々に難しいものですから」

「絶対に一人になるな、と言うのは?」

「もしアンネ様に変なのが近付こうとしたとして、聖女サマじゃ太刀打ちできないでしょ。貴女に色々身を護る術は教えましたが、あれはあくまで逃げるための切っ掛けになるもので、相手を仕留められる様なものじゃない。まして、普段以上に警備の敷かれた中に侵入してくる様な奴に通じるわけがない」


 確かに、とセレスはこれにも頷く。セレスが身に着けたのは護身の術であり、他者を制圧する様な物ではない。


「だから、絶対に一人にならないでください。どうしても一人にならざるをえない状況になったとしても、誰でもいいから一声掛けて。当日会場内にいるのは全員そういった心得のある人間達です。侍女だろうと誰だろうと、少なくとも聖女サマよりは強い連中で固めています」


 原則、セレスを一人にする様な事はしないけれど、それでも何があるか分からない。もし何か動きがあるとしたら、その一瞬の隙しかないだろう。


「わかりました。とにかく一人にならずにアンネ様を見守って、もしどうしても一人になって、そんな時にわたしに近付いて来たりする人がいたら、とりあえず近くにいる誰かに声を掛ける。これでいいです?」

「完璧です」


 そう言って笑うシークの顔は、この二年の間で初めて見るなんとも優しい笑みだった。

 そんな話を聞かされていたからこそ、セレスはずっとヘルディナと共にいたし、彼女がほんの一瞬離れた隙に声を掛けられた時も「来た」と思いこそすれ、慌てる事は無かった。中庭へと誘われた時も、喉が渇いているからと果実水を侍女から受け取る際に一言その旨を伝えた。

 見知らぬ青年と暗い庭園で二人きり。案の定アンネを狙っていた相手であり、セレスだって身の危険は感じていた。それでもシークが「危害が及ぶ様な事は一切させません」と言い切っていたので、絶対に守ってくれるという安心感しかなかった。だからセレスはあんなにも怯える事なくはっきりと反論できたのだ。


 だというのに。


 遅れてやってきた他の騎士達にあの青年は捕縛されて連れて行かれた後、セレスは王宮内の一室に案内され、ひとまず待機するよう命じられた。事情聴取かなあ今日はもう帰れないなあ、とソファに腰掛けつつ用意されたお茶を飲み、暢気にそんな事を考えていた。が、話を聞いたアンネが部屋へと飛び込んで来てから状況は一変する。


「セレス!!」


 勢いよくアンネに抱き付かれ、セレスは悲鳴を上げる間もなくソファに押し倒された。ハラハラと涙を流しながらアンネはセレスの無事を喜ぶが、当のセレスはどうしたらよいものかと周囲に救いを求める。しかし、アンネの婚約者であるイーデンの王弟・カイも安堵の笑みを浮かべたまま二人を微笑ましく眺めるだけで、動こうとはしない。

 心配されるのは申し訳ないけれども嬉しくもある。しかしやはり申し訳ないし、アンネの泣き顔を見たいわけではないので、セレスは幼子をあやすようにアンネの背中をポンポンと優しく叩いた。


「わたしはどこも怪我してませんし、大丈夫ですよアンネ様」


 その言葉にようやく安心したのか、ゆっくりとアンネは身を起こす。セレスもアンネに手を引かれながらなんとか元の体勢へと戻ると、アンネはまたしても涙を零した。


「ええ……ええ、シーク様が貴女を決して傷付けさせないと言っていたもの……貴女の無事は絶対のものよ……でも、それでも心配だったの! 本当は教会で安全に過ごして欲しかったのに、わたくしのせいで貴女をみすみす危険な場に呼び出してしまった……!」

「アンネ、それは違う。君のせいじゃない、今回の件は全部こちらが原因だ」


 アンネの傍に膝を着くと、カイはそっとその涙を拭う。まるで絵画の様な光景にセレスは一瞬見惚れてしまうが、その少し後に「ん?」と内心首を傾げた。なんだか妙な違和感がある。


「誰が悪いって、自分達の都合が悪くなるからって安直に誘拐だとか暗殺をしかけようってする連中ですよ。国家間の問題を個人にすり替えて、それで解決だって安直すぎにも程があるでしょう。だからこそ裏切られて、そのおかげでコッチは簡単に捕まえる事ができたわけですが」


 中庭の時と同じ様に唐突にシークの声が割って入る。セレスに被せていたマントを今は身に纏い、裾を靡かせながら部屋の中央へと足を進める。そんな彼の言葉、そして声音に「んんん?」とセレスの中でさらに違和感が増した。


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