辻斬りバーサーカーVS最強の壁(タンク)姫 ~ ビリーブプルーフオンラインにて ~
「バカな、硬え。攻撃力に全振りした俺のビルドの拳を受けて、
なんともねえだと!?」
「通称辻斬りバーサーカー。わたしは、あなたの心を折りに来ました」
VRMMORPGの一つ、ビリーブプルーフオンライン。
俺はこのゲームを、攻撃力に全振りしたキャラクタービルドで遊んでいる。
その理由は単純だ。俺TUEEEしたい、それだけだ。
「最強の壁姫。相手にとって不足はねえと思って殴りかかったが。
まさか、あらゆる物と者を一撃でぶっ飛ばして来たこの俺の自慢の拳に、
ぶっ飛ばせねえ者がいたとはな」
相手のアバターは女性型、それも見た目は悪くない。
声はプレイヤーの音声データが流用されるために、性別のごまかしは効かない。
どうやら、プレイヤーは女らしい。
「心を折るだと?」
「そうです。いくらゲームの中とはいえ、やっていいことと悪いことがあります。
それを教えるために、わたしはあなたと向き合っている。
頼まれたってこともありますが」
「バカなこと言うなよタンクさん。ゲームの中だからこそ、なにやっても」
「いいんだろうが!」の声の勢いを借りて、再び右の拳で殴り付ける。
「くそ。まったく動かねえ。手応えはあんのに、ビクともしねえ!」
「ゲームの中であろうとも、プレイヤーがいる以上人と人とが関わり合う。
それなら、同じことをされた時、自分がどう思うのか感じるのか、
考えて行動すべきです」
「うるせえ、道徳の授業やってんじゃねえんだぞこっちは!」
左で殴る、効果なし。右で蹴る、効果なし。
「このっ! このっ!」
なにを何発やっても、結果がかわらない。
「あなたは通り魔です。アバターは死なず、リスポーンポイントに
飛ばされるだけとはいえ、いきなり現れて殴り殺して行く。
辻斬りバーサーカーなんて呼ばれ方をしていても、実質通り魔です」
「だったら! どうしたっ!」
「なにも感じないんですか? 人殺しだって言われてるんですよ?」
「言っただろ、ゲームの中だからなにやってもいいって!」
ひたすら打撃を与えてるってのに、マジでビクともしやがらねえこの女。
「やめるんですよ、辻斬り行為を。プレイヤーさんたちが、
あなたの通り魔行為をどう感じてるかご存じないんですか?」
「知ってるとも。曰く『生きた死亡フラグ』、曰く『目が合ったら1デス覚悟』。
今や辻斬りバーサーカーは、出会って何秒生きられるかのチキンレースの遊び道具だぜ。
それをやめろって? 冗談だろ? 俺はぶっ飛ばして満足、他プレイヤーは
あらゆるところがチキンレース会場だ。スリリングだって評判だぞ」
「それは一部の人だけです。わたしは、あなたに辻斬られた人数名から、
あなたの心を折ってくれ、って頼まれたんですよ」
「そうなのか? だけどな。俺が攻撃が通らねえ程度で折れると思ってんのか?」
「なら、折れるまで付き合いますよ」
「頑固なお嬢だぜっ!」
俺はこの頑固者に、ひたすら打撃を続けると決意した。
逆に、こいつの心をへし折ってやる!
「俺の攻撃が通るか、アンタが折れるか。どっちが先かな?」
「頑固な人ですね、あなたも」
「反撃したっていいんだぜ?」
「しませんよ。あなたの土俵に立たないことで、あなたの心を折ります」
「そうかい。ならこいつはゲームの外の体の体力勝負だな!」
「そう言うことになりますね」
「涼しい顔しやがって。アンタの表情、少しは変えてやる。
それが今決めた俺の目標だ!」
*****
「いい加減、我慢の限界ですね。本当に、折れない人」
「そっちこそな。だけど、アンタの表情が今かわった。
目標達成したな」
「やめますか、それなら」
「いや。次の目標だ」
「なんですか。まだなにかあるんですか?」
「ああ、ある。それは。アンタをぶっ飛ばす!」
「これだけ殴る蹴るを続けて、まだあきらめないつもりですかあなたは?
呆れるを通り越して哀れですよ」
「なんとでも言え。これまでできたことだ、やれねえはずはねえ。
アンタのステータスがどうなってるのかは知らねえ。だが、
俺の攻撃力ステータスだって生半可な数値じゃねえんだ。
アンタが力を抜いた拍子に打撃が当たりでもすりゃ、
はいリスポーンで俺の勝ちよ!」
「言いましたよね、我慢の限界だ、って。
それ以上強情だと、わたしも反撃しますよ」
「ああ来いよ。反撃していいって、俺は言ってあるんだぜっ!」
思いっきり右に体をひねり、叩き込める最強の一撃を放つべく、
体のバネを限界まで使って、右ストレートを放った。
一瞬、相手の姿が見えた。
それは、俺とのクロスカウンターを狙っている。
どうやら、心を折ることを諦めたらしい。相打ちだ。
狙ってんのは相打ちなんだ。
だが、それでもいい。この状況が動いたんならな!
「ぐおあっ!」「っがっっ!」
ずいぶん、短え悲鳴だな。と、思ってる間に、俺の視界はブラックアウトした。
*****
「ふぅぅ」
リスポーン地点に戻ったところで、俺はログアウトし意識をゲームから解き放った。
いつもとまったく違うプレイ後の感覚。汗だくだくだし、虚脱感もある。
俺はいったい、奴を何時間殴り続けてたんだ?
ログアウトついでに、交流掲示板を覗いてみる。
「お? 『バーサーカー対壁姫様! 現代の矛盾を見守るスレ』、これは
俺と奴との様子を実況してたスレか。現代の矛盾、
プレイヤーの間で、俺が最強の鉾で、彼女が最強の盾って扱われてたのか。
えーっとなになに?」
結局のところ、ダブルKOのため最強の矛VS最強の盾は、どっちが上なのか不明のまま、
そういうことになったとのことだ。やっぱ、あいつは攻撃に転じた時には
防御力が下がるんだな。そしてその状態なら突破できるとわかった。
突破できることはわかったが、やろうとしても今回の二の舞になりそうだ。
やれやれ、こりゃ奴に遭ったら逃げなきゃならないらしいな。
俺のキャラビルドは、壁姫と出会い頭のやりとりでも言った通り
入手したあらゆるステータスへのボーナスポイントを全部攻撃力に振った物。
その代償として、防御力がいわゆる紙装甲なのだ。喰らえばやられる。
俺の素早さのステータスで、逃げられるんだろうか?
いやまあ、あいつが攻撃をしかけて来るとは思えないんだけどな。
ーーん?
逃げられるのか不安がある。殴られれば一撃。おいおいマジかよ。
これって、俺とチキンレースやってる連中とまったく同じじゃねえか。
なるほど、これが辻斬られる奴の心境か。
たしかに。あんま、いいもんじゃねえかもしれねえ。
「ん? なんだ、この書き込み?」
見守るスレの一番後ろに妙なかきこみがあった。
それは、女プレイヤーを自称する奴が、俺を次に見つけたら
声を掛けてみようと思う、と言う物。それ自体も見たことはなかったが、
その後の文章に、俺はもっと首をかしげることになった。
「『バーサーカーの手綱を握れるのは、壁姫様しかいないからね』だとぉ?
おいおい、本人降臨かよ。隠してるつもりかもしれねえが、
こんなにあからさまでバレてねえとでも思ってんのか?」
あんなに堅物そうだった壁姫様が、こんなに抜けた奴だったギャップで、
俺は吹き出してしまった。
ーーひょっとしたら。
矛盾コンビの結成、なんてことになるかもしれねえな。
思わぬ展開と、壁姫様の親し気なポイントの発見に、
なんだか疲れが軽くなったような感覚を覚えた。
「楽しい予感、か? 柄にもねえ」
また吹き出しちまった。
「シャワー浴びてくっか」
席を立って、俺は部屋を出た。
ーーあ。
シャットダウン忘れたわ。
ま、いっか。
THE END