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幼馴染の意地  作者: ヤマネコ
9/43

中学生(7)

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夏休み最終日、今日は鳴海と2人きりで出かけることになっていた。遊園地のチケットを手に入れて一緒に行こうと誘われていたのだが


健也「……来ないな」


今日は遊園地現地集合になっていた。チケットはあらかじめ鳴海から貰っていたので入場することは出来た。現地集合なんて滅多にしないので、なぜ現地集合なのか鳴海に聞いてみたら


鳴海「そっちの方がそれっぽいじゃん?」


とよく分からない返しをされてしまった。それっぽい? それっぽいってなんだ? 


スマホを見るも連絡1つもない。こんなのは初めてだ。遅れる時は必ず連絡をしていた彼女が初めて連絡もなしに遅刻。もしかして何か事件に巻き込まれたのかと心配してくると、スマホが震えた。鳴海かと思い表示されている名前を見ると、なんと鳴海母からだ。万一何かあった時は、お互いの両親と連絡が取れるように交換していた。通話ボタンを押すと


鳴海母「あ、健也君? 鳴海の母です」

健也「はぁ、どうしました?」

鳴海母「鳴海と遊びに行く約束してたよね?」

健也「はい、そうですね」

鳴海母「実は鳴海、熱を出しちゃって。今日は遊びに行けそうにないのよ。今は薬も飲んで寝ているわ」

健也「そうですか……お大事にと伝えておいてください」

鳴海母「はい、伝えておきます。なんか騒がしいけど、どこかいるの?」

健也「遊園地にいます」

鳴海母「あー……それは申し訳ないことをしたわね」

健也「いえいえ、お母さんも鳴海も悪くないですから」

鳴海母「あらお母さん? クスクス」


母のクスクスは鳴海のクスクスと一緒の笑い方だ。流石親子


鳴海母「まぁ、そういうことで。ごめんね」

健也「いえ、連絡ありがとうございます。それでは」

鳴海「はい」


通話を切る


健也「どうしたのものか……」


まさかの1人遊園地。ここで帰るのもありだが、遊園地なんて遊園地好きな人じゃないとほぼ自分の意思で訪れること自体ありえない場所の1つだ。そのまままっすぐ帰るのもそれはなんかな~と思ってしまう。かと言って1人で何かに乗ってみたいかというと実はそうでもない。遊園地自体にそこまで興味はなく、鳴海と一緒に回ることに意味があったので、手持ち無沙汰になってしまった。


そういえば夏休みになって初めて鳴海と合わなかった。夏休み中は、一度は必ず会っている。会っていると言っても挨拶だけしてお別れという日もあったが、それでも会わない日は無かった。


健也「とりあえず適当に回ってみようかな……ってあれ?」


とりあえず貰ったマップを見て、コーヒーカップでも乗ろうかなと思って前を見て歩き始めると意外な人がそこにいた。その人は健也に気付いていないようで、1人で椅子に座ってスマホを突いている。別に話しかける理由も無いので無視していこうかと思ったが、視線を切る直前に何か驚いたような動きをしていたのでついそっちを見てしまう。


健也「あ」

???「あ」


目が合ってしまった。ここで無視するのもな……その人は健也を見て驚いたような表情をするも、すぐに複雑そうな顔をして健也から視線を逸らした。どうしよう……すごく無視したいけど、無視したらしたで怖いが……仕方ない


健也はその人に近づくと、その人は気まずそうに顔を下に向けるだけで逃げるようなことはしなかった。その人の前に立ち


健也「何してるの?」

???「待ち合わせ」

健也「そうなんだ、じゃあね」

???「え」


そう言って去ろうとしたが、意外にもその人は会話を続けてきた


???「鳴海と一緒じゃないのは珍しいね」

健也「体調崩したみたいで来られなくなったみたい」

???「あらそうなの? お気の毒ね」

健也「うん」

???「……」

健也「……じゃあ」

???「ま、待って。あのさ、もしよかったら私と行かない?」

健也「え、待ち合わせしている人は?」

???「急に予定が入ったみたいで。ほら」


その人はスマホの画面を健也に見せる。画面にはメールのやり取りが表示されていて、確かに相手が急に来られなくなってしまったことが書かれている。メールの相手は「吉良」と書かれている。


健也「良いのか? 愛奈さん」

愛奈「愛奈でいいよ。さん付けはなんかくすぐったい」

健也「じゃあ愛奈、行きたいところはあるのか?」

愛奈「……うーん、ちょっと待って」

健也「分かった」


再びスマホを突き始めて何かしている愛奈。その間座っている女の子の前で棒立ちして女の子を見ている健也。2分程度何かやり取りしていたが、目的を達したのか


愛奈「よし、じゃあ行こうか」

健也「分かった」


スマホをしまってカバンに閉まっていたマップを見てどこに行くか2人で意見を出し合う。と言っても、健也は別にどこでもよく、愛奈は吉良と行きたかった場所に健也と行くことに抵抗があったのかかなり場所選びに迷ってしまっているように見えた。それもそうだ、行きたい相手が来られなくなって、代わりに別の人とその場所に行くのは抵抗があるだろう。吉良の話だと「愛奈は男嫌い」だ。どういうわけか健也のことは大丈夫みたいだが、それでも時々冷たい対応をすることがあるので、受け入れられていない部分もあるようだ。


愛奈「じゃあここにしましょう」

健也「あいよ」


来たのは鏡合わせの館。入口に入るとほぼ全方向に自分の姿が映っており、しっかりとした進路を歩かないと鏡に激突を繰り返すというところだ。2人で入り、いざ出陣……なのだが


健也「いてっ」

愛奈「……」

健也「あた」

愛奈「……」

健也「んおっ!」

愛奈「もしかしてわざと当たってる?」

健也「そんなわけいでっ!」

愛奈「そんな几帳面に全部に当たらなくていいんだよ?」

健也「わざわざそんなことするか? ぐはっ」

愛奈「仕掛けすべてに引っかかるのは、作った身としては嬉しいんじゃないかな? きっとこの館も笑っているわよ」

健也「あぁ、あるある。ゲームだと自分の勝ちたい勝ち方で勝ったらすげぇ嬉しいってやつだろ? 痛いっての!」

愛奈「感覚的にはそれに近いんじゃない? 私は創作者じゃないから知らんけど。あと鏡壊そうとするなよ?」

健也「ぎゃっ! なんでそんなスイスイ行けるの」

愛奈「感覚?」

健也「まだ1回も当たっていないよな?」

愛奈「そうね、ノーダメージで行けそう」

健也「愛奈ってゲームする方なの?」

愛奈「吉良とよく遊ぶから、ねぇあれ見て」

健也「~~っ!」

愛奈「あ、ごめん。私から見てだった。健也からの視点で言ってなかったわ」


言われた方向を見ると、額を思いっきりぶつけてしまった。涙目で愛奈を見ると、なぜかスマホを懐に戻している。あれ? さっきスマホを出していたのか? 額を擦りながら愛奈の後ろをついていくと、先に光が漏れていることに気付いた。もうすぐゴールのようだ。


愛奈「もうすぐゴールだよ。頑張れ」

健也「頑張る」


光の先に着くと、視界が真っ暗から真っ白に変わる。突然の暗転に目が慣れなかったが、すぐに慣れて周りを見ると「ゴールおめでとう」と書いてあった。


愛奈「次どこにいこうか」

健也「んー、そうだな」


そういえば今思ったけど、一応男女2人なんだよな。こんなところ学校の人に見られたら絶対誤解させてしまうような……。そのことを愛奈に伝えると


愛奈「あぁ、それなら平気だから」

健也「え、なんで?」

愛奈「……平気だから心配しなくても良い。それよりも健也は楽しむことを考えな」

健也「? 分かった?」


よく分からなかったが、自信を持って大丈夫と答えている。何か秘策があるのかもしれない。


愛奈「―――だし」

健也「なんか言った?」

愛奈「いや、何も。じゃあ次はあれ行こうか」


愛奈が指さしたのは空中ブランコだ


健也「あぁ、いいぞ」

愛奈「怖くないの?」

健也「あれなら平気」

愛奈「……そう」


2人で空中ブランコに乗る。最初は大丈夫だと思っていたが、乗ってから少しずつ高度が上がって行くのを体感すると


健也「あぁ、これあかんかも」


変な口調になりながら下を見ないように目を瞑っていた。自分でもなんで平気なんて抜かせたのか分からないでいながら終わるまで何も考えないで空を飛んでいた。
















愛奈「ちょっと大丈夫?」

健也「大丈夫じゃないです」

愛奈「……ったく。少し早いけどお昼にしましょうか」

健也「あぁ、じゃあどこかのお店に……」

愛奈「本当は吉良と食べる物だったけど、健也も食べなさい。私1人じゃ食べきれないから」


愛奈と健也は近くの草原っぽいところに着き、愛奈はカバンからレジャーシートを出して広げる。2人で横になっても十分な広さがあり、愛奈はお弁当を広げている。おにぎり、サンドイッチ、卵焼き、唐揚げから、一口サイズに切られているリンゴや桃も取り出した


健也「こんなに食べるのか」

愛奈「吉良ってよく食べるのよ」

健也「あぁ、あいつなら食べられそうだ」


吉良は小さな身体だが、健也・鳴海・吉良・愛奈の4人の中で一番食べる量が多い。本人に取っては沢山食べて運動をしているのに、教室内(男子)では体格が小さい順から数えた方が早いことを気にしているようで悩んでいた。


健也と愛奈の共通の話と言ったら吉良と鳴海だ。どういうアトラクションに乗ろうかという話も出たが、それよりも2人の話が中心になった。


健也「鳴海って女子の友達いるのか」

愛奈「いるよ。健也と一緒にいることが多いからそう思っちゃうのも無理ないと思うけど」

健也「そうなんだ。愛奈以外に誰がいるの?」

愛奈「……大体クラスの女子全員と仲良いんじゃないかな?」

健也「へー全員? すごいね。見た感じ愛奈以外とあまり話しているところを見た事なくてさ」

愛奈「まぁ、自分が見ている所しか人間関係は想像出来ないからね。吉良は普段誰と話しているの?」

健也「俺」

愛奈「俺以外」

健也「そうだなー。○○とか××とか? 入学当初は中々友達が出来なかったみたいだけど、少しずつ出来たって本人からは聞いているよ」

愛奈「あー、入学して間もないころは完全に女の子に間違えられてたもんね。健也にすごい感謝してるって言ってたよ」

健也「そうなのか? 本人からも聞いたけど、改めて違う人から聞くと照れるな」

愛奈「キモっ」

健也「急に毒吐かないでくれます?」

愛奈「冗談よ」


冗談とは思えない清々しい笑顔だったけど、あれが冗談なら一体何を信用すればいいんだ?


健也「それにしてもうまいなこれ」

愛奈「あら、ありがとう」

健也「うまうま」

愛奈「…健也こっち向いて」

健也「?」

愛奈「はい、ちーず」

健也「え」


カシャ


健也「何撮ってんだよ。殺すぞ」

愛奈「鳴海に見せて今度一緒に行こうなとか言えば良いんじゃないの?」

健也「あーそうだな。あれ? 俺鳴海のこと言ったか?」

愛奈「言ったよ」

健也「あれ、そうだっけ」

愛奈「そうです」

健也「まあいいや、インターネットにアップしないでよ?」

愛奈「しないって」


急に風が強く吹く。吹いた瞬間に愛奈が何かを言っていたが


愛奈「―――ちゃうだろうし」

健也「なんだって?」

愛奈「なんでもない。私もう食べれないけど、健也はどうする? お腹壊さない程度に食べられる量を食べて欲しいかな」

健也「じゃあもう少しいただこうかな」

愛奈「ほいよ」


しばらく無言で愛奈のご飯を食べる。鳴海のご飯もおいしいが、それに負けないくらい愛奈の料理もおいしかった(健也基準)。愛奈は容器を置いていた場所を軽く片付けてカバンに入れて横になる。


愛奈「少し横になる」

健也「ほい」


別に愛奈と健也は恋人でもないし、強いて言うならグループで一緒に過ごしている関係だ。「友達」と言えるのかどうか…。健也的には「友達」というよりも「一緒のグループにいる人間」という感覚が強いが、愛奈は健也のことをどう思っているのか分からない。そしてそれは本人が言わない限り永遠に分からないままだ。それに仮に言ってくれたとしても、それが本心かどうか分からない。


男女の差、小学校高学年から中学生、高校生くらいの時には、仲が良かろうと男女2人でいること自体に口うるさくなる。本人達は広げるつもりは無いのに、それでも周囲は面白半分で本人達を搔き乱して、いざ大ごと(破局、自殺、心理的ダメージ)にまで発展すると全員自分は関係ないと主張する。そして結局本人達が潰れても「そういえばそんなことあったよね」とまるで自分は全く関わっていませんでしたよとアピールもする。


本当にふざけてやがる


健也「……」


最近鳴海のことで考えることが増えてきた。今までは隣にいること自体なんとも思っていなかったが、男女の仲と噂されて面倒なことになるのも迷惑をかけてしまうような……。だけど離れると鳴海は怒るし、健也自身も離れるのに少し抵抗があった。


今はまだ大ごとになっていないからそこまで深刻に考えないでぼんやりとしていられるが、それでも来るときは突然だ。やっぱり距離感について鳴海と少し話した方がいいかなと思っていると


愛奈「ん…」

健也「起きたか」

愛奈「……あーごめん、寝てた?」

健也「10分くらいかな」

愛奈「そうなんだ」


疲れていたのか、この料理の量だから作るのにも時間がかなりかかったため寝不足なのか。普段料理をしない健也にも分かるくらい料理に力を入れている。だけどそれを口に出して言うのも…なんかなー


愛奈「何暗い顔してるの。遊園地に暗い顔で過ごされたら、他の客も暗い顔になるわよ。ほら笑いなさい」

健也「あぁ…」

愛奈「鳴海なら平気だよ」

健也「え」

愛奈「どうせ鳴海のことで悩んでいたんじゃないの?」

健也「あぁ、そうだな」

愛奈「目の前にいる女の子よりも、他の女の子のことを考えるとか結構失礼だからな?」

健也「すまん」


確かにこれは失礼だった。人が話をしている時にスマホを突かれて適当に相槌を打たれている時のようなものだ。


愛奈「けど鳴海が平気でいるには健也が隣にいることが条件」

健也「え、どういうこと?」

愛奈「…馬鹿ね」

健也「あぁ?」

愛奈「少し前から思っていたけど、健也って結構口悪い?」

健也「愛奈も口悪くない?」

愛奈「女に幻想抱くなよ」

健也「幻想抱かせろや」

愛奈「あはは」

健也「何笑ってんだ」

愛奈「はいはい、もう食べられない?」

健也「うん、ごちそうさまでした」

愛奈「想像していたよりも食べたのね。偉いぞ~」

健也「次どこ行く?」

愛奈「これとかどう? メリーゴーランド」

健也「あぁいいぞ」


レジャーシートを片付けて2人でメリーゴーランドに乗った


愛奈「ねぇ健也」

健也「何」

愛奈「あれ」

健也「?」


愛奈がある場所を指さすと、そこには小さな女の子が1人であちこちと視線を向けていた。しかも今にも泣きだしそうだ。


愛奈「…」


愛奈が健也を見る。健也も愛奈を見るが、愛奈は何も言わない。多分「どうする?」と視線で言っている。健也が女の子に声をかけようと近づこうとしたら、他の誰かがその女の子に声をかけた。女の子は自分よりも大きい存在に話しかけられていることに怯えているのか、口をパクパクさせている。


愛奈「あの人達に任せましょう」

健也「…そうだな」


別にここでラノベ主人公よろしく、無理にあそこに割って話す必要はない。見た感じ健也達と同じくらいの歳の女子4人が話をしているので、多分大丈夫だろう。 


……あれ? あの女子4人、うちの学校の人か?


健也はクラス全員の名前と顔を覚えていないので、もしかしたら同じクラスの人なのかもしれない。既視感がある。


愛奈「…」

健也「うおっ!」


突然強い力で腕を引っ張られる。愛奈はなぜか不機嫌そうな顔をしており、今すぐこの場から離れたいという気持ちが言葉に無くても伝わってくるくらいだ。


健也「どうした」

愛奈「早く行こう」

健也「え、でも」

愛奈「ほら」

健也「分かった! 分かったから! 痛いって!」


遊園地に来てからなぜか怪我が増えているが、もしかして遊園地は危険な場所なのか? 


嫌そうな顔をしている愛奈の顔を見ながら、そんなどうでもいいことを思っていた




愛奈「そろそろ帰ろうか」

健也「そうだな」


良い時間になっていたので、2人で遊園地を出て電車に乗る。空は真っ暗で、今日は月が見えるはずだが、曇りで星も見えない。途中まで愛奈と一緒にいたが、降りる駅は違う。先に愛奈が電車から駅に降りた。まだ扉は開いていて、発射のベルが鳴っているが車内にいる健也と電車から降りた愛奈が向かい合って会話を続ける


愛奈「今日はありがとう」

健也「うん。こちらこそ」

愛奈「また明日からよろしくね。それから今日のことは内緒ね。あ、鳴海には話していいから」

健也「分かった」


そういうと扉はゆっくりと閉まる。左右から近づく扉で、愛奈の姿が少しずつ見えなくなっていき、いずれ完全に見えなくなった。電車がゆっくりと横に動き出し、窓越しに愛奈の姿を見たが、降りてきた人が横からやってきて、愛奈の姿はその人ごみに埋もれていった。電車はしばらく走るとトンネルの中に入り、横を向かなくても車内の人間の表情が窓に映っていて見ることが出来た


自分の右にいる人を見る。どこにでもいそうな男性だ。スーツを着ていて、スマホを見ながらため息をついている


自分の左にいる人を見る。どこにでもいそうなおばさんだ。厚く化粧をしており、横に流れていく景色を見て、憂鬱そうな顔をしている


近くに座っている一同を見る。スマホを弄る、本を読む、イヤホンをして寝ている


ほとんどの人は無表情に何かをしており、そこに笑顔はあまりない


トンネルを通り抜けて車内の人間の顔が見えなくなる。窓越しに空を見るも、そこに月は見えない


自分の掌を見る。いつも握っていた手がそこにはない


いつも握っているだけに全く意識しなかった……いや、違う


意識出来なかった存在の大きさを改めて実感させられる


鳴海は健也にとって、いつの間にか大きな存在となっていた


最寄り駅に着き、開けられた扉から出ようと足を踏み出す


何気なく通路の真ん中を歩いたが、それすらも驚いた


いつもは2人横に並んで歩いている


だから中央よりも左右よりになって歩くことがほとんどで、中央を歩くことは滅多に無い


驚いて横を見るも、そこにいるのは名も知らない、どこの誰かもわからない人間


鳴海じゃない


そのことに心臓が締め付けられるような思いをしつつも、自分も名も知らない、どこの誰かもわからない人間の1人となって足を動かす


家に帰っても、なぜか暗い気持ちは無くならない


親にただいまと言っても、暗い気持ちはなくならない


スマホを見るも、鳴海からはメールは来ていない。きっと風邪が続いているのだろう


部屋の電気を消した


何も見えない、何も聞こえない


目を瞑ろうとしたら、近くに置いてあったスマホが薄く光っている


考える前に手を伸ばす


表示されていた名前は自分がさっきまで考えていた人の名前


急いでロックを解除してメールを見ると


「おかえり」


とあった


それを見てなぜか心臓がドキドキとうるさいくらいに鳴っている


なんでこんなにドキドキいっているのか、そこは正直どうでもいい


ただ


これを見て今まで暗かった気持ちが、少しだけ暖かい気持ちで上から塗られるような感覚があった


カーテンを開けて空を見る


さっきまで雲で隠れていて見ることが出来なかったものが見えた


海のように広く、とても広く広がっている景色に小さな点が無数に光っている


その小さな光をまとめて飲み込み、自分だけを見ろと言わんばかりに大きく、明るく光っている存在が1つだけあった


それを見て少し笑ってしまった


カーテンを閉めて布団に横になる


布団も昨日までは大体一緒に寝ていたのに、そこには乱れたシーツと掛け布団があるだけで誰もいない


でもきっとあそこにいる気がする


さっきまでの暖かい気持ちに身を委ねながら、彼女が待っているであろう夢の待ち合わせ場所へ向かった



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