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幼馴染の意地  作者: ヤマネコ
43/43

中学生(fin)


1泊2日の温泉旅行。夏休みも終了間際となり、健也も自分の学力上昇をこの前の模試で感じ、この調子なら志望校合格もそこまで難しいものではなくなった。そこには安心があるが、同時に不安もある。そんな不安を打ち消すように、鳴海と共に温泉旅行に出かけた。場所は前に行った時と同じ所で、同じ時間に同じ交通ルートを使って出かける。


鳴海「…」

健也「楽しみだな。温泉」

鳴海「そうだねー、どこかの誰かさんが寝落ちしたからねー」

健也「あれは、その悪かったよ」

鳴海「今日は寝かさないぞ~」


隣に座っている鳴海はウリウリと顔を健也の胸に擦っている。それが嬉しくも恥ずかしくもあったが、少し寂しいという気持ちもあった。この夏休みが終わるのももうすぐで、健也は自分の勉強に集中して(させられて)いたので、あまり鳴海のことを構っていなかったのではないか、もっと要領が良ければ鳴海と遊ぶ時間を確保できたのではないかと思っている。


健也「ちょ、くすぐったいって」

鳴海「このこの~……ん」

健也「どうした」

鳴海「眠くなってきた……ついたら教えてくれる? 今回のは多分すぐ起きれる方だから」

健也「あぁ、今日は長いから体力を残しておきな」

鳴海「うん、ありがとう……」


そう言うと鳴海は健也の肩に頭を乗せて寝息を立て始めた。夏休みに入ったばっかりはなんともなかったようだが、8月中旬になるころには鳴海は起きている時間よりも寝ている時間の方が圧倒的に多かった。時によっては1日中寝ていることもあった。そんなことが起きれば嫌でも、この先鳴海がどうなってしまうのかを想像してしまうが、鳴海は健也がそう悲観的に考えるのは嫌みたいだ。


健也「……」


自分の肩に寝ている女の子の頭を嗅いでみる。鳴海の匂いだ。いつも自分の傍にいた女の子の匂いがする。


前に女性が話していた内容を思い出す


【夏休みを永遠に続ける方法があるにはある。お前と鳴海だけの時間は永遠に夏休みだけとなり、そこには2人きりの世界と変わらない。だけどこれはお勧めしない。絶対にどっちか、いや両方の精神が崩壊するし、間違いなく狂気に陥る。いること自体は出来るが、それでも精神が崩壊していたら意味ないと思うけどな。自殺も心中も出来なくなる。例えば、お前は夏休みの宿題をいくら片付けても、最終日になったら初日に戻る。そして全てやり直しになって、何回も片付けても強制的にやり直しになるし、季節も夏に固定されて、春・秋・冬も来ない。お前の大好きなアニメも、その時までに作られた同じ作品しか見られなくて、これから作られる作品を見ることも出来ない。街で起こるイベントも全て同じもので何も代わり映えもしない。天気は多少の誤差があるだろうが、ほぼ確定で同じ日に同じ天気になる】


聞くだけでもぞわっとするものだが、それでもいられるなら選ぶべきなのだろうか……。しかし鳴海がそれを望んでいるかどうか、もし望んでいると答えたら、俺は夏休みの中に閉じ込められる方を選ぶのか……


外の景色を見ながらそんなことを考える健也であった


目的地の停留所に着いたので、鳴海を起こすと眠そうな声をしながらも起きてくれた。すぐにバスから降りると、バスは扉を閉めて次の停留所に向かって走って行く。すぐにバスの姿は見えなくなった


鳴海「ふぁあ……ん」

健也「はい」

鳴海「……覚えているんだ。最近それすること無くなっていたから覚えていないと思っていたよ」

健也「いや、覚えていたとかじゃなくて、身体が勝手に動いた」

鳴海「そこは嘘でもいいから覚えているとか言いなよ」


鳴海の目を見つめてから手を繋ぐ。鳴海は少し文句を言いながらも健也の手を繋いだ。ゆっくりと旅館に向かって歩く。その道中に家族連れの人達や、大人の男女グループが楽しそうに歩いているのが見えた。夏休みが終わるけど、それを抗うかのように全力で楽しんでいるように見える。その光景を見ていると、手を少し強くギュッと握られた。


鳴海の方を見ると、何かを感じているのか、距離が出来て視認できなくなる人達を見ているが、その表情は寂しそうだった


健也「おりゃぁ!」

鳴海「きゃっ!」


鳴海の横腹をくすぐると、とても可愛らしい声を上げた後に、健也の手を抓った


健也「いでっ! 骨折れた……」

鳴海「皮膚剥がしただけよ」

健也「それは怖い!」

鳴海「私骨折るほど握力ないし」

健也「嘘つけ」

鳴海「嘘じゃないもーん。お返し!」

健也「ぎゃぁ! ちょっと! 待って、待ってください!」

鳴海「待たないもん~だ」


鳴海は健也と握っていない方ので手で健也の身体をくすぐる。健也は逃げようとしても手をがっちりと掴まれているので、逃げることが出来なかった。片手を駆使して攻撃を受け流していくが、鳴海のくすぐりを止めることは出来なかった。何発か貰ってしまい、膝をつきそうになるが


健也「まだだ! まだ終わらないぞ!」

鳴海「とりゃー!」

健也「ぐはっ!」


くすぐりに耐えきれず、思わず地に膝を付けてしまう


鳴海「ふふふ、私の勝ちだね」

健也「くそ……」

鳴海「ほら、さっさと立って。歩こうよー」

健也「まだまだだね」

鳴海「ほんとね」

健也「鳴海に言ったんだよ!」

鳴海「あれ、自問自答じゃないの?」

健也「ちゃうわ!」


そんな会話をしながら旅館に着いた。受付を済ませて、部屋の鍵を渡される。偶然にも、渡された鍵の番号は、前回と同じ部屋だった。鳴海の荷物も合わせて部屋の隅に置いて、さっそく外に出る準備を行う。


健也「今日は、この前行けなかったスイーツ屋さんに行こう」

鳴海「甘い物苦手でしょ?」

健也「1つくらいなら問題ないから。それにダメだったら鳴海に渡す」

鳴海「私も甘い物そこまで好きじゃないけどねー。沢山は食べられないよ」

健也「わーってるって。ほら、行こう」

鳴海「……はいはい」


鳴海の手を掴み、部屋に鍵を閉めて受付に預け、外に出た



スイーツ店前に到着、小さなお店だった


健也「ここだな」

鳴海「一軒家みたいだね」

健也「小さいお店だけど、おいしそうだな」

鳴海「そうだね。早く入ろうか」

健也「お、乗り気だな……。ちょっとそこに立っていて」

鳴海「え?」


健也は近くにいた男性達に声を掛ける


健也「すいません、写真を撮ってもらってもいいですか?」

男性A「え、あぁ、いいですよ」

健也「お願いします」


自分のスマホを渡して、鳴海の横になってピースする


鳴海「珍しい。ピースとか普段しないでしょ」

健也「普段しないからするんだよ」

鳴海「なにそれ……まぁいいかな」


鳴海も笑顔でピースすると、男性が持っていたスマホからカシャカシャとシャッター音が聞こえる。男性に近づき写真を確認すると、そこには笑顔でピースしている健也と鳴海の姿があった。男性達にお礼を言うと、お店の中に入る


お店の中はお客が1人もおらず、奥の席に座っているおばさんの前にはレジが置いてある。おばさんは健也達に気付くと、メニュー表を持ってきた。特にニコニコとしている感じでもなく、趣味でやっている感があったが、それでも店内の甘い匂いと、メニューに映っている物が、普段食べないような人でもおいしそうだと思える単語や写真が貼ってある


健也「どれ頼む?」

鳴海「このチョコケーキかな」

健也「じゃあ俺はチーズケーキにしようかな。すいませーん」


おばさんはゆっくりとした足取りで健也達の注文を受け、奥の方に置いてあるケースから、2つのケーキを取り出した。今か今かと待ちわびている健也の前に2皿置かれる(1皿チョコレート、1皿チーズケーキ)。


鳴海「おいしそうね」

健也「あ、鳴海、写真撮ろう」

鳴海「ここ撮っていいんですか?」


お店によっては撮影禁止な場所もある。おばさんに聞くと、おばさんはにっこりとした顔で首を縦に振った。


鳴海「良いってさ」

健也「じゃあはい。ピース」

鳴海「私1人?」

健也「そうだね。その後に2人で撮るよ」

鳴海「……そっか」


鳴海は笑顔でピースをする。手元にはチョコレートが置かれており、店内も落ち着いた内装なので、とても可愛く撮れたような気がする。どうやって2人で撮ろうかなと思っていると、おばさんが手を伸ばしてきた


健也「え、撮ってくれるんですか?」


おばさんはニコリとして首を縦に振る


健也「じゃあお願いします」


おばさんにスマホを渡すと、慣れていないのか戸惑っている様子が見えた。カメラの使い方を説明すると、そうかそうかと頷いて、ポーズを取っている2人に向けてシャッターを切る。見せてもらうと、少し斜めになっているが、そこまで違和感がないので問題ないと判断した。おばさんにお礼を言うと、そのまま奥の席に戻って行く。多分「どうぞゆっくりとしていってくださいな」と言っているのだろう


鳴海「あ、おいしい」

健也「ほんとか、おぉ、ほんとだ」

鳴海「甘いの苦手な人でもすんなり食べられる感じがする」

健也「だな。それ少し貰っていいか?」

鳴海「だーめ」

健也「なんだと、じゃあこっちも上げないぞー」

鳴海「うそうそ、はい、あーん」

健也「あーん」

鳴海「なんか慣れちゃっているよね。あーん」

健也「何か問題あるのかー? お、上手いな」

鳴海「言われた時にアタフタしている所が可愛かったのに……あの時の純粋なけん君はどこに行ってしまったのやら……とほほ……」

健也「ここ、ここにいますよー」

鳴海「どこ……」

健也「ここ」

鳴海「あ、ポンコツなけん君なら見つけたけど……あれー」

健也「チーズケーキ上げないぞー」

鳴海「あ、いたわ。灯台下暗しとはこのことねー。私にも頂戴。あーん」

健也「……」


目を瞑ってあーんしている鳴海をジッと見ていると、鳴海はいつまで経っても口にケーキが運ばれないことに気付いたようで、目を開ける。


健也「可愛いな」

鳴海「っ……変態」

健也「あぁ、確かに可愛かったぞー」

鳴海「うっさいなー」


鳴海は身を乗り出して無理やり健也のチーズケーキを食べる


鳴海「あ、さっぱりしていて食べやすい」

健也「だろ?」

鳴海「何得意げにしているのかなー?」

健也「チーズケーキを選んだのは俺だからね。必然的に俺の手柄だろう?」

鳴海「手柄なのは作ってくれたおばさんでしょ」

健也「そうでした」


2人で談笑しながらケーキを食べる。先に鳴海が食べ終わり、健也はケーキの半分を残していた


鳴海「食べきれないの?」

健也「ケーキってさ、最初は良いんだけど、半分すぎるくらいでお腹いっぱいになるからさ。ちゃんと食べきるよ」

鳴海「無理だったら私が食べるから安心してね」

健也「それ、鳴海が食べたいだけじゃないの?」

鳴海「違いますー」

健也「まぁ、安心しろって。ほら」


ケーキを横に倒して、2等分にして一気に食べる。こうすれば苦手でも2口で行けるのだ。ケーキの食べ方には色々マナーがあるらしいが、ここはそんな社交場ではないので、食べたいように食べるのが良いだろう。食べ終え会計を済ませようとすると


おばさん「お金はいいよ」

健也「え、でも」

おばさん「いいからいいから。ここでお金を使うよりも、その子に使ってあげなさい」

健也「でも……」

鳴海「良いんですか?」

おばさん「いいんよ。若いうちはお金を大切に使いなさいな」

鳴海「ありがとうございます。けん君、行こう」

健也「大丈夫? 犯罪にならない?」

鳴海「お店がそう言っているんだから問題ないよ」

おばさん「無いよ。仮になんかあったとしても、こっちから言ったってしておくから、お兄さん安心してね」

健也「……分かりました。ありがとうございます」

おばさん「はい、ありがとうね」


お店を出て歩き出す


健也「本当に良かったのかな……」

鳴海「お店からそう言ったんだから問題ないでしょ。次はどこに行くの?」

健也「あぁ、釣りに行こう」

鳴海「今回も0匹なんじゃないの?」

健也「言ってろー。今回は……2匹目指す」

鳴海「目標低くない?」

健也「良いんだよ。0から2にすれば問題ないだろ」

鳴海「そういうのは0から1じゃないの?」

健也「知るか」

鳴海「相変わらず適当だなー」


2人で釣り場に行くと、何と健也達以外にお客さんがいない。貸し切り状態だが、使うエリアは一部だけなので(指定される)、そうとも言えないかもしれない。受付で2人分の注文をして、前と同じく30分にしてもらった。


鳴海「てっきり1時間にするかと思っていたよ」

健也「ふん、俺の成長ぶりを見せるには、同じ条件じゃないと意味がないと思ってな」

鳴海「成長? 1人で釣りをしていたの?」

健也「あぁ、頭の中で」

鳴海「それ意味ないんじゃないの?」

健也「それを今から証明するんだよ。ほら、先に行ってくれ。あぁ、椅子は2つお願いな」

鳴海「はいはい」


2人分の釣竿、餌、バケツを借りている間に、鳴海は指定されたエリアに適当に椅子を置いた後に座り、健也を待っていた


健也は直ぐに鳴海の方に近づき、道具一式を渡す


鳴海「ありがとう。餌は付けられる?」

健也「ふん、見ていろ」


健也は餌箱に入っている餌を取ろうとするが


健也「っ、……っ……くそ」

鳴海「出来ないの? 私がやろうか?」

健也「あの時の俺と同じと思ってもらっちゃ困るな。見てな」

鳴海「見ているけど、全く同じだよ? その顔つきとか、手つきとか」

健也「まっさかー? そんなわけないだろー? ほら」

鳴海「餌箱から手を遠ざけながら言われてもね……。私がやるよ、30分しかないんだから」

健也「お願いします」


苦手を克服するのはそう簡単ではないということだ


鳴海に餌を付けてもらい、さっそく釣りを始める。前回は鳴海ばっかり魚を釣って、健也はあと一歩で釣れそうだったが逃げられてしまい、実質0匹という成果を得た。始まったばかりだと言うのに、健也は水面に浮かんでいるウキを睨みつけている。


鳴海「ねぇ、何か話そうよ」

健也「今集中しているんだ」

鳴海「最初からそれじゃあ疲れるよ。魚たちは今警戒しているからまだ近づいてこないよ」

健也「あれ、そういうの分かるのか?」

鳴海「前回沢山釣った身として言わせてもらうけど、今は来ないから何か話そうよ」

健也「そうか……。何を話すの?」

鳴海「そうだねー。思い出話とかー?」

健也「思い出?」

鳴海「私達幼馴染じゃん? 長い時間一緒にいたからさ」

健也「長くいすぎてかなり部分忘れている気がするよ」

鳴海「こら、茶々を入れない。まぁ、確かに私も忘れている部分がいくつかあるけどね」

健也「じゃあいくつか聞いて良いか」

鳴海「良いよ」

健也「鳴海の両親って今どこにいるの?」

鳴海「さぁ、どこかにいるのは間違いないと思うよ」

健也「放任主義ってこと? それとも」

鳴海「育児放棄とかそういう類じゃないから安心して」

健也「そうか。じゃあ次に、部屋にあった写真は何だ?」

鳴海「やっぱそこ聞いてくるよねー。あれは……うん、私にもよく分からないかなー」

健也「自分で撮ったものではないってこと?」

鳴海「そうだね。私が撮ったわけじゃないね」

健也「……、じゃあ中学1年の時の入学式の話だが」

鳴海「うん」

健也「入学式の翌日にクラスの女子生徒達が入院していたみたいだけど。あれって鳴海は関係あるの?」

鳴海「どうだと思う?」

健也「無かったらそんな反応しないだろ」

鳴海「分からないよー? 女の子って秘密が一杯だからねー。それも隠そうと思っても隠しきれないくらい」

健也「どういうことだ?」

鳴海「さぁーどうでしょうねー。おっ! 来た!」


鳴海が話を中断してリールを回すと、水面から魚が姿を現した。魚はぴちぴちと抵抗するも、その抵抗むなしく水の入ったバケツにシュートされる。鳴海はまた餌を付けて竿を振るう


鳴海「次はこっちね」

健也「え、あぁ。何」

鳴海「けん君ってどんな女の子が好きなの?」

健也「どんな……うーん、うるさくない子?」

鳴海「明るい子はダメってこと?」

健也「そうじゃなくて。明るいのは良いことだろ、暗いよりは明るい方がいて楽しいだろうし。でもうるさいのは嫌い」

鳴海「うるさいね……、例えば?」

健也「金遣いが荒くて、すぐに金を要求してくる女」

鳴海「それは女同士でもキレるし、男同士でもキレるんじゃないの?」

健也「あとは、気が強い子」

鳴海「けん君気が弱いもんね」

健也「そんなことは」

鳴海「あるよ」

健也「そうなのかな……」

鳴海「ほら、そこで違うって言わないから押されるんだよ。私が言うんだから間違いないよ」

健也「何、鳴海のそれって計算だったの?」

鳴海「嘘ではないとだけ言っておくよ~」

健也「そうだよな……、鳴海はそういう奴だもんな」

鳴海「むぅ、じゃあ私のことをどう思っているの?」

健也「前にもそんなこと言っていたよな。なんでそこに拘るんだ」

鳴海「他の人はどうかしらないけど、私は自分がどう思われているのかとても気になっています。それも小さい時から一緒にいるけん君からが一番気になっていますー」

健也「可愛い」

鳴海「ありがとう」

健也「手先が器用」

鳴海「家庭科で助けたもんね」

健也「料理が上手い」

鳴海「練習しましたー」

健也「一緒にいて楽しいし楽でもある」

鳴海「それは私もかなー」

健也「あとは……そうだな」

鳴海「え、終わり?」

健也「おっと俺にも来たぞ!」

鳴海「来てないから、話を逸らさないでよ」

健也「良く分かったな……。結構うまく演技出来たと思っていたが……」

鳴海「ふーん、あ、私の方に来た!」

健也「嘘でしょ」


そう思ったが、本当のようだ。2匹目もバケツに入れて、また餌を付けている


健也「……」

鳴海「嘘じゃありません~」

健也「次俺の番な」

鳴海「どうぞー」

健也「今更の質問だけど、どうして寝る時はくっ付いて寝るんだ? 近くで寝るとかじゃなくて、いつもくっ付いて寝ていたけど」

鳴海「あぁ、そんなこと? ただくっ付きたいだけだよ」

健也「え、それだけ」

鳴海「それだけ」

健也「じゃ、じゃあ、そうだな……中一のキャンプの時に、いつの間にか愛奈と友達になっていたみたいだけど、どうやって知り合ったの?」

鳴海「あぁ、実は小学校の時に少し関わりがあったんだ」

健也「学校違うよな?」

鳴海「違うねー」

健也「どうやって知り合ったんだ」

鳴海「まぁ、色々と。知らない方が良いと思うから。ただ、まぁ、普通な感じじゃないけどね」

健也「あーそっち方面?」

鳴海「……」

健也「そうか。じゃああれは。じゃんけんであっちむいてホイをやる時の罰ゲームで、俺ばっかり負けていたのは?」

鳴海「実力の差だね~」

健也「罰ゲームの恥ずかしいビデオは?」

鳴海「恥ずかしい? 私のことを好きと言っているビデオのこと?」

健也「それ以外にないだろ」

鳴海「恥ずかしいの?」

健也「当たり前だろ!」

鳴海「えー、良い感じなのにね……」

健也「何が良い感じだよ」

鳴海「あれはただ単に思いついた内容がそうだったからとしか言えないかな」

健也「そうだなー後は」

鳴海「今更ながら言うけど、あいつらに関しては何も言えないからね」


あいつら……あの人たちのことか。逆に何も言わないという部分は彼女達が関わっているという事と言えなくもない


健也「中一の方の2学期から休みが増えていたけど、あれって本当に体調を崩していただけなの?」

鳴海「そうだね。体調を崩していただけだよ~」

健也「風邪?」

鳴海「みたいなもの」


みたいなもの……わざわざそんな言い回しをするということは……


健也「新聞部に入ってから、愛奈と一緒に何かを取材していたみたいだけど、何を調べていたんだ。あの時は秘密と言っていたけど」

鳴海「秘密は秘密。言ったら秘密じゃなくなるから言わないよ~」

健也「1年の後期試験が終わって、こっちの家に泊まることになった時さ、俺の家が良いと言っていたけど、それはなんで」

鳴海「私の家に来たことあるでしょ? 本当に何も無いから静かなんだよね。不気味なくらいに。けん君の家は物音があるし、けん君自身がいるから安心出来たんだよね~」

健也「俺のスマホのエロファイルをどうやって見破った? あれでもかなり隠していたんだけどな」

鳴海「けん君の目の動きと頬の弛みと指の動かし方とか、後は遠くからカメラ機能を使って見たよ?」

健也「ちょ、ちょっと待って。カメラ? じゃあもしかして……」

鳴海「うん、見ちゃった」

健也「うわあぁぁぁぁぁ!」

鳴海「ちょ、竿を振り回さないで」


健也は恥ずかしさのあまり持っていた釣竿をあちこちに振り回してしまう。鳴海が早めに健也の手首を固定したので、幸い水面から出ることはなく、他に利用客がいないのでけが人がいないのが不幸中の幸いだが、それでも少しでも遅れていたら危なかった


健也「み、見ていたのか……」

鳴海「男の人ってすごいよねー。あんなに大きくなるんだもん。しかも硬いみたいだし、あんな風に上下に手を動かすんだねー。けん君のしか見ていないから比較出来ないけど、女には無い部分だから結構気になったんだよね~」

健也「ぐ、ぐぁぁぁ」

鳴海「じゃあ次は私が聞く番かなー」

健也「うぅぅ」

鳴海「悪かったって。今晩私のも見せてあげるからさ」

健也「え、それはどういう」

鳴海「はい、私の番ね。そうだなー、やけに吉良君と仲良かったけど、吉良君にその気があるわけじゃないよね?」

健也「あるわけないだろ! 冗談でも怒るぞ!」

鳴海「ご、ごめんなさい」


鳴海は今までにあまり見ないほどに委縮していた。健也もそんな鳴海を見て少し驚く


健也「あ、いや、その、ごめん、そこまで強く言う気はなかった」

鳴海「ううん、私が悪かったの。こっちこそごめんね」

健也「あぁ」

鳴海「後はそうだね。どんな女の子に興奮するの?」

健也「え」

鳴海「だから、どういう女の子とHしたい?」

健也「は、はぁぁ!?」

鳴海「あ、魚が逃げちゃったじゃん」

健也「いやどさくさに紛れて何を言い出すのさ」

鳴海「大事なことでしょー? あれだけ自分で出しておいて、興味がないわけないよね?」

健也「ぐ」


それを言われてしまえば、ほとんどの男は否定することが出来ない


鳴海「やっぱ胸が大きい方が良いのかな」

健也「え、うーん、ないよりはある方が……」

鳴海「胸小さくてごめんね」

健也「いや、鳴海のって小さくはないだろう」

鳴海「ガン見しすぎ」

健也「いや、いきなりそんなことを言って来た鳴海に非があると思うんだ」

鳴海「胸とお尻どっちが好き?」

健也「どっちも」


もう覚悟を決めて堂々という事にした健也


鳴海「ギャルみたいな感じと清楚な感じ」

健也「あーあーあー、えーあーう~ん」

鳴海「そこ悩むんだ、でもけん君が見ているのって」

健也「だからやめてください!」

鳴海「見ると実際にするとしたら違うってこと?」

健也「そうだよ! 見ている分には楽しいけど、実際に購入したらその気持ちが薄れるような感じと一緒だと思ってくれていいぞ」

鳴海「攻めるのと攻められるのはどっちが好き?」

健也「え、そんなこと言えるわけないだろうが!」

鳴海「まぁ、今日で分かるから良いか」

健也「ちょ、あぁもう。次俺の番な」

鳴海「良いけど、けん君の方に全然魚来ないね」

健也「誰の所為だと思っているんだ」

鳴海「けん君が取り乱すからだよ」

健也「取り乱す原因を作ったのはどこの誰ですかねー?」

鳴海「私」

健也「自覚があるならなお悪いわ」

鳴海「それで? 何が聞きたいの?」

健也「流すんですか、そうですか。星奈についてだが」

鳴海「私あいつ嫌い」

健也「どんな関係なんだ、いやそうじゃないな。星奈ももしかして」

鳴海「……」

健也「そうなのか……」

鳴海「星奈さんも遊んでいる感じだもんね。身体も同性の私から見てもいい感じだもんね」

健也「そっち!?」

鳴海「ほら、次は?」

健也「まだ星奈が学校に来ている時の話だ。体育館の裏で誰かと話をしていた時が会ったよな。誰と話をしていたんだ」

鳴海「星奈さん」

健也「え、でも、あの時教室と体育館裏の距離を考えても、あそこまで早く戻れるとは……」

鳴海「……」

健也「鳴海と愛奈以外の女と仲良くしないでというのは?」

鳴海「見ていて不快だったからだけど?」

健也「もし仲良くしていたら?」

鳴海「別にどうもする気はなかったよ。多分、多分だけどね」

健也「体育祭のあの異常な空気について何か知っているか?」

鳴海「あれは多分複数の勢力がぶつかったんだろうね。学校って結構狙い目だから」

健也「その複数とは」

鳴海「……あ、また来た!」

健也「そんな嘘に騙されないぞ」

鳴海「いや本当だって。ほら」


鳴海は3匹目、健也は未だ0匹


健也「なぁ、何で俺の方には魚は来ないんだろうか」

鳴海「本当になんでだろうね。私も不思議に思う」

健也「後5分、ここからは集中するから話しかけないでくれ」

鳴海「分かった~」


それから健也は息をすることを忘れるくらいに集中して釣竿に意識を集める。少しの変化でも敏感に察知できるように、一瞬の隙も見逃さない。


ウキがかすかに動いた。目を凝らすと下に魚がいるのが見える。持っている釣竿を揺らさないように、慎重に待つ


健也「おっおっお!」


ウキが沈み、引っ張り上げようとするが、魚の抵抗する力が強い。負けないように全力でリールを回すと、水面から魚が出てきた。あの時のように、途中で水面に帰ることなく、健也のバケツにホールイン。隣にいる鳴海は拍手をしている。


健也「ありがとう、やっと会えたね」

鳴海「言葉だけ聞くとストーカーそのものだよね」

健也「よし、後1分あればもう一匹行けるだろ」

鳴海「無理です」

健也「諦めたら終わりだ。俺はやるぞ、でりゃ!」


急いで餌を付けてウキを水面に浮かす。もう一匹を釣りたいという欲望の力で、苦手な餌付けもすんなり出来た。そして投げたと同時にウキが沈む。丁度下に魚がいたようだ


さっきと同じように、焦らないで慎重に深く食いつくまで待つ。そして一気にリールを回す


鳴海「お、行ける!?」


隣にいる鳴海も興奮した声を出す


健也は鳴海の声に反応しないで、リールを回すと、魚が出てきた。あの時の失敗はもうしない。慎重に回してバケツの中に入れる。入れられた2匹の魚は口元を合わせたり、八の字になるように泳いでいる。


健也「やった……のか」

鳴海「やったみたいだねー。おめでとう~」

健也「はは、俺、本当にやったのか」

鳴海「優勝したのが信じられない人みたいな発言は後で沢山聞くから、とりあえず片付けよう。もう時間になるから」

健也「おい、俺はやったぞ!」

鳴海「はいはい、おめでとうー」

健也「もうちょい反応あっても良くない?」

鳴海「受付の人が苛立っているから急ぐよ」

健也「はーい」


2人で急いで借りていた道具一式を戻して浜辺に向かう。空は茜色でもうすぐ時間が経てば完全に暗闇となるだろう


鳴海「ここ、覚えていたんだ」

健也「あぁ、寝落ちしたときの衝撃はそうそう忘れられるものではないからな」

鳴海「あの時は本当に怒ったよ。出さないようにしていたけど」

健也「ごめんなさいって。それよりもほら、いい景色だろ」

鳴海「夕日が水面に映っていてとても綺麗だね」

健也「あぁ」


2人手を繋いで、落ちて行く太陽を見ながら手を繋ぐ。今まで繋いでいたよりも、力強く繋がれていた


数分経つと太陽は見なくなってしまい、代わりに月が出てきた。月明りを頼りに旅館に戻ると、豪華な夕食が用意され、2人で一緒にそれを頂いた


鳴海「今回は適量だったね」

健也「前回詳しく覚えていないけど、量が多かったことだけは覚えているぞ」

鳴海「後はお風呂だけど、予約したの?」

健也「え、予約?」

鳴海「……」

健也「あ!」

鳴海「忘れていたんだ。まぁ、そっちの方が良いのかなー」

健也「いや、今から予約を」

鳴海「空いてないんじゃないの?」

健也「ちょっと確かめてくる! ここで待っていてくれ!」


急いで部屋を出て受付に確認すると、何と1枠だけ空いていた。しかも偶然今から1時間という都合の良い時間である。部屋に戻って、そのことを鳴海に伝えると


鳴海「なんというか……運が良いよねー」

健也「じゃあ行こうかー」

鳴海「ノリノリだねー」


部屋の戸締りをして、2人で混浴用の浴場に向かう。脱衣所は男女で分けられており、健也は服を脱いで先に浴場に入る。中は少し狭いが、予約して過ごすという性質上、むしろ広いよりは小さい空間を一緒に過ごす方が良いという事だろうか。鳴海が来るまでに、椅子に座って身体を洗っていると、女性用の入り口からタオルで前を隠している鳴海が出てきた


健也「うお」

鳴海「目が血走っているぞ~」

健也「いや、その、綺麗だなって」

鳴海「けん君はもう少し身体を鍛えた方が良いと思うけどねー」

健也「はい、これから気を付けます」

鳴海「そっちは鍛えすぎじゃないかなー」

健也「え」


鳴海が見ていた先には、健也がタオルで覆っている一部が盛り上がっていた


鳴海「もうそんなに元気なんだ」

健也「いや、違うって、これは」

鳴海「これは?」

健也「……」

鳴海「……」

健也「身体が呼吸しているんだ」

鳴海「そうなんだ。とりあえず私も身体洗うかなー」


鳴海は健也の背中側にある椅子に座ってシャワーを浴び始めた。姿が見えないが、背中越しから聞こえるシャワー音と、身体を洗うためにボディソープが入っている容器をプッシュするときの音がやけに大きく聞こえた。今後ろを振り返れば、幼馴染の裸を見ることが出来るが、そんな隠れるようなやり方で見るのは……でも堂々と見せてなんて言えるわけもなく


もじもじしながら身体を洗い終え、髪の毛を洗い始める。自己主張の強いもう1人の自分は中で特急に作られている液体を新幹線くらいの速度で吐き出したいと訴えているが、それをここでするのは抵抗があり、なんとか耐える。


髪の毛も洗い終えて、1つしかない浴槽に先に浸かる。鳴海の方を見ると、丁度髪の毛を洗い終わったようで、頭からシャワーを浴びている。その時前にはタオルを付けていなかったようで、胸に桃色の突起が2つあるのが見えた。それだけで心臓はドキドキと高鳴っており、もう1人の自分が「呼んだ?」と元気になっている。見ていたことがバレないように、視線を外に移す。外には丁度月が見える。近くには林や花があり、程よい風が吹いているのか、草木が揺れている。


鳴海「お待たせー」

健也「!?」


鳴海が前をタオルで隠しているが、先程その膨らんでいるところを全て見てしまい、その光景が目に焼き付いているので、無言で鳴海の胸を凝視していると、顔にお湯を掛けられた


健也「あちぃ!」

鳴海「そこまで血走っているのは初めて見るかも」

健也「ちょ、何でそんなに近づくの」

鳴海「一緒に入るんだから、普通でしょ」


鳴海は億すことなく、健也の隣で湯船に浸かる


鳴海「気持ちいいね~」

健也「……」


そんな恰好で気持ちいいと言われると、嫌でもそういう想像をしてしまう


鳴海「さて、けん君。聞きたいことがあります」

健也「え、あぁ、何?」

鳴海「単刀直入に言うけどさ、私としたい?」

健也「え、それって……」

鳴海「そう。今考えているもので合っているよ。私はけん君となら良いかなって思っているんだ」

健也「マジで!?」

鳴海「やっぱ辞めよ―かな」

健也「(´・ω・`)」

鳴海「冗談だって、それで考えたんだけどさ。けん君はどっちでしたい?」

健也「どっちって?」

鳴海「ゴムありか無しか。私多分消える時は身体ごとだと思うから、中に一杯出しても問題ないと思うけど。どっちがいい?」

健也「……」


迷わず生でと言おうとしたが、もし生き残るようなことがあって、それで妊娠をしていたら洒落にならない。ゴムを付けても完璧に避妊が出来るわけではないが、それでもあると無しだと違う。少し考えた後に


健也「ゴムは付ける……あ」


そうは言ったものの、肝心のゴムを持ってきていなかった。


鳴海「ゴムなら私が持っているから大丈夫だよ。そうなんだ、ゴム付けを選んだのねー」

健也「? 何だよその顔」


鳴海は少し嬉しそうな顔をしていた


鳴海「ここで生と言っても受け入れるつもりでいたけど、やっぱりこうね……」


何かを試していたようだ。健也にはそれが分からなかったが、鳴海が心底安心したような顔をしているので、重大なことを試していたらしい


鳴海「じゃあ部屋に戻ったらしようか」

健也「お、おう」

鳴海「私初めてだからお手や分からにお願いね」

健也「お、俺も初めてだし。その、頑張るから」

鳴海「うん」


2人で温泉を堪能して、部屋に戻る。

















部屋には布団が1つ敷かれており、大きさ的に2人で寝られる。歯磨きをしっかりして、心の準備を整える


鳴海「何か改めてこう向かい合うと、結構恥ずかしいね。お風呂ではあんな風に出来たのに」

健也「服を着ると更に色っぽくなるよな」

鳴海「そう?」

健也「ああ」

鳴海「さっきから目が怖いよー」

健也「し、仕方ないだろ。初めてなんだし緊張しているんだ」

鳴海「私はもういつでもいいよ」

健也「じゃ、じゃあ」

鳴海「あ、その前に電気を消してほしいな。流石に全部見られるのは恥ずかしいから」

健也「わ、分かった」


部屋の電気を消すと視界が真っ暗になる。目が慣れるまで待つと、うっすらと布団の上に座っている鳴海が見えた。鳴海の表情は暗くて見にくかったが、嫌がっている様子はない。恐る恐る鳴海に近づくと、彼女の匂いがいつもよりも更に強く感じた。そのまま鳴海の肩に手を触れて、抱き着く


鳴海「けん君」

健也「鳴海……」



















目を覚ました健也は、見慣れない部屋にいることに気付く。どこだと思って辺りを見渡すと、どうやら温泉旅館の一室のようだ。どうして自分がここにいるのかさっぱり分からず、部屋を見ると、自分の足元が濡れている。何だろうと思ってみると、近くにはゴムが複数散らばっていた。ゴムの中には白い液体が付着しており、中には固まっているのもある。


健也「え、ええ!?」


部屋には健也1人。荷物も健也の物しかない。何が何だか分からず、ただ自分の自分が痒いことに気付いた。触ってみると、少しヌルヌルしており、その臭いはあの匂いだ。まさか、この旅館に1人で来て、わざわざここでゴムを付けて自分が処理をしたということだろうか? ただ困惑をしていると、チェックアウトの時間を知らせる紙が置かれていた。壁にかけてある時計を見ると、今すぐ急がないと間に合わない。


健也「や、やべぇ!」


何が何だか分からないが、時間を送れたら迷惑をかけることが分かった健也は、急いで服を着て、臭うゴムを持ってきていたゴミ用の袋に入れて、スーツケースにしまう。


チェックアウトを済ませたが、どうも腑に落ちない。


どうして自分は1人であの旅館に泊まりに来ていたのか


ここに来た写真がいくつかあったが、どれも不自然なスペースがあること。スマホに入っている全ての写真を見たが、なぜか不自然なスペースが空いている写真ばっかりや、風景を撮っているにしては不自然な位置で撮っている写真が多数あった


何か手がかりがないかとチャットを確認するが、吉良、璃子、クラスメイトの名前があるが、それ以外には知っている名前が無い。


気味が悪いと思いながらも、家に帰る方法を調べて家に帰った









家に帰るとお母さんがいた


健也母「お帰りなさいー、どうだった温泉は?」

健也「あぁ、楽しかったよ」

健也母「そうかい、1人で行ってくると言った時には驚いたけど、満足したようで良かった」

健也「1人で行くのは初めてだったからな。いやー、中々楽しめたよ」

健也母「そうかい、明日学校だろう? 今日はもうぐっすり休みなさい」

健也「そうするよ」


荷物を部屋に置いて、着替えなどを洗濯籠に言える。思い出に浸るために、もう一度スマホに入っている写真を見る


健也「はは、俺1人でピース写真とか、かなり気合が入っていたんだな」


旅館を出る前にはあった違和感が、家に着くころには無くなっていた。


夏休みを終えて、学校に行くと、吉良と会った


吉良「健也、久しぶりー」

健也「おう、元気していたか?」

吉良「結局僕達あまり会わなかったね」

健也「そうだなー、予定が合わなかったのが痛かったな。それよりもそっちはどう? いい感じ?」

吉良「英語が本当に嫌なんだよね。見ていて気持ち悪くなる」

健也「あはは、俺もだよ。多分実際に試験を受けている時が一番英語を真面目にやると思う」

吉良「僕もだよー」


2人で教室に着くと、教室は騒がしかった。恐らく多くの人達が勉強に疲れて、人と話すことで気を紛らわせたいのだろう。健也も吉良と一緒にクラスメイトを話す。


男子A「ふっふっふ」

吉良「何で笑っているの?」

健也「そいつはいつも笑っているだろ」

男子A「それじゃあ俺が危ない人じゃないか! まぁまぁ、聞いてくれよ。俺、実はもう経験したんだー」

健也「経験?」

吉良「何の?」

男子A「聞きたいか?」

健也「いや」

吉良「別にかなー」

男子B「お前興味全く持たれなくて笑うんだけど」

男子A「うるせー! 俺、この夏に彼女が出来たんだ」

男子B「このタイミングでか? 年上?」

男子A「その通り、可愛い大人の女性でな!」

吉良「へー。それはすごいねー。高校生?」

男子A「多分な! 年齢を聞いたら、女の子に年齢を聞くのは止めときなって返された。詳しい年齢は分からないんだ」

健也「ちょっと待って、お前それどこで知り合ったの?」

吉良「出会い系サイト?」

男子A「ナンパです」

健也「ナンパしたのか。すごいな」

吉良「顔さらされていそう」

男子A「怖いこと言わないでくれよ!」

男子B「2人の意見は割と本気で聞いた方が良いと思う」

男子A「お前ら、どうせ彼女が出来なくてイラついているんだろう? 2人とも女友達が1人もいないからな」

健也「うるせーな。俺は小さい頃から女の友達なんかいないっての。中学になって1人はいるけど」

吉良「僕はいないなー、やっぱり女の子の友達1人くらい作っておいた方が良いのかなー。あ、璃子さん最近どうなの?」

健也「あぁ、元気そうだよ。吉良は作るとしても、高校からじゃないかな。この時期に作る気しないだろうし」

吉良「そうだねー、あ、僕健也と同じ学校を受けることにしたんだ。よろしくね」

健也「おう、そうか、一緒に頑張ろうな」


担任がやってきて出席確認をして、適当の校長の話を聞き流し解散となった


健也「なぁ吉良、この教室、何か変じゃないか?」

吉良「変って」

健也「何か机と椅子の数が減っているような気がするんだが」

吉良「気のせいじゃない? 僕はそうは思わないけど」

健也「そうなのか、いや、そうだよな」


健也は教室を後にして、吉良と一緒に帰る。














それからは月日が経過していった。9月から10月、10月から11月、11月から12月へと流れていく。夏休み後に吉良と璃子を合わせて見たのだが、思いの外仲良くしていた。健也は吉良と璃子と一緒にハロウィンや、クリスマスを共に楽しんでいると、その間にも吉良と璃子と仲良く過ごしていく。男が苦手な璃子も、見た目は女に近い吉良とはかなり早く打ち解けて、今では健也を抜いて会っていることもあるらしい。



吉良と璃子と過ごす時間も楽しいが、何かを欠けている気がする。しかしその欠けている正体が分からない。そのことで苛立つこともあったが、勉強に専念しないとと自分を言い聞かせた。


吉良と璃子が健也家に来て、一緒に勉強をすることになったのだが、吉良と璃子の距離が近い気がする。もしかしてこれは……と思い、どちらかが席を外した時に、お互いをどう思っているのかを聞いてみると


吉良「璃子さん……可愛いよね。え、付き合いたいかどうか? そうだね……璃子さんなら付き合ってみたいと思うかなー」


璃子「吉良君? あぁ、吉良君は結構好きだよ。え、恋愛的な意味で? うーん、でも付き合うかどうかで見るなら付き合うんじゃないかなー」


なるほど、3人は同じ学校を受ける。もし3人とも合格したら、きっと2人はもっと距離を縮めるだろう。友達2人が恋人になるのは少し寂しい気持ちもあるが、それでも男に見られない吉良と、男の免疫を付けたい璃子ならなんやかんや上手く行ってくれるんじゃないかなって思う。











1月になった。2人で初詣に行くが、2人の距離感が近くて、時々疎外感を感じる。そういえばいつも隣に誰かいたような気がするが、その考えは直ぐに消えていく。それからも月日は経ち、ついに受験だ


凛子「頑張りましょう」

吉良「うん」

健也「あぁ」


3人とも指定された席は別々だが、思いは一緒だ。


配布された答案用紙と問題用紙を見る。とても威圧を放っており、たかが紙なのに、魔物のようなものに見えてきた


試験官「始め!」


チャイムが鳴ると同時に、試験官がそう合図すると、みな一斉に問題用紙を捲り始める。


落ち着け、行ける、大丈夫だ


回答を書き込んでいく。途中分からないところがあったが、そういえばこれはやったなと思い出す


あれ、ここ、教えてもらったところだ。ここも散々注意されたところだ


誰に?


まぁいいか


健也は塾にも通っておらず、自習と模試の繰り返しで勉強をしてきたが。自分で確認したとは思えないところもすんなり解けていく。最初は分からないと思っていても、落ち着いて考えると、なんで忘れていた(分からなかった)のか不思議なくらいにスラスラと解いていく。


この公式は……あぁ、そうだ、こっちだ。これは引っ掛け問題だ


「そうそう、そこはその公式だよ~」



なんかよく分からないことを思い出したが、すぐにそれは忘れてしまう。時間に注意をしながら問題を解いていった。手ごたえはあった。試験を終えて、2人と合流すると、璃子は余裕そうな、吉良は余裕が無さそうな表情をしていた。その日は3人で帰った。









合格発表日


3人で見に行く。璃子も受かっている手ごたえがあるらしいが、吉良が少し不安になっていた。本人曰く、手ごたえはあるにはあるが、他の受験生の結果によっては落ちてしまうかもしれないラインらしい。自分の結果が他人任せになってしまう恐怖があるが、それでも踏ん張って歩いている。


掲示板に着くと、そこには沢山の人が溢れかえっており、両手万歳の人もいれば、泣き崩れている人、落ち込んでいる人もいる。ここはそういう場所だ。璃子と吉良も自分の番号を探しに行くために一度散会した


健也「俺の番号は……あった!」


何回も自分の番号と掲示板に表記されている番号を確認する。間違いない! 自分の番号だ! 受かったのだ!


吉良「健也―!」

健也「うお!」

吉良「受かっていたよー!」

璃子「良かったね吉良君」

吉良「うん! 璃子さんは!」

璃子「受かったわ!」


吉良と璃子は熱い抱擁をしている。それが少し寂しくもあった。2人が仲良くなるのは良いことなのだが、それでも少し距離が出来ているような気がしたからだ。3人で打ち上げをすることになり、学校から離れようとすると、健也は1人の女性とぶつかる


健也「あぁ、すいません」

女性「あの、これを落としましたよ」

健也「ありがとうございます」


健也がお礼を言うと、その女性の近くにいた男性もやってきた。母親らしき人は、小さな子供を抱いている。子供は寝ていたが、健也が近づくと目を覚ました


健也「可愛いお子さんですね。女の子ですか?」

子供「……」

母親らしき人「あ、ちょっと!」

健也「うお!」


子供は突然健也の胸に飛び移る、落とさないようにしっかりとキャッチした健也


母親らしき人「ちょ、るみな、危ないでしょ!」

健也「ちょ、ねぇ、はなしてくれないかな?」


子供は嫌だという感じで、健也に強く抱き着く。母親らしき人は子供を健也から放そうとするが、子供が全力で抵抗して来た。困った母親は父親に助けを求め、2人がかりで健也から引き剥がす。子供は健也から離れたからか、強い力で引っ張られて痛かったのか分からないが、泣き出してしまう


母親らしき人「ああ、もう、すいません。ほら、るみな、行くよ」


子供は大声で泣いていた。周囲の人達にもそれは聞こえ、何事かと母親らしき人に意識が集中している。そのことに気付いた母親らしき人は、「るみな」という子供を抱っこして、どこかに行ってしまった


璃子「どうしたの健也さん」

健也「俺にもよく分からない」

吉良「子供を泣かせたの?」

健也「そんなことはしない。ただいきなり飛び移ってきたから」

吉良「はへー、そんなことあるんだねー」

璃子「ふーん、まぁいいじゃない。それより打ち上げに行きましょう」

健也「おう」


3人で合格祝いに打ち上げに行った。近くのお店で、普段食べない量を注文し、3人で馬鹿食いする。これは後で腹が痛くなるやつだと思うが、こういう時こそ、沢山食べるのと璃子が力説し、なぜか吉良が同意し、健也も同意することになった。


璃子「じゃあねー」

吉良「高校で会おうねー」

健也「おう」


時間も良い感じになったので、今日はもうこれで解散だ。















健也も家に戻ると


健也母「健也、荷物来ているわよ」

健也「荷物? 誰から?」

健也母「書いていないのよ。何か小さな箱みたいだけど、心当たりは?」

健也「ないよ。捨てた方が良いかな?」

健也母「どうだろう、業者とかそういう感じじゃなくて、誰かがポストに入れていった感じなんだよね」

健也「そうなの? 一応見ておくよ」


部屋にその箱を持って行く。何だろうと思って開けてみると、そこには小さな布が2つと、手紙らしきものが入っていた


小さな布はハンカチだ。2つの内の1つに見覚えがある


健也「あれ、このハンカチって、確か前に無くしたハンカチだ。お母さんー」


健也母にそのハンカチを見せると


健也母「あ、これ健也が小学生の時に無くしたハンカチだね。どこにあったの?」

健也「箱の中に入っていたの」

健也母「あら、健也の名前も書いてあるね。ほら、これそうでしょ」

健也「あ、ほんとだ。これ俺の名前を自分で書いた覚えがあるよ。しかし下手な字だよね」

健也母「子供だからね。そんなもんよ。それより誰からなの?」

健也「分からない」

健也母「気味悪いわね、捨てる?」

健也「いや残すよ。それはなんか大切な感じがするから」

健也母「そう? 健也がそういうなら良いけど……」


部屋に戻ってもう一つのハンカチを確認する。それは健也が持っていたハンカチを同じ柄だが、色が違う。女の子が使いそうな色だ。シミ1つもないので、新品のハンカチではないかと思う


健也「ハンカチが2つ…と手紙か」


手紙を取り出すと、そこには短い文章でにはこう書かれていた

















今までありがとう。大好きです
















それを見て、健也は涙を流した


健也「あれ、なんで泣いているんだ、あれ、なんで、くそ、止まらない」


手で目を擦るが、涙は止まるどころか溢れ出ている。胸がとても締め付けられるような思い、その正体が何なのか分からないが、ただただ苦しいだけだったが、どういうわけか少し暖かい気持ちにもなった。










どうしてそんな気持ちを抱くのか彼自身にも分からない









ただ間違いなく言えるのは














どこか足りない日常に、何かが暖かく埋めてくれたからだろう


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