中学生(37)
学校に行くが、鳴海は来ていなかった。熱が長引いているらしい。担任の話を聞き流して教科書や単語帳を読んでいるクラスメイトを尻目に、鳴海のことを考える。
記憶喪失前ではあった傷が、記憶喪失後には無くなっている。医者の話では一生消えない傷、なのに消えていた。姉妹の可能性を疑ったが、本人は「自分の知っている限り知らない」と返答。鳴海の両親と話がしたいが、音信不通。
こんなことありえるのか? 複雑な過程だとしても、まだ中学生の娘を実質1人暮らしさせているなんて……。いつからか分からないが、少なくとも俺は中学生になってからは鳴海家に遊びに行っていない。鳴海はほとんど俺の家で過ごしていた。朝に鳴海が住んでいたことを言ってみたけど、親は覚えていない。
なんで親が覚えていなくて、吉良や愛奈は覚えているのか……。過ごしていた時間は小学生の分を含めれば親の方が覚えているはず。学校で拘束されている時間+放課後も大体俺と一緒にいるし、家でもほとんどの時間は鳴海といた。吉良達は学校以外で会うこともあるがそこまで頻繁ではない。俺の知らないうちに会っていたかもしれないが、会うとしたら愛奈だろう。吉良が鳴海と一対一で話をしたなんて聞いたことが無い
そしてその愛奈だが……何か知っている気がする
愛奈の方を見るが、愛奈は机の上に置いてあるノートを見ている。何のノートか分からないが、大方受験対策だろう
吉良の方を見る。吉良は怠そうに机に突っ伏していて、憂鬱そうな顔をしている。受験生がよくする顔をしているので、特に思う事は無い。
やはり愛奈か? 思えば怪しい動きが多いように見えるし、何より先日の女子校(璃子の通っている学校)潜入。何か目的を持って潜入しているようだったし、期待外れみたいな反応をしていた。
璃子さんは……どうだろう。特に何も無いように思えるけど……。鳴海とは仲良さげにしていたけど、覚えている限りは記憶喪失前とは一切交流が無いし、鳴海も璃子の名前を出したことは一度も無い。仲の良い人なら一度は話題に出していそうだが、でも鳴海なら伏せそうな気もする……。
HRが終わり、1時間目の授業の準備時間、つまり休み時間となった。愛奈に話しかけようと近づくが、愛奈は終わったと同時に席を立ち教室から出て行く。逃がさないように追いかけると、愛奈は他のクラスの女子生徒と話をしていた。本当なら割り込みたいが、受験前でピリピリしている人が多いので、些細なことで炎上する可能性も否めない。仕方なく話し終わるまで待つが、中々話が終わらない。時計を見ると、もう休み時間終了1分前だった。これでは話すことは無理だと判断した健也は、愛奈に話しかけることを諦めて教室に戻った。
それからも休み時間になったら愛奈に話しかけようとするが、愛奈は常に誰かといて、何かを話しているようで、しかも空気が重そうな感じが出ていた。これでは近づくのも難しい……。なりふり構わないで突っ込むか? と迷っていると
吉良「何しているの。さっきから愛奈ばっかり」
健也「あぁ、愛奈に用事があるんだけど、話しかけるタイミングが中々取れなくてな」
吉良「突っ込まないの?」
健也「話す内容が内容だから、出来れば2人きりで話をしたいんだけど……。さっきから邪魔だなーもう」
吉良「聞こえたらキレられるんじゃないの?」
健也「分かっているっての……あ、もう時間か。クソッ」
吉良「次の授業昼休みだから、その時にすれば?」
健也「そうする」
昼休み
愛奈はチャイムが鳴ったと同時に、お弁当の包みを持って教室から出て行く。出て行くとき、教室の誰かと視線を合わせないように、扉の外を見て歩いていた。吉良はいつものように健也の席にお弁当を置いて、近くの席の主に許可を取ってから椅子を借りる。
吉良「何か避けられていない?」
健也「安心しろ。俺もそう思っている所だ」
吉良「何か心当たりはあるの?」
お弁当の中身をモグモグと食べながら、話し始める吉良と健也
健也「無い」
吉良「最後に面と向かって話をしたのはいつ、どこで、どんな内容?」
健也「昨日の鳴海のお見舞いだ。鳴海家の前で、私はここで帰るって言って帰ったな」
吉良「怒らせるようなことは?」
健也「していないと思う。買い物中もあまり話さなかったし、家に向かう時もそこまで話をしていないし……」
吉良「じゃあお見舞いより前の時は?」
健也「……」
吉良「あるの?」
健也「いや、まぁ、愛奈の取材に付き合わされた」
吉良「へー? どんな?」
言うかどうか迷ったが、鳴海、愛奈、吉良の3人では吉良が一番信用出来る。そう思った健也は、愛奈に取材と称されて璃子の通っている女子校に取材しに行ったことを話す。吉良は目を丸くして、箸で挟んでいた卵焼きを敷いていた風呂敷に落とす。
吉良「健也」
健也「はい」
吉良「それ犯罪じゃないの?」
健也「俺もそう思った。でも愛奈は全部の責任を自分に擦り付けて良いと言っている」
吉良「愛奈……何を考えているんだろう。この時期にそんな危険な真似をして……」
健也「俺達4人の中じゃ、一番取材に力を入れているからな。何か知りたい事件でもあるのかもな」
吉良「だからって……この時期にそれを? 危ない橋を渡りすぎでしょ。僕はもうそのことには何も聞かないからね」
健也「薄情だなー」
吉良「薄情も何も、健也達が勝手に行っただけでしょ? 本当に許可を取っているなら問題ないけど、無許可でやっているなら庇えないよ」
健也「それもそうだな」
吉良の言う通り、吉良には関係の無いことで問題になるかもしれないもので、仮に問題が起きたとしても、吉良を責めるのはお門違いだ
健也「……」
吉良「何、そんなに見つめて。この卵焼きは上げないよ」
健也「吉良って、鳴海の話をあまりしないよな」
吉良「いつもは健也からしていたからね。僕から話すことはあまりないし」
健也「記憶喪失になってもか?」
吉良「鳴海さんと一対一で話すこと自体ほとんど無かったし。それに今は受験でそれどころではないから」
受験でそれどころではないから
こんな言い方をされてしまったら、探ろうにも探れない。大体がこの言い訳で回避されてしまう。吉良が知っていることを吐かせるのは中々難しそうだ
健也「鳴海の両親に会ったことあるか?」
吉良「無いよ」
健也「鳴海の家に行ったことはあるか?」
吉良「無いよ」
健也「鳴海の好きな飲み物は?」
吉良「アイスコーヒーでしょ。さっきから何? 尋問みたいなことをして」
健也「いや、俺の知っていることと齟齬が無いか確認しているんだ」
吉良「はぁー? なんでそんなことをするの?」
健也「……」
ここで吉良に鳴海の傷のことを話すかどうか迷った。もしかしたら吉良も何かしら鳴海のことで関わっていて、自分を騙そうとしているのかという疑惑を持っているが、吉良以外に頼れる人がいない。ここで吉良にも騙されるような感じだったら……その時はもう1人でやるしかないのだろう。ここは吉良にお願いするほうがいい、ダメなら1人で。そう考えた健也は吉良に、鳴海の額に傷があったのに、消えたことを話す
吉良「……」
健也「どう思う? 医者の話では一生付く、本人もそう言っている」
吉良「その医者が言っているところを直接聞いた?」
健也「いや、聞いていないけど」
吉良「鳴海さんが嘘を付いている可能性もあるけど……それはないかもね」
健也「というと」
吉良「確かに鳴海さんの額の傷は健也が記憶喪失前の時はあったけど、後には無くなっていたね。気付けなかった」
健也「気付けなかった? 嘘を言うのはやめてくれよ」
吉良「いや嘘じゃないんだって。気付けないことに気付けなかった」
健也「……本当か?」
吉良「今の僕を見て嘘を付いているように見える?」
健也「見えない」
吉良「見えたら見えたで健也が僕のことを疑っても良いけど、僕は本当に何も知らない」
健也「じゃあ気付けなかったことに気付けなかったって……普通に考えておかしくないか?」
吉良「……そうだね」
健也「何かおかしなことが起きているのは間違いない。愛奈の取材といい、吉良の目といい、鳴海の額の傷といい、璃子の学校で遺体が出るといい」
吉良「ね、本当に何が起きているんだろうね」
吉良は食べ終えた弁当に蓋を閉めて、紙パックのジュースをチューチュー吸っている。最近見ることが増えた、やる気のない表情と言うか、無気力な感じで頬杖をついて外を見ている
健也「……部室に行く。付き合ってくれないか?」
吉良「分かったよ」
部室なら何か見つかるかもしれない。そう思い吉良と共に部室に向かった
部室に着くが、そこに愛奈はいなかった。棚に置いてあったファイルや書類を片っ端から調べていくが、中々この状況で手助けになりそうな情報は見つからなかった。昼休みも残り10分程度、片付けの時間も考えると、あと少ししか調べる時間が無い。こうなったら授業をサボるのも手かもしれない。どうせ今のまま授業を受けても、勉強に集中できないし
吉良「あ、健也。これじゃない?」
健也「どれだ」
吉良が持っていたファイルを見ると、ある記事が貼ってあった
【なんでも願いを叶えてくれる謎の女性達】
どんな悩みも解決してくれる女性達。彼女たちの名前や容姿、経歴など全てが不明で、願いを叶えてもらえた者達は記憶や記録・痕跡全てが消えるとの噂。接触したことがあると思われる何人かに取材をしたところ、大きな部分で記憶が無くなっている。本人は覚えていないが、周囲の者達からの話によると、記憶が無くなっている部分には本人が苦しんでいる様子が多々見られ、本人が別人のようになった時からは、その苦しんでいた原因が無くなっているように見えたとのこと。それも複数証言があるので、この女性達の存在は信憑性がある。周囲の人達も、本人と女性が会っているのを見たことがあると言っているが、その女性の風貌や特徴を何1つ覚えていない、監視カメラや録音にも何も痕跡が残っていないようだ。記憶が無くなった者達が死亡していることもあり、何かしてはいけないことをしたから女性達に殺されたのではないかという説もある
吉良「これって……っ!」
吉良は口に手を当てて、何かに怯えるような顔をした後に
吉良「ご、ごめん。健也、僕はもう戻るね!」
健也「え、ちょっと!?」
健也の声を聞かないで、部室から走って去ってしまった。このタイミングで部室から慌てて逃げるという事は、この記事に心当たりがある可能性が高いが、今追いかけてもはぐらかされそうだし、他にも記事があるみたいで、吉良の事は後回しにすることにした
他の記事を見ていく
【蝶々】
蝶々を見ていると、自分の意思にかかわらず蝶々に近づいてしまう。これだけならなんともないことだが、蝶々がいる先には崖や、川、火事、交通道路などに出てくることが多く、蝶々に魅入られて負傷・死亡することがある。我々はこの蝶々に魅入られることを「魅了される」と表現する。蝶々に魅了されると回避する方法は、何か強い衝撃を与えてもらう、気絶させてもらう、何かに没頭するなど、自力で回避することはほぼ不可能。遠目から一瞬だけ見る程度では、そこまで危険ではないが、数秒でも見つめていたら自分でも気づかないうちに身体を動かしてしまうようだ
【黒猫・白猫】
黒猫は、悪意があり、とても危険な目に遭わせられる。例えば身体の異常などだ。目が見えなくなる、耳が聞こえなくなる、手足の指が過不足する、声が変わる、身体が異常に大きく・小さくなる、言葉を話せなくなる、身体に謎の虫や生き物が寄生するなど。これらの例は氷山の一角であり、まだまだ確認されていない症状が起きる。この黒猫は基本的に人を狂わせることを使命としているようで、殺害や暴行など、躊躇なくやってくる。黒猫に遭遇したから即逃げると、目を付けられてしまい、何かしら攻撃される。回避する方法はほぼなくて、黒猫の機嫌が良ければ見逃してくれる。「ニャーン」という鳴き声
白猫は、善意があり、危険な目に遭っている人を助けてくれる。しかし必ず助けてくれるわけでもなく、自分にとって気に入らない物なら黒猫同様に危害を加えてくる。白猫は黒猫の症状を浄化する力を持っており、また現代の医学では治せないどんな難病も治すことが出来るようだ。過去に難病だった患者に取材をすると、誰もが白猫が出てきたと話しているので、全くの嘘ではない可能性が高い。「ニー」という鳴き声
【お守り】
どんな災厄や呪いからも守ってくれる道具。折り紙で雑に作られたかのようなもので出来ているが、敢えてそういう造りになっているらしい。しかし何度も耐えてくれるわけではなく、数回使うと、ズボンのポケットにティッシュを入れたまま洗濯してしまったようにボロボロとなる。お守りの色は、白・青・赤・緑・紫は確認されているが、他にも色がある可能性がある。しかしどこで手に入るのかは不明
【結界】
どんなことが起きても、それが日常の一部ではないかと錯覚させることが出来る。例え、殺人や強姦、窃盗、死体遺棄などが起きたとしても結界内で起これば、それは日常の風景となり、何の違和感も持たせることが無い。監視カメラや写真にも証拠は残らない
【指輪】
指輪には記憶保存効果、収納効果がある。形状によっては他にも効果があるようだが、まだ調査が進んでいない。時間移動、つまり過去から未来、未来から過去、現在から未来か過去に飛べるのではないかという仮説があるが、これはまだあくまで仮説だ。指輪も色があるようだが、まだ何色があるかは不明。入手方法も不明
【粉】
見えない物を見えるようにする。それは結界をも可視することが可能。しかし人に振りまくと、人によっては影響が出るようだ。影響の内容も様々で、視力が良くなる、聴覚が良くなるなどといったものから、足が動かなくなる、味覚が無くなる、記憶があやふやになると言ったものもあるようだ。粉にも色が複数あるようだが、まだ確認できておらず、入手方法も不明
【飴】
この飴を舐めると、不安・恐怖・疑心暗鬼・肉体的(精神的)疲労などの感情を紛らわせることが可能。どこで製造されているか不明だが、人気のある飴。しかし舐めると中毒性があり、定期的に舐めないと感情の起伏が激しくなるある依存症になる可能性がある。この依存を無くすには飴を舐めないようにすることだが、それ以外にも何かに執着する、没頭するなどである一定時期を経過すると無くなるが個人差がある
【怪物】
男は人間とはかけ離れた容姿をしており、手足はだらんと脱力しているが、性器は丸出しにしており、女を見ると即座に犯しにかかる。力がとても強く、腕力にある者でも一瞬で組み付かれてしまい、逃げるのはとても困難。女は人間と近い容姿をしているが、男を見るとすぐに組み付いて犯しにかかる。対象がもう絶頂に達しなくても、無理やりにも絶頂させようとする。例え気絶したとしても、女は満足するまで腰を振り、己の肉の中に入れ続け果てさせる。こいつらは、銃で撃つ、刀で切りつける、建物などを壊して下敷きにするなどで殺害することも可能だが、犯されている状況では反撃することも困難だ。
【幽霊】
基本的に夜に現れるが、偶に昼時に現れることがある。ただクスクスクスクスと笑うだけだが、時によっては攻撃をしてくる。姿が見えないので、逃げることも攻撃することも難しい。姿を見るには粉が必要だが、人によっては粉が無くても視認することが出来るようだ。もっとも、目の前に現れたら多くの人間が言葉を出せずただ立っていることしか出来ない。
【虫】
身体のどこかに卵を付けて寄生る。放っておくと自分の身体の所有権が奪われ、身体も元の身体から虫の姿となる。痛みもないので、発症している箇所を自分で確認しない限り気付けない。自分が気付かない限り、取り除く方法が無い。水で洗う、目薬をさす行為はほぼ意味がなく、取り除く方法も不明。体内で発症することもあり、そうなったら取り除くのは絶望的
健也「これは……何だ」
書かれていることが、全く現実味がなく、何かのゲームの攻略本などではないかと思える。本当に馬鹿馬鹿しい、新聞部の誰かが暇つぶしに考えたんじゃないだろうか?
健也「あ」
ふと鳴海の家に貼っていた写真を思い出す。多くが、被写体である健也と鳴海の視線から外れており、まるで盗撮写真のようなものがいくつもあったが、あれは誰が取っていたのだろうか?
鳴海が誰かにお願いして撮ってもらっていた? 誰だ? あるとしたら愛奈と吉良……璃子は無さそうだが断言は出来ないのでグレー。鳴海両親……可能性は低そうだ。他には俺の知らない誰かと関わりがあって、その人にお願いをしているとか? これは鳴海に直接聞きたい内容だ。
飴……飴!?? もしかして家にあった3等と書かれた他の飴のことか!? いや、でもそんな偶然……あり得るかもしれない……。その時の福引も3等→2等→1等と仕組まれていたかのように当たったが、そんなことがあるとは思えない。あのガラガラの中にいくつ玉が入っているか分からないが、少なくとも100個はあるはず。その中から3回で3等→2等→1等を当てるとか1%も無いはず
仕組まれた? 誰に? 運営に? なんで? 何か目的があったから? じゃあその目的って? 飴とスイーツ店と温泉旅行に行かせたいから? それとも社内の都合上さっさと終わらせたかったから?
健也「……邪推しすぎているのかな」
この怪しい資料を見て、そう思っているだけなのかもしれない。実際はなんてことの無いことだったりして……でも福引の事はどうも引っかかる。あの時の福引の事を思い出して、どこの会社かと名前を思い出そうとするが、思い出せなかった。そもそも、福引の時に会社の名前なんか見ないし、無理も無いことだが、それでも知っているかもしれない情報を忘れていることに苛立った健也はつい机を叩いてしまう。手には痛みしか残っていない。
他にも記事が無いかを確認する
【生きている死体】
既に死亡している人間が、全く同じ姿と特徴で疑問を抱くことなく日常生活を送っている。人によっては80年以上前に死亡しているのに、まるで死んでいたことが嘘のように元気な姿をしている。死体は自分が死亡しているということを忘れているようで、それを決定的な証拠を見せることで、自分が死亡していたことを分からせることが可能だが、人によっては正気を失い襲い掛かってくる、目が虚ろになり心が壊れるなどと予測できない行動をしてくる時がある
【学校】
事件が起きている場所に学校が少なからずある。特に女子校が多い。共学もあるにはあるが、それでも女子高が圧倒的に多い。
【ハットをかぶった人】
正体不明。常に誰かを探しており、その人が探している人の情報を何か与えると、お礼に何かをしてくれる。具体的なお礼は不明
他にもいくつか書いてあり、目を通そうとしたら
ガタン!
健也「!??」
突然物音が聞こえたのでそっちを振り向くと、いつの間にか部室の扉が開いていた。吉良は部室を出る時は扉を閉めていて、ファイルを漁る前も扉が閉まっているのを確認している。誰か入ってきたのだろうか? 入ってくるとしたら愛奈か吉良だろうが……
健也「誰?」
開いている扉の方を見てそう言うが、何も返事が返ってこない。部室にある時計を見ると既に昼休みは終わっており、午後の授業の時間になっていた。持っていたファイルを机の上に置いて、ゆっくりと扉の方に近づく。部室内で扉付近には誰もいない。ということは外?
顔だけゆっくりと外に出すと
肌色の人の顔の形のしたような物が至近距離にいた。健也の顔と、その物がぶつかる数センチ離れており、それは目も鼻も無く、口元だけが歪になっており、ニチャァと嫌な笑みを浮かべているように見えた
健也「う、うわあぁぁあ!!!!」
突然目の前にそんなものを見た健也は驚き勢いよく後ずさるが、扉の先端に思いっきり後頭部をぶつけてしまい、床に倒れ、ぶつけた場所を手で押さえ目を瞑ってジタバタとみっともなく悶える
それは扉をキィーと、古びた扉を開けるようにゆっくりと入ってきた。身体はなく、顔だけが浮かんでいるようで、健也を見てニチャァとした笑みを浮かべたまま近づいてくる
健也「や、やめろ! 来るな!」
逃げようとするが、恐怖で身体が動かない。それは健也の目の前で泊まり、口を大きく開けた。健也の全身を飲み込むのではないかと思うほどの口の開きで、健也は怖くて抵抗すること自体が出来ない。
健也はその怪物に飲み込まれた
吉良「健也遅いな……」
放課後になっても戻ってない健也。愛奈は急いで教室から出て行くし、鳴海は熱を出して学校に来ていない。いつもいるグループメンバー3人がいないと、自分が1人でいるんだなと強く意識させられてしまう。クラスにも話せる程度の男子は何人もいるので、孤立することはないのだが、それでも親友の健也がいないと話していてもそこまで楽しくない。気持ちを紛らわせることくらいしか出来なかった。
自分はとんでもないことに足を踏みいれているのではないか、そう思った吉良は健也を置いて部室から逃げてきたわけだが、その置いてきた健也が返ってこないことがとても怖かった。メールをしても既読すらつかず、電話にすら出ない。健也の机には鞄が横に掛けられたままだ。健也のカバンを持って試しに部室に行ってみると、鍵が閉まっている。愛奈に相談しようとしたが、鍵は顧問に預けていると返信が来た。顧問に鍵を借りて、中に入ると、そこは昼間に雑に机の上に置いていた書類やファイルが元の場所に置かれている。健也がちゃんと片付けたのだろうか
吉良「健也―? 健也? いないのー?」
鍵が閉まっているのだから、いるとは分かっているものの、怖くてつい名前を読んでしまう。何度も健也の名前を呼ぶが返ってくることは無かった。溜息をついて部室の扉を閉めて鍵をかける。鍵は顧問に返して、吉良は学校から去った
もしよろしければ、下にある☆マークから評価ポイントを付けていただけると嬉しいです。何卒宜しくお願い致します。




