中学生(34)
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吉良「まーた、ボーっとしているよ? 健也?」
健也「あ?」
吉良「あ? じゃないよ。どうしたの? そんなに考え込んで、何かあった?」
健也「別に、そんなことじゃないよ」
授業が終わって昼休みの時間になったのだが、健也は昼休みになったこと自体に気付けていなかった。特に何も考えていない、考えていないことを考えたが、結局それは何も考えていないのでは?
健也「何かねー、こう、何も考えたくないと言うか」
吉良「そんなに追い込まれているの?」
健也「志望校の受験に関してはそこまで問題じゃないんだよ。準備は進めているし、模試でもB判定だから、勉強に関してじゃないんだ」
吉良「じゃあ何なの?」
健也「それが分かれば苦労しないって」
吉良「はー、少し待っていて」
吉良は健也の机の上にお弁当を置いて、少し離れた席にいる愛奈に話しかけている。会話は数秒で終わり、吉良は戻ってくる。いつもは4人で食事をしているが、愛奈は鳴海の席に行って、鳴海の机の上に自分のお弁当を置いて、近くに椅子に座る。どうやらあっちは2人きりで食べるようだ。
吉良は健也の元に戻って近くに置いてあった椅子の主に許可を取ってから椅子を借りる。こういう時、当たり前のように人の椅子を借りる奴は失礼な人だと思う。いや、まだ百歩譲って無言で借りるなら良いんだが、最悪なのは借りたのに返さない奴だ。教室に戻って自分の席を見たら、なぜか遠くの方に放置されている椅子がいくつかある。借りた奴は、まるで自分は何も責任が無いという感じで誰かと話をしており、それで気付いたとしても「あーごめん」の一言で済まし、自分で戻そうとしないイかれている奴なのだろう。将来連帯保証人になってとか言って、借金を押し付けてくるタイプの可能性が高い。
吉良「それで、結局何を考えているのかも分からないけど、何かを考えていたようで、実は何も考えていないということだと言いたいの?」
健也「あぁ、信じられないと思うだろ? 俺も信じられないんだ。自分が怖くなってきやがる」
吉良「おいしそうに唐揚げを食べている姿でそう言われてもね……」
健也「じゃあこうする」
健也は利き手じゃない方の手で箸を持って、唐揚げをつまもうとするが、唐揚げが弁当の中でサイドステップしまくっている。唐揚げも疲れたのか汗をかいているのか、少し濡れている。健也の箸についた唾液だった。
吉良「そうじゃない」
健也「じゃあこうだな」
吉良「机揺らさないで。机揺らしても身体が震えていることにはならないからね?」
健也「ぐぬぬ……強い」
吉良「要は意味もなくただ何も考えていなかったと」
健也「何も考えていないんだぞ。意味があると思ってんのかぁぁ?」
吉良「どうしたのそのテンション。あ、その卵焼き頂戴」
健也「じゃあその林檎をくれ」
吉良「はい」
健也「毎度」
吉良「おいくらですかー?」
健也「100万円だ」
吉良「はい、10円ですね」
健也「お、通じたか」
吉良「上げないけどね」
健也「ケチ」
吉良「あはは」
2人で仲良くご飯を食べる。周囲を見ると、男子も女子もグループで食べていることが多いが、3人グループもあれば、6人以上で食べている所もある。大人数で食べるのって、そこそこ苦痛ではないだろうかと思いながら見ているが、すぐに興味が失せたので吉良に視線を戻す。男達から吉良に視線を戻す間に、鳴海の姿を見ると、心が少しモヤっとした
健也「なんだかなー」
吉良「んー?」
健也「鳴海さんを見ているとさ」
吉良「見ていると!?」
それまであまり大きな声で話していなかった吉良だが、健也が鳴海のことを話題にすると、目を輝かせている。どうしてそんなに興奮しているのか分からなかったが、話を続けることに
健也「モヤっとするような、そんな感じがするんだよね」
チラッと鳴海を見ると、視線に気付いたのか鳴海も健也の方を見る。目と目が合うが、お互い直ぐに逸らしてしまう。
吉良「気になっているんだね!」
健也「何でお前がそんなに嬉しそうなんだよ」
吉良「良いことじゃん!」
健也「そうなのか? 吉良って、人の恋愛を見るのは好きだけど、自分が恋愛するのは嫌だって人?」
吉良「僕は恋愛したことないから分からないかなー」
健也「中学三年生だよ? 気になる人くらいいないのか?」
吉良「健也は鳴海さんでしょ?」
健也「俺の気になるというのは恋愛的感情なのか分からないんだ。ただ気になる。それだけで恋愛的と断定するのは違う気がしてな……」
吉良「……」
吉良が「こいつ面倒くさいなー」みたいな顔をしているが、健也もそう思う。そうだよな、自分でも面倒だと思うが……、こんな面倒な考えが面倒だが、考えないようにしてもいつの間にか勝手に考えている自分の頭がイライラする
吉良「デートでも誘ってみれば? 鳴海さんとは全く赤の他人ってわけじゃないし」
健也「デート? デートって何するの?」
吉良「遊びに行くんだよ!」
健也「遊ぶ? 遊ぶ……遊ぶ……遊ぶって何だ?」
吉良「はぁ~~~??」
健也「いや、言いたいことは分かるんだよ。具体的にどんな遊びをすればいいのかが思いつかなくて……。どうせカラオケとかゲーセンとか言う気なんだろ?」
吉良「否定はしないけど……」
健也「図書館でデートってのもあるが、そこは基本的に私語禁止だし、デートで行くような場所なのだろうかって……。2人とも本好きなら退屈はしないだろうけど……鳴海さんって本好きなのかなって」
吉良「あー……、嫌いじゃない程度じゃないかなー」
健也「嫌いじゃない=好きってわけじゃないからさ、選択肢の一つとしてはありだろうけど……って、なんで俺はデートに誘う前提になっているんだよ」
吉良「健也から振って来たでしょ?」
健也「あれ、そうだっけ?」
吉良「覚えていないの?」
健也「忘れた。記憶は庭に置いてきた」
吉良「ここ学校だし、健也の家に庭なんか無かったような気がするけど」
健也「じゃあ過去に置いてきた。俺は時間移動が出来るんだ。すごいだろう? 褒めろ、称えろ、ひれ伏せ!」
吉良「適当だなー。それに最後に態度が横暴になっているし。まぁ、お昼休みくらいはそれくらい適当でいいのかもね~」
健也「なぁ吉良。焼きそばってお洒落だと思うか?」
吉良「個人的にはお洒落といえ……言えないかな……」
健也「じゃあパスタは?」
吉良「それは……お洒落なんじゃないの? 多分?」
健也「チョコレートは?」
吉良「お洒落っぽいよね」
健也「ケーキは?」
吉良「お洒落かなー」
健也「唐揚げは?」
吉良「お洒落……お洒落じゃない気がするかな?」
健也「チキンは?」
吉良「あー、えー? お洒落?」
健也「カタカタがついてればお洒落なのかな?」
吉良「どうだろうね。でも確かにカタカタにお洒落が多いような気がしてきたよ」
健也「俺もそう思った」
吉良「ちょっと待って、考えた上で話したんじゃなくて、話しながら考えたの?」
健也「そうだ」
吉良「そっかー」
聞いてきた割には適当な反応の吉良だったが、健也もそこまで深く言う気はない。それを言う元気も無かった。
吉良「何の話をしていたんだっけ?」
健也「お洒落なデートとは何か」
吉良「デートだからってお洒落にする必要はあるのかなー。無理するよりも気楽に行けるところでいいんじゃないの?」
健也「そもそもデートする気はないけどな」
吉良「えー、デートしようよー?」
健也「吉良、誤解されるからそれを言うのは止めてくれ」
吉良「え?」
吉良とデートについて話をしているからか、周囲の人たちが少し奇妙な目で健也達を見ている。吉良はその視線の意味を理解できず、ただ首を傾げることしか出来なかったが、健也は少しはそういうことが好きな人たちもいることを知ったため、自分がそのポジションに置かれることに強い不快感がある。自分は決してそっちではないのだ
健也「そうだ、吉良がデートすれば良いんじゃないか?」
吉良「僕が? 誰と?」
健也「鳴海さんと」
吉良「ちょっと待って、どうしてそんな発想になったの……」
健也「そんだけ言うってことは、デートも実際に出来るのかなって」
吉良「さっきも言ったけど、僕はデートしたことがないよ~?」
健也「ごちそうさまでした」
吉良「あれ、いつの間に……」
弁当箱を片付けて、食べている吉良を見る。吉良も健也に視線を向ける
健也「……」
吉良「……あの、そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
健也「いやー、なんかなー」
吉良「なんか?」
健也「生きるのって大変だなって」
吉良「また突然……何? 今日はそういう日なの?」
健也「外見てみ」
吉良「外?」
吉良が外を見ると、空は少し暗くなっており、雲も灰色になっていた。風も少し吹いており、昼なのに夜を思わせるような空気だ。
吉良「暗いね」
健也「あぁ」
吉良「で」
健也「空も疲れているんだろうな。毎日休まず、青・茜・黒と色を繰り返してさ、雲も出ては消えてさ、雨も降ってはやまされてさ」
吉良「何、本当にどうしたの? なんでそんなに落ち込んでいるの?」
健也「俺が落ち込んでいるように見えるか?」
吉良「うん」
健也「最近な、メル友の璃子さんとあまり話せていないなって思って」
吉良「誰それ」
健也「あれ? この前言わなかったか?」
健也は吉良に璃子のことを話す
吉良「あぁ、聞いたね。忘れていたよ。何? 好きなの?」
健也「気になってはいる」
健也がそう言うと、どこからかドンがらがっしゃんと音が聞こえる。音がした方を見ると、鳴海が弁当箱を落としてしまったようだ。蓋はしてあるので、中身が飛び散っている様子はないが、近くに座っている愛奈からは、なぜか苛立っているような視線を健也に向けていた
健也「なんか愛奈が凄い睨んでくるんだけど」
吉良「安心して。僕も今のイラついたから」
健也「え、なんで??」
吉良「……記憶がない人の相手でイラつくって本当だね。ストレスすごいや」
健也「は、どういうこと?」
吉良「何でもない。それで、璃子さんが気になっているっていうのは? どういう意味で?」
健也「何かさー、こう、一緒にいて落ち着くんだよね」
吉良「はー」
健也「何その適当な反応」
吉良「なんでもない」
吉良が健也の話に飽きたのか、スマホを取り出し始めた。健也も話すネタが無いような物なので、それにとやかくいう事はなく、空を見ていると
吉良「健也、これ見て」
吉良が見せてきたのは1つのサイトだ。何か記事が書き込まれており、ある女子中学校で遺体が発見。それも無残な姿になっており、解剖しても何がどうなったら出来るのか分からないようなものだった。聞き込みによると、最後に見た者の話では、校舎裏で何かを割っていたとのころ。割られていたものを調べてみると、鍵のような形状をしているが、一般的に作られているような形状ではなく、特殊な形状らしい。しかもその鍵がどこの鍵なのか分かっていないとのこと
健也「物騒だな……あれ」
吉良「?」
良く見ると、知っている学校の名前だった。その学校は璃子が通っているはず。遺体が誰のものか分からないので、まさかと思い焦ってスマホを取り出して璃子にメールを送るとすぐに返って来た。璃子に事件のことを聞くが、何も知らないと返信が来た。それでも無事なことを安心し、一息つくと、吉良が疑わしそうに健也を見ている
吉良「……」
健也「なんだよ」
吉良「決めた」
健也「?」
吉良「健也、鳴海さんとデートして」
健也「はぁ? なんで?」
吉良「ムカつくんだよね」
吉良にしては随分と直球な言い方だ。今までは不満を言うにも、どっちかというと遠回しな感じが多かったが、ここまで直球なのは本当に珍しい。健也はそれだけ吉良がイラついているのではないかと思った。
健也「ど、どうして」
吉良「やれ」
健也「え、吉良?」
吉良「……」
更に命令系で言ってくるとは……本当に何か怒らせるようなことをしたのだろうか?
健也「き、吉良? 怒っているなら謝るから」
吉良「何について怒っていると思う?」
健也「えっと……デートのこと?」
吉良「……本当は僕のエゴだってのは分かってはいるんだけどね。どうも今の健也を見ているとイライラするよ」
健也「何で」
吉良「鳴海さんとデートしたら教えてあげるかもね」
健也「……」
吉良以外に男の友達がそんなにいない健也にとっては、吉良に嫌われることは避けたい。しかし、友達に嫌われたくないからって、友達の異性にデートをしようなんて持ちかけるのも、それは異性の方にも失礼ではないだろうか?
そんなことを考えてはいたが、目の前にいる吉良は、とても冗談を言っているようには見えなかった。
健也「わ、分かった。お願いしてみるけど、断られたら断られただからな?」
吉良「それでいいよ。頑張ってね」
頑張る?
何について頑張るのか良く分からなかったが、吉良はさっきまでの不機嫌からご機嫌になっている。
なんだぁ? 俺にばっかりおかしいとか言いながら、吉良も十分テンションがおかしい気がするぞ
と思ったものの、それを声に出していう事は無かった。
昼休みが終わり、授業時間
どうやって鳴海にデートを誘うか悩んでいた
どうやって誘えば良いんだ? デートをしませんかって? でも鳴海さんとは友達だし、いきなりデートに誘うのも……なんか気持ち悪くないか? なんかこう、気持ち悪くない誘い方って何だろう? 強引な方が良いのかな?
強引……
ぽわぽわぽわ……(健也が脳内で誘い方のシミュレーションをしている)
健也「おい鳴海さん、デートに行こうぜー」
鳴海「え、どうしたの突然」
健也「俺が鳴海さんとデートしたいからだ。良いよな?」
鳴海「え、でも」
健也「何、何か用事でもあるのかよ?」
鳴海「いや、えっと」
健也「ほら、とっとと行くぞ」
健也は鳴海の腕を掴んで遊びに行く
…………
いや、これで鳴海さんが拒否したらその後の関係がどうなることやら……
健也は思い直す。確かにアプローチとしては悪くないが、鳴海とは同じグループの人だ。仮に断られたとしても吉良がサポートしてくれれば、なんとかなるかもしれないが、それでも気まずさは残りそうだ
……あれ? 吉良ってデートをしろとは言ったけど、もし空気が悪くなったらフォローしてくれるよな? もしかしたらしてくれないかもしれない……なんてことはないよな?
吉良は鳴海とデートをしろとは言ったが、それ以外のことは何も言っていない。友達だと思っているが、それでも吉良がしっかりとフォローしてくれるかはまた別の問題。吉良をチラッと見ると、吉良も丁度健也を見ていて、教師は黒板に文字を書いている。吉良は何か小さな紙を丸めた物を健也の方に放ってきたのでそれをキャッチして広げて見ると
「鳴海さんとのデートで手伝えそうなものがあるなら言って良いからね」
とあった。吉良をもう一度見ると、何事も無かったかのように板書している。器用な人だ
強引に誘うよりも受け身な感じで誘ってみるとか?
ぽわぽわぽわ……(健也が脳内で誘い方のシミュレーションをしている)
健也「鳴海さん、そのさ、良かったら、一緒に、その」
鳴海「何かな?」
健也「デートをしたいなーなんて」
…………
気持ち悪い! 自分で想像しながら思ったが、とても気持ち悪くて吐きそうだ。実際にやったらこうなる可能性が一番高いと思うが、それでも想像するだけで気持ち悪い。
自然な誘い方……あ、そうだ。別に改めてデートをする必要はないのではないか? 放課後デートにすれば、それとなく誘えるのでは? 別にデートって鳴海さんに言わないで、2人きりで行けばいいんだろう? ならわざわざデートなんて単語を使わなくても良いわけか
確かデートとは、仲の良い男女が遊びに行くことだったはず
仲の良い男女? 仲が良い? 俺と鳴海さんって仲良いのか? うーん
先生「ではここを健也君。解いてみてくれ」
健也「わかりません」
先生「そうか、では他の者にしてもらう」
分からない、分からないけど、誘わないと吉良が怒るし……。そうだ、放課後デートしてから仲が良いかを考えればいいのか! よい、そうしよう
それから授業が進み、放課後となった。周囲は帰りの支度をしている人もいれば、チャイムが鳴ったと同時に教室から出て行く人もいた。外は昼間の暗さが嘘のように晴れていた。
鳴海は鞄の中に教科書を詰めていて、愛奈はロッカーの中をゴソゴソとしていて、吉良は健也を見ていた。無言の視線だが「しっかりと声を掛けてね」と心の声が聞こえてきた。
あいつ……いつのまにテレパシーを使えるようになったのか!?(使えません)
周囲に人気が比較的少ないのを確認すると、鳴海の席に近づく。自分の方に誰か近づいてきたのに気づいた鳴海は、顔を上げると、健也が来たことに気付き、すぐに顔を逸らした
健也「あの、鳴海さん」
鳴海「…何かな」
健也「放課後時間ある?」
鳴海「あるけど」
健也「良かったら遊ばない?」
鳴海「どこで?」
し、しまった! 誘う事ばかりに目がいって、どこで何をするか考えていなかった! ど、どうしよう!
一瞬だけ吉良の方を見ると、何やら愛奈と話をしていた。助けを求めることは出来ないようだ
鳴海は少し戸惑ったような顔で健也を見ている。ここからどうすればいいのか分からなかった健也は
健也「えっとだな、その、な」
鳴海「うん」
健也「まだ決めていないんだ…」
素直に言うことにした。変に言って誤魔化そうとしたが、なぜか自分でも驚くくらいに素直に話してしまった
鳴海「そうなんだ」
そうなんだ、その言葉にどんな意味が込められているのか分からず、鳴海の目を見る自信がない。それから鳴海も何も言わなくなった。顔を見ることが出来ない健也はただただ気まずい時間となる
…嫌ならすぐに切ってくれて良いのに…これは下手糞な誘い方をした俺への罰なのか。チャラチャラと誘うべきだったのかな……
鳴海「……」
健也「……」
チラッと鳴海を見ると、鳴海は健也の目をジッと見ていた。すぐに逸らそうと思ったが、鳴海の目をジッと見つめ返してしまう。
鳴海「んー、分かった。どこか行こうか」
健也「あれ、良いの?」
鳴海「嫌だったら断るよ。それにまぁ、うん、私も誘おうかなって思っていたから」
健也「そうなの?」
意外過ぎる発言に驚いて鳴海の目を更に見つめると、鳴海は恥ずかしそうに目を逸らした
鳴海「あまり見ないでくれるかな?」
健也「あ、ご、ごめん」
鳴海「じゃあ行く?」
健也「うん」
自分の席に戻って荷物を超特急で片付けて帰る準備を整えると、愛奈と鳴海が何か話をしていたが、すぐに愛奈は教室を出て行ってしまった。肩をトントンと叩かれる。何かと思い振り返ると、頬にぷすっと指が当たった
吉良「やーい、引っかかった~」
健也「あぁ?」
吉良「誘えたみたいで安心したよ。僕は後ろから付いていった方が良いの? それとも帰った方が良い?」
健也「あーそれは」
それはかなり迷う。ヘルプなしだと頭が真っ白になった時に、変なことをしてしまう可能性が十分にある。しかしそれでは、鳴海に失礼ではないか? もし鳴海に、後ろでヘルプとしてついてきた吉良のことに気付いたら、鳴海の中では「女1、男2」と少し警戒されてしまうかもしれない。もしかしたら吉良も誘って3人で遊ぶことになるかもしれない。何より、健也から誘ってきたのに、後ろで友達が付いているとかどう考えてもカッコ悪い気がした
そう思った健也は吉良の誘いを断ると、吉良は教室から出て行った。
健也「じゃあ、その」
鳴海「行こうか」
健也「はい」
どっちから誘ったのか分からなくなりながら、教室を出た
学校を出て、帰宅道を歩いている。鳴海の話では自分の家は健也の家から少し距離があるので、すぐ解散するようなことは無いと言ってくれた。遠回しに長く付き合ってもいいと受け取っていいのだろうか?
健也は歩きながら考える
自分で誘っておいて、本当にノープランなのは恥ずかしい。せめて、何か楽しめそうな物はないか……
そう思いながら必死にどこにいくか頭を回転させていると
鳴海「ねぇ」
健也「え、あぁ、何?」
鳴海「何でずっと黙っているの? せっかく遊びに来たのにだんまりはやめて欲しいな~」
健也「あ、ごめん」
鳴海「…」
健也「……」
場所を考えながら何かトークをしろということか? 難易度高すぎやしませんかね?
鳴海「……」
鳴海を見ると、目が合った。こっちから振り向いたのに目が合ったという事は、健也の方を見ていたということだが、どうしてこっちを見ていたのか分からなかった。不思議と目を逸らすようなことが出来ず、健也も見返す
健也「…」
鳴海「…」
先に健也から目を逸らしてしまった。心臓はバクバクとなっており、鳴海の顔を見ることが…いや、自分の顔を見せることが出来ない
鳴海「あ、あそこ見て」
健也「え、あぁ、クレープ屋さんだ。あんな所にあったか?」
鳴海「車で来ているし……今日は来る日なんだろうねー」
健也「あれ? あのお店のクレープ食べたことあるの?」
鳴海「無いよ。でも友達から時々来るって聞いたことがあるし。買いに行っていい?」
健也「あ、俺も食べたいからついていくよ」
食欲があるわけではなかったが、1人だけ食べていて、自分は何も食べないでただ待っているのも鳴海に気まずい思いをさせてしまうだろう。本当ならこんなことにお金を使いたくないが……やむを得ない。2人でクレープを注文し、食べ歩きをする
鳴海「美味しいね」
健也「クリームが濃厚だ」
そんな感想を言いながら話をする。
いいぞ、何も無いから不安だったが、クレープを介在させれば、多少は会話も続けられる。人と話すときは、コップ1つあるだけでもなんとか話題は生み出すこと出来る。今回はそれがクレープだった
鳴海「それでさ、あ……」
鳴海のクレープのクリームが自分の制服に少し付いてしまった
っは! ここでティッシュを渡せばデートっぽいのでは!?
ズボンのポケットにクレープを持っていない方の手を伸ばすが、あるのはトイレで手を拭くときに使ったハンカチだけで、ポケットティッシュは無かった
鳴海「これで良しっと」
健也「あ」
鳴海「え、何?」
健也「何でもない」
出番が無くなってしまった。クソ、こんなことならポケットティッシュを持ち歩いていれば……。普段何気なく配られているポケットティッシュはこんなときの為に配られているというのに(賛否両論)
鳴海「そういえば最近璃子さんって人と知り合ったんだって?」
健也「え、なんで知っているの?」
鳴海「愛奈から教えてくれたんだ。どんな人なの?」
健也「えっと、視力が悪くて、パスタが好きで、おっちょこちょいなところがあって、男子が苦手で、真面目なのかなと思ったら実はそうでもないとかかな」
鳴海「へー」
少し声が低かったような気がしたが、喉にクリームが詰まったのだろうか? 気にせず璃子の話を続けると、美味しいにクレープを食べていたが、食べるのがきつくなったのか、不味そうにクレープを食べている
鳴海「…」
ついには真顔になった。なんだろう? 味が同じで、途中から飽きたのだろうか?
健也「どうしたの? なんか表情暗いけど」
鳴海「いやー? 随分と仲が良いんだね~って思ってさ~?」
健也「???」
なんだか機嫌が悪い。自分が気付かないうちに、何か怒らせるようなことをしてしまったようだ。何が原因だったのか……分からぬ
健也「そういう鳴海さんは普段愛奈と何を話しているの?」
こういう時は、2人の知っている共通人物について話そう。これならこの機嫌の悪さも回復するはずだ……
鳴海「……愛奈?」
あれぇぇぇ!? 更に声が低くなり、機嫌が悪くなった
健也「そ、そう、女子同士って何を話しているのか気になってさ」
鳴海「そこは男子とそんなに変わらないと思うよ? 男子でも女子でも話す内容なんてほとんど変わらないし」
健也「そうなの? 例えば?」
鳴海「恋愛・服・事件とか」
健也「事件!?」
鳴海「新聞部だしね。部活のことを話しているよ」
健也「あぁ、なるほど」
鳴海「……、健也君ってさ、今好きな人っているの?」
健也「何突然」
鳴海「いや、だってさ、ねぇ?」
ねぇ? それはこっちがねぇ? ですけど? やんのかごらぁ(やけくそ)
すいません、やりません(直ぐに頭を冷やす)
健也「?」
訳が分からずポカーンとしていると
鳴海「これだって誰かとデートする時の練習じゃないかなって思ってさ」
健也「は、え、どういうこと?」
鳴海「ほら、昼休みの時にデートとか、お洒落とか、なんかそんなことを言っていたじゃん? 私で実験でもしているのかなって思ってさ」
健也「そんなことない!」
鳴海「え」
鳴海は戸惑ったような顔をしていたが、あれこれと考える前に返事をしていることに健也が一番戸惑っていた。
健也「いや、あの、デートの練習とかじゃなくて、デートを、その、鳴海さんと、そのしてみたいなって、思いまして、はい」
最初は勢いよく言ったものの、途中から失速していく健也
鳴海「……なんで私なの?」
吉良が言ってきたから
そう言える空気ではないし、健也自身もそう答えるつもりはなかった。数秒間迷って出した答えは
健也「鳴海さんを見ていると、なんだか、こう、心がモヤっとして、気になっていたから。その、確かめるために誘いました」
素直に告げることだった。そもそも吉良がデート云々と言ってきたのは、健也が鳴海を見てボーっとしていることが発端だった。なので、その原初である思いを素直に話す。
鳴海「……」
鳴海は口を開けて驚いている。口内にはさっきまで食べていた白いクリームが少しだけ残っていたが、すぐに口を閉ざしたので見えなくなった。一瞬だけ見えた白いクリームが唾液で溶かされているところを見たが、そんな気分になる余裕がないくらい健也は真剣だった
鳴海「……そうなんだ」
健也「…はい」
鳴海「……うん、遊びで誘ったわけじゃないんだ」
顔を見せることが怖くて、鳴海がどんな表情をしているのか分からなかったが、さっきまでの低い声から明るい声と変わっていた。
鳴海「……私もね、少し、いやかなり健也君のことが気になっていたんだ」
健也「え」
驚いて顔を上げると、鳴海は健也の目をジッと見ていた
鳴海「私の中で、健也君の存在が少しずつ大きくなっているの。でも、これが一体どういう意味で大きくなっているのか分からなくてさ、かなり困っていたんだよね」
健也「そ、そうなんだ」
鳴海「うん。恋愛的に気になっているのか、友情的に気になっているのか、それとも記憶喪失前のことが気になっているのか、あるいは全部が気になっているのかもしれない」
健也「……」
鳴海「それで、この誘いで少しは自分の抱いている気持ちが分かるかなって思ったんだけど…」
健也「けど?」
鳴海「余計分からなくなった」
健也「え、なんで」
鳴海「教えない~」
健也「なんで!?」
鳴海「ん~、まだ整理している感じなんだよね~。ほら、歩こうよ」
健也「お、おう」
少しだけ止めていた足を歩かせる。さっきまでは鳴海と離れて歩いていたが、鳴海から少しだけ距離を近づけてきた。
健也「え」
鳴海「何?」
健也「いや」
どうして距離を詰めてきたの? そんなことを聞くのは恥ずかしくて、何も言えなかった。
2人で歩いていると、少し遠くで他校の制服を着た女子が男達に囲まれていた。どうしようかと困ったが、意外にも鳴海から男達に話しかけていた
鳴海「何しているの?」
男達「あぁん?」
鳴海「その子、怖がっているじゃない」
男達「そんなわけないだろう? ほら」
健也「あ」
女の子「!? 健也さん!?」
健也「璃子さんだ」
鳴海「あ?」
男達「何だよ? 連れが要るのかよ……っちおいお前ら」
男達は舌打ちをしながらも、これ以上璃子に関わる気は無いようで、すぐにどこかに行ってしまった。璃子はとても怯えているようで、膝がプルプルと震えていたが
鳴海「あなた大丈夫? 璃子さん?」
璃子「え、あの、どこかで会いましたか?」
鳴海「健也君から璃子さんのことをた・く・さ・ん、聞きましたらか。それよりも大丈夫?」
なぜか「沢山」と強調しているのだが、どうしてだろうか? しかもなぜかまた機嫌が悪くなっているような?
しかし機嫌が悪そうなのも一瞬で、鳴海はすぐに璃子の安否を確認して、近くにある自販機からお茶を買って渡している。健也はただオロオロするだけことしかできず、何か出来ないかと思うが、思う事しか出来なかった。こういう時こそ動きたいが、自分よりも周りが早く動くためにどう動けば良いのか分からなくなる
鳴海が璃子に話しかけて、璃子も少しずつだが落ち着いてきた。これではもうデートどころではなさそうなので、健也も鳴海に協力して璃子を落ち着かせる
璃子「健也さん、助かりました。あの、こちらの方は?」
鳴海「鳴海です。健也君とは同じ学校の同じクラスメイトで同じ部活に入っています」
璃子「そうなんですか。私は璃子です。よろしくお願いします」
鳴海「敬語なんていらないよ~。私も璃子さんとは友達になりたいな~」
璃子「あの、あぁいや、私で良いなら鳴海さんとも友達になりたい……かな」
鳴海「え~良かった~。そうだ、良かったらこれから少し話せないかな~。2人で」
璃子「え、2人ですか?」
鳴海「女の子同士で話したいことも沢山あるじゃん?」
璃子「は、はぁ」
鳴海「健也君。悪いけど、璃子さんと遊んできていいかな? この埋め合わせは絶対するから」
健也「え、あぁ。分かった。璃子さんも行ってらっしゃい」
璃子「えっと、うん。健也さんもありがとうございました」
2人は健也を置いて、先に歩いていってしまった。健也は2人の姿が完全に見えなくなるまで時間を置いてから、家に向かって歩き始めた
一方そのころ
健也と別れた場所から少し離れた喫茶店に入って、鳴海はアイスコーヒー、璃子は紅茶を注文して席に座る
鳴海「ここで良いかなー」
璃子「うん、その何を話せばいいのかな」
鳴海「そうだねー。何を話そうかー」
璃子「決めてなかったの?」
鳴海「うん、その場のノリで来たから」
璃子「そ、そうなんだ。健也さんは良いの?」
鳴海「健也君とはどんな関係なの?」
璃子「え、えっと、メル友かな」
鳴海「どんな感じに知り合ったのかな~? 健也君から璃子さんのことは少ししか聞いていなくてさー」
璃子「うん、良いよ」
璃子は鳴海に健也と初めて会った時のこと、コンタクトを探してもらったことから一緒に学校見学をすることになり、それからも頻繫とまでにはいかないが、それなりの頻度でメールをしていること、この前図書館で一緒に勉強をしたことを話す。鳴海は璃子の話に相槌を打って、続きを促す。
鳴海「へー、図書館でー」
璃子「そういえばあの時もしかして図書館にいた?」
鳴海「いや? その日は私家にいたからねー」
璃子「そうなんだ。そう言えばやけに健也さんがキョロキョロとしていたような」
鳴海「図書館で?」
璃子「図書館で」
鳴海「どうしたんだろうね~?」
璃子「何か探していたのかなって思っているけど、そんな気がしないのもあるんだよね」
鳴海「まぁ健也君、時々アホっぽいところあるからね」
璃子「それ私も思った。それに女たらしなんじゃないかとも思っているよ」
鳴海「……女たらし? どういうこと?」
璃子は健也と図書館で勉強をした後に、ファミレスで慣れたように「あーん」をしてきたことを話す
鳴海「……」
璃子「鳴海さん?」
鳴海「健也君は女たらしだね。璃子さん気を付けてね」
璃子「え、そうなんですか? やっぱりそうなんだ」
鳴海「そうなの、新聞部にはもう1人女の子がいるんだけど、その子とも結構……ね……」
璃子「うわー、そうなんだ。少しショックかなー。見た感じはそんなでもないのに、人は見かけによらないんだね」
鳴海は愛奈のことを話しているが、璃子は愛奈のことを知らないのでそう頷くしか出来なかった。ちなみに鳴海は嘘をついてはいない。「結構……ね……」としか言っていないのであるので、嘘はついていない。
鳴海「この前もその子と少し揉めていてねー」
璃子「うわっ、そうなんだー。でも恩があるし、これからもメル友ではいたいかな。なんやかんや面白い人ではあるし」
鳴海「うん、それが良いと思うよー。恋人になるのは大変だと思うし、璃子さんはそのままメル友が良いと思うよ。健也君とはメールで耐性を付けていって、他の男子で直接的な距離への耐性を付ければ良いと思うよ~」
璃子「うーん、それも考えておくよ」
鳴海「そうだ、私も璃子さんと連絡先を交換したいな~。これからも友達でいたいし、どうかな」
璃子「あぁ、私も鳴海さんと交換したいから良いよ」
2人は連絡先を交換した
鳴海「良かった~。良い関係でいようね」
璃子「うん、こっちこそ」
2人はそれから受験の事や、お互いの学校の事、世間話から趣味の話など、広く浅い話をしてから解散した。
鳴海「んっ…」
お風呂に入って、シャワーを浴びた後に湯船に浸かる。少しずつ胸が大きくなっていて、邪魔に思えるが、こればかりは体質なのでどうしようもない。湯船に浮いている小さな半球を見ると、溜息をついてしまう。大きくなって欲しいと言う気持ちもあるが、大きくなるとブラを買い直す必要も出てくるので、溜息にもなってしまう。今の所そんな心配はないが、大きくなる胸にはなんとも言えない溜息しか出てこない。
湯船から出て鏡を見る。鏡には自分の裸が映っており、少し身体を動かす。しかし胸はバインバインとは揺れない……ほんと少しだけぽよぽよとしている。自分で少しだけ突起になっている2か所を指でコリコリすると、言葉には出来ない快感があった
鳴海「……これやりすぎると痛いんだよねー」
少しだけ味わった後に手を放して、浴室を出て脱衣所に。タオルで濡れている身体を拭いていくが、突起になっている所にタオルがこすれると、少しだけ気持ちよかった。すぐにパンツを履いて、パジャマを着る。ブラは寝る時は付けない。痛いし苦しいだけだ。家では裸になっている人や、下はパンツだけの人もいるだろう。それは何故か? そっちの方が落ち着く又は楽であるからだ。
髪の毛をドライヤーで乾かしてから、化粧水も塗る。時刻ももうすぐ日付が変わる。部屋に戻って、勉強はしないで大人しく布団にもぐって寝ることにした。身体を横にして目を瞑る
鳴海「まぁ、あれで十分かな」
そう言って後には寝息しか聞こえなくなった
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