中学生(27)
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冬休み
いつもみたいに部屋でゴロゴロとしていると、お母さんが話しかけてきた。手に持っているスマホには、アニメが流れていて、ほんわかしている感じのお姉さんが、実は腹黒いキャラクターで、嫌いな子に容赦なく陰湿な行為を仲間を使ってやらせている
健也母「健也、進路どうするの?」
健也「進学」
健也母「学校は決めているの?」
健也「まだ」
健也母「そう、なら考えなさい。それと予備校はどうするの?」
健也「行った方が良いの?」
健也母「何とも言えないかな。やる気が無かったら意味ないし、やる気があるならお金出すけど、一定以上の成績が出ないなら、予備校に払ったお金は借金扱いにするよ?」
健也「厳しくない?」
健也母「そうでもしないと、お金払っている分努力しようとしないでしょう? 無駄に使われるくらいなら生活費のやりくりに当てたいわ」
健也「そういうものなの?」
健也母「アンタは普段不自由なく過ごせているのは、裏で日用品や食事を準備・補充をしている人がいるわけよ。さて、問題です。我が家でそれをやっているのは果たして誰でしょうか?」
健也「……お母さん」
健也母「そうよね? もし行くならちゃんと勉強しなさいよ? でも健也成績最近上がってきているし、そこまで心配はしていないんだけどね。2年生の後期試験は前期試験とまでには行かなかったけど、模試ではどの科目も40点は取れていたよね?」
健也「うん、そうだね」
健也母「まぁ、進路は決めておきなさいよ」
そう言って部屋から出て行った。進学を選んではいるが、肝心の進学先を決めていなかった。家にいてもゴロゴロとし続けて1日を終えてしまいそうだし、今日は外に出て進学先のパンフレットでも見てこようかな。そう決めた健也はグダグダになりながらも服を着替えて外に出た
冬休みということもあり、外には自分と同い年のような人たちが沢山歩いていた。外に出ること自体あまりない健也からしたら、どれくらい人が増減しているのかよく分からなかったが、それでも人が多すぎて邪魔なことには変わりなかった。こいつらまとめて消せないかと思ったが、そんなことをすればサイレンばっか鳴らす車に追われそうだ、というかそんなこと出来ない
人の流れから抜けて本屋さんに到着。受験の定番、赤本が山のように積み重ねられていた。あと数か月には自分もこれを手に取り、四苦八苦しながら問題を解いていることだろう。その光景がリアルに想像出来てしまい、とても気分が落ち込む。
はぁ……答えが全部見える答案を試験に配られないかな……
きっと誰もが思う妄想を思い浮かべるが、そんなことはあるはずがない。もしあったら試験官読むには読めるが、記述の問題は解ける気がしなかった。他にも国語・歴史・理科などを見ていくが、どれも難しそうに見える。
健也「はぁー」
溜息をついて本を元の場所に戻す。学校……どこにしようかな、やっぱり家から近い方が良いよね……。数時間かけて行くとか嫌すぎるし、そんな時間があったら寝るかゲームに時間を当てたい……。そんな条件で当てはまる学校が近くにあるかというと……一校だけあった。
健也「ここにするか」
悩みの種は意外にも早く摘んだ。学校に興味があるからその学校を選んだわけではなく、家から近いという理由で学校を選んだ健也なので、パンフレットを見ても、あまり何も思わない。せいぜい「へー」と呟く程度で、3歩歩いたら忘れているだろう、興味の無い記憶なんてそんなものだ。赤本は学校にもいくつか置いてあり、以前どんな学校があるかを確認した時にも、健也が受けようとしている学校の赤本はあった。だから買う必要もないと判断した。
思いのほか用事が早く済んで、どうしようかと悩む健也。吉良を遊びに誘おうかなと思ったが、用事があると断られてしまった。女子の愛奈と鳴海に声を掛けることもなく、スマホをポケットにしまう。志望校もここから歩けば、少し時間はかかるが見に行くことが出来る。特に用事もないし、抜き打ちで学校をチェックしてやるかー
志望校に到着
見た感じはただの学校だ。部活に打ち込んでいるのか、校庭を走っている者もいれば、ボールを使って練習をしている光景も見られ、耳を澄ますと何かの楽器を演奏している音も聞こえてきた。校内に入るわけにはいかず、外からあちこちと見ていると何かにぶつかった。校内に意識が向きすぎて、自分の周囲に注意を払えなかったようだ。
???「あいた」
健也「いで」
女の子の声が聞こえたが、隣にはいない。どこに行ったのかと思い、視線を彷徨わせると、ぶつかった衝撃で転倒してしまったようだ。彼女はどこかの制服を着用しており、尻もちをついて足を開き、両手を後ろに置いて、痛みに耐えているのか目を閉じている。
ふむ……ピンクか……
健也「す、すいません」
???「い、いえ。こちらこそすいません」
健也「立てますか?」
女子が怖いので、少し距離を取って話しかける。もちろん、手を伸ばすような真似もしない。イケメンや、チャラ男ならここで手を指し伸ばして大丈夫かとスマイルパワーを巧みに使い聞くのだろうが、女子に触れられることが怖い健也にはそんなことは出来なかった。女子はお尻を擦りながら、立ち上がると、健也の方を見ないで、どこかに走り去ってしまった
健也「……あ?」
先程女の子が座っていた場所には、何か手帳のようなものがあり、それを拾い上げる。手帳の下の方には学校の名前が書いてあり、中を見ると、さっきの女子の顔写真が映っている学生証があった。住所、名前、性別、生年月日、学年、出席番号など諸々の情報が載っている。女子校の人らしい。名前は……璃子
追いかけて渡すべきだろうか? しかし、彼女が走り去ってからここに戻ってくる気配はなく、このままここに置いていたらそれはそれで個人情報が流出することも十分に考えられる。どうしようかと悩んでいると、汗を掻いている男子に話しかけられる。来ている服装的に陸上部のような印象がある。
陸上部男子A「君、何しているの? さっきからキョロキョロと」
健也はここにいた女子が生徒手帳を落としていってそのままどこかに行ってしまい、生徒手帳をどのように対処すれば良いのか困っていることを話すと、この男子は顧問に渡そうかと提案してくれた。健也的には自分が無関係になれば問題ないので、それを了承すると、念のために顧問に顔を見せるようにと校内に入るように言われた。自分がここの生徒ではないことを話すと、陸上部男子は困ったような顔をしながらも、ここで待てと言って校内に入って行く
健也「……」
大人しく待っていると、顧問がやって来た。おじさんで、少しお腹が出ている。男子が顧問に説明をしていると
顧問「それは本当なのだね?」
健也「はい、本当です」
顧問「ふむ……顔を覚えたから大丈夫だよ。帰っていいですよ」
健也「分かりました」
顧問はトボトボと校内に入って行き、男子も健也に一言言ってから練習に戻って行った。校門前にぽつりと立っている健也、これからどうしようかなと思っていると、後ろからガシャンと何かを落としたような音が聞こえた。音が聞こえた方を振り返ると、そこにはハットを深くかぶった人がいて、地面にはカメラが落ちている
健也「カメラ?」
その人は急いでカメラを拾い上げると、どこかに走り去っていった。追いかけようと思ったが、別に何もやましいことはしていないのだから良いかなと思い直し、足を止める。何を撮っていたのやら……。自分のいた所を確認し、先程隠れていた人の位置に立って何が見えるかを確認すると、自分が立っていた場所を通り越して、そこでは女子が何度も出入りしている場所を見つける。何の場所か分からないが、女子だけしか出入りしておらず、その場所から少し離れた所には、窓が開いていて湯気が出ている。そして、時々だが、肌色の女子が見えた。ここからでは顔も判別も出来ないし、肌色が動いているくらいにしか見えないが、それでもカメラを使えば……もしかしたら
健也「……帰ろう」
危ない匂いがしたので、すぐに立ち去ることにした
外に出たは良いが、目的地が無く、どこに行こうとも思わない場合、どこに行けばいいのだろうか? 行きたいところも無いので、帰ろうとも思ったが、わざわざ外に出る用事もないので、せっかくだからどこかに寄ってみたいが、お金を使うつもりもないので、何も買う事もない。ただよってブラブラとするのも楽しいだろうが、それはそれで疲れるだけでもある。
やっぱり帰ろう!
そう思って、どこに向かっていたのかも分からない足を、家のある方向に向けて歩き出すと、進行方向に横一列になって歩いている危なそうな人たちがいた。横を譲ってくれる気は全く無く、大きな声で話をしてゲラゲラと笑っている。実物の不良はあんな感じなのか。
健也が歩いてきた道には、途中で横に逸れるような道も無く、来た道を引き返すか回避する方法はないのだが、男達の前に、膝をついて何かを探している女の子がいた。それはさっきの学校の前で衝突した時と同じ制服を着ている女の子だ。彼女は必死そうに何かを探しているが、必死さのあまり男達に気付いていないのだろう。
男達も女の子に気付いたようで、女の子に指を指して盛り上がっている。それから気安く女の子の身体を触り、無理やり顔を掴んで自分たちの方に向けさせている。健也から見た女の子は後ろ頭しか見えないので、どんな顔をしているのか分からないが、狼狽えているような雰囲気が出ている。男達は女の子の身体をベタベタと触り、楽しそうに笑っていたが、その次の瞬間、悲鳴を上げる。顔はぐしゃりと恐怖で歪んでいるような感じで、少し遠くからでも分かるくらいに青ざめていた。
健也「は?」
あまりの急展開に何が何だか分からず、ただボケーっと突っ立っている健也はそんな腑抜けた声を出すことしか出来ない。男達はとても怯えた様子で逃げて行った。女の子は、膝を地面に付けたまま、何かを探し始める
健也「いや、待て待て」
何吞気に何かを探しているんだ? 男達は? なんであんなに怯えていたの?
健也の疑問を知ったことではないと女の子は何かを探し続けている。どうしようか……、見て見ぬふりをして通り過ぎることも出来るが、あの手の動かし方……、全く目が見ていないような動かし方に見える。同じ所を何度も何度もこれでもかというくらいに、手を付けて、しかも地面すれすれに顔を近づけている。おかげでスカートも少し捲れていた
ピンク…! 間違いない、あの時と同じデザインだ。あの時の女の子だ
褒められる確認方法ではないだろうが、もしあの子が、全く目が見えていないとしたら危ない。車やバイクに轢かれてもおかしくないくらいの危うさを感じさせるほどだ。女の子に近づいて話しかける
健也「あ、あ、あの」
情けない……、ただ話しかけるだけなのに、怖くて震えた声になるなんて……
話しかけられたことに気付いた女の子は声が聞こえた方向をキョロキョロと探しているが、健也のいる方向を何度か視線を彷徨わせている。
健也「眼鏡を探しているんですか? それとも、コンタクトですか?」
女の子「コンタクトです……、この辺にありませんでしたか?」
健也「俺も探しましょうか?」
女の子「いえ、その、迷惑でしょうし……」
健也「でもこのままだと車とか来たら危ないですよ。俺も探します」
女の子「……ありがとうございます」
女の子は健也に怯えているようだ。コンタクトを探していると彼女がそう言っていて、しかも視線を固定出来ていないような動きもしているので、視力もかなり悪いだろうと思える。それでは怯えるのも無理ない……。色が浮かんでいるように見えて、輪郭が全く分からないような感じなのだろうか? 光を見ても、全て円形に光って見える……それくらいなのかもしれない。
健也も手伝って探していると、コンタクトを見つけた。女の子にそれを報告すると、嬉しそうに健也が指を指している場所を調べてコンタクトを手に取った。嬉しそうな顔をしていたが、それが直ぐに落ち込む。
健也「どうしたの?」
女の子「……その見つけたのは良いんですけど、付けられる状態じゃなくて……」
健也「あー、予備のはあるのかな?」
女の子「これが予備なんです」
健也「そ、そっか……眼鏡とかは?」
女の子「この前レンズの交換をして、今預けていてないです」
健也「あー……」
女の子「……」
女の子に近すぎないで話をしているが、これ以上近づきすぎたら逃げてしまいそうな雰囲気になっている
健也「その、頼れる人に連絡して助けてもらうとかは?」
女の子「……これ、洗えば多分使えると思うんですけど、近くに水場ってありませんでしたか?」
健也「近く……そうだなー、この辺だとあそこの高校くらいじゃないかな……」
女の子「あ、そうですね、あそこなら……あのすいません」
健也「はい」
女の子「私1人だと不安なので、もしよろしければ付いてきていただけませんか? 無理にはと言いませんが……」
女の子は健也が今どんな表情をしているのか見えていないだろうが、健也からは女の子の表情が見える。泣き出しそうなのを耐えて、声も震えている。そんな彼女を見て、はいさよならと立ち去ることが出来なかった。
健也「分かった、いいよ」
女の子「ありがとうございます! ありがとうございます!」
健也「じゃあゆっくりと進もうか?」
女の子「お願いします!」
女の子から近づきすぎないように、遠くになりすぎないように、彼女の足元に躓く何かが無いかを確認しながら歩く。
ありがとうございます……か……
そういえばそんなことを言われたのは随分と久しぶりな気がする。コンビニとかで言われるありがとうございましたとは種類が違うし、人に感謝されること自体ほとんどない。あ、吉良に目のことで感謝されたか
女の子は、ハラハラといた顔で歩いているが、きっと自分が今どんな顔をしているのか分かっていないんだろうなー、視界が悪くても、足手まといにならないように目に神経を集中しているかのように緊張している。
……こういう時は話しかけた方が良いのだろうか? でもなー、彼女は少しでも見ようと必死だし、邪魔しない方が良いか
そうして高校前に到着、校門前にはさっきの陸上部男子がいたので、声を掛けて事情を説明すると、女子の陸上部員が1人出てきた。ほんわかとして優しそうなのが第一印象。ほんわかそうに見えて、実は腹黒そうだなこいつというのが第二印象。まぁ、流石に初対面で目の見えない女の子に悪戯をするとは思えないので、女の子にこのほんわかさんについていくように言うと、小さな歩みだが、それでも一歩一歩歩いている。ほんわかさんも、彼女は目が見えていないことを説明されているので、引きずり回すようなことも無いようだ。
健也「さてと……」
帰ろうかなと思っていたら、さっきの陸上部男子に話しかけられた
男子「よお、短い別れだったな。君はここの学校の受験希望者かな?」
健也「はい、そのつもりです」
男子「そうか、受かると良いな」
健也「そうですね。陸上部ですか?」
男子「おう、大会に出られるように毎日練習をしているんだ」
健也「毎日ですか…、週7日?」
男子「そんなところだ、祝日もほとんど練習だしな」
健也「ここの陸上部って強いんですか?」
男子「そこそこじゃないか? 俺は走るのが好きだから強いかどうかは分からんが、大会上位者が何人もいるよ」
健也「でも毎日練習なんて大変でしょう。一日どれくらい練習をしているんですか?」
男子「授業のある日は、基本的に18時前までだな。朝練と昼練は自由参加だ」
健也「強制じゃないんですね」
男子「強制にしても、やる気がない奴はある奴の邪魔だからな。士気にも関わるし……、昔は強制していたようだが、やる気ない奴が練習道具をそこそこの数を持ってサボっていたのがあってね……」
健也「どうしてもそうなる時はありますもんね」
男子「あぁ、あとは女子がいるからって入る人がいるな」
健也「女子?」
男子「ほら、女子って走る時薄着になるじゃん? 見える角度によってはチラッと見えるわけでよ。それに年頃の男女が比較的近い距離で一緒に参加できる運動部の1つが陸上部だからな。中にはそういうことをしている人もいるんだよ」
健也「そういうこと……?」
男子「それは……っと戻ってきたな。あの子は友達か?」
健也「いえ、さっきここで会って、その後コンタクトを探しているところを見つけて今に至ります」
男子「そうか、なんか運命みたいだな」
健也「そうですね」
女の子はさっきとは違い、安定して歩いている。転びそうなところも無いし、視界が不安定になっている様子もなさそうだ。隣にいるほんわかさんは、ほんわかのままだ。裏で水をぶち当てるとかそういうことはなかったらしい。あったら、女の子の髪の毛がもっと濡れている感じになるはずだし、事件も無かったようだ。平和で良かった良かった
女の子はテクテクと健也に近づいて
女の子「あ、あの、ありがとうございました!」
健也「いえいえ」
女の子「それと、あと、この生徒手帳を届けてくれて、あ、ありがとうございました!」
何度も頭をペコペコとして謝る女の子。男に免疫が無いのか、先程の自分の醜態を見られて恥ずかしいのか、顔をリンゴのように真っ赤にして、何度も健也にお礼を言っている。何度もお礼を言われると、恥ずかしくなり、健也も顔を赤くする。2人して顔を赤くしてもじもじしていると、周囲はそれを勘違いしたらしく、何やらほほえましい顔をしている人が沢山だ。
女の子も、自分達に暖かい視線を送られていることに気付いたのか、さらにもじもじとして、健也を見ている。健也もどう反応すれば良いのか分からず、彼女の目を見つめ頬を赤くする
健也「……」
女の子「……」
健也「…………」
女の子「…………」
女子相手だと、怖くて視線を交わせ続けることが出来なかったのに、どういうわけかこの子とは目を合わせ続けることが出来た。どうしてそれが出来たのか……自分でも分からなかった。
???「えーごほん」
健也・女の子「「!?」」
先程あった顧問のおじさんがいた。おじさんが女の子を見ると、女の子は怯えたように健也の背中に隠れる。自分の背中に女子が近づかれたが、怖いという感情は無かった。彼女の怯えるような目と震えた身体を見たからか、自分と同類なのでは? 健也はそう思った
陸上部女子「あー、その2人とも?」
健也「!?」
女子が健也達2人に近づいてきた。このままでは埒が明かないと思ったのだろう。彼女は健也に近づくが、健也は近づかれるのが怖くなり動けなくなった。身体も震えている
陸上部女子「えっと……」
女子は健也が突然怖がっていることに気付き、困ったような顔をしている。代わりに男子が近づこうとすると、今度は女の子が更に怖がっている。
周囲の人たち「……」
ぽわぽわしていた2人が、2人とも怖がっていることに気付いた周囲も、反応に困っているようだ。顧問のおじさんもどうすれば良いのかと迷っているようだが、近づいてきた男子・女子に何か指示すると、周囲の人達は消えていって、顧問・男子・女子・健也・女の子の5人だけが校門前に立っている
顧問達3人は、健也達から距離と取って話し始める
顧問「その……すまん。怖がらせる気はなかったんだ。えっと、怖がらせたお詫びに見学でもしていくかい? その……2人が良ければだが……どうだろうか?」
女の子「良いんですか?」
顧問「あぁ、その、怖い思いをさせてしまったみたいだしな。2人ならすぐにでも手続きが出来るが……君はどうだろう?」
健也「えっと…」
せっかく校内を見られるなら見たいものだが、別に見なくてもいいやという気持ちでもある。どうしようかと迷っていると、服の袖を掴まれる。何だと思って見ると、女の子が健也の服の袖をちょこんとつまんでいた。
女の子「そ、その、よ、良かったら、い、一緒に……」
一緒に……、その後は言わなかったが、それでも健也の目を見ている。不思議とすぐにそれを逸らそうとは思えなかった。
健也「……俺も見たいです」
そう言うと、女の子は少しだけ頬を緩めていた
顧問「分かった。ここで待っていてくれ」
男女4人に残されるが、健也は女子を、女の子は男子を怖がっているので、残っていた男女はとても困った顔をしていた。それもそうだろう、練習時間を削られて、話しかけようと思ったら怖がられて、もしかしたら自分達がこの2人の見学の面倒を見ないといけないのではないかとすら思っていそうだ。2人の表情は複雑そうだったが、すぐに顧問は戻ってきた。歩いている時、お腹が少しポヨンと動いていたが、気にしていないのか堂々と歩く。残っていた男女に何かを渡した後に、彼は去って行った。男は健也に近づく。後ろにいた女の子は少し怯えているような感じだったが、健也から離れる様子はない
男子「はいこれ、帰る時は、あそこの事務所にこれを渡してだってさ。見学は2人でしてね。俺達練習があるから、そっちの子も2人の方が安心できるでしょ?」
女の子は黙ってコクコクと首を振っている。なんでこんなに頼られているのか分からなかったが、この子から距離を取ろうとも思えなかった。
男女はどこかに行ってしまい、ここに残ったのは健也と女の子の2人となった。
健也「えっと……じゃあ行く?」
女の子「は、はい。い、い、いきましょう」
健也「なんでそんなに片言なの?」
女の子「はうぅ……、じ、実は、男の子に、め、免疫が無くて……」
健也「でもコンタクトを探している時は話せていたじゃん」
女の子「あ、あの時は、ほ、本当になり振り、か、構っていられなくて、ひ、必死だった、ので……」
健也「あー」
確かに地面スレスレまで顔を近づけていたし、本当になりふり構っていられなかったのだろう。コンタクトを見つけた時も、何度もしつこくお礼を言ってきたし、とても必死だったのだと改めて実感させられる。
女の子「……」
女の子はボーっと健也の目を見ていた
健也「えっと、何かな?」
女の子「!? い、いえ、その、なんでも、な、ないで、す……」
健也「じゃあ行こうか、俺は行きたい場所とか特にないし、君の行きたいところを重点的にしようと思うけど、どうだろう?」
女の子「は、ひゃい」
健也「ひゃい?」
女の子「~~~~~」
女の子は顔を真っ赤にさせて、健也から目を逸らした。
なんで顔を……あ、嚙んだ所を復唱したからか……これは……確かに顔を合わせられないか……
女の子が少し落ち着くまで待つ
女の子「す、すいません、と、とりみだし、ました」
健也「俺が悪かったから。じゃあ行こうか」
女の子「はい」
それにしても……改めて見ると可愛くもあり綺麗な子でもある。
女の子の顔は、可愛い(鳴海)と綺麗(愛奈)を足して2で割ったような顔で、顔を赤くしながらも、必死に健也と話そうとしている。健也も、女子と話すのは怖いが、この子に関してはそこまで恐怖心を抱くことはなく、吉良と話すようにスラスラと話すことが出来た。2人で来客用のスリッパを履いて、校内を回る
健也「こんな感じなんだな」
女の子「で、ですね」
見た感じ、教室の雰囲気は違うものの、それでも構造や椅子と机の設置個所は、どこの学校も大きく変わらない。時間割が書かれている紙を見ると、古文や保健と習ったことの無い科目がいくつかあった。2人で廊下を歩く。冬休みで校内を歩く人は限られており、足音も2人分しか聞こえない。
女の子「あ、あの」
健也「なに?」
女の子「な、な、な」
健也「ナス?」
女の子「?」
健也「いや、なを3回言ったから……。ほら、3って英語だとスリーじゃん? だから、ナスかと……」
女の子「……」
女の子は真顔で健也を見た後に、お腹を抱えて笑い出した。そこまでおかしなことを言ったかなと思い、後ろ頭をポリポリと掻くが、女の子はまだ笑っていた。
健也「そこまで変だった?」
女の子「いや、だって、ここでそんなことを言うとは思えなくて……」
健也「あれ、普通に話せてる」
女の子「ふぇ……?」
健也「いや、ほら」
女の子「あ、ほんとだ。ナスで話せるようになるとは思わなかったよー」
健也「今までの演技?」
女の子「ち、違うもん! 男の子と話すときはさっきみたいに、こう、上手く話せなくて……。こうして話せる男の子は初めてだよ!」
健也「そうなんだ」
女の子「そうだよ、さっき見て思ったんだけど、そっちは女子が苦手なの?」
健也「うん、話す程度なら良いんだけど、近づかれたり、触れられそうになると一部の人以外怖くてさ」
女の子「私も男子が苦手なんだ。そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
健也「名前? 誰の?」
女の子「君以外に誰がいるの? 私は璃子。君は?」
ここで本名を言うか迷った。この子は警戒しなくても良さそうだが、それでも本名を言うべきかどうか……。でもこの子は本名を名乗っているので(生徒手帳の中を確認した時に本名を知っている)、こっちが偽名を使うのもな……、話した感じ気が合いそうだし……そうだな、ここは
健也「健也」
璃子「健也さん。よろしくお願いします」
健也「璃子さんもよろしくお願いします」
璃子「教室系は大体回ったよね。あとは……、どこかに行きたいところある?」
健也「……体育館とか?」
璃子「あ、いいね、そうしようか」
健也「ここの学校を受けるの?」
璃子「はい、健也さんも?」
健也「多分。ここが最有力候補だし」
璃子「そうなんですね! どうしてここに?」
健也「家から近いから」
璃子「……それだけ?」
健也「はい、それだけです、ごめんなさい」
璃子「え、なんで謝るの?」
健也「いや、それだけなので」
璃子「別に悪いことじゃないでしょ。交通費も抑えられるし、すぐに帰れるし、ギリギリまで時間を確保できるというのは大きいもんね」
健也「はい、その通りです」
璃子「なんか卑屈になってない?」
健也「気のせいです、璃子さんは?」
璃子「私は、その男子に慣れたいのと、家が近いのもあるかな。私中学は女子校で、ほら、さっきみたいに全く男に免疫が無いから、少しでも慣れたくて……」
健也「そうなんだ、慣れると良いな」
璃子「うん、頑張る」
健也「ここだな……あれは演劇部かな?」
璃子「それっぽいね」
健也「演劇……っう、頭が」
璃子「どうしたの?」
健也「知り合いに演劇部がいるんだが、そいつらの見せてくれた演劇がなんというかもう……ちょっと激しい内容でな」
璃子「そこまでなんだ……」
健也「あぁ、あれを発表したら絶対戸惑うと思うんだけどな。後で演劇部員に聞いてみたら、どういうわけかその見せてくれた演劇は好評だったらしい。俺の感性がポンコツなのか、好評にした人がポンコツなのか……」
璃子「一体どんな内容なのそれ……」
健也「知らない方が良い。エロとグロに耐性が無い人は見ちゃダメな内容だから」
璃子「そこまでの物を作ったの……、逆に気になる」
健也「開けちゃダメ、見ちゃダメと言われるとやりたくなるあれか」
璃子「そう、それ」
健也「あの人たちは……良かった、血にまみれていないし首も落ちていない。健全だな」
璃子「本当にどんな演劇だったの!?」
(健也が言っている演劇の内容は、第21部、中学生19のものです)
丁度それぞれのパートを合わせて練習するようなので、2人で演劇の練習を見ることにした。どうやら野球をテーマにしているらしい
選手A「よし、ここでホームランを打てば逆転出来るぞ」
監督「よし、選手A、行ってこい!」
選手A「はい。おりゃぁー! でやぁー! ぬぉぉー!」
審判「ストライクー! ストライクー! ストライクー!」
選手A「監督、すいません……何の成果も得られませんでした……くそっ」
監督「お前、この後背番号変えるぞ、53番だ」
選手A「53ですか?」
監督「ゴミという事だ」
選手A「ぐ、ぐあああ!」
選手Aはショックのあまり、頭を掻きむしって倒れた
監督「よし、選手B、行ってこい」
選手B「はい。おらぁ、かかってこいやピッチャーさんよぉ~?」
実況「ピッチャー、第一球、投げましたー! あーっと!? デッドボールです。選手Bは当てられた場所に苦悶の表情をしていますが、おーっとこれは! 中指! ピッチャーに対して中指を立てています!! これはどういうことでしょうか?」
解説「あれは、お前も当てられる覚悟があるんだろうなと威嚇していますね」
実況「わくわくしてきましたねー! おっと、選手B、塁に進まないでバッターボックスに残っています。これはどういう意味でしょうか!?」
解説「あれは決闘の合図ですね。これはチームの勝利を優先するならピッチャーは避けるべきでしょうが、ピッチャーとしてのプライドが優先されるなら決闘を受けるでしょう。ご覧ください、決闘を受けるようです」
実況「あーっと、ピッチャー返しだぁぁぁ!」
解説「両選手エキサイトしています! これは試合というより、もはや抗争だぁ!」
実況「おっと!? ピッチャーが9人になりました。これはどういうことでしょうか?」
解説「そっちがその気なら、こっちもやるけどええんか? と言っていますねあれは」
実況「おーっと、バッターは1人のままです。これは危険じゃないですか?」
解説「一度に9球打てれば行けますね! 見てください、彼の表情を! ニコニコしていますよ!」
実況「余裕そうだぁ!! さぁ! 9人全員がボールを投げた! 1.2.3.4.5.6.7.8! あーっと!?? これは!??」
解説「最後の1球を打てませんでしたね。直撃ですから痛いですよあれは」
実況「選手B、動きません。これは……気絶しています!」
解説「気絶してもなお俺はここに立つ、そう言っていますね」
実況「観客もすごい盛り上がりを見せています。ピッチャーたちも帽子を脱いでお辞儀をしていることから敬意を示してしますね~」
観客「おい選手B、1対9だ! 作戦放棄を提案する! すぐに離脱して!」
監督「作戦、続行する! 敵も無傷ではない、選手Bならやれる」
実況「観客は監督の采配に怒りを露わにしていますね」
解説「あれは反感を買うでしょうね……しかも無傷じゃなくて無傷ですよ。あ」
実況「選手B倒れたーーー!」
2人で黙って演劇を見ていたが、璃子が口を開く
璃子「ねぇ」
健也「なんだ」
璃子「これよりもひどかったの?」
健也「……多分?」
璃子「迷うほどなの?」
健也「多分息抜き用か、身内に見せるようだろ。知らないけど」
璃子「……出ようか」
健也「そうだな」
2人で体育館を出ると、夕方になっていた。璃子は校内の見たいところを全て回れたようで、満足気にしている。健也もなんやかんや、ここを受験するんだなと実感してきたので、良いリフレッシュになった。2人で学校を出て、校門前で話す
健也「なんやかんや面白かったよ」
璃子「私も、初めて男の子としっかり話せてうれしいよ。その、あのね、えっとね……」
璃子は顔を赤らめてポケットからスマホを出す。そこには健也が使っているチャットアプリが入っており、アドレスが表示されていた
璃子「よ、良かったらなんだけど、ね、連絡先交換してくれないかなーって。今後の男の子を慣れるための練習に付き合ってほしくて、その、無理にとは言わないけど……どうかな?」
頬を赤くしながら上目遣いをしている璃子。健也は一瞬ドキッとして反応に送れた
璃子「……」
健也「……」
璃子「……そのやっぱり」
健也「良いよ」
璃子「え」
健也「交換しようか」
璃子「ほんと!?」
健也「近い近い」
璃子「あ、ごめん」
鼻と鼻がくっつきそうになるが、更に頬を赤くして少し遠ざかる。よく見ると耳まで真っ赤だ。自分のスマホを取り出してアプリを起動し、璃子のアドレスを打ち込むと、彼女とのトークルームが出来た。適当に「こんにちは」と送信すると、彼女のスマホに通知が鳴る。
璃子「あ、きた」
健也「良かった、送れているみたいだな」
璃子「うん、じゃ、またね、健也さん」
健也「じゃあね、璃子さん」
璃子は慌てて健也に背を向けて走り去ってしまった。健也もやることが無くなったのでスマホをしまって家に帰る
あれ? 「じゃあね」じゃなくて「またね」なのか……まぁいいか
一瞬疑問に思ったが、それもすぐ気にしなくなり、歩き出すと、自分のスマホにチャットが来た。もう一度取り出して確認すると、差出人は璃子
璃子『これからよろしくね」
それを見て、少しニヤッとした後にスタンプで返信する。またスマホをポケットに入れて歩き出した
璃子「あ、来た。へー、こういうスタンプ使うんだ……ふふっ、仲良くなれると良いな……」
返信を貰った少女は、返されたスタンプを見て、頬を赤くしていた
鳴海=可愛い
愛奈=綺麗
吉良=可愛い
璃子=(可愛い+綺麗)/2
健也=普通




