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幼馴染の意地  作者: ヤマネコ
28/43

中学生(26)

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目が覚めたときには、どこかの病室で、隣には知らない女性が2人いた。1人は低身長の女性で、口にチュッパチャプスを銜えながら、器用にスマホを横にして遊んでいる。もう1人は高身長の女性で、分厚い本を開いて読んでいる。私が目を覚ましたのに気づいた2人は、どちらもやっていたことを中断して話しかけてきた


低身長の女性「よお、目が覚めたが」

鳴海「あ、あの……どちら様でしょうか?」

高身長の女性「あなたは階段の下で倒れていたのよ。何か覚えていないかな?」

鳴海「か、階段?」

低身長の女性「そうだ、あ、医者を呼んでくるぞ」

高身長の女性「お願い」


1人は椅子から立ち上がり、病室を出て行った。その間、高身長の女性はなぜか私の顔をジッと見ている


鳴海「あの、何か?」

高身長の女性「いや、私達があなたを病院まで運んだのよ? 何か言う事は?」

鳴海「あ、ありがとうございます」

高身長の女性「そうだ、これに見覚えは? あなたの近くに落ちていたんだけど」


そう言って高身長の女性が見せてきたのは、懐から小さなバッチを取りだす。何か書き込まれているようだが、どういうわけかぼやけていて良く見えない。しかし、こんなバッチを持っていた覚えはないので


鳴海「知らないです。私のではないと思います…」

高身長の女性「そう、じゃあ何もないわ」


医者がやって来た。数日を掛けて簡単な検査と質問を受けるが


医者「ふむ……ここまでの記憶が全くない。今までどこで暮らしていたか、何をしていたのかも全く覚えていない。しかし話す見る聞くことが出来ているし、自分の名前は知っている、日常生活も出来ているようだし、五感も問題なし……ふむ……」


鳴海の隣には先程の女性2人がいる。2人が言うには、いきなり放り投げることは出来ず、せめて検査を終えるまでは見守るようだ。鳴海が階段で倒れている鳴海を見つけた第一発見者である2人の話も重要なので、残ることには何もおかしくないと鳴海は思った。


医者「ふむ、入院はもうしなくて良さそうだね。すぐに退院の準備をするから、少し待っていてね」

鳴海「あ、はい」


そこでお礼を言って、診察室から出て待合室に座るが、1つ問題があることに気付く


鳴海「あ、お金……、どうしよう……」


鳴海は今一文も持っていない。診察料金も、入院費も、払うことが出来ない。それに気づいた鳴海は、どうしようかと頭を必死に働かせるが、受付で自分の名前を呼ばれる。どうしようかと焦って考えるが、受付はずっと鳴海の名前を呼んでいる。仕方ない、正直にお金がないことを言うしか……それしか方法がない


重い足取りで受付に向かうと、そこでは受付の人が何やら処方箋を渡してくれただけで、お金をいくらか言ってこなかった。職務ミスか? そう思い聞いて見るも


受付「もう料金は貰っているので、問題ないですよ」

鳴海「え、でも、私まだ」

受付「代わりに払ってくれた人がいるので。他の患者さんもいるので、早くどいてください」

鳴海「あ、はい、えっと、ありがとうございました」


鳴海のお礼を受け流して、めんどくさそうに手元に置いてあるキーボードをカタカタと叩いて他の患者の名前を呼んでいる。もう話しかけるのは難しそうだ。出来ることも何もなく、力なく歩いて病院を出ると、誰かが私の名前を呼んだ


???「鳴海」

鳴海「え、はい」

???「大丈夫だった? 身体は平気?」

鳴海「あ、はい、大丈夫ですけど……どちら様でしょうか?」


そう言うと目の前にいた少女はとても驚いたような顔をして、顎に手を当てて何かを考えている。話し相手が目の前にいるのに、そういうことをするということは本当に予期しないことが起きている可能性が高いわけだが、すぐに落ち着いたようで


???「私は愛奈。鳴海、貴方の友達よ? ほら、これ見て」


少女が差し出したスマホの画面には、自分と、目の前にいる少女(愛奈)、それに可愛い顔をした女の子、どこにでもいるような男の子が映っていた。男の子を見ていると、どうしてか少し心臓がドキッとなるが、これがどういう種類の「ドキッ」かが良く分からなかった。気持ち的には大切な提出物を忘れてしまったことに気付く「ドキッ」に近いと思うが、少女は話を続ける


愛奈「これ、見覚えない?」

鳴海「……ぼんやりと?」

愛奈「そう、ほらこの時とかどう?」

鳴海「……あー? うん? あれー、あー、あったような?」


本当に覚えているのか、愛奈が見せてきた写真を見て、そこに自分が映っているからあったはずと思い込んでいるのかどちらか分からないが、今目の前にいる少女は自分にとってとても重要な人だ。親のこともほとんど思い出せず、さっきの女性2人もいなくなってしまい、自分のことを思い出せないこの状況で、自分を知っていそうな人なので、機嫌を損ねるようなことはしたくない


愛奈「この後話せる? 何か予定ある?」

鳴海「いいけど……私家がどこか分からないの」

愛奈「え、そうなの? 医者に聞かれなかった?」

鳴海「そういえば、お医者さんは家がどこにあるかを聞いてこなかったなー」

愛奈「……まぁそれはするとしたら警察の仕事かな?」

鳴海「愛奈さんは私の家がどこか知っていますか?」

愛奈「知っているよ。それと呼び捨てで良いよ。私達呼び捨てで呼び合う友達じゃない」

鳴海「わ、わかりました」

愛奈「あと敬語いらない。同い年だし」

鳴海「は、はぁー」


それから喫茶店に移動して話を始める。お金を持っていないので何も注文をしないでいようかなと思っていると


愛奈「アイスコーヒーとオレンジジュースを1つずつお願いします」

店員「かしこまりました~」


店員はニコニコと接客スマイルをしながらキッチンの方に行ってしまった


鳴海「私お金持ってないよ」

愛奈「奢ってあげる、退院祝いってことで」

鳴海「本当にお金払わないよ?」

愛奈「それで良いって言ってんじゃん」


注文した飲み物2つが届き、愛奈はオレンジジュースを手に取り、鳴海はアイスコーヒーを飲み始めた


鳴海「あ、この味なんか懐かしいかも」

愛奈「鳴海はよくアイスコーヒーを飲んでいたからね」

鳴海「そうなんだ……」


それから愛奈は、自分がある学校の中学2年生であること、仲の良い男の子がいること、4人で遊びに行くことが時々あることなどと日常生活を送るうえで欲しかった情報を教えてくれた。愛奈は鳴海の質問に嫌な顔をしないで、1つずつ丁寧に答えていく。


自分がどうして階段下で倒れていたのかは愛奈にも分からないらしく、鳴海もどうしてそんなところで倒れているのも分からなかったので、結局倒れていた理由が分からなかった


愛奈「あと聞きたいことある?」

鳴海「この男の子なんだけどさ、やけに写真があるんだけど、私この人と恋人なの?」


愛奈が見せてくれた写真に映っている男の子を指さす


愛奈「さぁ? 私は知らない。仲良くしているなーとは思っていたけど」

鳴海「……そう。私にもスマホあるかな」

愛奈「持ってないの?」

鳴海「起きたときには無かったし、私スマホ持っているの?」

愛奈「持っているはずだよ。私とメールのやり取りをしているじゃん。ほら」

鳴海「そうね……家にあるのかな」

愛奈「そうじゃないの?」

鳴海「家……、両親心配しているよね」

愛奈「……」

鳴海「? どうしたの?」

愛奈「いや、そこにいる人達の会話に聞き入っちゃって、ごめんね」

鳴海「いや、何でもないよ」


残っていたアイスコーヒーを飲み干すと会計を済ませることに。愛奈が2人分の料金を払い、お店を出て、愛奈はどこかに歩き出した


愛奈「鳴海の家に行くわよ」

鳴海「あ、うん、お願いします」

















愛奈「ここね」

鳴海「ここなの?」

愛奈「ここでしょ、見覚えない?」

鳴海「全く……、本当にここに住んでいたのかな」


2人の前には、どこにでもありそうな一軒家が立っており、表札には自分の名前が書いてある。愛奈が扉を開けようと取っ手に手を掛けると、扉は開いた


愛奈「不用心過ぎない?」

鳴海「私もそう思う」

愛奈「とりあえず、中に入りましょう」

鳴海「うん」


中に入ると生活感の無い家だ。部屋の隅には埃が溜まっており、掃除をしていないことが伺える。食器棚を開けてみるが、開けたときに微かに埃の匂いがした。ほとんど食器棚を開けていないのではないか? そう思ってしまう


鳴海「なんか生活感ない」

愛奈「……そうね。最低限の物しかないわね。あ、でもぬいぐるみは沢山あるわね」

鳴海「ほんとね。イルカにライオンに、キリン、クマ、パンダ……、色々あるね」

愛奈「それ以外は特にないの?」

鳴海「タンスに服が入っているみたいだけど、綺麗に畳まれているままだね。本当にここで生活をしていたのかな……」

愛奈「とりあえず、軽く掃除しましょう。掃除機ある?」

鳴海「あるよ。これ」

愛奈「じゃあ鳴海が掃除しなさい」

鳴海「はい」

愛奈「私は外で待っているから、終わったら呼んでね」

鳴海「分かった」


愛奈は部屋から出て行き、玄関が開け閉めされる音が聞こえる。知らない間に疲れていた鳴海は、大きく息を吐いてから、部屋の隅に溜まっている埃を掃除機で吸い取って行く。大きな塊の埃を吸い取るたびに、自分はこんなになるまで掃除をしない人なのかと不思議に思いながら吸い取って行く。掃除機をかけた後は、簡単に雑巾で拭いていく。お客兼友達の愛奈に汚いところに座らせるわけにはいかない。彼女がいなくなれば、自分はどうすれば良いのか分からなくなる。


リビングを掃除し終えた後に、残っている部屋を見て行くが、一室以外は全て鍵がかかっており入ることが出来ない。なんで鍵が閉まっているんだと思いながらも、蹴り壊すことは出来ないので、一室に入る。


その部屋にはさっき置いてあったより比にならないぬいぐるみの数があった。置いてある動物の種類はそう変わらない。机の上にはスマホがあり、電源を付けるが充電切れで赤く点滅を繰り返すだけだ。傍にあった充電器で充電を始める。


そこまでは良いのだが


部屋の壁中に写真が貼ってある。とても不気味だ。何の写真かと思い、近づいて見る


写真には男女2人が映っており、女の子は男の子の手を繋いだり、腕を組んでいて、笑っている。男の子は嫌がっているような顔をしているも、こっそりと女の子の手を繋いだり、腕を組んでいる。場所は、色々あり、学校、公園、川、キャンブ場、遊園地、ショッピングモール、釣り場、浜辺などだ。しかし全ての写真にある共通点を見つける


鳴海「全部……カメラを見ていないような……」


そう、映っている2人の顔の向きはバラバラで、どれもがカメラを見ないで撮られているのではないかと鳴海は思う。盗撮写真のようなものばかりだ。


鳴海「え、ここ私の部屋なの? 私の部屋なら、なんでこんな写真が貼ってあるの…」


自問自答しながら部屋の中をウロウロとして、何かないかと探すと、机の引き出しに日記帳のようなものが入っていた。自分の物か確証がないが、それでも何か手がかりがあるかもしれないと思い、心の中で掌を合わせて謝りながら日記帳を見る


日記帳には見たことの無い文字で書かれている。外国語だろうか? どちらにせよ鳴海はその書かれている内容を読むことが出来なかった。しかし所々絵が描かれており、蝶々や、指輪、映画にでも出てくるような怪物(男と女)、お守り、小瓶、学校のように見えた


まるで子供の日記だ。どれも小学生くらいで話しそうな内容や、拙い線の書き方からして、そのような感想を抱く鳴海。日記帳を閉じて引き出しに戻して、部屋を出ようとするが、なんとなくもう一度見たいと思い、引き出しを開けるが


鳴海「あれ、確かここだったよね」


引き出しの中身は空っぽになっていた。開けたところが違うのか、全ての引き出しを開けていくが、学校の教科書・ノート・辞書・資料集を見つけたが、先程見つけた日記帳は見つけることが出来なかった。タンスの引き出しを開けると、学校の制服らしきものと、私服、下着、靴下などが入っていた。


日記帳のことはどうでもいいかと思いながら部屋を出て外で待っている愛奈を呼びに行く。愛奈は空を見上げてボーっとしていたが、鳴海に呼ばれていることに気付くと、家の中に入る。それから今後の生活の仕方や、日常生活用品の供給、お金のことなど話し合う。両親と相談したいと思ったが、家にはいない。愛奈が帰った後に話すことになるだろう


愛奈と話を終えると、彼女は帰って行った。やることがあるらしい。無理強いもすることが出来ず、そのまま帰ってもらう。鳴海はその後、リビングに固定電話があるのを見つけて、下には電話番号が書かれており、数字の下には「両親」と書かれていることから、これをかければ両親に繋がることが分かった。すぐに電話をかけると、数コールした後に、女性の声が聞こえた。少しノイズがあることに違和感があったが、それは気にしないで話しかける


鳴海「あ、あの鳴海です。その、お母さん?」

鳴海母「はい、お母さんだよ。どうしたの?」

鳴海「私、入院していたみたいで、その」

鳴海母「あー、お金のことなら心配しないで良いからね。もうそのことに関してのお金は払ってあるから。あと家に置いてある銀行のカード見つけた? 電話の近くに置いてあるはずだけど」

鳴海「ちょっと待って、うん、あったよ」

鳴海母「生活費は毎月振り込んでおくから、それを使いなさい。どれに何を使うかは、一応目安として台所の下のスペースに置いてあるから、それを参考にしてね」

鳴海「わ、分かった。お母さん今どこにいるの?」

鳴海母「……お母さんは今遠いところにいるの。だから帰るのは当分先かな」

鳴海「そうなの? 仕事?」

鳴海母「そんなところ」

鳴海「そっか……お父さんも一緒?」

鳴海母「一緒だよ、あなたー」

鳴海父「はい、なんですかー」

鳴海母「鳴海が声を聞きたいってさ」

鳴海父「おー、鳴海、どうしたー?」

鳴海「どうもしないよ」

鳴海父「え、そうなの?」

鳴海「はい」

鳴海父「……」

鳴海母「代わって」

鳴海父「……」

鳴海母「鳴海、もう少し丁寧に相手してあげて。お父さんすごい落ち込んでいるから」

鳴海「ご、ごめん……」

鳴海母「そうだ、進路に関してだけど、決めた?」

鳴海「まだ……」

鳴海母「お金の心配は一切しなくていいから、好きなところに行きなさい。あ、就職は無しにしてね。中卒で働ける場所なんて限られるし、そもそもこき使われて潰されるだけだろうし」

鳴海「う、うん」

鳴海母「あとはえっと……何か聞きたいことある?」

鳴海「ここ、私の家だよね?」

鳴海母「そうだよ? さっき愛奈ちゃんから連絡貰っているから」

鳴海「愛奈を知っているの?」

鳴海母「知っているも何も、小さいころからの付き合いでしょ? いつだったかな……小学校を卒業する少し前くらいからじゃなかった?」


その直後、突然ザーザーとテレビが砂嵐にあったような音が一瞬聞こえたが、


鳴海母「あれ、いつからだっけ? ごめん、よく覚えていないわ」

鳴海「そ、そう?」

鳴海母「ごめんね、仕事で頭いっぱいでさ」

鳴海「う、うん、2人が働いてくれるから私もこうして生活出来ているんだし、ありがとうね?」

鳴海母「寂しくなったら電話してね。出来る限り出るから」

鳴海「分かった」


通話が切れる。時刻を見ると、既に日付が変わろうとしている時間。部屋に戻ってスマホの電源を入れると、充電Maxになっていたので、コンセントを外す。中を見ようとするが、パスワードを入れないと入れない。パスワードが分からず、自分の誕生日を入力すると入ることが出来た。


中を漁り始めると、愛奈が見せてくれたような写真がいくつかあり、見せてくれた以外の写真も大量にあった。ほとんどがカメラを見て映っているので、盗撮ではないようだ。そしてあの男の子が多く映っており、自分も一緒に映っている。


自分はこの男と仲が良いと愛奈は言っていたが、本当に仲が良いのだろうか?


これらの写真を見て、自分が映っているのを何度も見ても、どうも他人事に思えてしまう。愛奈の話だと、彼とはいつも一緒にいるとのことだが、どうも本人を前にしてみないと本当にそうなのかという疑問をぬぐい切れない。適当に食事を済ませて風呂に入り、今日は寝ることにした。














次の日


退院してすぐ学校に向かうことになった。身体の調子もそこまで悪くないし、家にいても1人でやることも無い、勉強も少し遅れているようで、このままでは試験の難易度によっては赤点になる可能性も無いとは言い切れなかった。考え事をしながら歩いていた所為か、ちまちま歩いていたので遅刻寸前になりそうになり、急いで走った。HR開始ギリギリに到着して、机を鞄の横に掛ける。隣には写真に映っていた彼がいた。


話しかけるにも、なんて話しかければいいのか……、こっちは全く彼のことを覚えていないので、なんてアプローチをすればいいのか分からない。とりあえず声を掛けようかと思い彼を見ると、丁度彼も私を見ていた


友達と言っていたよね……ならここは……少しパンチ気味に話しかけるかな?


鳴海「何見てんの?」

???「いえ、なんでもないです」


彼は怯えたような顔と声で直ぐに私から目線を外し、前を向いた


あ、あれ? 本当に友達なの? 話し方間違えた?


動揺したが、彼にその表情を見られないように平然としている風に装いながら、教科書とかを机に入れると同時に入ってきた担任。担任の顔も見覚えが無く、教室にいる連中も彼以外は全く覚えていない。これは……なかなか面倒そうだなと思いながら教室を眺めていると、担任の説明が始まった。














昼休みになる


いつも自分は誰と食べているのか分からず、とりあえずスマホを出して適当にインターネットを見て時間を潰す。この数分の行動で、自分の昼休みでの立ち位置を知りたかった。適当に記事を眺めていると、ある小川の所で女子学生の遺体が見つかったと書かれている記事を見つける。なんとなく気になり、それを見るが、遺体が10年以上前と奇妙な事件らしい。しかしそれ以上詳しいことは分からず、この記事に関係した物はないかと探していると、関連記事にこの記事を書いた記者が行方不明になっているというものがあった。行方不明以外には詳しいことは分からず、それ以上は何も分からないみたいだ。


食事前に気味の悪い記事を見てしまった……


顔を一瞬上げて教室の様子を伺う。この数分に自分に話しかけてくる人はいなかった。女子は全員小グループに分かれて食べている。クラスの女子達は、自分に話しかけてこないが、もしかした自分が嫌われているのだろうか? 時々見てくる人がいるが、その目は少し怯えているようにも見える。


1人で食べているのは隣にいる彼と自分だけだった。チャットアプリを起動して愛奈に話しかける


鳴海『私っていつも誰といるの?』


即既読からの返信が来た


愛奈『健也。隣にいる彼だよ』

鳴海『なんか、私が話しかけたらとても怯えていたんだけど……。本当に友達なの?』

愛奈『いつも一緒にいるし、楽しそうに話しているし、お昼も一緒に食べているよ?』


お昼も……


隣を見るも、彼は1人で食べていることに恐怖や不満を持っている様子はなく、当たり前のように1人で食べている。


本当に一緒に食べていたのかな……? なんか本格的に自信が無くなってきたよ……。このまま黙っていても埒が明かないし、話しかけよう


鳴海「ねぇ、ちょっと」

???「……」

鳴海「ねぇってば」

???「あ、何?」


自分のスマホを見せる。そこには彼と自分が映っている写真があり、これを見せれば嫌でも反応してくれるはずだ。自分で撮った覚えがないが、彼とは仲がかなりいいらしいので、もしかしたら自分が知らないうちに、自分のスマホを使われているのかもしれないと思い


鳴海「私のスマホ勝手に使った?」

???「そんなわけないだろ。俺達今まで話したこともそんなにないはずだろ?」


その言葉を聞いて驚く。愛奈の話だとそんなことはないはずだが……本人がそう言っているということはそういうことなのか? 実際自分も話したのは今が初めてであるので、愛奈のことが半信半疑になりながら会話を続ける。


鳴海「それもそうよね……、じゃあこれは何なの?」

???「俺が知るわけないだろ」

鳴海「じゃあ君のスマホの画像を見せてよ」


あれ、あれ、あれ? 愛奈は嘘をついていたのか? 彼のスマホを見れば、何か分かるかな


鳴海はこの時、愛奈が言っていたことと違うことが連発で起きており、困惑して、初対面の人間にスマホを見せろという、とても失礼かつ距離を取られてもおかしくない行動を取ったが、このときはそれどころではなかった


???「は? なんで?」

鳴海「良いから」


気持ちが焦っていて、少し威圧するような言い方で言うと、彼は怯えてすぐにスマホに入っている写真を見せてきた


???「はい」


彼は自分のスマホを見る時、何か驚いたり、首を傾げるなど、休む暇もなくコロコロと不思議そうな顔をしていた。見せてもらった写真は、自分のスマホに入っている写真と大部分が一致する。ということは勝手にスマホを使われて撮られたわけではない?


鳴海「君もなんだ」

???「ほんとな。初めて話すよな?」


愛奈……嘘をついていたのか? 彼に見えないようにスマホを操作してチャットアプリを開き、愛奈に話しかける


鳴海『本当に彼と仲が良いの? とても怯えているし、様子がおかしいけど』

愛奈『そんなはずない。だったら吉良にも話しかけて見なよ』

鳴海『誰それ』

愛奈『吉良のこと覚えていないの? 同じグループにいるもう1人』

鳴海『後で聞くよ。それよりも、本当に仲が良いの?』

愛奈『私達から見たら、とても仲が良いよ。どうしたの?』

鳴海『彼が初めて話すよねとか言っているんだけど』


そう言うと既読は付くが、今までのように即返信は無かった


愛奈『吉良に聞いたけど、どうやら彼記憶があやふやになっているみたい』

鳴海『そうなの?』

愛奈『おそらく……本人に聞いてみるしかないんじゃない?』


彼を見ると、先程は怯えていたが、それでも多少は落ち着いたように見えた。拙い感じだが、それでも意思疎通は出来るようだ


鳴海「えぇ、そのはずだけど……、なんかこのスマホ、君と昔から会っているみたいなんだけど。それも随分と仲良くしてそうな画像が沢山」

???「……そうだな」


彼にも何が何だか分かっていない様子だ。いよいよ鳴海も何が何だか分からなくなり、焦りと不安が高まり気持ち悪くなる


鳴海「なんでこんなものがあるの……、気持ち悪い」

???「確かに気持ち悪いな」


この人はこの人で何をこんな淡々としているのか。彼は自分のスマホの画像を消そうと消去ボタンを押そうとしているが、その指はここからでも分かるくらい震えていた


???「あれ……」

鳴海「……あ?」

???「どうした?」

鳴海「いや、消そうとしたらさ、なんか指が震えて」


なんだか気味が悪くなる一方なので、自分も写真を消そうとしたが、その指が震えてボタンを押すことが出来ない。まるで消しちゃダメと身体が全力で抵抗しているような感じだ。


???「俺もなんだよね」

鳴海「君の意見は聞いていないよ。ったく、なんなのこれ、気味悪いわ」


自分の身体なのに、まるで自分の身体じゃない感じだ


???「……」

鳴海「……はー、ほんと、なんだろ」


結局消すことが出来なかった。溜息をつくと、彼も同時に溜息をついた。


???「ちょっと、何同じタイミングで溜息をついているのよ、キモイ」


イライラが溜まっていたようで、つい彼に当たってしまう


???「は? お前が合わせたんだろうが」

鳴海「は、何それ? 喧嘩売ってんの?」

???「売ってないです、ごめんなさい」

鳴海「……」


対抗して来たのに直ぐに引いたのが気になり、彼をジッと見るが、彼は直ぐに目を逸らした。彼を見ているとイライラが溜まってくるが、同時に見ていたいという矛盾した気持ちが胸の中で混ざっている


鳴海「っち」


何もかもよく分からなくなり、思わず舌打ちをしてしまう。横では肩をぴくっと震わせた彼がいるが、彼は食事を終えてもスマホを突いている。鳴海も食事を終えてこれからどうしようかと悩んでいるが、なぜか視線が彼に寄ってしまう。さっきまでのイライラはまだ残っているが、彼と話をしてみたいという気持ちが混ざっていた。


鳴海「ねぇ、君、名前は?」

???「なんで?」


さっさと答えろやと思ってしまう


鳴海「うるさい、さっさと答えろ」

???「口が悪いな」

鳴海「は?」

???「ごめんなさい」


しまった……このままじゃもう話してくれないかもしれない。しかもまた怯えてい少し距離を取られてしまった。焦った気持ちと同時に少し暖かい気持ちになる。なんだか懐かしい……そんな気持ちを抱く


鳴海「……本当に初めて話すんだよね? 私達」

???「そのはずだけど」

鳴海「でも写真がどれもどこか見覚えがあるのよね……、それに何だろう。これ……」


何か知らないかと少し揺さぶってみる


???「何って?」

鳴海「何かは何かだよ。それより名前は?」

???「健也」


彼の名前を聞いて、また懐かしい気持ちになる。それもさっきよりは強いが、それだけだった


鳴海「けんや……、けんや……、どこかで聞いたような?」

健也「同じクラスだからじゃないの?」

鳴海「いや、うーん? まぁいいわ。どうも」


名前は知ってはいたが、それはメールのユーザー名や愛奈から聞いた話で、本人から聞いたわけじゃない。聞く前も知っていたが、聞いてからの方が、どういうわけか彼に対して想う気持ちが強まったような気がする


健也「君は?」

鳴海「私? 私は鳴海」

健也「鳴海……」


そう呼ばれると、更に強く懐かしい気持ちに、嬉しいという気持ちも出てきた


ど、どうして嬉しいなんて思ってんのよ


その気持ちを顔に出さないように


鳴海「呼び捨てにすんじゃねーよ、殴るぞ」


つい、強い口調で言ってしまった。すぐに謝ろうとしたが、彼は身を縮めて両手でクロスするように両肘を触っている。なんだか様子がおかしい、なんでこんなに怖がっているのか……


健也「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、殴らないで」

鳴海「え? あぁ、うん。こっちもごめんね?」


これ以上話をしても、彼はまともに答えてくれる気がしない。会話を切ると同時に昼休みのチャイムが鳴った













放課後になり、彼はすぐに教室から出て行ってしまった。彼のいなくなった教室を見るが、全員放課後にどこに行くか、今後の予定を話している。楽しそうに話をしている者もいれば、鬱陶しそうに話をしている者もいる。鳴海に話しかけてくる女子は、数人いたが、それも挨拶程度で、距離感的には「教室で話す程度の仲」という感じだった。どういうわけか教室にいる女子のほとんどが私を怖がっているような気がする。


愛奈に会いたいな


他に話せる相手がいないので、彼女にチャットを送ると、新聞部に来いと言われた。新聞部に行ってみると、そこには愛奈ともう一人の女子……なのに男子の制服を着ている。どういうことだ?


とりあえず空いている席の1つに座り、2人と話す


愛奈「こっちは吉良、覚えてない?」

吉良「吉良です。男子です。覚えていない?」

鳴海「……ごめんなさい、本当に何も覚えていないんだ」

吉良「そっか……」


吉良が肩を落としてとても落ち込んでいるが、どうして落ち込んでいるのかを聞こうとしたら


愛奈「それじゃあ、試験勉強を始めましょう。そろそろ試験だし、鳴海も赤点になったら困るでしょ?」

鳴海「そ、そうね」

愛奈「吉良は技術に関しては成績とても良いから」

吉良「そうだね、よろしくね、鳴海さん」

鳴海「えぇ、よろしく」


それから3人で勉強会を始めた。分からないところは誰かに聞いて、それで出来ないところを対策していき、休憩時間となった。愛奈はトイレに行くと言い、部室には吉良と鳴海の2人きりとなった。見た目は女子とはいえ、男であることに違いなく、何を話せばいいのかと少し困っていると、吉良から話しかけてきた


吉良「鳴海さんは健也のことを本当に覚えていないの?」

鳴海「……吉良君もそうなの?」

吉良「え、どういうこと」

鳴海「愛奈も健也君のことでああだこうだと言うけど、彼は私のことを知らないみだいだよ?」

吉良「え!? 何それ!? どういうこと!??」

鳴海「うるさい」

吉良「あっ……ごめん」


吉良が健也に負けず劣らず……いや健也の落ち込みに勝つほどの落ち込みを見せる。最近の男子はやけに落ち込むのだろうか?


吉良「前まではね、鳴海さんと健也はとても仲が良かったんだよ。でも少し前からかな、なんだか2人とも雰囲気が全然違っていて、それがとても怖いんだ」

鳴海「怖い?」

吉良「話している人は同じなのに、口調も、反応も、全部が全部違うというわけではないんだけど……それでも所々違うのがとても怖い」

鳴海「私達って4人グループなんだよね?」

吉良「そうだよ。1年生の春からの付き合いで、僕、健也、愛奈、鳴海さんの4人でよく話して遊んだよ。 ……本当に覚えていないの?」

鳴海「何度も言っているでしょ? 本当に覚えていないのよ」

吉良「そんな……本当にそうなんだね……」


吉良は、顔に手を当てて、鼻水をズルズルと啜っていたが、耐えきれなくなったのか部室から出て行ってしまった。机にはカバンや筆記用具が残っている状態で出て行ったので、おそらくトイレに行ったのだろう。吉良が出て行って少し経つと愛奈が帰って来た


愛奈「あれ、吉良は?」

鳴海「吉良君ならさっき出て行った」

愛奈「は、なんでよ」

鳴海「私に何か覚えていないかと聞いて来て、それで覚えていないって答えたら泣き出して出て行った」

愛奈「あぁ、吉良は朝からとても落ち込んでいたから」

鳴海「?」

愛奈「吉良は健也ととても仲が良いんだけど、健也も今の鳴海と同じ状態で、吉良のことを全く覚えていなくて、それで落ち込んでいるみたいなの」

鳴海「へー」

愛奈「鳴海からしたら想像しにくいだろうけど……そうね。鳴海が病院から出たときは私が声を掛けて、それからなんやかんやで今も一緒にこうして話をしているでしょ?」

鳴海「そうね」

愛奈「じゃああの時、私が話しかけないで、それでもう私や吉良からも話しかけられることが無いということを想像してごらん。病院で起きる前の記憶があやふやで、自分のこともあまり覚えていない、家の場所すら分からなかったあなたはきっと周囲の人に聞き込みをするでしょう、その中で質の悪い連中に目を付けられて、家に帰ることも出来ず、好き放題される可能性だって十分あったわけ。鳴海は顔が可愛いから、きっと好き放題されていたでしょう、直接的に巻き込まれることは無くても、間接的に巻き込まれることも十分あり得た」

鳴海「……そうね」

愛奈「今の吉良はその不安と全く同じと言うわけではないけど、それでもそれに近い感情なのよ。大切な友達2人が自分のことを全く覚えていない、そういう状況」

鳴海「……考えてみただけで辛いわ。今彼はそういう状況なの?」

愛奈「そう」

鳴海「……そっか……」

愛奈「今の吉良の精神状態はとても不安定なようだしね」

鳴海「愛奈は落ち着いているよね」

愛奈「自分よりも慌てている人を見ると落ち着くのって本当なのね。私も2人が忘れていることに驚いたけど、吉良がとても狼狽えていたから」

鳴海「吉良君……」

愛奈「吉良は健也のこと、本当に大切な友達で命の恩人とか言っていたからね」

鳴海「命の恩人?」

愛奈「何か目の病気だったらしいけど、健也のお陰で治ったみたい」

鳴海「健也君の家は医者なの?」

愛奈「違うはずよ、私も要領を得ない説明を受けているからよく分からないけど、とても困っていた時に健也がどうにかしたみたい。それ以前に、吉良はあの見た目だから男子から迫害に近いことを受けていたのよ」

鳴海「あぁ、あの可愛さだもんね。学生証を見せてもらえなかったら、男と信じられなかったかもしれないし」

愛奈「健也はその状況の吉良に声を掛けて仲良くなってくれた存在だから、本当に大切な人ってことよ」

鳴海「そうなんだ……」

吉良「……」


吉良が戻ってきた。2人は吉良の話をやめて、試験勉強を再開するが、吉良はそれから話すことは無かった。試験勉強を終えて、吉良は先に帰り、愛奈と一緒に帰るが、特に話すこともなく解散した。


昔の友達と会って、昔話に花を咲かせたけど、それから何を話せばいいのか分からないような感覚ってこういう感じなのかな


家に帰り、手洗いうがいを済まし、適当にご飯を食べてゆっくりとしているが、何かが足りない気がした。何が足りないんだろうか……、部屋を見渡すも縫いぐるみばかりだ。縫いぐるみが足りないということか? 適当に置いてある縫いぐるみを手に取り、両手両足をプニプニと触るが、特に何も起きない。それはそうだ、むしろ何か起きたら怖すぎる


鳴海「……何だろうなー、この足りない感じ」


分からない、何が足りないんだろう……


食欲か? 睡眠欲か? 性欲か? 承認欲求か? 


テレビを付けて、BGM代わりに聞くが、どうでもいい内容で頭に入ってこない。ギャーギャーと叫んでいる名前も知らない人が目障りですぐに電源を消して自分の部屋に移動する


鳴海「本当にここに住んでいたのかな」


部屋を見て思う。部屋にあるのは、机、タンス、縫いぐるみ、写真くらいで、机やタンスと言った生活必需品は考えないものとして、趣味な物は何があるかと考えてみると、縫いぐるみくらいしかない。写真は被写体がカメラ目線ではない物がほとんどなので、盗撮の可能性が高いが、自分がそんなことをお願いするとは思えなかった。


写真を1つずつ見ていく。映っている彼は、楽しそうに、面白そうに笑ってはいるが、さっき会った彼は全くこんな顔をしておらず、正反対と言ってもいいくらいの反応だった。写真に映っている自分とは笑っているが、現実では笑っていない


もしかして私が彼を脅して笑うようにさせていたのかな?


絶体あり得ないという考えも、実はあり得るのではないかと思い始めてきた。実は自分が彼のストーカーで、日常行為すら愛おしく感じて誰かに写真を撮るようにお願いしたとか?


いやいや、そんなはず……そんなはずないよね? 大体頼むにしても誰にお願いするんだよ、愛奈か? 愛奈にこれを撮ったのはお前かと聞くのか? そんなことをして、もし愛奈が無関係だったら、私が誰かに写真を撮らせたと言っているようなものじゃないか! 


盗撮の意図があったか分からないが、現にこうして写真がある以上、どうして写真を撮ったかと言われることは避けられない。もしそうなれば愛奈に悪印象を与えて、女子の知り合いが1人もいなくなることだって十分にあり得る。そうなれば……学校生活も楽しくないだろうし、不安になるばかりだ


聞きたいけど聞きたくない、聞きたくないけど聞きたい


彼を見て、何を思っていたのか思い出そうとしたが、結局考えても分からなかったので、寝ることにした。












次の日


学校で彼に会っても話さないようにして、彼を見て見ようと思い、午前中は話さなかった。お昼になったら、新聞部でご飯を食べることにした。新聞部には愛奈と吉良がいて、もしかしてお邪魔してしまったのかと少し気まずくなったが、吉良は鳴海が来たことに喜んでおり、嬉しそうにもしていた。


鳴海「何でそんなに喜んでいるの?」

吉良「覚えていなくても、一緒にいられるのって十分嬉しいことなんだよなって思って」

愛奈「そういうことよ、友達が自分の知らない面を見せてきたとしても、一緒にいて話すことが出来るだけでも十分嬉しいってことよ」

鳴海「はぁ?」


よく分からなかったが、とりあえず頷いて2人の向かいに座る。2人は横に並んで食べているので、もしかしてそういう仲なのかと思ったが、そんな感じではなさそうだ。お弁当の蓋を開けて、食べ始める。


話題は健也のことになっていた。吉良は健也ともう一度仲良くなりたくて、愛奈はそれを具体的にどうするかにアイデアを出して、時々鳴海に意見を求めるという感じだった。鳴海からしたら、ラジオを聞いている感じなので、もし2人の前に四角い枠を作って、2人を枠の中に収めるようにしてみたら、テレビみたいになって面白いのではないかとどうでも良いことを考えながら2人の話を聞いていく。


吉良が健也のことを思って真剣に話をしているところを見てなぜか少しイラついた。なんでイラついているのかなと、彼の話を聞きながら考えたが、何にイラついているのか分からなかった。昼休みももうすぐ終了になり、吉良は先に教室に戻り、愛奈と少しだけ話をする


愛奈「何イラついてんの」

鳴海「イラついてない」

愛奈「鏡見てもう一度言える?」

鳴海「言える」

愛奈「じゃあはい」

鳴海「……」

愛奈「顔を鏡から逸らすな」

鳴海「私帰る」

愛奈「はいはい」








放課後


授業中、チラチラと彼を見て見たが、何も分からなかった。ただ、少しだけ心が落ち着いたような気がするが、どうして落ち着いたのか分からず、またイライラするという悪循環に陥っていた。放課後になり新聞部に向かう。家に帰ってもやることが無いし、試験勉強兼受験勉強をやろうと思ったからだ。1人ではダレてしまう可能性が高いというのも理由の一つだ。


愛奈と吉良に教えてもらいながら勉強をしていると、誰かが部室の扉を開けた。


鳴海「あ」

健也「あ」


彼とはどんな顔をしてみれば良いのか分からず、すぐに目を逸らした。彼は、ひょこひょこと入ってきて、吉良の前に座る。吉良は彼に話しかけているが、話の内容を聞いては彼のことを考えてしまいそうになり、そうならないように勉学に集中する。それから4人で適当に話しながら勉強をしていたが、鳴海は健也と目を合わせなかった。健也も鳴海だけでなく、愛奈にも苦手意識があるのか、女子とは全く話をしようとしていなかった。






部活終了時刻になり、愛奈と先頭になって歩く。後ろには彼がいるが、顔を合わせ辛らく、後ろを振り向かないように必死に前を向いていた


愛奈「どんだけ避けてんのよ……」

鳴海「避けてない」

愛奈「じゃあ健也と話したら?」

鳴海「どうして私が話さないといけないの?」

愛奈「うわ、めんどくさ」

鳴海「面倒じゃないでしょ。愛奈と吉良君の話だと、私と彼は仲良かったみたいだけど、私はそれを覚えていないの。彼も覚えていないようだし、仲良くする必要はないわ」

愛奈「その割にはやけに気にしているよね」

鳴海「うるさいな」

愛奈「まぁ、困ったことがあるなら言ってね。出来る限りのことは手伝うよ?」

鳴海「健也君のこと?」

愛奈「それ以外に何があるの」

鳴海「どうしてそこまでするのか……」

愛奈「吉良も言っていたけど、私から見ても今の2人ってすごい違和感があるのよ。なんか気持ち悪くて」

鳴海「2人の快楽の為に、彼と仲良くしろってこと?」

愛奈「快楽じゃない、安心だ。それに仲良くするのは悪いことじゃないでしょ」

鳴海「考えておく」

愛奈「……そう」


これ以上話をしても無駄か 愛奈からはそういう雰囲気を感じた





愛奈と別れて、家に帰るが、どういうわけか彼も後ろから付いて来ていた


健也「……」

鳴海「……」


話しかけるなら今が良いタイミングだが、話しかけるにもなんて話しかければいいのか分からなかった。前に仲良くしていたけど覚えているかという話題は既にしたし、他に何か話題は……ってなんで私が話題を考えないといけないんだ。向こうから話をさせれば……だからなんで話させようとしているんだ


頭の中で、自分で馬鹿馬鹿とポコポコ自分を殴っていると、彼は歩く速度を速めて、このまま抜き去るつもりのようだ。顔は下に固定して、自分とは目が合わないようにしている


鳴海「ねー」


思わず声を掛けてしまった。声を出した後に、自分から声を掛けたことに気付いたが、それでも話しかけた以上はやるしかない


健也「……」


が、無視された。


これにイラついて鳴海は再び話しかける


鳴海「無視すんな」

健也「何だよ?」


鳴海とは目を合わせないように、視線を下に固定したまま応じてくれた。それだけでも良かったと思う


……なんで良かったんだよ?


自分で突っ込みながらも話を続ける


鳴海「……私達って本当に数日前の朝のHRが始まる時に、初めて話したのよね?」

健也「そうだな。俺もそう思う」

鳴海「だけどさ、これ見て」


鳴海は自分のスマホを健也に見せると、そこは健也も使っているチャットアプリで、上に健也と書かれている


健也「俺の名前だな」

鳴海「間違いない?」

健也「ちょっと待ってくれ」


彼は自分のスマホを取り出して、ユーザー一覧から鳴海を選択するとトークルームに移動する。そこには、今鳴海が見せている画面のようになっていた


鳴海「これ変じゃない?」

健也「あぁ、間違いなくな」


本当に話したことが無いなら、こうしてメールだけのやり取りを1年前からするのは不自然だと思った。メールだけしあう友達(通称メル友)なのかと思ったが、彼の女子への対応の仕方的に、自分とメル友になるとは思えなかった(自分からも声を掛けるとは思えないのもある)。


鳴海「…君、女子苦手なの?」

健也「……」

鳴海「無視すんなよ」


いちいち黙っているのに対して、スムーズに話せないことにイラついてしまい、つい声を荒げてしまう


健也「苦手じゃないし?」

鳴海「……」


そんな暗くても分かるくらいに声が震えていたら、嘘だと分かる。だが、ここで嘘だろと言っても、どうせ言い返されるだけなので、改めてどれくらい苦手なのか試そうと手を伸ばす


健也「っ!」


鳴海がゆっくりと健也に手を伸ばそうとするが、健也はそれを直ぐに察知して一気に距離を取る


鳴海「……ごめん、悪ふざけが過ぎた」


その反応は早く、よほど自分を警戒しないと出来ないとしか思えないほどの動きだった。伸ばしていた手を下ろして謝る


健也「……」

鳴海「さっきの吉良君も似たような反応をしていたでしょ、君が吉良君を男じゃないと否定していた時の吉良君もそんな気持ちだったと思うよ」

健也「なんで今吉良が出てくるんだよ…」

鳴海「いや、君が吉良君を落ちこませたことについて愛奈が怒っていてね、何か仕返しをしてほしいと言われたの」


嘘だ。とにかく話を続けたくて、嘘の事を言って話を続けようとする鳴海。話はする気はないと思っていたのに、口が勝手に開く


健也「あっそ…じゃあ俺行くわ」

鳴海「うん」


彼はもう鳴海とは話したくないようで、すぐに去ってしまった。






家に帰って、勉強をして、食事風呂を済まして寝る時間となった。部屋に貼ってある写真を見る。


彼の笑っている顔を見る


それを見ると、少し安心した


鳴海「だから、何で安心するんだよ」


自分で突っ込みながらも、写真を見続ける。


……


…………


鳴海「笑っている所……可愛いじゃん」


さっきまでの落ち込んでいた・不安そうな顔を見るよりも、写真に映っているように笑っている顔が見たくなった。しかし、彼は自分に心を許してくれている気がしない。自分も、きっとそんな思いはないと言い逃れようとしてあやふやにしてしまう気がする。陰からこっそりと彼の笑っているところを見られないだろうか……


鳴海「って、これじゃあ私がストーカーじゃん!?」


もう寝る時間になって電気を消す。いつものように布団にもぐるが、どういうわけか今日はやけに布団が狭いなと感じた。


狭い? いつもこれを使っていたはずだし、そんなことはないはず。身体が大きくなった? でもそこまで身長も体重も増えていないし……寝ている位置が悪い?


何度も体勢を変えるも、中々寝付けない


寝ることが出来たのは、少しだけ太陽が上がった時だった









あと一日で試験が始まる。鳴海家に愛奈を呼んで、愛奈と共に出来ないところを勉強していく。お互い見張りの意味もあった。彼女はスラスラとノートにペンを走らせるが、鳴海のペンは進路を見失ったかのように全く走っていない


愛奈「何度目の溜息?」

鳴海「え」

愛奈「自覚無しなの?」

鳴海「私溜息ついていた?」

愛奈「息をするように」

鳴海「……」


愛奈は冗談を言っているようでも無く、真剣な目をしている


愛奈「健也?」

鳴海「違う」

愛奈「即否定ですかそうですか」

鳴海「違うったら違うっての!」

愛奈「あぁこら、ノートを投げるな」

鳴海「うるさいうるさい」

愛奈「あ、吉良からメールが来た」

鳴海「何だって?」

愛奈「健也が家庭科の実技で困っているから助けてくれないか、だってさ」

鳴海「家庭科? あぁ、あれね。簡単でしょ」

愛奈「健也はそうではないようだけどね」

鳴海「あっそ」

愛奈「……」

鳴海「……」

愛奈「……」

鳴海「……、何? さっきからジロジロと」

愛奈「助けに行かないの?」

鳴海「愛奈が行けばいいでしょ」

愛奈「でもさっきから全然問題も解けていないし、集中も出来ていない。このまま続けても何も出来ないと思うよ?」

鳴海「……」

愛奈「それよりは4人でやった方がいいんじゃない? 気分転換にもなるかもよ?」

鳴海「……私は」

愛奈「鳴海?」

鳴海「あぁ?」

愛奈「女の子がそんな声を出さないの」

鳴海「人の事言えないだろうに」

愛奈「あぁ??」

鳴海「ほら」

愛奈「……、まぁそれはともかく、私は行くけど」

鳴海「え、なんで!?」

愛奈「目の前でずっと溜息をついて、しかも自覚をしていない人とは一緒に勉強をしたくないからよ」

鳴海「だから溜息なんか!」


愛奈は持っていたスマホを鳴海に見せる。そこには録音があり、再生ボタンを押して見ると、溜息をしている音が聞こえた。それも息をするように。目の前にいた愛奈は一回も溜息をついていなかった。つまり……そういうことである


鳴海「……」

愛奈「ね?」

鳴海「私も行く」

愛奈「じゃあ準備しましょう」


吉良家に到着、リビングに案内してもらい、さっそく健也に家庭科を教える流れとなったのだが、どういうわけか自分が健也に教える流れになっていた。


愛奈は鳴海に「やれ」と視線で命令をしており、吉良も健也に目線を送っている。このままでは自分が健也に教えないといけないという流れを察知した鳴海は健也に、間接的に断るように誘導しようとするが、2人の圧が強くなっていた。仕方なく健也の分からないところを聞いていくが


鳴海「どこから出来ないの?」

健也「ここからここまで」

鳴海「……ほぼ全部じゃない。君、前回の試験は家庭科いくつだったの?」

健也「えっとな……83」

鳴海「あら、出来ているじゃない。なんでこんなところで手間取っているの」

健也「……分からない」

鳴海「まぁいいわ。そんなことを気にしてもしょうがないだろうし、時間が惜しいわ」

健也「一々癇に障るやつだなお前」

鳴海「は~? 教えてもらうのに何その態度?」


話していて自分の知らないうちに気持ちが高ぶっていた。抑えようにも、もっと話してみたいという欲求が強くなっていく


健也「そういうお前は今までの家庭科はどうなの? 実はそうでもないんじゃないのかー?」

鳴海「っは」


馬鹿にするように鼻で笑ってしまい、彼に成績表を見せてしまった。家庭科の項目を見た健也の反応は


健也「なんだと……」


彼は見間違いじゃないかと思ったのか、目を凝って何度も見返しているが、書かれている数字は変わるわけもない。その悔しそうな表情を見ていると、少しだけ気持ちが温かくなった


鳴海「文句あるかな~? ん~?」


彼に近づいて、成績表を見せびらかすと


健也「……っぐ」


歯を食いしばっていた。もっとその顔を見たいなという欲求が出てきて、どうやったら出来るかなと考えていると、愛奈が鳴海の頭を教科書で叩く


鳴海「いだっ! 何するのよ!」

健也「ざまぁぁっで!!」


反撃しようとしたら、吉良が健也の頭を叩いていた。吉良は泣きながら


吉良「健也、鳴海さん。お願いだから2人とも仲良くして……本当にお願い……」

健也「……」

鳴海「……」


鳴海は健也と顔を合わせて、渋々頷き合う。このままでは、場の空気が重くなることを悟ったので、大人しく教えることになった。


健也「鳴海さん、教えてくれるか?」

鳴海「……うん」


健也の出来ないところを教えていく。それを見て


鳴海「……不思議ね」

健也「何が」

鳴海「初めて集まった気がしない」

健也「それは俺も思った」

鳴海「まぁ、無駄話は後にしましょう。あとはこれをやって。これ次第で判断するから」

健也「はい」


両手で頬杖を突きながら、大人しく従い、不器用ながらも一生懸命に縫っている彼の顔を見る。その顔をずっと見ていたら、いつの間にか出来たようで渡してきた。ずっと見ていたことがバレないように、顔を背けながらも受け取る。チラッと彼の顔を見たが、彼も顔を背けていた。目を合わせたくないということだろう。それに少し寂しさとを覚えながらも、チェックをしていく。


鳴海「……ん、これなら赤点はなさそうね」

健也「そうか、良かった」


彼は安心したように一息つく。その不安から安心に変わる顔を見ていると、なんだか気持ちが温かくなったが、それを悟られないようにする


鳴海「ええ」

健也「……」


なぜ黙っているのか……もしかして顔を見ていたのがばれたのか!?


鳴海「……」


冷や汗をかきながら彼を見ていると


健也「その、あ、あ、あ……」

鳴海「あ?」


「あ」ってなんだ? 「あ」の概念を説明しろってことか?


健也「明日頑張るよ」

鳴海「……そう」


ありがとうじゃないんだ


それを言われなくて、少し気持ちが落ち込んだが、どうして落ち込んでいるんだと自分の中で突っ込みを入れていると


吉良「もう遅いし、そろそろ帰った方が良いんじゃない?」


遠回しにお前ら帰れということだろう。雰囲気を壊したのも自分ではあるから、大人しく従うことにした。


鳴海「そうね、お邪魔しました」











吉良家を出て、静かな夜空1人で家に帰っていると、後ろから足音が聞こえる。誰かと思い振り返ると、彼がいた


鳴海「うわっ、なんで追いかけてきてんの? 気持ち悪いな」

健也「気持ち悪いは余計だ。吉良が追いかけろって涙ながらに言ってきたから仕方なくだ」

鳴海「吉良君が……。なんかやけに私達を仲良くしようとしているよね」

健也「あぁ、あそこまで泣くとは思わなかった」

鳴海「あ、隣で歩かないで」


隣歩かれたら顔を見られるかもしれない。今自分がどんな顔をしているのか全く分からないから、見られたくない。外は暗いが、それでもうっすらとだが、顔は見える


健也「最初からそんなことをするつもりはねーよ。お前こそ近づくな」

鳴海「はぁ? 近づくな? もちろん近づきませんけど?」

健也「何キレてんだよ」

鳴海「君が、私に、命令することが、気に食わないの」


どう話していいのか分からず、つい威圧するような感じで話してしまう


健也「お前、やけに喧嘩腰だな、吉良が落ち込むぞ」

鳴海「吉良君の前だけ仲良くすればいいのよ。良いことを教えてあげる」

健也「あ?」

鳴海「女の子は、表向きは仲良くするけど、裏ではギスギスしているなんてよくあることだよ?」

健也「あっそ」

鳴海「興味なしだねー。まぁ、君はもともと女子とは近づきたくないようだし別に関係……関係……関係……」

健也「あ? 関係?」


関係……彼と私の関係は何だろう。2人の話が本当なら「幼馴染」ということだろうか? でも、前まで一緒にいたけど、2人して記憶喪失のような状況になって、一緒にいるにはいるが、それでもぎこちない関係……これを「幼馴染」と呼べるのかどうか……


鳴海には分からなかった。考えていると健也は鳴海の目をジッと見てきた


鳴海「!? 何ジッと見てんのよ!」


話している相手とはどういう関係なのか考えている顔を見られたくなくて、つい怒ってしまう


健也「いや、好きで見るわけがないだろうが」

鳴海「はぁ~? 何それ……っ」


それはそれでムカつく。そう思い、これでもかっと健也の目をジッと見つめると、彼も見つめ返してきた


健也「っ」


目を合わせ続けることに恥ずかしくなったのか、健也は目を逸らす。鳴海も健也の少し後に目を逸らした。なぜ自分から目を合わせたのかと自分の行動にイライラしてしまう。


鳴海「あ~~~、君を見ていると、何か凄いイライラする」

健也「はぁ? じゃあ見るなよ」

鳴海「じゃあ君が目を合わせないでくれる!? あ~~~もう、何これ」


見てもイライラ、見なくてもイライラ


話したいけど話したくない、話したくないけど話したい


矛盾した気持ちが渦巻いている


健也「イライラするなよ」

鳴海「あぁ!?」

健也「女の子がそんな声を出さない」

鳴海「女に幻想を抱くなよ」

健也「幻想なんか持ってないよ。あるのは恐怖だけ」


そういう健也の声色は、落ち込んでいるように見えた。それを見て、さっきまでの渦巻きがどっかに行ってしまい、彼のことを心配してしまう


鳴海「そういえば君の反応的に、そんな感じだったわね……」


これ以上ペースを乱されたくない、そう思った鳴海は先行して歩き出し、健也は5歩程度遠ざかった距離で鳴海の後ろをついていく


なんか雰囲気が……何か話題を……えっと……


鳴海「吉良君がどうしてあんなに泣いていたのか何か知らないの? 吉良君がああして泣くと、とても気まずいんだけど。どこが泣く条件なのか教えてくれると助かるんだけど」

健也「愛奈さんは何か知らないの?」

鳴海「知っているみたいだけど、教えてくれなかった。でも気まずそうな顔をしていたから、それなりの理由があるんじゃないかなって」

健也「俺も知らないんだ」

鳴海「そう、ゴミね」

健也「口悪いなーお前」

鳴海「ごめんごめん、本音がうっかりと。オホホー」

健也「似合わねーな」

鳴海「君も結構口悪いよね? 人の事言えないよ?」

健也「すいません」

鳴海「……どうしてそこで謝るのかいまいち分からないんだけど……」

健也「いや、俺も良く分からない」

鳴海「……私達が揉めている以外にあるのかな」

健也「どうだろう……今の所それくらいだよな」

鳴海「愛奈も私と君を仲良くさせようとしているのよねー……、どういうつもりなんだか」

健也「知らねーよ、そんなこと」

鳴海「はぁ?」

健也「なんでもないです。ごめんなさい」

鳴海「なら言うなっての」


こんな会話だが、どこか心地よい。数日前に話し始めたのに、ここまでスラスラと健也と話せるとは思わなかった。流れるように会話は進むし、身体が熱い


健也「もしかしたら、過去に自分の所為で仲の良いグループを崩壊させたとかなのかもなー」

鳴海「それは私も思ったけど、吉良君が話してくれないと分かることじゃないだろうね」

健也「とりあえず、今後のためにも吉良の前では仲良くしよう」

鳴海「そうね。 ……ん、今後?」

健也「え?」

鳴海「今後があるの?」


鳴海は足を止めて振り返る。健也も足を止めて鳴海を見る。2つだった足音はいつの間にか1つになっていることに気付いた。一緒に歩いていたら2つの足音が聞こえるはずなのに、聞こえるのは1つの足音だけ。全く同じタイミングで手足を動かしているようだ


視線と視線が交わる


さっきのように直ぐに逸らすことはなく、彼が次に発する言葉を待つ。その言葉次第で今後の関係に大きく関わると思った。自分でもどのような返答を望んでいるのか分からない。一体自分は彼と今後どのようになりたいのか


健也「……」

鳴海「……」


時間にしては数秒だが、体感的には数時間経っている気がする。心臓はバクバクとうるさくなっていて、健也に聞こえていないか心配になるくらいだ。顔を逸らしたいけど、逸らしたくない。逸らしたら取り返しがつかない、なぜか分からないがそう感じた


健也「……あるんじゃないか? 同じ新聞部なんだし、教室も同じだし、顔を合わせる機会くらいはあるだろ」

鳴海「……」


顔を見られないように、前に向き直す


鳴海「……そうね」


さっきよりも心臓の音が大きくうるさい


彼といられる時間がこれで終わりではない


彼自身がそうはっきりと伝えてくれたことが嬉しかったからだ


もう少しゆっくりと歩きたかったが、これ以上一緒にいたら自分がどうなるか自分でも分からない。そう思ったのか、自然と歩く速さが早くなった。







試験日


担任「試験開始」


一斉にクラスメイト全員が問題用紙を捲って、問題を解き始める。鳴海も問題を解いていくが、


健也「……」


隣にいる真剣な表情で問題を解いている彼を見て、もっとその顔を見たいと思った。その所為か、全然問題に集中できない。幸いなことに実技はどれも半分以上は出来たので、赤点はないだろうが、成績は落ちるだろうなと思いながらシャーペンを走らせていった。











答案用紙を全て返却され、新聞部でお互いに見せ合うが、結果は予想していた通り、


(左から1年生前期試験、後期試験、2年生前期試験、今回の試験)


国語  70点   82点   86点   79点

数学  76点   98点   100点   94点

理科  68点   76点   83点   78点

歴史  80点   84点   87点   85点

英語  66点   75点   85点   77点

家庭科 81点   96点   94点   90点

技術  60点   70点   73点   67点

計  501/700  581/700  608/700  570/700


と見るからに落ちていた。それもこれも健也の所為だ、そう思い健也を見るが、彼は何で見られているのか分からないようで見つめ返される。健也に見つめられるのに耐えられなくなった鳴海は直ぐに目を逸らした


その後、愛奈からは3年生の部活行動について説明をされると、今まで以上に自由に参加することが出来るようになった。言い換えれば全く来なくても問題ないということだ。受験を迎えている3年生にとっては、妥当な判断だが、鳴海からしたらそれは少し困ったことだった。


自由に来られるということは、ここに来なくてはいけないという大義名分が無くなるということだ。健也を見るが、健也の表情は何とも思っていなさそうに見えた。これはもう来ないという事も十分にあり得そうだ。そう思い、視線を下に向ける。そこからは自由時間となり、ここにいても居心地が悪かった鳴海は、帰ることにした。帰る途中、愛奈からメールが1件


愛奈『部室に来てほしい』

鳴海『なんで?』

愛奈『直接話したいことがあるから』


何だろうと思ったが、学校からまだそこまで離れているわけではない。気になったので返信をしてから部室に向かう。部室に近づくと、少しだけ扉が開いており、中で話し声が聞こえた。真剣な話をしているような気がして、入るタイミングを掴めず、聞き耳を立てていると


健也「ご、ごめん。け、怪我はしてないか?」

愛奈「大丈夫、ほらね、あと1年間……大切にしないとダメだよ? 特に鳴海に関しては」


自分の名前が出て、身体を縮こませる


健也「なんでここに鳴海が出てくるんだよ」

愛奈「それは……っと」

健也「え」


会話が途切れ、中の様子が気になり、一瞬だけ顔を開いている扉と壁の間に出すと、愛奈と目が合う。それが怖くて、自分でも気づかないうちに走り出して逃げてしまった


鳴海「……なんで逃げたのかな」


盗み見をしているところを健也に見られたくなかったか、何か罪悪感があったのか、分からないがそれでも逃げ出したのは事実。自分の話を聞きたくなかったのかもしれないが、1つの原因ではなく、小さな気持ちが合わさって逃げる行動を選択したのかもしれない。溜息をついて、スマホを見ると、「部室に来て」と愛奈からメールが来た。健也がいないかを聞くと、彼はもう帰ったようだ。





部室に着くと、愛奈は椅子に腰を掛けて待っていた。鳴海は扉を開けて出入り口前で立っている


愛奈「座らないの?」

鳴海「長いの?」

愛奈「多分?」

鳴海「じゃあ……このままでいいわ」

愛奈「あらそう」


なんか座ったら目線が一緒になって負けてしまいそうだ。今の自分の気持ちは不安定なのは自覚しているので、対等な感じになったら付け込まれる気がした。付け込ませないように、愛奈を見下ろすような感じで話を続ける


愛奈「健也に関してよ」

鳴海「……」

愛奈「鳴海ってさ、健也のこと好きなの?」

鳴海「違う」

愛奈「本当に?」

鳴海「違うったら違う!」

愛奈「……じゃあさ」

鳴海「?」

愛奈「鳴海以外の女子が健也を好きになっても問題ないってこと?」

鳴海「は?」


愛奈は涼しそうな顔で鳴海を見ている


愛奈「鳴海が思っている以上に健也って女子の間では人気があるのよ? 知ってた?」

鳴海「……知らない。だから何?」

愛奈「だから? 他の女に取られることも十分あり得るってこと」

鳴海「……言いたいことはそれだけ?」

愛奈「えぇ、直接言わないと気が済まなかったから」

鳴海「……そ、帰る」

愛奈「またね」

鳴海「…ふん」


鳴海は扉を雑に閉めて、部室から遠ざかって行く。ずかずかという足音が聞こえなくなったのを確認した愛奈は、疲れたように椅子に深く腰を掛けて溜息をつく









愛奈「さっさとしろっての……」


そう呟いて、窓の外を見る。外には鳴海が校門を通って出て行くところが見えた



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