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幼馴染の意地  作者: ヤマネコ
23/43

中学生(21)

もしよろしければ評価ポイントをお願いします!


夏休みもあと数日、今日は親の代わりに鳴海と買い物に来ていた。鳴海は夏休み中ずっと健也家に泊まっており、鳴海家に帰ることは健也の見ている限り無かった。もしかしたら健也の知らないところで帰っているのかもしれないが、鳴海は自分の家のことを滅多に話さないので健也の知る由は無かった。


会計を済ませるとチケットをもらう。このチケットはある一定の数を買うと貰えるもので、いわゆる福引券と呼ばれているものだ。近くでやっている会場に足を運ぶと、そこでは先客達が、祈りながら抽選機をガラガラと回して、穴から出てきた玉の色を見て落ち込んでいる。大抵このガラガラははずれしか出てこない(場所や地域によるが、基本的にはずれは白玉だ)。ベルが鳴っている所は見たことあるが、自分にはその鐘が鳴らない。選ばれたものしか聞くことが出来ない幻のベル


鳴海「何よくわかんないこと言っているの」

健也「幻のベル、そう思うだろ?」

鳴海「同意求めないで。あ、3回分引けるよ? どうする? 3回とも引く?」

健也「そこは1:2でいいだろ、3回もあるんだし」

鳴海「……けん君が3回引いて来て、私ここで待っているよ」

健也「良いのか?」

鳴海「少し疲れちゃって、ここで座って待っているから、カッコいいところ見せてね?」

健也「あんなの運ゲーだろ」

鳴海「頑張って~」

健也「分かった、これお願いね」


近くの空いているベンチに鳴海が座り、買った食材や日用品を置く。順番待ちも丁度いい感じにいなくなっており、今すぐに抽選をすることが出来そうだ。健也は福引券を全て渡して、3回分のガラガラのチャンスを得る


店員「頑張ってくださいねー」


1等はこの前吉良が言っていた近くに浜辺がある温泉旅館チケットだ。食事費、滞在費が無料で、2名まで行ける


2等はあるスイーツ店のスイーツが食べ放題(時間制限あり)。これも2名まで


3等はチュッパチャプスが大量に入った箱をもらえる。味も豊富に揃えられており、これは1名まで


3等が2名で、1等2等が1名の方がいいんじゃないの? と思ったが、それは健也の知ったことではないので深く考えないようにする。


取っ手に手を付けて、1等が当たると良いなと思いながら抽選機をゆっくりと回すと、中から玉がガラガラと転がっている音が聞こえる









穴から出てきた玉は3等とされている玉だ。それが出ると店員はベルをガラガラと鳴らし


店員「おめでとうございます! 3等です!」

健也「わおう」


1等ではなかったけども、まさかの3等。滅多に出ない幻のベルが自分の時に鳴るなんて初めてなので、テンションが上がってきた。幻のベルの効果は、気分の高揚か?


店員「では2回目をどうぞ」

健也「はい」











もう一度ガラガラと回すと次に出てきたのは2等とされている玉が出てきた


店員「おめでとうございます! 2等です!」


ざわざわ……ざわざわ


周辺にいる人たちは健也に注意が向いている。それもそうだろう、3等を当てて、2等を当てた。そしてまだ健也は抽選機から離れないということは、まだ引く回数があるということ。そして3,2と来たら、次に1と当てるのかという期待感が周辺に漂う


何人かの店員は、連続で当てられていることに少し焦っているようだ。ここで1等も当てられたら運営的にも迷惑であることには違いないだろうし、健也もここまで当たり続けることにびっくりしている


最後の一回を回す
















出てきたのは1等とされている玉だ


店員「おめでとうございます! 1等です!」


わぁーーーー!


当てた健也よりも周辺の人達の方が嬉しそうに騒いでいた。何人かはとても興奮しながら健也を指さして騒いでいるようで、ガヤガヤとうるさくなってきた。幻のベルの効果は騒音だったようだ。うるさ過ぎて耳を押えないと少し辛いくらい周囲が騒いでいる。健也は自分がそこまで注目されることが嫌だったので、顔を伏せて1等~3等の景品を貰い、鳴海の元に戻る。荷物が増えてしまった


鳴海「すごいね。本当に当てるとは思わなかった」

健也「俺が一番信じられない。本当にあるんだなこんなこと」

鳴海「……」

健也「どうした?」

鳴海「あの店員さんの様子がさ」

健也「え?」


鳴海が見ている先には、先程景品を渡した店員と他に店員が何人かいるが、他の店員はやけに焦っている様子に見えるが、店員は全く動じていない。それどころかやり切った感が出てきた。健也をジッと見ていたが、すぐに他の店員に声を掛けられ、何かを話し後、他の店員で会場の片付けを始めている。店員はスマホを取り出し、どこかに電話を掛けている。


健也「?」


一瞬だけ健也を見たようだが、すぐに視線を別の場所に移してスマホを耳に当てて話している。1等、2等、3等全て当てられたので、これ以上は無理なのだろうか? 店員は通話を終えると、鳴海と健也がまだ話をしているのに、他の店員達が驚くほど速く片付けを終えて、さっさと出て行ってしまった。


健也「撤収が早いな」

鳴海「……だね。早く帰ろう、食材は早く冷蔵庫に入れたいし」

健也「だな」


鳴海の近くに置いてあった袋を手に取ってショッピングモールから出て家に帰る。家に帰り、食材や日用品をそれぞれしまうべき場所に閉まっていく。健也母は仕事で出かけているため、健也家にいるのは健也と鳴海の2人だけだ。片付けを終えると、健也が持っていた景品を机の上に置く


鳴海「チュッパチャプスってどのくらいあるの?」

健也「んー、ざっと50本くらいはあるような?」

鳴海「何味?」

健也「味は…書いてないな。ただ袋の色が違うだけだ。見た感じ、グレープ・オレンジ・リンゴ・チェリー・ソーダとかそんな感じかな?」

鳴海「舐めるの?」

健也「いくつかは舐めようかなって思っているけど。鳴海は?」

鳴海「じゃあ40本くらい貰ってもいい?」

健也「あれ、そんな好きだったか?」

鳴海「知り合いにそのチュッパチャプスが好きな人がいるの。丁度同じ銘柄だし」

健也「へー? 愛奈?」

鳴海「そんなとこ」

健也「そうか、まぁ俺もあまり舐めないと思うし、いいぞ」

鳴海「ありがとう」


鳴海は箱からごっそりとチュッパチャプスを取ると、自分の鞄にざざぁーっと入れた。箱はリビングの端に置いて、残りの2つを見て良く


健也「スイーツか。どこのお店だろ?」

鳴海「お店の名前は?」

健也「えっと……あ、住所が書かれている」

鳴海「……それ、この温泉旅館の近くにあるお店だね」


鳴海はスマホの地図アプリでお店の名前を調べると、1等の温泉旅館がある場所の近くにあるお店のようだ。しかもそこの1店しかないようだ


健也「個人営業?」

鳴海「あまり大きなお店じゃないみたいだけどね。それでも細々と経営しているみたい」

健也「そんなお店を食べ放題にするの?」

鳴海「近く温泉旅館があるから、意外と収益はあるのかもしれないね。温泉旅館の周りは自然が広がっていて、お店もそこまで無いから甘いものを求める人達はここに向かっているのかも」

健也「そういうものかなー」

鳴海「口コミによると、どれも絶品らしいよー」

健也「それは気になるね」

鳴海「けん君甘いの苦手でしょ?」

健也「そうだね」

鳴海「私もそこまで好きじゃないし、これも他の人に渡す?」

健也「んー、どうしようかなー」

鳴海「私は上げてもいいと思うんだよね。あまり甘いのが好きじゃない人より、好きな人に渡して沢山食べてもらった方が良いと思うの」

健也「鳴海がそこまで言うなら……まぁ、そうしようか?」

鳴海「温泉は一緒に行こうね~」

健也「そうだな、2人で行くか」


チケットに書かれている日付は明後日だったので、今日と明日で旅館に行く準備を整えることに。吉良に鳴海と2人で旅行に行くことになったことを伝えると、吉良も愛奈とどこかに出かけるようだ。どこに出かけるのかを聞いてみると、どうやら祭りに行くらしい。中学1年生の時に4人で行った肝試しの時と同じ会場で、2人きりで行くようだ。肝試しも今回あるらしいが、健也の知らないうちに怖さの耐性を少しずつ付けたので、それを実践で試すと意気込んでいるのが分かる。あの時のように怯えている様子はなく、楽しそうに話している


健也両親に温泉旅館に行くことを伝えると、意外にもすんなりOKを貰えた。チケットを手に入れたときは2人きりで行くかと思っていたが、よくよく考えて見たら保護者抜きで中学生だけでそこまで遠くはないとはいえ、2人きりで温泉旅館に行くのは反対されると思っていた。断られるか、一緒に来ると言い出すかと思えば、まさかの2人きりで出かけることを認めてくれた。鳴海に鳴海両親から許可が貰えるか聞いたら問題ないようだ。


健也「いやー、断られると思ったのに、意外とすんなりいくもんなのか」

鳴海「私達のことを信用してくれているんでしょ」

健也「どっちかというと鳴海が信用されていると思うぞ」


なぜか健也両親は鳴海のことを全面的に信用している。鳴海両親も鳴海のことを信用しているのか、鳴海の行動に一々口を出すことはないようだ。








そうして数日が過ぎ、温泉旅館に行く日となった


鳴海と共に家を出ると、玄関では健也両親がお見送りに来ていた


健也母「鳴海ちゃんに迷惑を掛けないようにね」

健也父「鳴海ちゃん、楽しんできてね」

健也「俺は?」

健也母「行ってらっしゃい」

健也「なんか雑じゃない?」

健也父「健也も気を付けて行くんだぞ」

健也「うん」

鳴海「行ってきます」

健也両親「行ってらっしゃい~」

健也「じゃあ、はい」


健也が鳴海の目を見つめながら手を繋ぐと、鳴海は嬉しそうに手を繋ぎ返してきた。健也も鳴海も、空いている手にはスーツケースを持っており、一緒に温泉旅館に向かった


バスを乗って温泉旅館前の停留所に降りる。そこは自然が広がっており、建物はほとんど無い。畑、海、川、花、森が広がっており、虫の鳴き声も沢山聞こえる。どこかで見た事あるようなと思ったら、1年生の時に来たキャンプと似ているようにも見えた


鳴海「キャンプの時を思い出すね」

健也「あぁ、それ俺も思った」

鳴海「あの頃はクラスの人と馴染めるか少し不安がっていたよねけん君」

健也「あの時はまぁ……吉良がいたからそこまで不安じゃなかったし」

鳴海「すっかり吉良君と仲良くなったよね」

健也「気が合うから、一緒にいて疲れないし」

鳴海「それ、遠回しに私といるのが疲れるって言ってる?」

健也「もしそうなら、こうして一緒に来てねーよ」

鳴海「あ、見て、蝶々……」

健也「ほんとだ、久しぶりに蝶々とか見たわ」


鳴海と健也の周りには蝶々が12匹飛んでいて、2人を囲むようにひらひらと飛んでいたが、そのままどこかに飛んで行ってしまった。円形の時計のように12方向に1匹ずつ飛んでいったのがとても珍しい光景なので、そのことで鳴海と話そうとしたら、鳴海が気持ち悪そうに体勢を崩していた


鳴海「っう」

健也「鳴海!? 大丈夫?」

鳴海「大丈夫……旅館に荷物を置こう」


鳴海は一瞬だけ具合が悪そうにしていたが、すぐに顔色が戻って何事も無かったかのように歩いている。後ろから見た感じ、よろけている所もなさそうだが、心配なので鳴海のことを注意しながら一緒に歩いて旅館に向かった。





時刻は午後0時。お昼ご飯はここに来る前に持ってきたお弁当を食べて、容器を捨てる。容器はプラスチック容器で、割り箸を使って食べた。


旅館に到着し、チケットを受付に見せるとパンフレットを貰いすぐに部屋に案内される。案内された部屋に着くと、床は畳で、和風な部屋だ。部屋には座布団にひじ掛け、机の上には煎餅や餅が横の入れ物に入っており「お好きにどうぞ」と小さい紙に書かれていた。お菓子の横には電子ポットがあり、横にはお茶の粉が入ったスティックが沢山箱に入っている。外には、池があり、そこには鯉が泳いでいる。カコンという音が聞こえ、音がした方を見ると鹿威しを見つける。竹の中に水が入ると、下に水を流し、その時にカコンと音が鳴っているようだ。普段喧騒の中で過ごしている健也達からすれば、静かな時の中で定期的に聞こえる竹がぶつかる音は、大変心地の良い音だった。温泉がある場所からは湯気が立っており、パンフレットに載っている温泉は中々広い。


しかも時間を指定すれば混浴もすることが出来るそうだ。健也達以外に客はあまり来ていないので、もし混浴するなら幅広い時間の中から予約することが出来そうだ。人があまりいないのも、健也達が来ているのは8月の下旬だ。夏休みを利用して来る人もいるだろうが、それでも来るとしたら上旬から中旬に集中するようで、下旬も人は来るには来るが、それでも上旬と比較するとそこまで人数はいない。仮にいたとしても健也達は一泊二日なので、人が沢山いて楽しめないという問題はほとんど心配する必要はなさそうだ。


鳴海「どうする? 混浴する?」


ニヤッとした笑みで健也をからかう鳴海。健也家で鳴海と健也が一緒に風呂に入ることはなく、この問いかけには少し動揺してしまうが


健也「どっちでも???」


こっちが動揺していたのがバレないように余裕の笑みで返すと、鳴海は一瞬だけきょとんとしたが


鳴海「一緒に入りたいなら入ってもいいよ?」

健也「いやいや、鳴海が一緒に入りたいなら仕方ないよなー?」

鳴海「え~? けん君が私と入りたいって言うなら仕方ないかな~?」

健也「俺は一言も鳴海と一緒に入りたいなんて言っていないんだが? でもそうまで言うってことは、鳴海は俺と一緒に入りたいってことかな?」

鳴海「この機会を逃したら私と入ることはもう無いだろうしねー、チャンスは今だけ、だよ?」

健也「……」


言いたい


一緒に入りたいと


気になっている子の裸を見たい


だがそんなことを言えば変態になるのではないか? だから鳴海から言うように仕向けるが、これまで健也が鳴海に言わせたことなどほぼ皆無


しかしここは温泉旅館だ。今までは自分の家にいるから言わせることが出来なかったわけで、フィールドが変われば言わせることが出来るかもしれない。鳴海はもしかしたら温泉旅館が弱点なのかもしれない


……自分の家で負けている時点で勝ち目がないのでは?


そ、そんなことないやろ(震え声)


脳内会議をしていると、いつの間にか鳴海は健也のすぐ目の前まで来ていた。いつもみたいに健也の両頬を手で包み、健也の目を見つめる。健也は顔を逸らそうにも両頬を抑えられているので、顔を逸らすことが出来ず、鳴海と見つめ合うことしか出来ない。目を瞑ろうとしたが、鳴海の目をもっと見ていたいという気持ちも同時にあり、結局目を逸らすことは出来なかった。


鳴海「……」

健也「い、一緒に入りたい、です」

鳴海「……ふふ、正直なのは良いことだね~」


鳴海は健也の両頬から手を放さず、さわさわと掌で揺すられる。それが心地よかった。しばらく見つめ合いながら鳴海は健也の頬を触り続ける


鳴海「……」

健也「……いつまでするんだ」

鳴海「さぁ~? いつまででしょうね~?」

健也「……」

鳴海「嫌なら、けん君から離れればいいんだよ?」

健也「いや、その」

鳴海「ん~?」


至近距離でニヤニヤとした顔をする鳴海。その顔を見ると逃げる気すら失っていき、そのまま鳴海の前に立ち続けるが、下半身に血流が集中していくことに気付いて慌てて鳴海から離れる


鳴海「あら」

健也「俺ちょっとトイレ行ってくる」

鳴海「はーい。私はここで休んでいるよ~」


慌てて走らない、けど普段よりもほんの少しだけ早歩きをしてトイレに向かい用を足す。その時、硬くなっていたものが軟らかくなるまで、頭を空っぽにして、ただ景色を見ていると少しずつだがふにゃふにゃになり、通常サイズに戻っていた。あのままあそこにいたら、間違いなく見られていただろう。鳴海にどの程度男の身体についての知識があるのか分からないが、それでも普段よりなぜかモコっとしているところを見られたら恥ずかしくて顔を合わせられない。








落ち着いたころを見計らって部屋に戻ると、鳴海が机に顔を伏せながら寝息を立てていた。静かな場所で自然の匂い、更に畳と和を強調するこの部屋の空気に当てられたか、少し遠くまで来ていたことによる疲労がたまったか、それともどっちかだろうか。ただ単に寝ているだけもあり得るが、風邪を引かないように布団が収納されている所から毛布を取り、鳴海に掛ける。鹿威しや鯉を見るために開けていた窓も閉じて、鳴海から少し離れたところに寝転び、パンフレットを眺める


近くには浜辺、スイーツ店、釣りなどがあり、1日を過ごす分には退屈はしなさそうだ。1人で先に下見でも行こうかと思ったが、寝ている鳴海に悪戯をするのも悪くないなと思ってしまう


悪戯……、そこまで怒られないで、ほどよく達成感のある悪戯って何だ? 顔に何か描くとか、物を隠すとかしか思い浮かばないけど、これやったら鳴海絶対不機嫌になるよね……


悩んでいるとこの前吉良の言っていたことを急に思い出した


吉良「特に鳴海さんは健也と長い時間一緒にいるから、その分効果も期待できる。今まで一緒にいた人がいきなり反転したらかなりインパクトもあるだろうしね」


普段しないようなことを敢えてする反転……、あそうだ。さっきみたいに鳴海の頬を……


鳴海の隣に座って、僅かに出ている頬を指でプニプニする


弾力があり、肌もスベスベで触り心地も良い。触っていても全く飽きる気がしない


なるほど、いつもこんなことを楽しんでいたのか


ずっとプニプニすると鳴海は目を覚ました。寝ぼけた目で健也を見ると、何も言わないで健也に抱き着く


健也「え、鳴海?」

鳴海「……落ち着くな~」

健也「何が」

鳴海「何も?」


目はパッチリとしており、寝ぼけていることは無くなったが、健也から離れないで抱き続けている。毛布は畳の上に落ちていたので、それを拾い鳴海に掛けると、嬉しそうに笑って健也に抱き着く力が強くなる。健也も毛布の上から鳴海の背中に腕を回して抱きしめる。


鳴海「けん君、一回腕放して?」

健也「?」


鳴海は毛布を手に取り、健也を背もたれのある椅子に座らせて、健也の両足の付け根に乗っかるようにして、自分の両膝で健也の腰を挟むように座り、毛布を自分と健也の頭の上に被せた。


視界は暗闇となり、鳴海の顔だけしか見えない。鳴海の息遣いがいつもよりはっきりと聞き取ることが出来た。少し熱っぽい息をしているような気がしたが、それは自分が興奮しているから余計そう聞こえるんだと言い聞かせた。そうでもしないと、この場で滅茶苦茶にしてしまうような気がしたからだ。


最初は暗さに目が慣れなかったが、少しずつ目が慣れると鳴海の顔が見えてきた。暗闇の中で見る鳴海は、いつも隣で寝ている時と違い、意地悪な顔をしている。鳴海が健也の背中に手を回して、ギューっと抱き着いた。健也も鳴海を落とさないようにそっと背中に手を回して鳴海を抱きしめる。ただ抱きしめていたが、自分の背中が手で揺すられている



鳴海「んっ……」


鳴海が少し息を荒くしながら、健也の背中を触り続ける。健也は鳴海に触られるのが、くすぐったいのと、恥ずかしいのと、心地よいという感情が混ざりに混ざって、息が荒くなり始める。


毛布を被っているので、至近距離にいる健也と鳴海の吐息が交わる。交わり共に消えて、また交わって消えてと繰り返しているうちに、自分の息なのか、相手の息なのか、どちらの息が荒いか分からなくなってきた


健也の下半身に血流が集中するが、健也は鳴海のことを触るのに夢中で自覚出来ていない


健也は鳴海の背中に回していた手を少しずつ下に移動させていく


健也「はぁ、はぁ」

鳴海「ふふっ……」


鳴海も健也の背中から胸の方に手を移動させて、健也の胸部を触り始める。健也は鳴海のお尻に触ろうとしたら、手を抓られる


鳴海「そこはぁ、まだぁ、早いかなぁ~」

健也「はぁ、はぁ、ダメなの?」

鳴海「あぁ、その顔良い感じだよぉ~」


鳴海は恍惚として表情を浮かべている


健也「鳴海、頼むよぉぉ」

鳴海「えへへ、まだぁ、ダ~メ~」


健也からは触れないようにされて、鳴海が一方的に健也の身体を撫でて、触って、擦って、抓ってと不規則に繰り返す。健也の下半身に血流が更に集中する


鳴海「……っあ」

健也「え」


鳴海はさっきまでの興奮とは違い、忘れ物に気付いたような声を上げると、手の動きが止まった。


これは自分から触っていいのか、いや、でも…


迷って1秒で鳴海の身体を触ろうとすると、鳴海は健也から離れて毛布を取った。毛布が取られると、慣れていた暗闇から全方向から光が入ってくる。一度目を閉じてから薄目にして視界を確保すると、鳴海は少し遠くにいて自分のスーツケースの中を漁っていたが、鳴海の背中が壁になっていて何をしているのかは見えなかった。


鳴海「楽しみは夜に取っておこう、ね? どこか遊びに行こうか♪」

健也「えぇぇぇ……」

鳴海「私トイレ行ってくるから。ちょっと待っていて」


鳴海は部屋から出て行き、健也だけがポツンと椅子の背もたれに寄りかかり、視線を下に向ける


健也「あ」


ズボンの一部が、とても大きく膨らんでいた。それに気づいた健也は処理しようかと迷ったが、鳴海の「楽しみは夜に取っておこう」発言を思い出す


健也「……」


楽しみ? 楽しみって何だろう? もしかして…そういうこと? 


健也「ま、まぁ、ここで処理したらバレるかもしれないよな。夜を待とう」


健也も自分のスーツケースを開いて、外に出かけるのに必要なものを確認・装備していく。鳴海にスイーツ店のチケットは渡しているので、パンフレット、ハンカチ、ティッシュ、財布、スマホ、箱に入っていたチュッパチャプスをいくつか持ってきていたので、チュッパチャプスを数本持って行くことにした。なぜチュッパチャプスを持ってきたかと言うと、普段食べないような物を普段来ないような場所で食べれば、そこまで美味しくなくても雰囲気に当てられて美味しいと思えるかもしれないと、前に聞いたことがあったからだ。


鳴海が戻ってきて、健也もトイレに行っている間に、必要なものを揃えるように鳴海に言った。部屋に戻り、鳴海と共に外に出た


健也「どこ行く?」

鳴海「この釣りとかどう? 初心者でも簡単に釣れるみたいだよ」

健也「俺はもう初心者用なんて言葉は信用できないんだ」

鳴海「え、なんで」

健也「肝試し」

鳴海「あぁ……、今回は大丈夫だよ。怖い類じゃないでしょ?」

健也「それはそうだけどさ……」

鳴海「じゃあ釣りに行こう~!」


釣り場に着くと、そこそこ人が集まっていた。受付で料金を払い、釣り竿とバケツ、餌、椅子を借りて指定された場所に向かう。ここの釣り場は、受付で指定された場所で釣りを行い、釣った魚は元に戻すという方針らしい。料金も学生割引が効いて、お手軽に出来るが、30分しか出来ないようにされている。初めて釣りをするので、むしろ30分で丁度良いよねと2人で盛り上がった。


鳴海「初めてだし30分でも十分良いよね~」

健也「そうだな、場所もそこまで広くないし、すぐに釣れそうだよな」

鳴海「じゃあこの辺に座ろうか。餌はっと……」

健也「……」

鳴海「あれ、けん君、餌付けないの?」

健也「……その」

鳴海「ん?」

健也「……付けてくれない?」

鳴海「……あぁ、ダメなの?」

健也「恥ずかしながら」

鳴海「まぁいいけど、貸して」


鳴海が餌を付けてくれている間に、健也は鳴海のバケツにも水を入れて戻ると、餌は付け終わっていた


健也「ありがとう。すごいな、全く抵抗無いのか?」

鳴海「別に? 生き物だしね~」

健也「そっか……」


強い


後ろに人がいないのを確認してから、釣りを始める。ゆっくりと待つかと健也はボーっとしていると、隣から嬉しそうな声が聞こえた。



鳴海「あ、きた」


鳴海の方に当たったらしく、引き上げようとするが


鳴海「つ、つよっ」

健也「手伝おうか?」

鳴海「いや、大丈夫……っと」


持久戦を制した鳴海が糸を手繰り寄せると、見事魚が釣れた。魚は悔しそうに全身をパタパタと揺らしながらバケツの水に入れられ、バケツ内で円を描くように、八の字を描くように泳いでいる。始めて10秒足らずで釣るとは……


ま、まぁ? 偶然でしょ? 直ぐに俺の方にも来るって、そう思うだろ?


視線を水中で動いている魚に向けるが、健也の方を向いている・近づく魚は一匹もいなかった


鳴海「次も狙おうっと」


また餌を付けて水面に釣り竿を振ると、ぽちゃんと音を立てて、ウキがぷかぷかと浮いていたが、それも一瞬でまたウキが沈み、鳴海が糸を手繰り寄せるとまた魚が釣れた。それをバケツに入れて、また餌を付けて釣り竿を振る


健也「……」


健也のウキはただ浮かんでいるだけで、魚が食いつく様子はない


鳴海のウキはすぐに沈んでは魚を釣り、餌を付けてもう一度放ってもまた直ぐにウキが沈む


健也「……」

鳴海「えっと……」

健也「(´・ω・`)」

鳴海「なんかごめんね?」

健也「鳴海は何も悪くないだろ、悪いのは……悪いのは……誰だ?」


魚だって、客の楽しみを満足させれるためにここにいるわけで、餌だって客が楽しむたびに命が失われていく。むしろ自分達がやっているのは間接的に殺害をしているのではないか? そう思った健也は水面に映る自分の顔を見る


鳴海は可愛いのに、自分はそこまでカッコいい容姿をしていない。自己評価するなら中の下くらいだろうか?  


いや、自分がそう思いたいだけで、本当は下の下なのでは?


隣には絶え間なく魚を釣っては戻す少女。すぐにバケツの中に魚を入れられなくなりリリースする姿を見るたびに、自分の足元にあるバケツを見る。自分のバケツには水が入っているが、魚が入っていた記憶は一度もない。これはもう自分が魚だと言って、バケツに顔を突っ込むしか方法が無いのでは?


隣で当たり前のように釣られる光景を見せられると、なぜかそういう考えが浮かび上がる


鳴海「餌、貰っていい?」

健也「おう、いいぞー」


鳴海は釣りの楽しさを知ったようで、餌のお代わりを健也にお願いする。30分だけしか釣れないので、新しく買っても無駄にする可能性がある。そこで新しく買うよりも、全く連れていない健也の方を取った方が合理的と判断したようだ。


いいさ、あれだけ楽しそうにしているんだ、釣られる魚も、食べられる餌も、そのまま知らない人にされるより、可愛い女の子(鳴海)に運命を預けた方がきっと幸せだろうよ


健也「……こいこいこい」


自分のウキに近づいて来る魚が一匹。これはいけるかと思い、チャンスを待つ。沈んだと思った瞬間に引き上げたが、それが良くなかったようで逃げられてしまった。狙うなら食いついて少しした瞬間を狙うべきだったが、隣で釣り続ける光景を見せられてしまい、気持ちが自分でも気づかないうちに焦っていたようだ。


健也「……難しいなー」


もう一度ウキを水面に沈めて待つ。先程捕まえそびれた魚は、健也から遠い所へ移動してしまい、近づいてくる様子はない。なぜか鳴海の方に魚は集まっていて、健也の方にはほとんど集まらなかった


鳴海「どうー? 連れた~?」

健也「ダメです」

鳴海「……」


鳴海は健也の落ち込んでいる姿を見て、テンションの低い声を聞いて、少し眼を輝かせたが、コホンと咳をして隣に座る。


鳴海「……」

健也「……」

鳴海「こうして釣りに来るのも楽しいね」

健也「それだけ釣れているならそうだろうな」

鳴海「……、場所変えてみる?」

健也「…そうだな。鳴海、そこ俺にくれ、そして鳴海は俺から少し離れてくれ」

鳴海「分かった~」


鳴海の席を健也が借りて、健也の椅子を鳴海が取って少し離れた所に置いて座る。さっきまでここに魚が来ていたので、全く来ないという状況は無いはずだ……


浮いているウキを睨みながらも、全く寄り付く様子がなく、何度も落ち込んでしまう。横ではウキがすぐに沈んでいるのが見えたが


鳴海「あ」


どうやら逃げられてしまったようだ。ここの釣り場は釣ったら元に戻すというルール上、魚たちも安易に食いつけば捕まることが分かっているのだろう。こちらの戦略に乗せられないように、隙を見て餌を食べているようだ。健也の分の餌も数が少なくなり、時間も後数分しかなくなってしまう


健也「鳴海、その餌全部使っていいぞ。俺はこの一撃に賭ける」

鳴海「分かった~」


健也の餌箱を取り、自分の餌とする鳴海。鳴海はもう10匹は釣れたようだ。鳴海が上手いのか、健也が下手すぎるのか……


健也「こい、こい、こい」

鳴海「全部使い切ったよ~」

健也「うるさい、話しかけるな」

鳴海「……」


鳴海は近くに椅子を寄せて健也の顔を見ている。健也は見られていることに気付いてはいるが、ウキを見逃さないようにしているので、鳴海がどんな表情をしているのか分からない、だけど少し息が乱れているように感じた。もしかして具合が悪くなっているのかと思ったが、その後鳴海がくしゃみをしたので、くしゃみの予備動作だったらしい


鳴海「……イイなー」


そんな声が聞こえるが、水面に意識を集中する


こっちの餌は甘いぞー、お願い来てくれー


残り時間も30秒切った、健也のウキに一匹魚が寄ってくる


来た!


焦らないように魚の行動を見る。いつ食いつくか、その動きを集中して見る


持っている釣り竿が震えないように、必死に力で押さえつけて耐える


ウキが何度も突かれて左右に揺れている


まだだ! まだ引き付けて……


ウキが完全に沈んだ


健也「っ!」


食いついた! 


少しだけ待機してから、全力で引き上げようと力を入れる


健也「キタキタキタ!」


想像していたよりも強い力で対抗するのも一苦労だ。だが逃がすわけにはいかない! これを逃がしたら戦果0匹となってしまう。それだけは避けたい!


椅子から立ち上がり全力て引っ張る健也


魚が水面からパタパタと抵抗する姿を現し、こっちに手繰り寄せうと糸を引く


勝った……!


計画ど……








ぽちゃん


健也「あ……ああぁぁぁあ!」


どうやら食いついたものの、そこまで深く食いつていなかったようで、空中に釣り針から離れて水の中に帰って行った。健也は膝を付けて帰って行った魚の落ちた水面に手を伸ばすも、魚は帰ってこない。


健也「うぅぅぅ……どうして……なんで……」

鳴海「けん君?」

健也「な、なるみぃぃぃ」

鳴海「はぁはぁ、ど、どうしたの……けん君……はぁ」


頬を赤くして息を荒くし、何やらもじもじする鳴海


しかし気持ちを上げられてから奈落に突き落とされた健也はそんな鳴海の様子を不思議に思う余裕もなく、鳴海に手を伸ばして涙を流す


健也「さ、魚が……魚がぁぁぁ」

鳴海「うん、その、大丈夫だよ、うん」


鳴海が健也の傍により、何か震えた声で健也を励ますが、気持ちはそう簡単に落ち着くわけもなかった。


受付「ありがとうございましたー」


釣り竿、椅子、バケツなどもろもろ返してから、手をしっかりと洗い、釣り場から離れる。鳴海と一緒に歩きながら一度旅館に戻ることになったのだが、2人の間に会話は無かった。


健也「……」

鳴海「……」


みっともない姿を鳴海に見せてしまい、見苦しいという気持ちを持たせたのかもしれない。何か、せめてこの沈黙が気まずい感じではなく、いつものように心地よい距離感に戻るような方法は無いだろうか……


鳴海を見ると、鳴海は健也が振り向く前は健也を見ていたが、健也が振り向くとどこかに視線を逸らしている。少し頬も赤いし、どうすればいいのか困っていて考えて知恵熱のようなものが出ているのだろうか? 猶更、早くこの空気をなんどかしなければ……




そ、そうだ。前に吉良と鳴海にサプライズを送るのには何が良いか話したことがあった。確かリボンとか場所とかについて話してそれをスマホのメモに残していたはずだっ! 隣にいるのに、スマホをポチポチといじるのはあまり良い気持ちはしないだろうが、それでもこの状況を打破するためだ、許して鳴海


ポケットからスマホを取り出し、メモを見ると











【特に意識することもなく、床を舐めるように伏せたり、捨てないでくれとか言いながら膝をついて手を伸ばしたり、涙を流しながら名前を呼び続ける】


……は? え? こんなのがこんな状況の打開の方法? マジで? 過去の俺何してくれているの? え? 本当にこんな話をしたの?


スマホを持っている手が震える


そういえば、吉良と話をしているとき、俺のテンションがおかしいとか言っていたような? テンションがおかしい時に書いたメモ? ダメじゃねーか!


思い出せ……あの時他に何を話したんだ……


【つまり俺が女装すればいいんだな!】


……なんかこんな感じのことを言ったような気がするけど……酔っていたのか?


隣にいる鳴海を見ると顔を逸らされた


……試してみる価値は…ないとは言えないか…もしかしたら意外にも有効な手段なのでは?


よし!


健也「鳴海、俺を捨てないでくれぇ!」

鳴海「……は?」

健也「俺を、捨てないでくれぇ、魚の一匹も釣れないような俺を、捨てないでぇぇ!」

鳴海「……」


鳴海は「何を言っているんだこいつは」みたいな感じで、冷ややかな目で見てくる


ぐ、ぐあああああ! これはキツイ!!! やるんじゃなかったぁぁぁぁ!!


鳴海「けん君、取り敢えず落ち着いて、変になってる」

健也「はい、すいません」

鳴海「とりあえず、旅館に戻ってご飯を食べて落ち着こう、ね?」

健也「はい、はい、はい」

鳴海「はいは一回」

健也「はい」

鳴海「じゃあ行こうか」

健也「はい」


失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した


とんでもないことをしてしまったと自己嫌悪しながら旅館に戻る。意識はどうして自分はあんなアホなことをしたのかなと向けられており、鳴海の表情を見ることが出来なかった。


鳴海「そうそう、そんな感じだよ~、さっきみたいなのは冷めるし」


鳴海の声は健也の耳には届かなかった



旅館で出された豪華な食事を食べて部屋でくつろぐ。山で取れた新鮮な野菜に、近くの川で釣れた魚を焼き魚に、ほかほかのご飯、天ぷらなどなど、1つ1つボリュームがそれなりにあるので、もし間食をしていたら食べきれなかったかもしれない。鳴海もお腹を擦りながら、健也の前とはいえ、苦しそうにしており、頭を座布団に乗せて横になっている。健也も食べすぎて苦しいので、鳴海と同じように座布団に頭を乗せて横になる


健也「いやー食べたな」

鳴海「……もう少し横になるけど、けん君は温泉行く? 行くなら先に行っていいからね」

健也「俺も苦しくて……、あと10分くらいしたら行こうかなって感じ」

鳴海「そうなんだ、私は20分くらいかなー」

健也「……、飴舐めるか?」

鳴海「飴? いつそんなの買ったの?」

健也「いや、ほら、3等のチュッパチャプスを箱で貰ったじゃん。それを幾つか持ってきたんだ」

鳴海「舐めない方が良いよ。虫歯になるよ」

健也「歯を磨けば問題ないだろ」

鳴海「……好きにすれば?」

健也「? なんか冷たいな?」

鳴海「話す余裕が今無いだけ。もう少し横になればお腹も落ち着くと思うから」


鳴海の機嫌が少し悪いが、それも食べすぎた腹痛が少しずつ出てきて余裕が無いのだろうか? 鳴海は部屋から出て行き、どこかに行ってしまった。多分あそこだろう


その間にお風呂に入ることも考えたが、部屋を開けるのは少し不安だった。部屋の鍵は1つなので、両方外に出てしまったら、最悪部屋の中に戻れない。特に鳴海は落ち着くまでに時間がかかるだろうし、部屋でゴロゴロを続けるかと思い、窓越しに池を見ると、蝶々が飛んでいた


健也「あれ、こんなところにか……」


池の周りにも草や木など緑が広がっているので、蝶々がいてもおかしくはないが、ひらひらと動いているからか、どうしても視線を蝶々に引き寄せられる。どこかに移動するのかと思ったが、蝶々は健也のいる部屋から離れることはなく、近くをずっと飛んでいる。その蝶々をずっと見ていたいという気持ちが少し出てきた。


健也「この部屋に何かあるのか?」


この部屋に蝶々を引き寄せる何かがあるのかと思ったが、すぐにどうでも良いと思ってしまい、視線を蝶々から切ろうとしたが、なぜか蝶々から目を離せない。もっと近くで蝶々を見たい、そう思って重たい身体を起こして窓を開けようとすると、食事に使っていた机の脚に小指を強くぶつける


健也「痛い!」


小指と薬指の間を強く打ち付けてしまい、しばらく足を手で押さえてドタバタとしていると、さっきまでの蝶々に近づきたいという衝動は少し収まっていた。もう一度蝶々を見ると、また近づきたい衝動が湧いてくる



鳴海「ただいまー……っ」


突然後ろ頭に何かが乗ったような感覚がすると、鼻が畳にぶつかり


健也「いでっ!」

鳴海「……」


鳴海は健也の身体を窓から離して、部屋の出入り口まで引きずる。その時も鼻が畳にぶつかった状態で引きずられたので痛い


顔を上げて鳴海を見ると、鳴海はとても心配をしているような顔をしていた。それに気づいた健也は何事かと鳴海の顔を見つめる


鳴海「少し眼を瞑っていて」

健也「え」

鳴海「良いから」

健也「うん」


健也が目を瞑ると、鳴海はさっきまで健也が近づいていた窓際まで歩く音が聞こえ、その後にカーテンが閉められる音が聞こえる


鳴海「もう良いよ」


目を開けると、さっきまで窓にいた蝶々は、カーテンを閉められたことにより見えなくなった。鳴海は何か緊張しているように額に汗があったが、それを聞かれないようにか


鳴海「お風呂入りに行こうか、混浴は今度ね」

健也「え」

鳴海「何?」

健也「いや、混浴自体はそこまで気にしていないけど、何をそんなに焦っているの?」

鳴海「焦ってない」

健也「いや焦ってる。長年一緒にいるんからそれくらいは分かるぞ」

鳴海「……」

健也「どうしたんだ、教えてくれないか?」

鳴海「……」

健也「いつか話してくれるか?」

鳴海「……いつかね」

健也「そうか、なら良いや。それよりお風呂行こうか、混浴は無しでいいよ」

鳴海「……」


健也がスーツケースから入浴セット(下着、パジャマ、歯磨き、化粧品)を持って行く。バスタオルとハンドタオルは無料で貸してくれるようで、男女別の暖簾の前までくる。鳴海は浮かない顔をしていたが、少し時間が経過したことで落ち着きを取り戻したのだろう。先程の焦り顔と、普段のニコニコ顔が混ざったような、4:6くらいの割合の顔をしている。


健也「じゃあ後でな」

鳴海「うん」


口数が減っているが、しっかりと健也の目を見て頷いた


暖簾をくぐり、中に入ると、服や荷物を置いていくロッカーには、全て空いており、誰も入っていないことが分かる。健也の貸し切りということだ。時間的にも遅い時間で後2時間ほどすれば、日付が変わりそうだ。


服を脱いでロッカーに荷物を入れて鍵を閉めて、ハンドタオルと鍵を腕に通して扉を開けると、そこは大雑把に見ても30人程度ならゆとりをもってくつろげるくらいの広さだった。複数にお湯が張られており、一般的な四角形のエリア、大きな茶碗のような型をしている湯船があるエリア、ドラム缶のように入れるエリア、ジェットバス付きのエリア、水風呂、サウナと幅広く揃っている。男湯でこれなので、女湯も似たような感じだろう。混浴がどんなものがあるか気になるが、男一人で入ることが出来ず、しかも予約しないと入れない。どの道入ることは出来ないということだ。


適当な場所に座って、置かれていたボディソープをハンドタオルに付け泡たてる。身体の隅々にタオルで、拭き取るように洗っていく。その後泡を流してボディソープの横に置いてあるシャンプーを数回プッシュし、手のひらで500円玉程度の大きさまで取ったらそれを手で泡たてて髪の毛を洗っていき、お湯で流す。それぞれのエリアをゆっくりと楽しみながら温泉を堪能した









部屋に戻ると既に布団が敷かれている


布団は1つだけで、枕は2つある。そしてどういうわけか、布団の近くにはティッシュ箱と、何か小さい包み……小さなクッキーが入っているような袋がいくつか置いてあった。袋はそこまで膨らんでいなくて、薄いクッキーだろうか? なんか数字が書いてある……0.01? お菓子の番号かな?


まだ鳴海は帰ってきていないようで、先に入浴セットをスーツケースに仕舞い、軽く休もうかと布団に横になる。少しだけ、少しだけ休むだけだ、そう思いながら枕に頭を乗せて目を閉じた










鳴海「ただいまーってあれ」


部屋に戻ると、布団が少し膨らんでいて、そこには彼が寝ていた。いつも見る可愛い寝顔だ


鳴海「釣りで相当落ち込んでいたもんね……その後よく分からないことを言いだすし、ふふっ」


入浴セットをスーツケースに入れると、ケースの端にはスイーツ店のチケットが2枚あった。パンフレットも見える位置に出てきて、そこにはこの近くにある浜辺がとても人気なスポットだと書かれている。本当なら釣りの後で行こうと思ったのだが、なんかそれどころではない雰囲気…まぁ、私からそういう空気にしてしまった感があるのに責任はあるが、あんなところを見せてきた彼にも問題があると思うのだ。


鳴海「浜辺は…でも日が昇った時……いやでも今みたいな夜も……でもこんなにぐっすりと寝ているし……また来ようにもお金がなあ……あれ?」


彼が寝ている枕の近くにティッシュ箱と何か小さな袋が複数あった。袋の1つを開けて見ると、何やらゴムが入っている。何のゴムかなと思い、広げたりして指を入れて見ると、三角帽子のような形になった


鳴海「これ、けん君が用意…するわけないか。こんなあからさまに置かないだろうし、仮に置いたとしてた、こんなにぐっすりと寝ているとは思えないし……ということは……はぁ……」


鳴海は溜息をついてから、置かれていた袋を全てスーツケースの中に入れる。部屋の電気を消して健也の隣に身体を寝かせて、そのまま就寝した









次の日


健也「本当にごめんなさい!」

鳴海「何が」

健也「いや、その寝落ちしてたこと」

鳴海「疲れていたんでしょ? それよりも早くチェックアウトしないと……時間ギリギリだよ?」

健也「おう」


寝坊してしまい、起きたらチェックアウト時間30分程度前だった。鳴海は何度も健也を揺すったり、声を掛けたりして起こそうとしたみたいだが、健也は起きないで寝ていたので、諦めて1人で手続きなどをしてくれていた。鳴海のお陰で、後は部屋を出て旅館から出るだけだった。急いで朝食を食べに行き、寝癖を直す、顔を洗うなどとグダグダになりながら支度を整えていく


健也「あ、そういえばスイーツ店のチケット」

鳴海「あれなら他の人に渡したよ。もうそろそろ帰らないといけない時間だし、今行っても楽しめそうに無かったから」

健也「……本当にすいません」

鳴海「その代わり浜辺には行きたいかな~?」

健也「はい、お供します」

鳴海「……少し出てくるね」

健也「うん? 分かった」


健也も準備を終えて、部屋で待っていると扉がノックされる。鳴海ならノックをしないで入ってくるので、誰かが部屋にやってきたようだ。もしかしたら早く出て行けと言いに来たのかもしれない。恐る恐る扉を開けると、そこには女性が2人立っていた、そしてその女性2人は健也が会ったことのある人物だ


女性A「おはようございます、そちらの女の子からスイーツ店のチケットを頂いて、お礼を言いに来ました」

健也「えっと、はい、こちらが行けなくなってしまいまして……あはは」

女性B「本当にありがとうございます。あの女の子にも改めてお礼を言いたいのですが、今いますか?」

健也「今はいないですね……」

女性A「あら、どちらでお会いしましたか? どこかで会ったような……」

健也「えっと……そうでしたっけ?」

女性B「あ、星野君じゃないですか? この前確か石崎君とスイーツ店で会いましたよね? 他の男子2名も一緒に」


どうやら覚えられていたようだ。しかし白を切ることに


星野(健也)「人違いじゃないですか?」

女性A「あら、そうだったかしら?」

女性B「どうでしょう、そちらは知らないようですし……人違いかもしれませんね。あ、そろそろチェックアウトでしたか? お時間取らせて申し訳ありませんでした。行きますよ」

女性A「そうね、それではまた~」


また?


女性2人は仲良さげに健也達の部屋から遠ざかりどこかに行ってしまった。しかも吉良(石崎)のことを言っていたから、間違いなく覚えられている。


さっきの女性2人は、以前に「御坂けあみ」と「有野伽耶」と名乗った人たちだ。ここにいるなんて……偶然だろうか? いや、偶然か。無理に関係があると思うからそう思ってしまうのだろう


鳴海も戻ってきて、チェックアウトを済まし旅館を出て浜辺に出る。これが夜ならロケーションも文句なしなのだが、明るいのもそれはそれで悪くない。しっかりと晴れているので、砂と波の対比が目に見えて分かりやすく、波の音も心地よい。風も程よく吹いていて、鳴海の髪の毛がなびいている。


鳴海「気持ちいいね」

健也「だな」

鳴海「……海を背景に写真を撮りたいけど……撮ってくれる人はいなさそうだね~」

健也「そうだな……いや、あそこに2人いるじゃん、あの2人にお願いしようよ」

鳴海「いや、あの2人は」

健也「俺行ってくるよ! ここで待っていて」


昨日の寝落ちを挽回すべく、鳴海の返事を聞かないで2人の元に駆け寄る。2人とも女性で、1人は低身長の女性でチュッパチャプスを銜えている、もう1人は高身長の女性で何も銜えていない。


2人は近づいてきた健也に気付いたようで、一瞬超不機嫌な顔をしたが、とても驚いたような顔になり、無表情となった。この一瞬で3回も表情が変わるとは……そんなことはどうでもいい、とにかく写真を撮ってもらえるように交渉すると


低身長の女性「なぁ、お前飴持ってないか?」

高身長の女性「ちょっと、舐めすぎ」

低身長の女性「うるさいな、丁度切らしたんだよ。くれたら協力する」

高身長の女性「……」

健也「飴? これならどうですか?」


持っていたチュッパチャプス全てを見せると、低身長の女性は


低身長の女性「これどこで買った?」

健也「え、福引券で当てたものです」

低身長の女性「あの箱のか?」

健也「そうですけど……それが?」

低身長の女性「いや、なら良い。全部貰うぞ?」

健也「はい、写真をお願いします」

高身長の女性「私がやるよ」

低身長の女性「あぁ」


とにかく鳴海の機嫌を取らないといけないと考えていて、2人に早くしてもらおうとしていると、高身長の女性がついてきた。待っていた鳴海は、なんともいえない顔をしている


健也「お待たせ、このお姉さんにお願いしたよ」

鳴海「……よろしくお願いします」

高身長の女性「はい、よろしくお願いいたします」

健也「鳴海?」

鳴海「早く撮りましょう」


鳴海が少し不機嫌そうな顔をしていたが、なんでそんな顔をしているのか分からなかった。高身長の女性に健也のスマホを渡して、写真を撮ってもらう。確認の為に見せてもらい、中々良い写真が取れていた。鳴海の笑顔に違和感があったが、とにかくこれで機嫌を取り直してくれるはずだと鳴海を見ると、さっきチュッパチャプスを上げた女性が鳴海と話をしていた。何を話しているんだろうか? 顔が引きつっている


健也が近づくと、話が終わったのか鳴海から離れて健也に挨拶しないで、高身長の女性と共にどこかに行ってしまった。お願いしたのはこっちとはいえ、それでも挨拶なしで行かれてしまうのも無理ない。


健也「じゃあ帰ろうか」

鳴海「……そうね」

健也「どうしたの?」

鳴海「風に当たりすぎたみたい。少し寒いかなー」

健也「じゃあ行こうか」

鳴海「うん」


健也は鳴海と手を握る。目を合わせようとしたが、珍しく鳴海から目を逸らした


もしかしてまだ機嫌が直っていないのかな……


そう思い、帰りはいつもみたいに話すと、時間が経つうちに目を合わせてくれるようになり、安心した。


家に着くころには鳴海がバスの中で、身体を健也に寄せて寝ている。ボタンを押してバスが止まるまでの間に鳴海の身体を揺すると、ぼんやりと目を開けて急いでバスから降りる。鳴海は自分の家に駆らないで、健也家に来るつもりらしい。流石に今日くらいは家に戻ってみたはどうかと遠回しに言ってみたが、鳴海の機嫌が悪くなってしまった。


家に着いて、数時間は機嫌が悪かったが、時間が経つにつれてまた少しずつ落ち着いたようだ。今は健也のベッドに横になって、お母さんの少女漫画を読んでいる間、健也は吉良にメールで旅行のことを話して盛り上がった。家に帰った時の鳴海は安心したのか、手に漫画を持ったまま寝ており、掛け布団を鳴海にかけて、健也はリビングで時間を潰したのだった





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