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幼馴染の意地  作者: ヤマネコ
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小学生(1)


鳴海「待ってよ~けんくん~」

健也「おっせーな鳴海~、ほら、こっちだ」

鳴海「まってきゃあ!」

健也「あはは、転んでやんの~」

鳴海「っう……いたい……」


後ろを振り返ると、何かに躓いたのか、地面に倒れている幼馴染の鳴海がいた。顔を地面にくっつけたまま起き上がる様子もなく、すすり泣いているようだ。調子に乗って彼女を置いていって1人で先にドンドン進んでいたが、ずっと起き上がらないで泣いている鳴海のことを心配し、来た道を引き返す。


健也「ごめん、大丈夫?」


鳴海の身体に触れて、顔を見ようとするが


鳴海「!?」


地面から顔を離そうとしない


健也「どうしたの? 顔見せてよ」


無理やり顔が見えるように動かそうとするが


鳴海「やっ!」


顔を見られてないように全力で抵抗する鳴海


健也「おい、なんでだよ。見せろよ」


それでも無理やり鳴海の顔を見ようと、顔に手を付けて隠していた彼女の手を引きはがすと、額に傷が出来ていた。顔があった地面を見てみると、少し尖っている石があって、少し赤黒くなっている。


鳴海「ぐす……いたい……」

健也「えっと、あ、どうすれば……そ、そうだ! とりあえずハンカチで……」


まだ使っていないハンカチを彼女の額に当てると


鳴海「痛い!」

健也「あ、ごめん!! でも……」

鳴海「うぅ~痛い痛い! お母さん~!!」


ついに泣き始めてしまう。健也はどうすればいいのか分からず、ただオロオロとしているだけで何もすることは出来なかった。鳴海の鳴き声に気付いたのか、近くにいた大人の女性に声を掛けられ、拙くも説明をすると、鳴海に優しく声をかけて何をどうすればいいのか健也に分かるように説明してくれた。



















健也母「あんたね! 鳴海ちゃんを泣かせておいて何もしなかったのかい!!!」


家に帰ると、怒髪冠を衝く勢いで怒っている母にお出迎えされた。


健也「だ、だって! 鳴海が付いてこなかったのが…」

健也母「鳴海ちゃんは待ってと言ったんだろ! それで置いていってしかも怪我させるとかどんな酷いことをしているのか分かってんの!!!」

健也父「まぁまぁ、母さん。そのくらいに……」

健也母「あんたは黙っていて! 健也、あんたしばらくおやつとゲーム抜きだよ」

健也「そんな! そこまで」

健也母「あぁん!?」

健也「……はい」


それから夕食も抜きにされてしまい、廊下にずっと立たされた。寝る時間になったらお風呂に入り、身体を洗うが


キュルキュル~


お腹から「何か食べ物頂戴よ~」という声が聞こえてきたが、それにこたえることも出来ず、泣きながらも身体に付いた泡も落としていく。そのまま脱衣所に出てパジャマを着るが


健也「あれ……ハンカチどうしたっけ?」


籠の中にハンカチが無い。どこかに落としたかな? と思いながらも大して気にすることでもなく、歩いて5歩程度で忘れてしまった。部屋に戻り


健也「鳴海……どうしてるかな……入院とかになってないよね……」


鳴海のことを思いながら眠った。



次の日


母と父も一緒に鳴海の家に向かう。インターホンを鳴らすと鳴海母の声が聞こえてきた。


健也母「健也の母です。鳴海ちゃんのことで謝罪しに来ました」

鳴海母「少しお待ちください」


母と父は緊張している様子だが、特に父の方が緊張しているように見えた。健也も緊張していて、心臓がバックバックと口から飛び出そうなくらいに鳴っている。体感的に何時間か経過しているように思えたが、実際は数分程度の時間が経過すると


鳴海母「どうも~、鳴海の母です」

健也母「この度は本当に申し訳ございません。うちの馬鹿が……」

鳴海母「いえいえ、健也君のことはいつも鳴海から聞いていますよ」

健也母「すいませんすいません」

鳴海母「まぁまぁ、良かったら中にどうぞ~」


母に頭を無理やり振らされるように抑えつけられる。鳴海母の目を見てみるが、にこりと笑っており、威圧感のようなものは感じない。優しそうなお母さんだ。


大人しく中に入るとリビングに出た。そこにいたのは鳴海父・母の2名。鳴海本人はいない。


鳴海父「鳴海の父です。いつも鳴海がお世話になっております」

健也父「健也の父です。こちらこそいつもお世話になっております」


両親4名はペコペコと頭を下げて挨拶。明も自分の両親が頭を下げるたびに、自分も頭を下げる。寝る前は自分は悪くないと思い続けていたが、それでも彼女の声を無視してドンドン前に進んでいたなと思い直し、大人しく謝る。


鳴海父「君が健也君だね。鳴海から話は聞いているよ」


力強い声だ。声量自体は強いわけでもないのに、離れて聞いてもついシャキッとしてしまいそうな感じだ。


健也「えっと……はい、こちらこそいつも鳴海とは……」

健也母(鳴海さんとは でしょうが!)


母から健也だけに聞こえるような声量と、鳴海両親から見えないように背中をどつかれる。


健也「鳴海さんとはいつも一緒に遊んでいます」

鳴海父「ふむ…」


健也のことを見定めるように、頭のてっぺんから足のつま先までじろりと見てくる。その視線に向き合うことが出来ず、視線を下に下げてしまう。


自分よりも体格も力も、何もかも強い相手。そんな存在に小さな身体であり、特に何の力もない少年ごときがどうこう出来る物でもなく、ただ小さく震えることしか出来ない。


それから4人は何やら奥の方で話し合い始めた。健也はというと、鳴海の部屋の前に案内された。


健也母「鳴海ちゃんに直接謝らないといけないのはあんたでしょ」


命令に背くことは許されない。母の心の声を受けて、扉をノックしよう重い手を上げては降ろしてを繰り返す。したいけど出来ない。心の準備が出来ないでいると、


鳴海「っ!」


健也が扉を開けたわけでもないのに、突然扉が開いた。外側から開けたのではなく、内側から開けられた。健也は外側、内側にいるのはもちろん彼女だ。


健也「あ、鳴海! ちょっと待って!」


さっきまでの重たさを感じることなく、さっと扉をこんこんとノックしながら呼びかける。健也の声は聞こえているはずだが、彼女は扉を開けてくれない。


健也「昨日のことは謝る! 俺が悪かった! ごめんなさい!」


自分でも驚くくらいな声量で彼女に呼びかける。


健也「その……ごめん! お前を無視して勝手に1人にドンドン進んでごめん! お前が転んだのにその後何も手当をすることが出来なくてごめん! とにかくごめん! 俺が悪かった!」


扉が少しだけ開かれる。空いた隙間で部屋の中を見るが、鳴海の姿は見えなかった。


健也「鳴海? 鳴海? 入るぞ?」


入っていいか聞いても返事は返ってこない。ゆっくりと扉を開いて中に足を踏み入れる。


健也「鳴海? どこにいるんだ?」


掛け布団が少し丸く膨らんでいる


健也「傷が痛いのか? 大丈夫か?」


布団の近くに膝を付けて膨らんているところを触り揺さぶってみるも、返事は返ってこない。


健也「鳴海? 寝ているのか?」


もう一度揺さぶってみるも返事はない。


健也「鳴海?」


掛け布団を捲ろうとしたが、その手が止まる。あの時も、鳴海に顔を見ないでと言われても、無理やり手をどけさせたら大泣きをしてしまった。また同じようなことだったら……


健也「鳴海?」


名前を呼び続けることしかできない。何度も「鳴海」という名前を呼び続ける


何回彼女の名前を呼んだのか、全く返事が返ってこない


こんなに名前を呼んでも返事が返ってこない。丸い膨らみも全く動かない。さっきドアが開いたのだから寝ているということはないはず……それなのに返事はない……ということは


健也「も、もしかして、し、死んでる???」


寝ているなら嫌われるだけで済む。でも、もし死んでいるとしたら?


健也「……鳴海、ごめん!」


無理やり掛け布団を捲る。布団には彼女の姿が


健也「え」


布団には胸に収まりそうな大きな縫いぐるみが器用に沢山置かれている。中心部分には重ねて置かれている、膨らみがあった場所的に一致する。


???「わっ!!!!」

健也「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!???」


突然肩にバシッと衝撃が当てられると同時に、耳もとで大きな声をかけられてしまい、体勢が前に崩れて、縫いぐるみの中に顔を埋めてしまう。後ろに誰かがいる気配がするが、さっきの声は……


健也「もごもごー」


起き上がって彼女名前を呼ぼうとしたが、何かが背中に乗る。全力で抵抗してうつ伏せから仰向けの状態になると、再び腹の上に何かの衝撃が加えられる。


健也「ふごぉ!」

???「あはは、ふごぉ! だってさ。あはは」


苦しそうにお腹を押さえて馬鹿笑いしている女の子。その子を睨もうにも、苦しそうに大笑いしているために、彼女の瞳は閉じていて、うっすらと濡れている。


健也「このぉぉぉ、降りろ~~~~」

鳴海「い~や~だ~も~ん」


抵抗するも腹の中心に乗られていて、しかも一度怪我をさせてしまった女の子を振り落とすようなことは出来なかった。


鳴海「あははは、はー面白かった~」


とても満足げだ。笑いが収まってきたのか、彼女とやっと目を合わせることが出来た


健也「……」

鳴海「……」


何も言わず目を合わせ続ける


健也「……」

鳴海「……」

健也「……っ」


健也から目を逸らすと


鳴海「はい、私の勝ち~」

健也「はぁ!? 勝ちってなんだよ?」

鳴海「先に目を逸らしたからそっちの負けって言ってんの~」


さっきまでは馬鹿にしている感じで笑っていたのに、その目は怒っているようなものでもなく、悲しそうなものでもなく、辛そうなものもなく、嬉しそうに笑っている


健也「何笑ってんだよ」

鳴海「え~? 別に~?」


そう言いながら健也の頬に両手を添える。ギュッと掴むような感じではなく、繊細なものを、大切なものを優しく包み込むように


健也「な、なんだよ……」

鳴海「さぁ?」


クスクスと笑いながら顔を近づけてくる


健也「え、鳴海!? ちょっと!?」


視線の距離がゆっくりと縮まっていく


健也「ごめん、ごめんなさい!」


何に謝っているのか自分もわからないがそれでも謝り続ける


健也「な、なるみ?」

鳴海「……」


鼻と鼻がくっつく距離まで縮むと、あることに気付く


健也「その傷……」

鳴海「お医者さんの話だと、これ一生残るものらしいの」

健也「え、それって」

鳴海「消えないんだって、これ」

健也「あ……」


一生消えない傷を彼女に付けてしまった。その事実は小さな少年の心を揺さぶるには十分すぎるものだった。


健也「あ、その、えっと……」


さっきから「あの、その」しか言えない。それ以外の言葉が思いつかない


鳴海「私にこんな傷を付けたのは誰?」

健也「あ……」

鳴海「……」


健也の瞳を射抜くように見つめる。ねじ伏せるでもなく、抑えつけるようなものでもなく、優しく、暖かく、包み込むように


鳴海「けんくん」


彼女は上体を健也の胸にピタリと付けて、彼の耳もとに唇を近づけて


鳴海「責任、取ってよね?」


彼女が上体を起こすと、頬を緩めた彼女と目が合った








それから部屋を出て両親の元に戻ると、なぜかお酒を飲んでいる4人組


健也父「仲直りは出来たのか?」

健也「うん、出来たよ」

鳴海父「それは良かったですねー」

健也母「うちの息子は馬鹿ですからねー」

鳴海母「うちの娘と仲良くしてくれてありがとうございます」

健也母「いえいえ、鳴海ちゃんとてもかわいいじゃないですか」

鳴海父「うちの自慢の娘ですよ、がっはっは! もう一杯どうです?」

健也父「あぁ、すいません。いただきます。わっはっは!」

健也「……」


帰ろうと言い出せない雰囲気になっており、どうしようかと悩んでいると、肩がトントンと叩かれる。それに反応して振り返ると何かが頬にプスッと刺さる


鳴海「あはは、引っかかった~」


刺さった所は痛くない、むしろ心地よい


それはなぜか


とても嬉しそうに笑っている鳴海が目に映っていたからだろう






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