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第99話 灰色のホウキ

「す、すまねぇ」


 唐突に黙れと叫んだドンキホーテにおしゃべりな男達は、萎縮する。

 ドンキホーテ自身も、我を取り戻し、


「あ、こちらこそ、その、ね、寝ぼけてた」


 と下手な言い訳をした後有象無象の冒険者の中に混じり座り支給された毛布を包まった。


「本当に寝ぼけてんのかよオイ! ははは!!」


 デリメロは笑う。馬車の真ん中足を投げ出し座りながら、だがその笑い声を聞くものは誰もいない、ドンキホーテ以外は。


「それにしても四肢狩りなんて、カスみたいな名前だよなぁ」


 また始まった、ドンキホーテは耳を三角座りをしながら膝の上で腕を組みその腕枕に自分の顔を埋める。


「おいおい、目を背けんなよ、お前が殺した男が話してんだぜ!? お前には聞く権利があるよなぁ!!」


 ガタン、馬車が軽く上下に揺さぶれる。


「人殺しが」


 人殺しはお前だろ。


「ああ、でもお前もこれからそうなる」


 俺は違う!!


「違わないさ」


 俺は、これ以上もう奪われるのは嫌なんだ、ドンキホーテはそう自分に言い聞かせた。

 そうだ奪われないために戦う俺は違うのだ、俺は殺したいから殺すんじゃない。

 守るために──


 ──────────────────



「皆のもの! 降りろ!」


 ドンキホーテは目を覚ます。そして徐々に覚醒した意識で周りを見ると、他の冒険者たちもまたあくびをしながら馬車を降りていくのが見てとれた。

 ドンキホーテも続いて降りる。

 月がドンキホーテの青い目に映る。夜だ、さらに月明かりに照らされドンキホーテたち遠征隊は崖にいることがわかった。さらに崖から遥か遠くの位置に古城が見える。


「皆のものよくぞ集まってくれた」


 全ての冒険者が集まったことを確認すると、一人の男が話し始めた。

 男は金の髪に白い肌、筋骨隆々の体に金の十字架のネックレスと白の十字が入った黒いローブを見に纏っていた。

 一眼見ただけでわかる。名前なき聖人の宗教、聖十字教の神父だった。

 神父はしゃべる。


「私はパラディンのシーライ・マックイーン、今回の遠征の指揮を任されたものだ」


 冒険者たちの一部がざわつくパラディンそれは、人の身に神の力の一部を、奇跡を宿せるという聖なる戦士の称号であった。

 パラディンになれるものは非常に少ない、神の力である奇跡を宿すにはそれ相応の訓練が必要であり、素質のあるものでないと力を感じることすらできないのだ。

 その素質とは聖十字教の聖書にででくる、神への信仰が下地となっている。つまり信仰心によって神の奇跡を授かるのだ。

 故にパラディンになっているものは全員、信心深いそして、だからこそ聖十字教の教会を守り、上位の聖職者たちに近づくことが許されている。

 つまりこのパラディンが来たということは、この遠征は聖十字教が正式に認めた聖なる戦いなのである。

 そのことを理解した冒険者たちは静かに闘志と野望を燃やした。聖教にまとまらられるほどの戦いに参列できるなど名誉にもほどがあるからだ。


「君たちが想像している通りこの遠征は、われわれ聖十字教も重要視している。灰色のホウキは皆がしっているとおり極悪非道な禁術を売買し、世に混乱をもたらす。故に! この戦いは神に認められた聖戦であると我々は思っている!」


 シーライの言葉にゴクリと誰かが固唾を飲む、そうだ、奴らをこの滅しなければまたジェーンのような被害者が生まれる。ドンキホーテは左腰の鞘に収まっている剣に左手を当てて強く握った。

 自らの意思を確認するように、これから何をするのか思い出すために。


「この場にはさまざまな理由を持つものが者がいる! だが多くは灰色のホウキの被害にあった者たちだ!

 最近ではソール国、王都エポロでの精神交換事件、それが有名だが、ここにいる者の中には灰色のホウキが関わった戦争、紛争で愛するものを失った者も多いだろう!

 だが、奴らの脅威もここで終わる! 君たちが終わらせるのだ!」


 その一言と共に冒険者たちは叫んだ。自分達が今まさに英雄になるのだという高揚感と共に。



 ────────────────


 遠征隊の作戦がついに開始された。作戦はこうだ。シーライが演説を行ったあの崖から遥か遠くに存在する古城に向って三組の冒険者パーティを向かわせる、人組は崖から古城に向かって一直線に向かって、そして残りの二組はそれぞれ回り込むようにして古城を囲む。

 そして合図と共に全員で突撃だ、こんな単純すぎる作戦だが、これは集まった冒険者たちの力量を信頼してのことだった。

 冒険者の力量は三組で均衡になるように調整されており、各組みに一流の冒険者が配置されていた。

 だが、その一流が誰なのか、必ずしも冒険者たちに各組の冒険者たち全員が知っているわけではない。

 これは所詮は有象無象の冒険者集団であるが故の措置である。灰色のホウキのスパイが万が一にでもいた場合の情報漏洩の防止だった。

 ドンキホーテもその何も知らされていない冒険者枠の一人であった。正確には遍歴騎士見習いなのだが、それでもやはり信頼には至らないらしい。

 そんな不透明な作戦中ドンキホーテ達の組は崖から一直線に進み正面から城に突撃する組であった。故に一番乱戦が予想されるであろうチームであり緊張が、全体的に漂っていた。


「君、大丈夫か?」


 行軍、と言っても、少数精鋭の有象無象の歩みだがそんな中ドンキホーテは声をかけられる。

 獣人の男性だった。オオカミのような顔つきに優しそうな目、斧を担いだ筋肉質の戦士。

 まさにオオカミ男と言った様相の獣人はどうやら何かドンキホーテに感じ入ったものがあったのか心配するような目でこちらを見ていた。


「はい、大丈夫です」


 ドンキホーテは、緊張からか疲れからか、若干硬く、そう返事をした。


「そうか」


 獣人の男性は歩きながらさらに喋り始めた。


「いいマントだな」


 獣人の男性はそうドンキホーテに話しかけた。今ドンキホーテはマントを纏っている。青くそして白いお守りの紋章が刺繍された高価そうなマントだ。


「友がくれたんです」


 これはジェーンとカールランドやジャック達、リヴァイアン事件に関わった者たちが送ってくれたマントだった、騎士試験に合格したドンキホーテを祝うために金を出し合い。オーダーメイドで注文したらしい。

 だがそれが届いた日はジェーンの父が死んだ翌日であった。


「ヘエ、いい友だな、そのマント高いだろうその鎧と同じぐらいしそうだ」


 獣人の男性が言っているのはドンキホーテの白い鉄の鎧のことだったこの鎧は壊れた革鎧の代わりに新しく買ったものだった。

 たしかにかなりの値段がしたが、それでもこのマントよりも価値のある物だとは思えなかった。

 このマントは思いがこもっている。ドンキホーテはそう感じた。ジェーンの思いが優しさがこもっているのだと。


「いい友です、俺には勿体無いくらい」


「……すまない聞かない方がよかったかな」


 影を落としたように暗くなったドンキホーテにオオカミ男は謝った。


「いえ別に、ありがとうございます、気にしてくれて」


「何、ちょっと気になってな、君ぐらいの子供が戦場にいると自分の子を思い出すものだから」


「お子さんが……?」


「いや、死んだよ、生きてたら君ぐらいになる」


「……すみません」


「謝るなよ! 僕が話を降ったんだから! はは!」


 笑ってはいたが獣人の男性はどこか悲しそうだった。


「君も、灰色のホウキの禁術が原因か?」


 オオカミの獣人の言葉にドンキホーテは静かに頷く。


「そうか……そうだよな、なぁ君、名前は?」


「エヴァンソ・ドンキホーテ……」


「ドンキホーテか、僕はガリル、ガリル・ガランドール」


「よろしくお願いします」


「はは、敬語じゃなくていいよ」


「あ、その……ああ……やっぱりダメだな、ありがとうなガリルさん」


 自分でも緊張していたのかやっと敬語から元の言葉に戻ったドンキホーテはガリルに感謝の言葉を伝えた。

 するとガリルは頷き言う。


「やはり無理をしていたか!」


 笑うガリルにドンキホーテは面を食らう、緊張していたことがモロにバレていた。それを見抜かれ気を遣われていたことに改めてドンキホーテ気づき思わず、不甲斐なさから顔を伏せる。


「ドンキホーテ君、終わらせよう」


「え?」


 唐突に呼ばれたドンキホーテは思わずガリルに目を向ける。ガリルもまたドンキホーテの目を見て確固たる意思を言葉にした。


「僕たちで、終わりにしよう灰色のホウキを」

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