第91話 やっったぁぁぁぁ!!!!!!
「ジェーン……?」
ぐしゃり、ナイフを振り下ろす手が止まった、ジェーンの肩が震える。
やがてその震えが笑い声と共に大きくなっていく。
「あは、あはあはひひははははは!!!」
そしてただ一言叫んだ。ドンキホーテに向き直り叫んだのだ。
「やっったぁぁぁぁ!!!! あははははは!!!」
ジェーンの顔で、ジェーンの声でただソイツはドンキホーテを笑う。
「いい顔だ」
そしてピタリと、笑うのやめそう言った。
「テメェにはずっとこう言う顔をさせたかった。むかついたんだよ、テメェみたいないかにも俺が正義ですってやつがさぁ!」
ジェーンの顔なのに、ジェーンじゃない、悪意のこもった顔つきで息をしていないアルベルトに目もくれずドンキホーテを睨みつける。
「でもスッキリしたぜ、こんな快感を感じたのは久しぶりだ、いやマジでさぁ! あはあはははは! こんなタイミングよくさぁ! 来るなんてよ?! あははははは!」
ああ、もう駄目だ、我慢の限界だ。
「テメェは……!! なんで! どうして……ッ!!」
だが駄目だ、心がボロボロと崩れ落ちていく、そんな気がするほどの無力感と脱力感、ドンキホーテはこれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
「だからよぉ! てめぇのことがきにくわねぇんだって! 言ったろ! 最初にあった日の時から俺の右腕を吹き飛ばしかけやがった! だからだよ! だからお前にはそう言う顔してもらわなきゃな!」
「だからって! なんでジェーンを!!」
ソイツは言った、簡単なことだと言って。
「死ぬほど苦しいだろ?」
ジェーンの姿でソイツは話、続ける。
「いつか言ったろ? 殺してやるってな、俺はなやるなら徹底的にやるんだ、最初は心、次は命だ」
ヘラヘラと笑うジェーンの皮を被った悪魔にドンキホーテはただ一つの感情が沸き立った。
「殺してやる……!」
それは憎しみだった。純粋な憎しみだった。これまでに感じたことのないほどの憎しみ、それがドンキホーテの心を真っ黒に染め上げた。
「やってみろよ、マヌケ」
そう言って、ジェーンは気を失った。奴は去ったようだ。
ドンキホーテは彼女を支える。急いで壁際に彼女を寄せた。するとガチャリと扉の開く音がした。
ドンキホーテは扉の方を向く。
「誰だ……?!」
殺気だった問いかけに音を出した張本人は、答える。
「私だ、ドンキホーテ。レーデンスだ!」
「まて動くな!」
ドンキホーテはジェーンから離れ、腰の剣に手をかける。本当にレーデンスなのだろうか? レーデンスの魂までは分かりようがない、犯人はジェーンのことを知っていた。つまりどこかでドンキホーテ自身の交友関係のことを知る術があったと言うことなのだ。
「本当にお前か? レーデンス!」
「どう言うことだ? ドンキホーテ! 私だ! 声でわかるだろう」
今レーデンスは玄関にいる、ドンキホーテのいるリビングに至るにはもう一つの扉を越してこなければならない。
ドンキホーテは叫ぶ、不安を払拭するために。
「騎士の十か条を言え! レーデンス!」
「急に何を……!」
「いいから!」
「わ、わかった!
その一、汝、須らく法に従い法に服従すべし!
その二、汝、法を、破らんとする者を罰すべし!
その三、汝、須らく弱き者を尊び、かの者たちの守護者となるべし!
その四、汝、生まれた国家を愛すべし!
その五、汝、敵を前にして退くことなかれ!
その六、汝、非道を尽くす者に対し、容赦せず戦うべし!
その七、汝、法に反しない限りにおいて、臣従の義務を厳格に果たすべし!
その八、汝、嘘偽りを述べるなかれ、汝の誓言に忠実たるべし!
その九、汝、寛大たれ、そして誰に対しても施しをなすべし!
その十、汝、いついかなる時も正義と善の味方なりて、不正と悪に立ち向かうべし!」
この宣言を言えると言うことは間違えない、レーデンスだ。騎士の十か条を暗記しているやつなど、この王都にら少ない。
ドンキホーテは安心する。剣から手を離しはぁはぁと、息をついた。完全に気がおかしくなりそうになっている。もしレーデンスが素直に呼びかけに応じなかったら疑心に駆られ襲い掛かっていたかもしれない。それほど今のドンキホーテには余裕がなかった。
だが、今にも泣きそうなドンキホーテはレーデンスの到着により少しだけ冷静さを取り戻せた。
ドンキホーテは呼ぼうとする親友の名を
「いやぁぁぁぁ!!!!」
ドンキホーテは後ろを振り向いた、すると壁際にいたはずのジェーンがいない。
ジェーンはすでに目覚めていたのだ。恐らくドンキホーテとレーデンスの声で意識が覚醒したのかもしれない。
彼女は滅多刺しにされ、もはや動かなくなった父アルベルトを必死で揺すっていた。
「お父さん! お父さん!! どうして! お父さん!!」
アルベルトは完全にこと切れていた、ドンキホーテはすぐさまジェーンに駆け寄る。
「ジェーン! 落ち着け大丈夫だ、大丈夫!」
「お父さんが! お父さんが息をしてないの!!」
アルベルトは助からない、それはドンキホーテが一番よく知っていたこの出血の量そして、心臓に達したであろう刺し傷こんなの生きていられるわけがない。
それなのに何が大丈夫だ。
だがこんな卑しい嘘をドンキホーテはつくしかなかった。
「大丈夫だ、大丈夫、ジェーン落ち着け、俺がいる、俺が」
俺がいる? いた何になる?
ドンキホーテはジェーンを抱きしめる。
何もできないじゃないか俺は。
そしてそのまま背中を摩った、彼女が目一杯安心して泣けるように。
そして約束する心の中で確かな誓いを をドンキホーテは立てたのだ
地獄の苦しみをヤツに、と。
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