第87話 またしくじったか
一瞬で凍りついたジュリスを前にただただ呆然とするだけのドンキホーテに対して、魔女アレンは、悠々と猫の姿のまま氷塊に近づいていく。
「ふむ」
じっと氷塊を見つめた魔女は、目を凝らし、見開き、凝らし、見開きを繰り返す。魔女は「我ながら絶妙」とひとりごちた。
その姿にドンキホーテは疑問を覚える。
本来魔女、大きな括りで言えば魔人族は姿が変幻自在に変身できる。猫に、犬に、鳥にと様々形態に変身でき、いつでも人間に戻れる筈なのだ。
それなのにこのアレンという魔女は猫の姿のまま凍ったジュリスを見つめていた。
いやそんなことよりも、とドンキホーテは思い至る。
「火事は!」
言った瞬間気がついた。焼けるような熱気が、赤い炎の光が、全く感じられない。
火は消えていた。
「ああ、それならば、ついでに消しておいたぞ、氷の魔法でな」
「いやぁ、久しぶりに疲れたわい」と伸びをする魔女アレンは「そういえば」と切り出す。
「お主、騎士なら、ソウルウォッチャーは知っておるか? 実は散歩しておったら、家に使いのものが来ておったらしくてな? なんでも、今すぐ来てほしいと置き手紙を汚してきたんじゃ」
その言葉にドンキホーテは、ハハッと笑った。なんたる偶然なのか。
「俺たちがあんたを呼んだんだ。よろしくなアレン……先生?」
──────────────
ソウルウォッチャー、囚人搬入口にて、巨大な氷塊が魔法によって溶かされる。
氷塊の中には人がおり、溶けると同時に中の人は咳き込みながら膝と両手を地面に突き息を吸った。
「ゴホッ、ゴホッ!」
氷塊の中から抜け出した人、ジュリスは辺りを見回そうと上体を起こそうとする。
「ゴホッ! なんだ、何が──」
そして次の瞬間ジュリスの体は首から下が黄金となった。
ジュリスは状況が掴めていなかった。唐突になにかから解放されたと思いきや、突如として、体は硬い鉱石となり動けない。
何が起こっているのか、それを知るために限られた可動域でジュリスは周囲を確認する。
しかし上体も起こし上がっていない状態で、固められているため限られた視界でしか情報を得られず一層、ジュリスは混乱した。
「おお、本当に生きているとはな、騎士とは頑丈じゃな」
「ありがとうございますアレン殿、ドンキホーテもレーデンスもよくやってくれた、私が最後まで捕縛するつまりでいたが故の今回の事態だ許してくれ」
なんだ、ジュリスは必死に声の主を探す、聞き覚えのない女性の声と第十三騎士団の副団長、ロンの声がした。
「そんなことねぇよ、ロンさんがいなかったら俺もレーデンスも殺されてた、そんなことよりよどうするんだ、こいつ?」
また聞きなれない少年の声だ。
「落ち着けドンキホーテこれからのアレン殿に見て頂く、アレン殿いかがですか? 鑑定は?」
「もうお前たちが会話してる間に終わったわ」
アレン殿と呼ばれた声の主は告げた。
「此奴の体から魔術の痕跡が見つかった」
「ならば」とロンの声が響く。
「そうじゃ、身に纏っていた悪魔も消えたところから見るに悪質な禁術を使われたようじゃな」
ポンとジュリスの肩に誰かの手が乗る、瞬く間に黄金とかした体は元の姿へと戻りジュリスは自由を取り戻した。
ジュリスは恐る恐る、周囲を見渡す。
まず目に入ったのは、ロンの姿だった。
「ロン卿」
「卿はやめろ」
開口一番のその言葉に、ジュリスは安心する。いつもはよくいがみ合う第二騎士団と第十三騎士団だが、だからこそ相手の騎士団の人柄は知っている。
いつものロンだった。それがジュリスを安心させていた。
「ではロン、ここは一体? 私は何をしていたのですか?」
「その前に、答えてくれ、ジュリス。君は何を見ていた?」
ロンの返答にジュリスは戸惑いながらも答えた。
「変な夢を見ていました……何かに縛られていてそして、目と口を塞がれていて……」
そこまで聞くとロンは神妙な面持ちで考え出した。
「ロンさん、何かわかったのか」
ドンキホーテの問いにロンは答える。
「ドンキホーテ、カールランドは無罪だ」
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